彩―隠し事 432
変転-10
「明日、彩に会わせてくれる人だけど、焼けぼっくいに火が点くようなことはないよね??」
「クククッ、可愛いなぁ……本当はそんなことを心配していないだろう??オレが彩に首っ丈だと知っているだろうからね」
「ウフフッ、その言葉を聞きたかったの……でも、親しく付き合った時間があったんでしょう??気になるのはしょうがないでしょう」
「今となっちゃ、以前に仕事の付き合いがあり、それを通じて親しくなった女性。オレが仕事を辞す少し前に結婚。その後は一度も会ったことがないよ」
「ほんとう??何も心配することなく会ってもいいんだね。信じるよ……」
「結婚後は、荒垣由惟さん。結婚前は…それは関係ないか。仕事に関しての分析能力や平等、公平は信じていい人だよ」
「うん、信用する……明日、彩の勤務先や本名が分かっちゃうね。嬉しい??」
「引き合わせを終えたら、彩と荒垣さんが自己紹介する前に離れるよ。そんな心配をしなくてもいいよ」
「シャワーを浴びてくる……意気地なし」
荒垣との自己紹介で本名や勤務先を知ってもらう好い機会だと期待していたのに、あえてそれを放棄するという健志に苛立ち、捨て台詞のような言葉を残してバスルームに向かう。
セックスの残滓と軽い不満を洗い流した彩はスッキリした表情とバスタオルで肌を包んで戻り、反省や後悔を感じさせない健志を見て再び苛立ちを募らせる。
「彩のことは何も知りたくないの??この身体さえあればいいの??」
「可愛い彩との関係を大切にするには知らない方が良いと思っている。彩を失いたくない」
「ふ~ん、彩のすべてを知って、奪っちゃいたいと思わないの??」
「彩がそれで幸せになるなら考えるけど、彩から笑顔が消えるのは望まない」
「勘違いしていない??彩が幸せかどうかは、彩自身が決めることだよ。それに、幸せな健志のそばにいると彩も幸せな気持ちになる……覚えておいてね」
「あぁ、覚えておくよ……汗を流してくる」
「彩はどうするの??一人で寂しく待っていればいいの??」
彩の身体にまとわりつくバスタオルを剥がした健志は有無を言わせず抱き上げる。
「風呂は二人一緒が彩のルールじゃなかったっけ??」
「クククッ、彩がシャワーを浴びるって言ったときはどうして押しかけて来なかったの……怒っているんだからね」
シャワーを終えた彩がこうなることを予想してバスタブに張った湯に浸かり、肌をまさぐり、頬を擦り欲情が沸騰寸前になると唇を合わせて舌を絡めて唾液を啜り、言葉で言い尽くせない思いの丈を伝えあう。
「ほんとうの彩は人見知りだし目立つことを避けたいと思うんだけど、健志と一緒にいると別人になっちゃう。健志の言葉は彩に自信を持たせてくれる源になる」
「嬉しいことを言ってくれるけど、オレといる時は彩と名乗るもう一人の別人になるんだろう。オレの言葉が切っ掛けになっているとすれば嬉しいけど、それも本当の姿だと思うよ」
「そうかもしれないけど、彩と言う別人になれるのは健志と一緒の時……健志がいないと彩は存在しないの」
言い終わるや否や、チュッと音を立てて唇を合わせる。
頬を緩めて嬉しさを隠そうともせずに彩を見つめる健志に真顔になって言葉を掛ける。
「だからこそ、本当の彩を知ってほしいと思うこともある。彩の全てを知った時に健志がどうするか……健志のことを信じているから全てを捨てる覚悟はあるよ。彩が幸せかどうかは健志じゃなく彩が決めるんだからね」
「オレは自分の幸せが一番大切。彩が悲しそうな顔をすると、それを見るオレは幸せなわけがない。彩の笑顔を見るとオレは幸せな気持ちになる……彩が充実した時間を過ごすのを見るのがオレの幸せだよ」
「ふ~ん、彩のすべてを知って、奪っちゃおうとは思わないの??」と、挑発したくなる気持ちを抑えて足を延ばした健志の腿を跨いで正対する彩はキスを繰り返しても性的欲望が昂ぶることはなく、大切に思ってくれることを愛おしく思い満足感に包まれる。
彩が好きなこの部屋から見る夜景と同じように幸せの証である明るさが作る陰は、明るくなればなるほど陰も濃くなることを知っているだけに、陰が象徴する不安や恐怖が大きくなることを恐れる気持ちもある。
健志もまた、荒垣のことや二人の将来を話題にすると互いを思いやる気持ちが災いして望まない方向に進むことを危惧して他愛もない話に興じる。
パジャマを着けた彩は荒垣を相手のプレゼンテーションの準備を始めるが、これまで役員や上司に説明した際の資料や仲間との打ち合わせのメモなどを整理して下準備は完了したので、まとめるのは時間を置いて翌朝に仕上げることにする。
そんな彩を見ながら健志は日経先物取引ナイトセッションを確認してエントリーや指値を入れる。
「明日、彩に会わせてくれる人だけど、焼けぼっくいに火が点くようなことはないよね??」
「クククッ、可愛いなぁ……本当はそんなことを心配していないだろう??オレが彩に首っ丈だと知っているだろうからね」
「ウフフッ、その言葉を聞きたかったの……でも、親しく付き合った時間があったんでしょう??気になるのはしょうがないでしょう」
「今となっちゃ、以前に仕事の付き合いがあり、それを通じて親しくなった女性。オレが仕事を辞す少し前に結婚。その後は一度も会ったことがないよ」
「ほんとう??何も心配することなく会ってもいいんだね。信じるよ……」
「結婚後は、荒垣由惟さん。結婚前は…それは関係ないか。仕事に関しての分析能力や平等、公平は信じていい人だよ」
「うん、信用する……明日、彩の勤務先や本名が分かっちゃうね。嬉しい??」
「引き合わせを終えたら、彩と荒垣さんが自己紹介する前に離れるよ。そんな心配をしなくてもいいよ」
「シャワーを浴びてくる……意気地なし」
荒垣との自己紹介で本名や勤務先を知ってもらう好い機会だと期待していたのに、あえてそれを放棄するという健志に苛立ち、捨て台詞のような言葉を残してバスルームに向かう。
セックスの残滓と軽い不満を洗い流した彩はスッキリした表情とバスタオルで肌を包んで戻り、反省や後悔を感じさせない健志を見て再び苛立ちを募らせる。
「彩のことは何も知りたくないの??この身体さえあればいいの??」
「可愛い彩との関係を大切にするには知らない方が良いと思っている。彩を失いたくない」
「ふ~ん、彩のすべてを知って、奪っちゃいたいと思わないの??」
「彩がそれで幸せになるなら考えるけど、彩から笑顔が消えるのは望まない」
「勘違いしていない??彩が幸せかどうかは、彩自身が決めることだよ。それに、幸せな健志のそばにいると彩も幸せな気持ちになる……覚えておいてね」
「あぁ、覚えておくよ……汗を流してくる」
「彩はどうするの??一人で寂しく待っていればいいの??」
彩の身体にまとわりつくバスタオルを剥がした健志は有無を言わせず抱き上げる。
「風呂は二人一緒が彩のルールじゃなかったっけ??」
「クククッ、彩がシャワーを浴びるって言ったときはどうして押しかけて来なかったの……怒っているんだからね」
シャワーを終えた彩がこうなることを予想してバスタブに張った湯に浸かり、肌をまさぐり、頬を擦り欲情が沸騰寸前になると唇を合わせて舌を絡めて唾液を啜り、言葉で言い尽くせない思いの丈を伝えあう。
「ほんとうの彩は人見知りだし目立つことを避けたいと思うんだけど、健志と一緒にいると別人になっちゃう。健志の言葉は彩に自信を持たせてくれる源になる」
「嬉しいことを言ってくれるけど、オレといる時は彩と名乗るもう一人の別人になるんだろう。オレの言葉が切っ掛けになっているとすれば嬉しいけど、それも本当の姿だと思うよ」
「そうかもしれないけど、彩と言う別人になれるのは健志と一緒の時……健志がいないと彩は存在しないの」
言い終わるや否や、チュッと音を立てて唇を合わせる。
頬を緩めて嬉しさを隠そうともせずに彩を見つめる健志に真顔になって言葉を掛ける。
「だからこそ、本当の彩を知ってほしいと思うこともある。彩の全てを知った時に健志がどうするか……健志のことを信じているから全てを捨てる覚悟はあるよ。彩が幸せかどうかは健志じゃなく彩が決めるんだからね」
「オレは自分の幸せが一番大切。彩が悲しそうな顔をすると、それを見るオレは幸せなわけがない。彩の笑顔を見るとオレは幸せな気持ちになる……彩が充実した時間を過ごすのを見るのがオレの幸せだよ」
「ふ~ん、彩のすべてを知って、奪っちゃおうとは思わないの??」と、挑発したくなる気持ちを抑えて足を延ばした健志の腿を跨いで正対する彩はキスを繰り返しても性的欲望が昂ぶることはなく、大切に思ってくれることを愛おしく思い満足感に包まれる。
彩が好きなこの部屋から見る夜景と同じように幸せの証である明るさが作る陰は、明るくなればなるほど陰も濃くなることを知っているだけに、陰が象徴する不安や恐怖が大きくなることを恐れる気持ちもある。
健志もまた、荒垣のことや二人の将来を話題にすると互いを思いやる気持ちが災いして望まない方向に進むことを危惧して他愛もない話に興じる。
パジャマを着けた彩は荒垣を相手のプレゼンテーションの準備を始めるが、これまで役員や上司に説明した際の資料や仲間との打ち合わせのメモなどを整理して下準備は完了したので、まとめるのは時間を置いて翌朝に仕上げることにする。
そんな彩を見ながら健志は日経先物取引ナイトセッションを確認してエントリーや指値を入れる。