営業―2
「柏木様、いらっしゃいませ。信じていたけど、ウフフッ、本当に来ていただいた……ウフフッ、自然と笑っちゃう」
「お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいよ。あの日もそう思ったけど、葵さんの笑顔はいいなぁ」
「お世辞だなんて思っていないでしょう??柏木様は今日もマイペース、先日の作業着姿で軽トラもお似合いでしたけど、今日のスーツ姿も格好いいです。奥様には申し訳ありませんが惚れちゃいます……迷惑ですか??」
「遊び慣れていないから洒落たことも言えないし本気にするよ」
「心外だなぁ、私は本気です。心にもない事は言いません……それに今の柏木様の表情、困惑していないし笑顔でさらっと私の言葉を聞いてくれた。遊び慣れていそうで手強い男性です」
ネイビースーツにグレーのシャツ、ブラウンのネクタイ姿の柏木を見つめる葵の瞳が妖しく燃える。
店は東門街にあると聞いていたが店の名前が分からなかったので電話で確かめた。
その時の葵は本当に待ちわびた電話の着信だと感じさせてくれる反応で、店の名前を聞く柏木も声が上擦るほど感激してしまった。
「ウフフッ、先ほどの電話での柏木様の声、私の勘違いだと恥ずかしいのですが、何か弾んでいるように聞こえたのですが間違いでしょうか??」
「正直に言うと、葵さんが電話に出てくれたので感激した。揶揄われている可能性もあると思っていたからね」
「私も正直に言います。あの日、柏木様に一目惚れしました……それで、はしたなくお店に来てくださいとお願いしました」
「葵さんの言葉を聞いていると申し訳ないけど息苦しくなっちゃうよ……グレンフィディックを入れてもらおうか」
「ボトルを入れて頂けるのは、またお会いできると思ってもいいのでしょうか??」
「あれっ、迷惑かなぁ??」
「いじわる。大歓迎です……それよりも、食事をしたいです……ダメですか??奥様を愛していらっしゃるので、迷惑だと言われれば諦めます」
「すごいな、圧倒されるよ。グイグイ正面から攻められている気分だよ」
「普段の私はこんなじゃありません。今日の私は…いえ、先日初めて柏木様にお会いした時も異常な私でした」
「分かった。次の日曜日はどう??」
「次の日曜日……明後日ですね。約束ですよ。指切りをしてもらえますか???」
右手の小指を絡ませた二人は、周囲を気にして小声で、指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます、指切ったと声を合わせて満面の笑みを浮かべる。
「朱莉と申します。お二人の会話が弾んでいるようですからお邪魔なら戻りますが……」
「朱莉ちゃん、遠慮しなくてもいいのよ。柏木様、いいでしょう??」
「どうぞ、葵さんと二人きりでは息がつまりそうだったので歓迎するよ」
「えっ、ひどい。まるで私が苛めているような言われかた……拗ねちゃおうかな」
「こんなに楽しそうな葵さんを見るのは久しぶりです」
「大当たり、分かっちゃった??朱莉ちゃんの言う通りだよ。でも勘違いしないでね。お客様に惚れたんじゃなく、惚れた人がお客様になってくれたの……でも、これは内緒だよ」
「分かりました。葵さんの秘密は守ります」
その後は朱莉を交えて会話が弾み、葵は朱莉を相手に明後日のデートの約束まで口にする。
「ごちそうさまです。葵さん、口止め料は高くつきますよ。覚悟してください」
「好いわよ。この間、食べたいねって言った、ホテルの神戸ビーフディナーコースをご馳走する。それでいいでしょう??」
「神戸ビーフディナーがさざんかでのモノならその口止め料は私が払うよ」
「えっ、柏木様はさざんかをご存じなのですか??」
朱莉の問いに柏木は丁寧に答える。
「そのホテル内に妻の次に大切なワンコを預けることのできるペットホテルがあるからね。家族が神戸で食事する時や泊まるときは重宝しているよ」
「私もお泊りしたいな……冗談です。そんな困ったような顔をしないでよ。はしたなくお願いしましたが、そこまで厚かましくありません……今のところはね、ウフフッ」
セットに追加一回で、今日は帰ると告げた柏木は、サインするように手を動かしチェックしてと伝える。
黒服の持ってきた請求書を見た柏木は表情一つ変えることなくミラショーンの財布を取り出して支払いを済ませる。
「明後日、電話をくださいますか??ディナーは朱莉ちゃんも交えてですから、可能なら昼食をご一緒したいです」
「いいよ。土曜は仕事だろう??都合のいい時刻を聞いておこうか」
「十時以降ならいつでもいいです。柏木様に会う日を想像して何か月も前から用意しておいた下着を穿いて連絡をお待ちしています……それよりも待ち合わせ場所と時刻を今、決めておきますか??」
積極的すぎる葵の言葉に先行きを案じる朱莉は一瞬、表情を曇らせる。
「おはよう。遅くなってゴメン」
「おはようございます。柏木様は遅くありません、私が早すぎました」
ガーメントバッグを持ち、膝丈のトレンチスカートに黒Tシャツ、デニムジャケットを羽織った葵は清潔な色気で柏木の琴線を刺激する。
「乗って……ドライブを兼ねて昼食に行こう」
柏木は車から降りることなくウィンドウを下げて声をかけ、バッグを後部座席に置いた葵は優雅な動きで乗り込む。
「はい、今日は全てお任せします。服を脱げと言われれば脱ぐ用意もしています……ガツガツした女は嫌いですか??」
「オレは葵ちゃんほど若くないからなぁ……」
「ウフフッ、私がオレになった、私も柏木さんと二人きりの時は葵じゃなく本名のシノに戻りたい。柊に乃木坂の乃と書きます」
「柊乃ちゃんか、冬の寒さに負けずに可憐な白い花を咲かせる柊。葉っぱはとげとげに守られていて凛として自立する女性に育ってほしいというご両親の願いが込められているのかな」
「ウフフッ、12月生まれの私は両親から名前の由来をそのように聞いています。柊乃ちゃんじゃなく、シノと呼ばれたい。ダメですか??」
「分かった。シノ、出発するよ。行先は任せてもらうからね」
膝丈のスカートから覗く白い太腿を見た柏木は視線を下げたままシノに話しかける。
「クククッ、ムッチリ太腿を撫でたいと思った??」
「敵わねぇなぁ、言う通りだよ、オレはシノに惹かれつつある」
「ウフフッ、虜になっちゃえばいいのに。そうだ、柏木さんじゃなく呼び方を変えたい」
「大抵の友人はオレのことをタケって言うけど、それでいいよ」
「フフフッ、私はシノで、あなたはタケ。また少し距離が縮まったような気がする……大人の男と女、この後はタケ次第」
京橋インターで阪神高速に乗り西に向かう。
「お店に来てくれた時はミラショーンのスーツとシャツ、財布とベルトもミラショーンだったから車はアウディかボルボかなって想像していたけど予想外でした」
「クククッ、初めて会った時はキャリーでスズキ。これも国産でトヨタ、残念でした」
「何をしても、何を身に着けてもタケは格好いいです。私はタケを見ているだけで幸せな気持ちになります」
「知り合ってから合計で3時間にもなっていないんじゃないか??そんなにオレを信用してもいいのか??」
「はい、一目惚れですから……ウフフッ」
シノはタケの横顔を見て顔を綻ばせ、シノの視線を感じるタケは正面を向いたまま左手を伸ばすと、シノはその手を取り自らの頬を押し付け、淫蕩な思いを隠すことなく人差し指を口に含んで舌を絡ませ顔を前後する。
「まだ早いよ。我慢できなくなっちゃうと事故っちゃうよ」
「まだ早いと言ったよ。ウフフッ、興奮で濡れちゃう……」
垂水ジャンクションで神戸淡路鳴門道に進路を変えると、
「淡路島??まさか四国まで行かないよね??」と声を弾ませる。
「お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいよ。あの日もそう思ったけど、葵さんの笑顔はいいなぁ」
「お世辞だなんて思っていないでしょう??柏木様は今日もマイペース、先日の作業着姿で軽トラもお似合いでしたけど、今日のスーツ姿も格好いいです。奥様には申し訳ありませんが惚れちゃいます……迷惑ですか??」
「遊び慣れていないから洒落たことも言えないし本気にするよ」
「心外だなぁ、私は本気です。心にもない事は言いません……それに今の柏木様の表情、困惑していないし笑顔でさらっと私の言葉を聞いてくれた。遊び慣れていそうで手強い男性です」
ネイビースーツにグレーのシャツ、ブラウンのネクタイ姿の柏木を見つめる葵の瞳が妖しく燃える。
店は東門街にあると聞いていたが店の名前が分からなかったので電話で確かめた。
その時の葵は本当に待ちわびた電話の着信だと感じさせてくれる反応で、店の名前を聞く柏木も声が上擦るほど感激してしまった。
「ウフフッ、先ほどの電話での柏木様の声、私の勘違いだと恥ずかしいのですが、何か弾んでいるように聞こえたのですが間違いでしょうか??」
「正直に言うと、葵さんが電話に出てくれたので感激した。揶揄われている可能性もあると思っていたからね」
「私も正直に言います。あの日、柏木様に一目惚れしました……それで、はしたなくお店に来てくださいとお願いしました」
「葵さんの言葉を聞いていると申し訳ないけど息苦しくなっちゃうよ……グレンフィディックを入れてもらおうか」
「ボトルを入れて頂けるのは、またお会いできると思ってもいいのでしょうか??」
「あれっ、迷惑かなぁ??」
「いじわる。大歓迎です……それよりも、食事をしたいです……ダメですか??奥様を愛していらっしゃるので、迷惑だと言われれば諦めます」
「すごいな、圧倒されるよ。グイグイ正面から攻められている気分だよ」
「普段の私はこんなじゃありません。今日の私は…いえ、先日初めて柏木様にお会いした時も異常な私でした」
「分かった。次の日曜日はどう??」
「次の日曜日……明後日ですね。約束ですよ。指切りをしてもらえますか???」
右手の小指を絡ませた二人は、周囲を気にして小声で、指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます、指切ったと声を合わせて満面の笑みを浮かべる。
「朱莉と申します。お二人の会話が弾んでいるようですからお邪魔なら戻りますが……」
「朱莉ちゃん、遠慮しなくてもいいのよ。柏木様、いいでしょう??」
「どうぞ、葵さんと二人きりでは息がつまりそうだったので歓迎するよ」
「えっ、ひどい。まるで私が苛めているような言われかた……拗ねちゃおうかな」
「こんなに楽しそうな葵さんを見るのは久しぶりです」
「大当たり、分かっちゃった??朱莉ちゃんの言う通りだよ。でも勘違いしないでね。お客様に惚れたんじゃなく、惚れた人がお客様になってくれたの……でも、これは内緒だよ」
「分かりました。葵さんの秘密は守ります」
その後は朱莉を交えて会話が弾み、葵は朱莉を相手に明後日のデートの約束まで口にする。
「ごちそうさまです。葵さん、口止め料は高くつきますよ。覚悟してください」
「好いわよ。この間、食べたいねって言った、ホテルの神戸ビーフディナーコースをご馳走する。それでいいでしょう??」
「神戸ビーフディナーがさざんかでのモノならその口止め料は私が払うよ」
「えっ、柏木様はさざんかをご存じなのですか??」
朱莉の問いに柏木は丁寧に答える。
「そのホテル内に妻の次に大切なワンコを預けることのできるペットホテルがあるからね。家族が神戸で食事する時や泊まるときは重宝しているよ」
「私もお泊りしたいな……冗談です。そんな困ったような顔をしないでよ。はしたなくお願いしましたが、そこまで厚かましくありません……今のところはね、ウフフッ」
セットに追加一回で、今日は帰ると告げた柏木は、サインするように手を動かしチェックしてと伝える。
黒服の持ってきた請求書を見た柏木は表情一つ変えることなくミラショーンの財布を取り出して支払いを済ませる。
「明後日、電話をくださいますか??ディナーは朱莉ちゃんも交えてですから、可能なら昼食をご一緒したいです」
「いいよ。土曜は仕事だろう??都合のいい時刻を聞いておこうか」
「十時以降ならいつでもいいです。柏木様に会う日を想像して何か月も前から用意しておいた下着を穿いて連絡をお待ちしています……それよりも待ち合わせ場所と時刻を今、決めておきますか??」
積極的すぎる葵の言葉に先行きを案じる朱莉は一瞬、表情を曇らせる。
「おはよう。遅くなってゴメン」
「おはようございます。柏木様は遅くありません、私が早すぎました」
ガーメントバッグを持ち、膝丈のトレンチスカートに黒Tシャツ、デニムジャケットを羽織った葵は清潔な色気で柏木の琴線を刺激する。
「乗って……ドライブを兼ねて昼食に行こう」
柏木は車から降りることなくウィンドウを下げて声をかけ、バッグを後部座席に置いた葵は優雅な動きで乗り込む。
「はい、今日は全てお任せします。服を脱げと言われれば脱ぐ用意もしています……ガツガツした女は嫌いですか??」
「オレは葵ちゃんほど若くないからなぁ……」
「ウフフッ、私がオレになった、私も柏木さんと二人きりの時は葵じゃなく本名のシノに戻りたい。柊に乃木坂の乃と書きます」
「柊乃ちゃんか、冬の寒さに負けずに可憐な白い花を咲かせる柊。葉っぱはとげとげに守られていて凛として自立する女性に育ってほしいというご両親の願いが込められているのかな」
「ウフフッ、12月生まれの私は両親から名前の由来をそのように聞いています。柊乃ちゃんじゃなく、シノと呼ばれたい。ダメですか??」
「分かった。シノ、出発するよ。行先は任せてもらうからね」
膝丈のスカートから覗く白い太腿を見た柏木は視線を下げたままシノに話しかける。
「クククッ、ムッチリ太腿を撫でたいと思った??」
「敵わねぇなぁ、言う通りだよ、オレはシノに惹かれつつある」
「ウフフッ、虜になっちゃえばいいのに。そうだ、柏木さんじゃなく呼び方を変えたい」
「大抵の友人はオレのことをタケって言うけど、それでいいよ」
「フフフッ、私はシノで、あなたはタケ。また少し距離が縮まったような気がする……大人の男と女、この後はタケ次第」
京橋インターで阪神高速に乗り西に向かう。
「お店に来てくれた時はミラショーンのスーツとシャツ、財布とベルトもミラショーンだったから車はアウディかボルボかなって想像していたけど予想外でした」
「クククッ、初めて会った時はキャリーでスズキ。これも国産でトヨタ、残念でした」
「何をしても、何を身に着けてもタケは格好いいです。私はタケを見ているだけで幸せな気持ちになります」
「知り合ってから合計で3時間にもなっていないんじゃないか??そんなにオレを信用してもいいのか??」
「はい、一目惚れですから……ウフフッ」
シノはタケの横顔を見て顔を綻ばせ、シノの視線を感じるタケは正面を向いたまま左手を伸ばすと、シノはその手を取り自らの頬を押し付け、淫蕩な思いを隠すことなく人差し指を口に含んで舌を絡ませ顔を前後する。
「まだ早いよ。我慢できなくなっちゃうと事故っちゃうよ」
「まだ早いと言ったよ。ウフフッ、興奮で濡れちゃう……」
垂水ジャンクションで神戸淡路鳴門道に進路を変えると、
「淡路島??まさか四国まで行かないよね??」と声を弾ませる。