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桜子 -1

店外デート 

「久しぶりに夜の誘いなのか??」
「それに違いはないけど桜子ちゃんを覚えているだろ??崩れた雰囲気のあの人は来ないのかって……連れてきてくれって言っているんだけど、どうする??」
「今日、明日って訳にはいかないけど、明後日なら行けるよ。崩れた雰囲気ってのは失礼な言いかただな、会社帰りのハマたちとオレのナリは違ったけど」
「明後日はピシッとスーツでキメタ恰好を見せてやりなよ、惚れ直すと思うよ」
「揶揄うんじゃないよ、連れてきてくれは営業トークだろ。時刻は改めて連絡してくれ。それじゃぁ、明後日を楽しみにしている」


「いらっしゃいませ。ご来店お待ちしていました。高浜様にもう一度お会いしたいとお願いしたのですが、ありがとうございます……スーツ姿もお似合いです」
「俺は添え物。今日は桜子ちゃんと柏木の邪魔をしないように黙って水割りを飲んでいるよ」
「そんな事を……高浜さんを邪魔だなんて思いませんよ」
「高浜に聞いたんだけど崩れた雰囲気が私への印象と言うことなので昔を思い出してスーツを着けてきました。表情や身のこなしが崩れているなら無駄な努力だけどね」
「崩れた雰囲気は批判したわけじゃありません。そんな風に感じさせたのなら謝ります、ごめんなさい」
「私こそ美人を前にして斜に構えた言葉遣いを反省しています」
「いえ、そんな……仕事帰りでスーツ姿のお客様が多いので柏木様がすごく新鮮でした。以前は同じ会社にお勤めだったのですか??」
「そうです、同期でした。私事で退職しましたが今は満員の通勤電車を見て辞めなければよかったかなと思うこともあります」

「高浜さん、私のお願いをお聞き入れ頂いてありがとうございました。柏木さん、今日はありがとうございました……お見送りいたします」

「遠くからわざわざ来たのに桜子ちゃんは話をするだけで満足したようだね。期待させて悪かったな。俺は地下鉄だからここで別れるよ。それじゃぁ」
柏木の手の中に、お見送りの最中に桜子から渡されたメモがあるのを知らない。
よろしければ電話ください。番号を書いておきます。桜子
読み終えた柏木は宙を睨み、フゥッ~と息を吐いて名刺をポケットに入れる。


「もしもし、桜子さんですか??……柏木です」
「昨日はありがとうございました。厚かましいお願いで嫌な女だと思われたかもしれませんが、どうしても、もう一度お話をしたかったモノですから」
「どうですか、店の外でお会いしませんか??」
「えっ、いいんですか。どういう風にお誘いしようかと思っていたのですが、ありがとうございます」
「お誘いした後で申し訳ないのですが桜子さんの事をよく存じ上げないので、どうすればいいか困っています」
「ドライブはどうでしょうか??誰にも邪魔されずにお話できますし……行先はお任せします。それと、たまたまですが明日はお店から休みを頂いています」
「分かりました。ご都合のいい場所を教えてください、お向かえに上がります」

首都高都心環状線を芝公園で降りて待ち合わせのホテルに向かう柏木は成り行き任せで今日のデートに至った経緯を振り返り、目の前の餌に大口を開けて食らいつくダボハゼのような女性好きは我ながら困ったモノだし、もう少し落ち着いた生き方をできないものかと苦笑いを浮かべる。

ホテルについてラウンジに向かうと桜子が手を振って迎えてくれる。
平日とあって待ち合わせや商談中のサラリーマンの姿も多く、にこやかに手を振る桜子と待ち人である柏木を見比べる人もいる。
そんな視線を無視して、遅れてごめんと言葉をかけると、
「私が早く着きすぎたからで柏木さんは遅れていません。本当に来てくれるか心配で何度も時刻を確かめてはドキドキしていました」
パンツ姿の桜子はカジュアルなコーディネイトにもかかわらず優雅な振る舞いで見つめる柏木を楽しませる。
「何かついていますか??そんな風に見つめられるのに慣れていないから恥ずかしい」
「謙遜の度が過ぎると同性に嫌われますよ」
「フフフッ、さりげなく褒めてもらえるのって気持ちが好いです。あっ、決して柏木さんの仰る通り、そうだその通りと思って謙遜している訳じゃないです。そんなに自信家ではありませんから」

「桜子さんを見て、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。この言葉を思い出しちゃった」
「えっ、褒めてもらっていると思うけど言葉が過ぎると揶揄われているようで不愉快です……ウフフッ、私を口説いていますか??」
「席を立って迎えてくれた時の印象はすらりと伸びた茎に咲く芍薬、優雅に座った姿は百花の王と言われる牡丹の花。楽しそうに笑顔を浮かべるときは風に揺れる可憐な百合の花を連想させる。大袈裟に褒めているわけじゃないよ」
「もっと褒めてもらいたい。柏木さんの褒め言葉は私の耳と脳を優しく愛撫してくれる。心地良くて身体が火照っちゃう」
「言葉の愛撫か、そんなテクニシャンだったとは自分でも気付かなかったよ」
他人行儀と思えるほど堅苦しく話していた二人はそれほどの時間を必要とせずに打ち解け、際どい冗談を交えて話すほどになっていた。
「行こうか」
「はい、行っちゃいましょう」
「えっ??」
「柏木さんと一緒だと楽しくて普段の私とは別人になっちゃいそう。ウフフッ」

柏木が車のドアを開けると笑みを浮かべて感謝を表し、後ろ向きに浅く腰を下ろして揃えた両足を引き入れると同時に正面を向く。
優雅で自信に満ちた所作を見ると自然と笑みが浮かぶ。
芝公園で首都高に乗り川崎浮島JCTでアクアラインに進路を取る。
何処に行くのかとも聞かず、食事、ファッション、スポーツなど尽きることない話題で桜子は笑みを絶やすことがない。
君津で下りて房総スカイラインを走り始めると、視界から海は消えて山の中の景色になる。
「外房の海に沈む夕陽を見ながら愛を語ってくれるなら嬉しいけど、この道は何処に続くのでしょうか??」
「クククッ、夕陽を見ながら口説きたいけど無理だな。外房で見えるのは朝陽、夕陽は無理だから口説けないな」
「そうだ、西伊豆にでも行けば富士山と沈む夕陽を見ながら口説いてもらえたかもしれない。ざんねん……でも美味しい魚料理を期待できそう」

房総スカイラインから鴨川有料道路を経て、鴨川市内から西に向かう。
「美味い魚を食べに行こう。クジラもあるよ」
10Km ほど西にあるクジラ料理が自慢の店でクジラのステーキ、刺身、唐揚げ、しぐれ煮や地魚の刺身などを堪能する。
「クジラ料理は初めてじゃないけど、クジラの種類やメニューの多彩さはすごいし地魚の刺身も美味しかった。この店の料理が目的だと言われても納得しちゃいそう」
「桜子さんを驚かせるのは少々の事じゃ無理だろうから、ここまで来たんだよ」「これで終わりじゃないでしょう??」
「次が問題だな。つまらないと言うか、楽しんでもらえるか……オレの評価が決まるだろうな」

桜子 -2

ホテル

「着いたよ」
「鴨川シーワールドか、意外です……シャチのショーをやっているんだよね??」
平日なのでシャチのショーを見るのに並ぶことなく、席も自由に選ぶことが出来た。
水しぶき除けのポンチョを買って前の方に座ると、
「ポンチョはシャチがジャンプした時の水しぶき除けなの??そんなにスゴイの??」
「すごいよ、イルカとはサイズが違うからね。夏ならずぶ濡れになって、そのまま海に行くのもいいけど今はそんな季節じゃないだろう」

「キャッ~……すごい。想像以上の水しぶき。ポンチョがなければずぶ濡れになるところだった」
顔や髪に掛かった水を気にすることもなく笑顔ではしゃぐ桜子は、優雅でエレガントな女性という印象をかなぐり捨てて楽しみ、見つめる柏木の表情には自然と笑みが浮かぶ。
イルカやアシカのショーも童心に帰ったように楽しみ、クマノミやクラゲの水槽の前では自然と腕を組み初めてのデートとは思えないほど二人の距離が縮まっていた。

「もっと見ていたいけど帰ろうか。もう一つ見せたいものがあるんだ」
「うん、分かった」

往路を逆に走り、アクアラインを目指す。
「正直に言うと、お客様に誘われて同伴することもあるけど、今日のように楽しかったのは初めて。はしたなかったけどお誘いしてよかった」
「同伴でシーワールドは無理だろうし、クジラや地魚も地元で食べると雰囲気や空気が調味料になるだろうし……但し、夕食は同伴の食事と比べないでくれよ。先に言っとくけど、しゃれた店を知らないからね」
「謙遜だろうけど、どこで食べても柏木さんとなら幸せな気持ちになれる。今度は誘って欲しいな、次も私が誘うとはしたない女だって思われるだろうから、覚えておいてね」
「あぁ、憶えとくよ」

アクアラインを走り始めると楽しかった今日に別れを告げ、何かを期待させる夜を迎えるために太陽が西の空をオレンジ色に染めて沈み始める。
「きれい……もう一つ、見せたいモノって夕陽??私が夕陽を見たいって言ったから??」
「そうだよ。海ほたるの展望デッキから夕陽を見よう。海に沈むって訳にはいかないけど、心が洗われるほどきれいだよ」

海ほたるの展望台に上ると周囲を海に囲まれているために潮の香が漂い、潮風が桜子の髪と戯れる。
乱れ髪を整えようとして手櫛を入れるのさえ好ましく、展望デッキから見る景色は素晴らしいよと言った事も忘れて桜子に見入る。
「気持ちいい。いつもは店に向かう時刻なのに羽田空港発着の飛行機や東京湾を行きかう船、360度の眺望の海を眺めているなんて信じられない」
「天気のいい昼間は富士山やスカイツリーも見えるけど、今は夕陽の美しさを堪能しよう」
日没を迎える寸前の太陽が別れを惜しむかのように海に一筋、オレンジ色に輝く道を作り周囲の空を朱く染める。
オレンジ色に輝いていた太陽が三浦半島の山陰に掛かると朱く色を変えてゆっくりと姿を隠していく。
デッキは灯りに照らされているものの対岸は暗くなり、太陽に隠れていた富士山が墨絵のような姿を現す、
幻想的な景色を見ながら二人でいることの幸せを感じ、腰に添えた柏木の手が桜子を抱き寄せ、桜子は肩を寄せて柏木の横顔を見つめる。
言葉がなくとも二人の心が会話を始め、今見た景色に感動する周囲を気にすることなく身体を寄せ合って車に戻る。

海ほたるを出発して今日という日を笑顔で語り合っていた二人は、湾岸線を走る頃には互いの横顔を盗み見るようして次第に無口になっていく。
柏木はベッドを共にするための言葉を探しあぐね、桜子は夕食が終われば家に送ると言われるのではないかと不安になる。
首都高を臨海副都心で下りて目的のホテルに着くと二人の緊張は頂点に達する。
「フゥッ~、着いたよ。しゃれた店は知らないから無難にこのホテルのレストランでディナーにしよう」
「えっ、はい」
車を降りてドアを開け、桜子に手を伸ばすと揃えた両足を地面について柏木の手を支えにして優雅に降り立ち周囲を見回す。
柏木が小さなバッグを持っているのを見て桜子の表情が緩み、柏木は桜子の視線がバッグに向くのを見て苦笑いを浮かべる。
「良かった、食後直ぐに家に送ろうと言われることはなさそう……そうでしょう??」
「直ぐに送るとなると、ワインも飲めない味気ないディナーになっちゃうからね。桜子さんを送るのは明日になっちゃうかもしれないな」
「そうなの……ウフフッ、今日は休みをもらっているから平気だよ」
帰りたくないと口にせずとも思いは通じ、一層親しげにフロントに向かう。

フロントカウンターでチェックインを済ませてベルガールの案内に従う二人の手はしっかりとつながり、二人だけの秘密を作る予感で口元が綻び、つなぐ手に力を込める。

ベルガールが立ち去り二人だけになると柏木は豹変し、桜子を壁に押し付けて瞳の奥を覗き込む。
「いやっ、恥ずかしい。私の真意を探ろうとするように見つめられるとドキドキする……何も嘘を吐いてないし、こんな風に二人きりになりたかっただけ」
「オレもドキドキして吐きそうなくらいだよ」
「クククッ、私の顔に向かって吐いちゃイヤッ……お口なら飲み込んでもいいよ」
そうと聞いては尻込みするわけにもいかず、鳥が餌を啄むように唇をチュッチュと合わせ、桜子の両手が背中に回って力がこもると柏木の右手が頬を擦り、上唇、下唇と甘噛みして舌を侵入させる。
「アンッ、ハァッ~……こんな風にしてほしかったの、気持ちいい」

ハァハァッ……唇を重ねて舌を絡ませ、両手で背中や腰を撫で擦って思いの丈を伝えあった二人は瞳をメラメラと燃え上がらせる。
「長い夜になりそうだけど、まだまだ早い。食事にしようか??」
「少し時間をください」化粧ポーチを持ってバスルームに向かった桜子は戻ってくると、
「化粧スペースが独立しているのを知っていたの??……ふ~ん、知っていたんだ。行き届いた思いやりは嫉妬の対象になるわよ」
「憶えとくよ、行こうか」

桜子 -3

バスルーム

シャンパンで乾杯し、夜の東京湾を見ながらのディナーは二人の緊張を解き急速に距離を縮めていく。
周囲の建物から洩れる明かりや街路灯が暗い海を照らし、波に揺られて煌びやかな景色を作る。
レインボーブリッジを走る車のライトが果てることなく続く。目指すのは二人がいるお台場なのか、アクアラインから房総半島、あるいは羽田空港や横浜方面に向かう人もいるだろう。
「レインボーブリッジを通過する人たちは何処に行くんだろう。羽田空港かなぁ……」
続く言葉を口にせず、ステーキにナイフを入れる桜子を見つめる柏木は相好を崩す。
「笑った、笑われるようなことをした覚えはないんだけど」
「車の乗降や歩く姿が凛としてカッコ好いなって思ったし、昼食時も姿勢や立ち居振る舞いが優雅だった。今も上品でご両親に愛されて育ったんだろうなって想像できる。惚れちゃいそうだよ……あっ、ゴメン」
「謝らないで、惚れちゃえばいいのに。大歓迎するよ」
「えっ、あぁ、考えとくよ」
「クククッ、惚れるかどうか考えるの??脈なしだね、ざんねん」

「どうする、バーに行く??」
「少し疲れたから部屋に戻りたい。いいでしょう??」
「もちろん、いいよ。バスタイムの後でマッサージしてあげる。案外と上手いんだよ」
「マッサージ??いやらしいヤツ??」
「ばか、真面目なヤツだよ」
「クククッ、照れているの??」
チン……エレベーターで二人だけになると柏木の正面に立ち目を閉じてキスをねだる。

「えっ、どうしたの??柏木さんが用意してくれたの??」
シャンパンクーラーに浸かって飲み頃に冷えたモエエシャンドンが迎えてくれる。
「チェックインした時にディナーの時間などを計算して頼んどいたよ。風呂に浸かって海を見ながら飲むと美味いだろうと思って」
「私の好きなシャンパンをありがとう。シャンパンは飲まない、スパークリングワインで十分って聞いたような気がするけど……」
「店でそんな事を言ったような気もするな」
「すべてじゃないけど、気になるお客さまや大切な人の言葉は些細なことでも憶えているものよ、気をつけた方が好いよ」

バスタブに湯を張る準備を終えた桜子に促された柏木は、グラスは私が持っていくと言う声に頷きシャンパンクーラーを持ってバスルームに向かう。
ドアをほんの少し開けて入浴の準備をする桜子を覗き見しようとすると、
「女の裸が珍しいの??」
後ろ向きでブラジャーを外しながら揶揄うような言葉に首をすくめてゆったりと湯に浸かる。
待つほどもなく股間と胸の膨らみを手で隠した桜子が姿を現し、
「目を閉じてくれる??」
目を閉じて両手で顔を覆うと密やかに近づく気配がして柏木に背中を預ける格好で湯に浸かる。
二つのグラスにシャンパンを満たして乾杯をする。

柏木の手は自然な動きで背後から桜子を抱きしめて胸の膨らみに手の平を這わせる。
「大きくないでしょう??」
「小さくはないよ」
「ウフフッ、丁度いい膨らみなの??バスルームに窓があるって素敵」
「素晴らしい景色を見ながら左手にシャンパン、右手で桜子のオッパイの感触に酔う。至福の時間だよ」
「バスタブに浸かって背中越しにあなたに抱かれてレインボーブリッジを見ながらモエエシャンドンで喉を潤す。夢のよう……次も私が誘うとはしたない女だって思われるだろうから、今度は誘って欲しいなって言ったのを憶えている??」
「憶えているよ。遠いしオレには眩しい店だから頻繁には無理だけど必ず行くよ」
「ふ~ん、普段はオレって言うんだ……勘違いしてるよ。お店は高浜さんに誘われた時だけでもいいの。お店ではこんな事をできないでしょう??」
乳房に添えた柏木の右手に自らの手を重ねて胸を押し付ける。
「そういう種類の店じゃないもんな。プライベートで誘っていいの??」
「違う、まだ勘違いしてる、怒るよ。プライベートで誘ってもいいかじゃなくて、私は店の外で会いたいの……お店で会うのに誘って欲しいなんて言わないよ」
「見てごらん、レインボーリッジの下を船が通るよ」
「意気地なし……」
返事をせず、はぐらかすような言葉に苛立つ桜子は、柏木の胸に背中を預けて寄りかかる格好から身体を入れ替えて太腿を跨いで股間を押し付け、シャンパングラスを窓の縁に置いて両手を首に回し嫣然と微笑む。

「喉が渇いた」
店では周囲から浮いて見えるほど清楚で上品に見える桜子が性的欲望を隠そうともせずに柏木の気持ちを翻弄する。
ゴクッと唾を飲んだ柏木はシャンパングラスを傾けて口に含み、桜子の首と背中に手を回して抱き寄せ唇を重ねる。
シャンパンを流し込むとゴクッと音を立てて喉を鳴らし、桜子の両手は柏木の身体を妖しくまさぐる。
舌を絡ませて唾液を交換し、言葉に出来ないほどの想いを伝えあう。

「気持ちや考えが合う人ってたくさんいるけど身体の相性が合う人ってなかなかいないでしょう??私たちはどうかしら??」
「気持ちは共鳴していると思うしオレの身体は桜子を求めている。身体の凸と凹もピタリと合うと思うよ」
「楽しくて長い夜になりそう」
泡にまみれた身体をまさぐり合い、汗と雑念を洗い流して相手への想いだけを残してバスルームを出る。

ナイティを着けた桜子はバスローブ姿のまま窓際でシャンパンを味わう柏木に向かって、
「約束でしょう」と、うつ伏せでベッドに横たわる。

桜子 -4

ベッド

「マッサージで疲れを癒してくれる約束だったでしょう??」
うつ伏せの恰好でベッドに横たわり顔をベッドに埋めたまま呟く桜子は、柏木の股間をくすぐるほどの魅力に溢れている。
黒髪はマッサージの邪魔にならないように首のそばで束ねられ、しなやかな肢体はオフホワイトのナイティに包まれていても艶めかしい身体のラインを想像させる。

部屋の灯りを消して窓から忍び込む月明りの中で立つ柏木はバスローブを脱ぎ捨てて素っ裸になり、桜子の身体を確かめるように手を這わせる。
肩に手が触れると桜子の身体がビクッと震え、肩から両腕を擦り脇腹から腰を経て太腿に至ると緊張が頂点に達する。
「桜子、緊張しちゃダメだよ。マッサージの効果が薄れるだろう」
「だって、あなたはハダカンボでしょう。緊張するなって言われても……」
自分の事をオレと言い、桜子と呼び捨てにされるほど柏木との仲が親密になったと思うと身体だけではなく気持ちも緊張する。

桜子は気持ちの持ちようは難しいものだと思う。
お客さまを前にして一目惚れなどしたこともないし、プロなら避けるべきだと思っていた。
高浜たちに連れられて柏木が来店した折、一目見た時に全身に電気が走り一目惚れしたとしか言いようがなかった。
柏木の何処に惹かれたか、何が心をとらえたか未だに表現する適当な言葉が浮かばないが、その日は帰宅後も身体の疼きを我慢することが出来ずに自然と手が胸の膨らみに伸び、股間が滑りを帯びて独りエッチに興じていた。
今日はその柏木と過ごして改めて惚れていると確信した。
その柏木が素っ裸になってマッサージしてくれると言う。身体の疲れを解してくれると言うが、やっと抱いてもらえるという期待が先にたち緊張せずにいられない。

桜子の想いを知る由もない柏木は、
「始めるよ。戦いじゃないんだから全身の力を抜いてオレに任せるんだよ、いいね」と、声をかけて俯せに横たわったままの桜子の右足を包み込むようにして足裏を揉み始める。
ウッ……驚いたような声を漏らす桜子を気にする気配も見せずに足裏に続いて、足指を一本ずつ揉んだり引っ張ったりと解していく。
「気持ちいい。ごめんなさい、真面目なマッサージだと思いもしなかった」
「クククッ、桜子の身体を好き放題に触る方便だと思っていたのか、心外だな」
「ごめんなさい、エロマッサージだと思っていた……眠っちゃうかもしれないほどリラックスできるし気持ちいい」
右足が終わると左足も同じようにマッサージして脹脛から太腿の付け根あたりまで手の平全体を使って擦り上がっていく。
足の裏側が火照るような心地好さに包まれると脹脛、太腿の順で揉み解される。

足が終わると手の平の付け根や拳で尻を圧迫するように刺激されて腰から背中を揉み解される内に卑猥な気持ちは消え失せ、首を擦られて頭皮を刺激される頃には心地好い眠気に誘われる。
トントン……「気持ち良さそうなところを申し訳ないけど、背中は終わったから仰向けになってくれるかなぁ」
「えっ、ごめんなさい、気持ち好くてウトウトしちゃった……これでいいの??それより、続けてもらってもいいの??」
うつ伏せの恰好から仰向けになり、裾の乱れを直したワンピースタイプのナイティを、我慢できないと叫んで自らボタンを外して乳房も股間も丸見えにする。
「我慢できない。マッサージよりも愛撫が好い。気持ち善くなりたいの……初めてあなたに会った日から抱かれることを想像してオナニーしていたの。こんな事を言う女は嫌い??」
「嫌いになるはずがないだろう、身体を合わせた時に気持ち善くなってもらうためにマッサージをしたのだからね。オレの家ならカーテンを閉めてアロマキャンドルの灯りと香りでムード作りから始めるよ。桜子となら、そんな中でつながりたい」
「いやっ、今の言葉で濡れちゃう。あなたの視線を感じて身体が疼く、熱いの……指一本触れるわけでもないのに熱いの……ハァハァッ」
「視線を感じるだけで身体が火照るなんて桜子は敏感だね……それではこうしよう」
ハンカチで目隠しを施し、
「目隠しで視覚を奪われると触覚や聴覚が敏感になるだろう??」
視線に反応していた身体を火照らせた桜子は、目隠しされると耳をそばだてて聴覚で柏木の動きを探ろうとする。

サワサワッ……柏木が僅かに動いただけでシーツの擦れる音がして桜子の肌は緊張で鳥肌が立つ。
ヒィッ……指先が微かに触れただけで桜子は過敏に反応し、わずかな刺激が新たな刺激を求める。昂奮で乾いた唇に舌を這わせて滑りを与え、両手でシーツを固く握って股間は意識せずとも妖しく蠢く。
「ねぇ、オッパイを見ているでしょう??大きくはないけど感度は好いと思うの、触って……あなたに可愛がられて身悶える私を妄想していたの」

ヒッ、アウッ……愛撫をねだる桜子の頬を擦り、目隠しに沿って指を這わせるとシーツを掴む手に一層の力を込めて甘い吐息を漏らす。
舌を這わせて滑りを与えられた唇は性的昂奮も加わり、リップグロスを塗ったように艶やかでポッテリと色っぽい存在感を示す。

体重をかけないように気遣いながら桜子の身体を跨いでシーツを掴んだままの手を掴んで自由を奪い、艶めかしさに負けた柏木はチュッと音を立てて唇を合わせる。
「もっと、あなたなら苛められながら犯されるのも悪くない」
「残念だけどオレの趣味じゃない」
ハァハァッ、ゴクッ……目隠し越しに見つめる柏木の視線を感じて身体の火照りは冷めることなく、息を荒げる桜子は冷静さを取り戻そうとして唾を飲み、顔を背ける。

「ウッ、だめ……何とか言って、黙って品定めされるのは堪えられない」
柏木の手がナイティを開き、左右の脇から腰まで指でなぞると身体のラインを確かめられる羞恥で肌を朱に染める。
「熱い……あなたが、こんなに意地悪な人だと思っていなかった」
なおも無言の柏木は鳩尾から下腹部まで息を吹きかけ、仰け反って堪えようとすると胸の膨らみの先端を口に含む。
「ウグッ、クゥッ~、だめ……生殺しにされているようで堪えられない。あなたを好きになったのは間違いだった。アンッ、いやっ、嫌い……気持ちいぃ、あなたが大好き」
先端を口に含んだまま歪になるほど裾野を掴まれて、右腿で股間を擦られる。
「アウッ、ウッウッ、気持ちいい。柏木さんが大好き」
叫ぶように好きと言った桜子は両手を首と背中に回してしがみつく。

桜子 -5

愛撫

「あなたの匂いがする。目隠しで視覚を遮断されると嗅覚や聴覚、触覚が敏感になって気が付かなかった柏木さんを知ることが出来る」
気の済むまでしがみついていた桜子は頭ではなく目でもなく、全身で柏木を感じて甘い疼きで身体を満たす。
「桜子は好い女だと思っていたけど、それだけじゃない。オレの前では可愛い女にもなってくれる。桜子のすべてを見せてもらうよ」

両足の間に移動してナイティをさらに大きく開き、目隠しをした顔から首、上半身を経て張り出した腰、のびやかな足に続く身体をしっかりと目に焼き付ける。
「手は元の位置に戻して隠しちゃダメだよ。桜子はどう思っているか分からないけどオレはこの身体を見て、何も不足に思うことはない……しいて言えば、腰や太腿がもう少しムッチリすればエロっぽいのにと思うけどな」
「見るからにエロイ身体が好きなの??私じゃ不満??」
「桜子と過ごすのは夜だけじゃないから今のママが好いよ」
「昼間は今の私のまま、夜はエロイ身体でセックスに貪欲。そんな女が理想なんだ……あなた好みのエロイ女に変えられたいかも……」
「手の届かないような好い女でいることが桜子の魅力だから、オレの色に染まってほしくない」

「可愛いよ、桜子」
桜子を確かめるように髪を撫で、頬を擦って唇を合わせると貪るように唾液を啜り舌が躍り両手で柏木を抱きしめる。
柏木の右手は腰を擦り、左手が乳房の麓から先端に向かって揉み上がり先端を摘まんでコリコリと刺激する。
ハァッ~と温かい息を吹きかけながら唇が首から耳まで這いあがり、耳穴に乾いた息を吹き込んで舌をこじ入れる。
「ヒィッ~、いやっ、鳥肌が立つほど気持ちいい、こんな風にしてほしかったの、あなたが好き……目隠しって刺激的」
足を立てて両膝で柏木を挟み、両手で髪を掴んで予期せぬ耳への快感を堪える。
「桜子を初めて見た時は清楚で上品なお嬢さんだと思ったけどまちがいだった。セックスに貪欲で感度も好い、すごいよ」
「アンッ、そんなこと……あなたに抱いてもらうから……あなた色に染まりたいの」

耳の周囲で戯れた舌と唇が再び桜子の口を貪り、鎖骨の窪みをなぞって乳輪の周囲に舌先を這わせて膨らみの先端を甘噛みする。
「ウッウッ、クゥッ~……ダメ、気持ちいい、アウッ、イヤンッ」
桜子が髪を掴んで胸を押し付け言葉に出来ぬ思いをぶつけると、柏木の右手が股間の泥濘を捉えて自在に翻弄する。
あっけなく抵抗は止み、両足を開いて股間を突き上げ股間に柏木の右手が与えてくれる快感を貪ろうとする。
ウグッ、クゥッ~……股間は新たな刺激を求めるものの右手を口に押し当てて甘い声を漏らすまいとする。

「桜子の肌がオレに吸い付いて離れようとしない、それとも桜子に惹かれているオレが離れたくないのかなぁ……桜子はどう思う??」
「そんな事を言うと泣いちゃうよ。嬉し涙を流せるなんて私は幸せな女、ありがとう」
「嬉し涙か……嬉し涙じゃなかったけど、天使の涙って言う映画があったな。20年位前だから若い桜子は知らないだろうけどね、香港の美人女優ミッシェル・リーがヒロインで主演はレオン・ライ、金城武もいたな」
「金城武さんの名前は聞いたことがあるし、ミッシェル・リーさんが美人だって知ってるよ」
目隠しを外して頬に滲む微かな涙を舌で拭い取り、羞恥で閉じた瞼も舌先で刷くと、
「アンッ、気持ちいい。あなたの愛撫を受けると私の身体が全て性感帯になっちゃうみたい。あなた色に染まった証拠だね、ウフフッ……恥ずかしいから目を開けられない」
「そうか、もう一度目隠しをしちゃおう」

舌と唇、時には甘噛みする歯までが桜子に快感を与え、十本の指が踊るように肌を巡ると女に生まれた悦びで全身の血が渦巻き、甘い疼きが身体を満たす。
「身体が熱いの、火照りが止まらない。ねぇ、どうすればいいの??」
「大丈夫だ、桜子。感度が良すぎるからだよ、満足すれば治まるはずだよ」
両手で脇腹から腰を経て太腿まで撫でながら股間に移動する。
恥丘を撫でて恥毛を指に絡ませて引っ張り、口に咥えて温かい息を吹きかける。
「アンッ、痛痒いのもいい。間違いない、あなたが触れるところが私の性感帯。大好き、もっと、もっと気持ち善くなりたい……」

綻びから覗く赤い花弁は朝露に濡れたように妖しく滑り、割れ目の縁に指を添えて大きく開くと芳しい匂いが発散する。
食虫植物が甘い香りで虫を誘うように桜子の股間は柏木を虜にして誘い込む。
ウッウッ、クゥッ~、イヤンッ……小陰唇が作る深い溝を舌が刷くと、桜子の口から途切れることなく甘い声が間断なく漏れ始める。
柏木の左手がシーツを掴む桜子の右手に重なるとその手を握り返し、
「私を離さないで掴んでいて、おねがい」
「桜子が右手だけの愛撫で満足してくれるならね」
「いやっ、だめ、いっぱい気持ち善くしてくれなきゃ嫌」
手をつないだまま片手で割れ目を開き、花弁を口に含んでチュウチュウ音を立てて吸い込み、アウッ、気持ちいいと桜子が反応すると甘噛みして左右に首を振る。
「アウッ、クゥッ~……ビラビラをそんな風にされるのも気持ちいい」

ベロッと舌が花芯を舐め、包皮を突き破って尖り切るクリトリスをつつく。
包皮の周囲を舌がなぞりクリトリスを口に含んで温かい息を吹きかけて先端を舌先で叩く。
「ヒィッ~、堪んない。気持ちいいの、アウッ、ウッウグッ、クゥッ~」
桜子の両足が柏木の胴を挟んで締め付け、つないだままの右手に力を込めて左手は髪を掴んで股間を押し付ける。
ウグッ、グゥッ~……クンニリングスに集中する柏木は股間を押し付けられては息をするのも苦しく、苦痛に満ちた声を漏らす。
顔を上げたり手を突っ張ったりすることはなくクリトリスを甘噛みして先端を舌でつつくと、アンッ、ダメと呻いて髪を掴む手の力が弱まり、突き上げる股間も元に戻る。
フゥッ~、安堵の息を漏らした柏木は舌を丸めて膣口に突き入れ、ゆっくりとピストン運動を繰り返してゾロリと舌で膣壁を舐め上がる。
舌や唇を駆使すると鼻頭が自然とクリトリスを刺激し、予期せぬ刺激にも桜子は満足することなく自らの手を胸の膨らみに伸ばす。

「アウッ、ヒィッ~、だめ、我慢できない……入れて、あなたとつながりたいの、おねがい」
ベッドから降りた柏木は桜子を横抱きにして場所を変える。
プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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