2ntブログ

彩―隠し事 58

土曜日 個室居酒屋-3    

「フロントボタンを一個しか留めないでおくと彩の欲望が際限のないものになっちゃいそうだから二つ留めちゃうよ、残念だろうけど」
「いじわる、そんな言い方をされたら彩はとんでもなくスケベでエッチな女のように聞こえる」
「クククッ、スケベでエッチじゃない彩と会いたかったな」
「本気なの??彩はいつでも、どこでもスケベでエッチな女に憧れているんだよ……教えてあげる。本当の私は健志が想像している以上に仕事ができるし、私を知るほとんどの人が清楚で上品な奥様って言ってくれるんだよ。そんな私と会いたいの??」
「興味あるよ、オレだってセックスのためだけに生きているんじゃないからな」
「そうか、そうだよね。健志と彩はセックスでつながっている関係だけど、お互いを理解して惹かれるようになれば、それだけじゃ満足できなくなっちゃうよね」
「彩の言う通りだと思う。先のことを考えるのは止めようか」
「しばらくはスケベでエッチな刹那的に過ごそうよ」
「そうだね、刹那的か……オレは彩といる時間が幸せだから、今この瞬間を楽しむって事で考えれば刹那的って言葉をポジティブに捉えることが出来るよ」
「ウフフッ、彩は刹那的って将来に展望がなく、今が良ければそれでいいって事かと思っていたけど、そうだね、ネガティブだって決めつける事はないね」

スカートの裾を開いてきれいに手入れされた無毛の恥丘を擦り、割れ目に沿って両手の人差し指と中指を揃えてなぞり、花弁を押し広げて侵入するバイブを指でつつく。
「いやっ、帰ってからにして、お願い。ここでは気持ちを解放できない。何もかも忘れて気持ちよくなりたいの、何も気にすることなく狂いたい」
「彩のいやらしい気持ちを解放するには、何かを乗り越えなきゃ。オレの知らない本当の彩が、目の前にいる彩の性的好奇心を持て余すことが無くなれば仕事もご主人との仲ももっとうまくいくよ」
「分かるけど、怖い。彩はエッチが好きでスケベだもん。彩が本当の私を乗っ取ったらどうなっちゃうの??」
「フフフッ、利口な彩だから陰と陽、昼と夜、二人の彩を使い分けるんだろうけど、もしも夜の彩が昼の彩を乗っ取った時は、オレがご主人から奪い取っちゃうよ」
「クククッ……紳士の振りをしていたけど、それが健志の本音なの??残念、今は満月の夜しか健志と会うつもりはないよ」
「そうか、残念だけど今の言葉を聞いて安心した。彩には幸せなままでいて欲しいからね。昼間の彩を大切にして、エッチでスケベな彩はオレと一緒に隠し事を作ろう。秘密は守るって約束する」
「うん、スマホで撮影したスッポンポン写真の扱いで信用する」

割れ目の周囲で戯れていた健志の指がパンと張り出した腰や太腿の感触を確かめるように撫でて、
「エロイ身体だな。こんな身体を持つ彩を一度のセックスで満足させるのは大変だろうな、何人かいれば何とかなるだろうけど……オマンコは勿論、尻の穴に口マンコ、三つの穴で男を満足させるだけじゃなく、この太腿やオッパイを撫でる男をも満足させるだろうよ。ねっとりと吸い付くようなエロい肌をしている」
「ハァッ~、いや、そんな事を言わないで。健志に会う時は本当の私から、もう一人の彩に変身してスケベでエッチな女になっているの。奔放で淫らな女になる夢を見たこともある……複数の男たちに嬲られる姿を想像するとアソコが疼いちゃうの。ゆっくりエスコートしてほしい、急ぐと本当の私が壊れちゃうと思う……ウッ、いやんっ、やめて、お願い」

ヴィ~ンヴィ~ン……突然スイッチが入ったバイブの振動とクリトリスを擦る刺激に彩の手は股間を覆うように伸ばし、健志を見つめる瞳は妖しく光る。
「イヤンッ、外に聞こえちゃう……」
「大丈夫だよ、彩、足を閉じてごらん。ムッチリアンヨと締りの良いマンコを持っているんだから足を閉じれば外にまで聞こえる事はないよ」
ブ~ンブ~ン……激しい振動音がくぐもった音に変化しても外を歩く人の耳が不安だし、何より両腿を固く閉じたために刺激を余すことなく受けてしまい唇を噛んで洩れそうになる喘ぎ声を堪えるしか術はない。

ヴィ~ンヴィ~ン……ブ~ンブ~ン……油断すると閉じた両足が開いて振動音が憚りもなく響き、外を歩く人の耳から音を隠そうとして両足を閉じるとバイブの振動は敏感な場所を刺激して眉間の皺が深くなる。
「ウググッ、クゥッ~、たまんない……逝っちゃうよ、逝ってもいいの??」
「えっ、嘘だろう??」
「ウフフッ、嘘だよ。でも、効くよ、すごい……これを入れたまま帰るんでしょう??健志の考えている事は分かるもん。それはいいけど、パンツを穿かせてくれる??」
「大丈夫だよ、下着を着けなくても。バイブの形状や彩マンコの締りもいいし、途中で落として恥をさらす事はないよ」
「じゃぁ、帰るまでスイッチを入れないでくれる??彩の事が好きなら苛めるような事はしないって約束して……ねっ」

「ごちそうさま。今日も美味かったよ、また来るね」
「お待ちしています。ありがとうございました」
個室を出るまで話したにもかかわらず下着を着けることを許されず、股間のスースーする頼りなさと、リモコンバイブのスイッチを入れられて新たな蜜を滴らせた時に抜け落ちてしまわないかと不安に苛まれる彩は、顔を上げることも出来ずに俯き、内股で歩幅も小さくして健志の着るデニムジャケットの裾が汗で濡れるのではないかと思うほど握り締める。
「ねぇ、お願いだからもう少しゆっくり歩いてくれる??」
飲み込んだリモコンバイブはスイッチが入らなくても歩を進める度に大ぶりな先端が膣壁を擦り、クリトリスを刺激する。
一度でも刺激に顔を顰めると、それを忘れることができなくなり意識は股間に集中して身体の火照りと、ポケットの中で健志の左手が掴んでいるであろうリモコンの存在を思い出してしまう。

ヴィ~ンヴィ~ン……予想していたものの、それは突然来た。
うっ、予想していても突然の刺激に漏れる声を抑えることは出来ず、腰を引いて俯き、股間に手をやって立ち止まってしまう。
衆人環視の中で股間を抑えて突然立ち止まるのは想像していた以上に恥ずかしい。
顔を上げることも出来ず、異変に気付いた人たちが通り過ぎるのを待つしかない。
土曜日の宵の口の繁華街ということで人の流れは絶えることがなく、俯いたまま上目遣いに周囲を確かめる彩はどうしていいか分からなくなる。
「彩、お腹が痛いのは治らない??ごめんね、無理に連れ出して、そこにドラッグストアがあるから痛み止めの薬を買おうか??」
好奇の目は健志の言葉で波が引くように心配の眼差しに変化する。
「彩、スイッチを切るからドラッグストアで浣腸器か尻用ビデ、携帯用ビデでもいいから買ってきなさい」
彩だけに伝わるように耳元で囁く言葉に頬の火照りを止めることが出来ない。

彩―隠し事 57

土曜日 個室居酒屋-2     

Mと刻印されたチョーカーを見つめる彩の瞳は潤んで全身を流れる血が逆巻き、息をするのも苦しくなるほどの被虐感に浸り心臓の高鳴りが健志にも伝わる。
指示されたわけでもないのにセーターの裾を掴んで捲り上げ、躊躇することなく脱いでブラジャーを着けていない上半身を露わにする。
健志は思わず扉が閉まっていることを確かめて頬を緩め、何事かを命令するように顎をしゃくる。
自ら髪をまとめた彩は顔を突き出してチョーカーを付けやすい態勢になる。

カチッ……アッアゥッ、ゴクッ……装着されたチョーカーは見た目以上の重量感があり、健志に支配される悦びに震える彩は知らず知らずのうちに甘酸っぱい吐息を漏らして唾を飲む。
「見た目以上に重いだろう??表面は革製だけど芯に金属が入っているんだよ」
「ハァハァッ……そうなんだ。重量感が首輪に支配されている事を意識させてドキドキする。苦しいの、息をするのが苦しい……ゴクッ」
身体の芯の疼きは快感を発散できれば消えるのにと思うものの、この場所でこれ以上の事をせがむ勇気はない。
「彩、一旦セーターを着なさい。食事とスイーツを頼むから……スカートのボタンはそのままでいいよ。彩の場所だと浅く座れば店員さんが覗き込まない限り見えないはずだから」
「ほんとうに見えない??本当だよね??」
「あぁ、本当だ。オレは大切な彩を誰にも見せたくない、たとえご主人でもね。あっ、ごめん、言い過ぎた。ルール違反だね、ごめん」
「いいよ、今の言葉は忘れてあげる。本音を言うと嬉しいかもしれない……健志になら精神的に縛られていたい……首輪やラビアクリップで密かに縛られたい。昼間は、それぞれの生活があるし、彩の都合というか我がままでいつでも会えるってわけでもないけど、健志の分身と一緒にいたい」
「…………」
無言の健志は彩を覗き込み、真意を探ろうとする。

フゥッ~……ざっくりしたセーターの首元に指を這わせて、チョーカーに気付く事はないだろうと安堵の吐息を漏らした丁度その時、コンコンッ……ノックと共に入ってきた店員と気軽に話す健志のそばで彩はメニューを見る余裕もなく、二人の会話も上の空で俯いた顔を上げることが出来ない。
前ボタンの最上部だけを残してすべてのボタンを外したスカートはデニム生地でタイトなデザインでもあり、彩が手を添えないと自然と開いて上から見ても太腿はおろか腿の付け根まで見える。
彩の手がスカートに伸びると店員と話しながら健志の太腿が触れて、無言でそのままにしなさいと命じる。
スカートから手を離した彩は健志も店員にも視線を向けることは出来ず、雑炊と香の物、一緒にわらび餅をオーダーするのを、顔を伏せたままで聞く。

店員が個室を出ると、
「怖かった。前にも話したけど、昔、隣家の男子に着替えをわざと見せつけて昂奮したことがあったけど、昂奮の度合いが全然違う。緑地公園でハダカンボになった時とも違う……笑わないでね、蜜の滴りが止まらないの」
「クククッ、彩は想像以上にスケベで可愛いな、キスしてくれる??」
顎に手を添えて正面を向かせた健志は瞳の奥を射るように見据えて、視線で彩の自由を奪う。

「もう少し、ドキドキしてみたくない??店員さんを挑発してみる??それとも、密かに昂奮したい??」
「密かにがいい。恥ずかしい姿を見られたいって思っていたし、性的な欲求に奔放な女になりたいって夢見ることはあったけど、あくまで心の奥に棲みつく夢だと思っていた。でも、夢の中じゃなくても現実は自分の周囲にあるって分かったの……まだ慣れてないから、ゆっくり歩みたい」
「分かった、この場所で良いから立ってごらん」
立ち上がるとラビアクリップを外されて、いつ鳴るか分からない鈴の音から解放されてほっとする暇もなく、いつ包装を解いたのか気付かなかったリモコンバイブを装着される。

あっという間の出来事で嫌がる余裕もなくバギナに挿入されたバイブは、U字形で先端が大きく膨らんだ方をバギナに挿入し、反対側はバギナの上壁を挟むようにしてクリトリスを刺激する。
ヴ~ンヴ~ン、案外と音は大きく、この場でスイッチを入れられると店員さんに気付かれるだろうと不安がよぎる。
「ウッ、いやっ、だめ、ダメ……アソコの奥をビリビリ刺激されるし、それに合わせてクリちゃんもイボイボでクチュクチュするんだもん、たまんない。ダメ、止めて、気付かれちゃう」
振動が加わっても先端が大きく膨らんだ形状のせいなのか、あるいはバギナを挟んだためなのか抜け落ちることはなさそうだ。
「どうだった??気持ちいいの??」
「すごい、張り出した先端がアソコをグイッと押し広げて奥にある気持ちいい処をクリクリしてくれる。クリも気持ちいいよ……笑わないでね。これを挿入されてスイッチを入れたり切ったりされながらオチンポでお口を犯されたら気が狂っちゃうかもしれない」
「そうか、こんな風に入れたり切ったりすればいいんだね」
「やめて、店員さんに気付かれちゃう。お家に帰ってからにして、お願い」

コンコンッ……食事とデザートを運んでくれた店員がノックすると、健志の手が伸びてスカートのボタンを外し、そのまま抜き取ってしまう。
嫌という間もなく、スカートを取り返す余裕もなく健志は、どうぞと声をかける。
「ご注文のお食事をお持ちいたしました。デザートも一緒でよかったのですね」、「はい、結構です。ありがとう」

フゥフゥッ~……カニの風味を楽しみながらの雑炊はエッチな気持ちを忘れさせるほど美味く、彩はセーターの中にチョーカーを巻いて、スカートを剥がされて剥き出しの股間にリモコンバイブを飲み込んでいることを忘れてしまう。
抹茶わらび餅は黒蜜の甘みも二人にとって丁度良く、ごちそうさまの言葉ではなく、お代わりを下さいと言いたくなる。
「美味しかった。ごちそう……アウッ、いや、やめて。だめぇ~ン」
健志の手の中のリモコンは形も大きさもしっくり馴染んで操作しやすく、改めて確かめなくてもスイッチのオンオフが容易くできる。
ヴ~ンヴ~ン……アッ、クゥッ~、こんな処で、ダメ、聞こえちゃう、クゥッ~……振動音が二人だけの専用空間で妖しく響き、個室の近くを歩く人に聞こえてしまうと不安に思う彩は手の甲を口に押し付けて喘ぎ声が漏れるのを防ぎ、両足を閉じたり擦り合わせたりしながら眉間の皺を深くする。
「彩、シートに上って立ちなさい」
「いやっ、意地悪。悪戯をしないでね」
シートに上った彩は自然と前屈みになる身体を支えるために健志の肩に手を置き、羞恥で火照る美貌を歪める。
ズズズッ……バギナに挿入したバイブに触れることなく滴る蜜を下品な音と共に舐め取り、デニムスカートを着けてボタンを二個だけ留める。

彩―隠し事 56

土曜日 個室居酒屋-1

「食事にしようか??帰ってから作るのも面倒だし、居酒屋でいいかなぁ??」
「うん、任せる」
スマホで連絡する健志は、空いてる??……そうだよ、二人。頼んだよ、ありがとう。10分くらいで着くから ……「駅を挟んで反対側に行くよ」

南口から北口に移動して、ビックカメラの向かいロフトの手前にあるビルにある店に入る。
土曜日にもかかわらず直前に予約できた扉付きの完全個室に案内される。
店の入り口からこの部屋に至るまでパーテーションで区切った部屋や完全個室など個室が多く、内装も高級感があって居心地が良さそうだと彩は思う。
カップルシートの奥に座り手前に座った健志が二人の間隔を詰めると性的な圧迫感に襲われて、多摩川緑地公園でセーターやスカートだけではなく下着も全て剥いで木漏れ日が白い肌に模様を描くまま歩いた事や、今もそのままつけている鈴付きのラビアクリップを下げて夕方の散歩を楽しむ人たちに混じって根川緑道を歩き、その後はアダルトグッズ店でいくつものオモチャを買ったことが思い出される。
オモチャの入った包みは彩と壁の間に置かれ、それを横目で見るだけで彩の心臓は早鐘を打ち、喉が渇いて手の平が汗ばみ、頬が紅潮するのを意識する。
ハァハァッ……パチッ……自らの興奮を冷まそうと頬を両手で打ったタイミングで店員が現れる。

「いらっしゃいませ」
エイヒレ、馬刺し、刺身盛り合わせ、串焼き、アヒージョなど脈絡なくオーダーした健志はキンキンに冷えた辛口の白ワインと最後に告げて彩に他はと聞く。
「シーザースサラダをお願いします。食べられるようだったら食事とデザートは後でいいよね」
「そうだね、そうしよう……すべて揃ってからで良いからね」

店員に運ぶのは一度にしてくれと念を押した健志は二人きりになると、
「音は漏れるだろうけど、扉がある。上から覗かれる事もないしカップルシートは身体を寄せれば太腿で彩のムッチリ感に酔うこともできる」
「……で、彩はどうすればいいの??」
上擦る声は語尾が震えて頬が紅潮し、欲情を隠そうとしない彩を見つめる健志の胸の内に愛おしさが募る。
「昨日は二回してもらったけど、今日は緑地公園でスッポンポンにされてからずっと生殺し状態だよ。どうしてくれるの??」
「そうだよな、彩は生身の人間。しかも、とびっきり色っぽくて好い女。オレじゃ太刀打ちできないよ」
「もう、冗談はいいから、何とかしてよ……クククッ、健志と付き合っていると本気でこんな事を言う女になっちゃいそうで怖い」
「あれっ、彩はそうなりたいんだろう??彩に変身する前の本当の姿をオレは何も知らない。名前も住まいも知らないし彩に連絡する方法もない、もちろんご主人も知らない。オレはそれでいいと思っている。もしも彩が、彩でいることが嫌になれば連絡をしなければそれでいいんだよ。オレはいつでも彩の味方だよ」
「うん、ありがとう。スマホに残っている本当の彩、何も隠していない彩を見たい??」
「その前に、ソファに立ってくれる??……早くしないと料理が運ばれてくるよ」
「……これで、いいの??」

カップルシートに立つ彩は堂々としているように見えて足は細かく震え、健志は頭上にハァハァッと荒い息を聞きながらデニムスカートのボタンを二つ外す。
フロントボタンは一番上の一つだけを残してすべて外され、そのままでいると太腿は言うに及ばず足の付け根まで覗き見ることが出来る。
スカートの裾を左右に分けて股間をあからさまにした健志は、
「すごいな、こんなになっても我慢できる彩はスゴイよ。オレなら街中でスッポンポンになって早くしようよって寝っ転がっちゃいそうだよ」

シートに座ったままの健志の目の前に、恥丘だけではなく大陰唇や会陰部にも一本の恥毛も残さない彩の秘所が何も隠すことなく姿を見せる。
大陰唇はしどけなく開いて赤い花弁が姿を現し、滴る蜜は腿にまで届いてナメクジが這ったような跡を残し、それは灯りを反射してキラキラと虹のように輝く。
チリリンチリンッ……ラビアクリップのチャームを指で弾くと涼やかな音が緊張感漂う静かな部屋に響く。

コンコン……オーダーした料理とワインをテーブルに並べ、ごゆっくり、お召し上がりくださいと言い置いて扉を閉める。
よく冷えた白ワインを満たしたグラスを顔の前に掲げて乾杯し、すっきりした酸味とのど越しに満足する。
赤ワインの渋みよりも辛口のすっきりした味を好む健志は礼を失しない場所であれば辛口の白ワインをオーダーする。
料理はどれも美味いし白ワインとの相性も良く、彩は健啖ぶりを見せて健志を満足させる。

「ごちそうさま。お腹が空いていたけど美味しい食事とワインで、やっと落ち着いた」
「食欲は腹八分目で一応満足したから、性欲を刺激したいな。彩のスマホを見せてよ」
健志が撮影した彩の野外露出画像はスポーツを好む彩らしく、しっかりした骨格とコカ・コーラのコンツアーボトルに似た優美な身体のラインは垂涎もので自然と頬が緩む。
木漏れ日が白い肌をキャンパスにして絵を描き、彩の動きにつれて自在に変化する。
画像よりも、それを見る健志の反応を気にしていた彩は満足の笑みを浮かべて、
「ムッチリが過ぎるとか、下半身が立派過ぎるなんて言わないでね」
「一番に感じるのは、隣に座っている本物よりも映像の彩が大きく見えるんだけど、身体のバランスが良いんだろうな。それに話したと思うけど、モデル体型の女性よりも彩のようにスポーツ好きなアグレッシブさを感じさせてくれる女性が好きだよ」
「う~ん、なんだか微妙な感じだけど……ねぇ、彩のスマホで撮影したでしょう。彩の色っぽいオサシンを欲しくないの??」
「欲しいさ。でも、いいよ我慢する。オレたちの関係は彩次第、連絡を止めたらどうなんだろうって余計な不安を与えたくないからね。目の前に実物がいる、オレに彩の顔を見せてくれるね」

健志に身体を向けても羞恥を隠すために顔を背けて息を荒げる彩に、
「顔を背けちゃオレの大切な彩が見えないだろう」
頬を挟んで正対させて額にチュッと唇を合わせ、可愛いよと囁いて髪の乱れを手櫛で整え、包みを開いてMの字が刻印されたチョーカーを彩の眼前に突き出す。
「ハァハァッ、いやっ……Mってマゾヒズムの事でしょう??彩は健志に飼われちゃうの??……いいよ、健志に支配されたい」

男と女のお話

カクテル エル・ディアブロ

遠くに見えるビルが陽炎の様に揺らめき、10月が近いというのに行く夏を惜しむかのように陽光がギラギラ輝く。
木々は緑も濃く生命力に溢れて見つめる男の気持ちを逆なでする。

男は滑走路が見えるバーで独りカウンターに座り、ジントニックを飲みながらタッチアンドゴーの訓練なのか小型機が着陸、離陸を繰り返すのを見つめる。

男がここにいるのは旅行のためではないし、誰かを見送りに来たわけでもない。
心の中に吹きすさぶ冷たい風からオレを癒してくれる何かを探しに来た。

二度目の秋を迎えようとしている。
そばにいるのが当たり前で、いなくなって存在の大きさに気付かされた女。
オレの元を去って初めての秋と冬を独りで過ごし、春から夏も過ぎて二度目の秋に踏み出そうとする今日は儚い約束の日。

六杯目のジントニックを飲み干したオレにバーテンダーが声をかける。
「お作りしますか……」
オレは時計を見る。17時を過ぎたようだ。
「いえ、チェックを」
「少々お待ちください」

離陸する飛行機を見ていたオレはドアの開く気配で振り向いた。
赤いスーツの女が息を切らした様子で入ってくる。
「ごめん、二時間も遅れちゃった。私の乗る航空機の到着が遅れたんだって。ごめんなさい」
「いや、一年待ったんだから二時間なんて大したことはないさ」
再会を期待していなかった女が現れたのに、気持ちが高揚することもない。
予想外の喜びに頭の中が混乱し、どうしていいか分からないと言うのが本音でかける言葉が見つからない。

1年前のあの日、オレたちは今と同じこの席に座っていた。
「あのね、こうかい……」
後に続く言葉は聞こえなかった。
今は静かなこのバーは、一年前のあの日も静かだったはずなのにどうして聞こえなかったのか……その事を考える一年だった。

「この前と同じカクテルでよろしいですか??」
「はい……」
小首をかしげて、どうして分かるのと言いたげにオレを見つめる女が愛おしく抱きしめたくなる。
ピクリと身体が動きそうになったが、オレの元に帰ってくれるのかどうか確信がないので思いとどまる。

「紅海の見える場所に住んで古代エジプトについての研究は一応完成したよ。あなたが一年後の今日、同じ時刻に同じ場所で待っていると言ってくれたのが励みになったし時間的目標にして頑張ったの……ありがとう」
「えっ、うん……オレの言葉が励みになったのなら嬉しいよ。共同研究者としてオレの名前も入れてくれる??」
「フフフッ、考えとく」

一年前、女の口から出たこうかいという言葉は、二人で暮らした日々を後悔していると言うことではなく、紅海だったのだ。
「一年後の今日、この場所で同じ時刻15時に待っている」
キャリーバックを引いてバーを出る女に掛けた言葉だが、紅海と後悔を誤解していたことを知ると搭乗口で見送らなかったことを恥じる。
「ごめん、搭乗口で見送らず、ここでジントニックを飲んでいたままだった」
「クククッ、それを思い出すとこの一年楽しかった。私としばらくとは言え別れるのが辛かったんでしょう??搭乗口で頑張れって、笑顔で見送られるのも良いけど、やせ我慢されるのも女は嬉しいんだよ」

「どうぞ……」
カシスの赤が血の色にも見えるカクテル、エル・ディアブロが女の前に置かれた。
「一年前に一度来ただけなのに……」
そうだ、一年前のオレたちを覚えていたのなら、今日のオレをどのように見ていたのだろう。
そっとバーテンダーを見ると、オレにだけ分かるように頷き、目は良かったですねと優しい光を宿す。

「このカクテルはエル・ディアブロって言ったっけ??」
1年前、彩のためにオーダーしたカクテル、エル・ディアブロ。
オレは黙ったまま頷く。
「ねぇ、ディアブロの意味を知ってる??」
「悪魔……」
「こんなにきれいな色ですっきりしたカクテルなのにね」
おまえが悪魔だよ。オレにとっては……

「そろそろ帰りたい。長旅で疲れちゃった」
「部屋はそのままにしてあるよ」
「当り前でしょう」

バーテンダーを呼んだ。
「チェックしてください」


<<おしまい>>
プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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