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仲直り

仲直り -2

「ねぇ、今更だけど言い訳を聞いてくれる??」
意を決した女は乾いた唇を湿らせるためにコーヒーを飲んで居住まいを正し、男を見つめて口を開く。
男は女の様子にただならぬ気配を感じて通りを見つめていた視線を女に向ける。
「言い訳??言い訳なんだね??……何も言わなくていい。過ぎた時間を消すことはできないけど、やり直せないかな??オレは土曜日の事を後悔してる」
「ほんとう??あなたは反省するけど、後悔はしない人でしょう??後悔は過去の自分に対して失礼じゃなかったっけ??……ごめんなさい、浮かれていい場面じゃないのに……」
「オレはアユに嘘は言った事はないし、言うつもりもないよ。信じて欲しい」
「ウフフッ、アユって呼んでくれた。君って言われたときは涙が出そうになっちゃった……それより、本当なの??嘘は言わないって??」
「本当だよ……信じるか??」
「信じるけど……奥さんはいいの??」
「悪いけど、アユよりも妻を愛してる。ごめんな」
「クククッ、ウフフッ……フフフッ、信じられない。不倫相手には嘘でも優しい言葉をかけるんじゃないの??あっ、そうだ、奥さんに内緒だよって言われていたんだけど、教えてあげようか」
アユは男の言葉に腹を立てるどころか、臆面もなく妻を愛しているという言い方に笑いをこらえることが出来ずに屈託なく笑いだす。
BGMが静かに流れている店内にアユの笑い声が響き、他の客や店員が一斉に顔を向ける。
決して非難するような表情ではない事に安堵しつつ、首をすくめてあちこちに頭を下げて顔を赤らめる。

「クククッ、可愛いな……それより、なにか言ってたか??」
さきほどの事があるので声を潜めたアユは、
「あなたは困った時、詭弁を弄して誤魔化そうとするんだけど、それが可愛いって言っていたよ……ウサギと亀の話をするんでしょう??昼寝から起きたウサギは先を行くカメを追い越そうとして、今、カメのいる場所を目標にする。到着した時、カメは進んでる、ウサギは改めてその場所を目標にする。どんなに間隔が縮まってもウサギはカメを追い越せない。そんな風に世の中には勘違いがいっぱいあるんだよって言うんでしょう??」
「そうだよ、オレは詭弁で誤魔化すんだよ。アユも騙されてくれるか??」
「今回の事であなたが私にとってどれほど大切か分かったし、嘘って分かっても騙されちゃうのかなぁ」
「信じていいよ、オレは嘘を吐かない。詭弁を弄するけど嘘は吐かないって聞かなかった??」
「奥さんはあなたの事をスゴイ嘘吐きだって言ってたよ」
「あれか??5コ上の年齢をいずれ追い越すっていう話しだろ??今でも諦めちゃいないんだけど、なかなか難しいよ」
「クククッ、諦めてないんだ。ふ~ン、いまだ達成できていないだけで嘘じゃないんだ。分かった、私はあなたを信じる」
「よし、そうと決まったらホテルに行くよ。今日は休めないだろ??」
「ホテルもいいけど、私の家に行かない??同じ場所でやり直したい、忘れ物を受け取ってもらえる??……」
アユがテーブルに伸ばした手を開くと土曜日に男が部屋に残してきた鍵がある。


アユから受け取った忘れ物のカギでドアを開けた男は部屋に入るなり壁に押し付けて唇を重ねる。
「ウグッ、アフッ、フゥッ~……今日のあなたは激しい、ハァハァッ~、こんな風にしてほしかったの」
男は右手を上気したアユの頬に添え、喫茶店を出てから放すことなく繋いだままだった左手で髪を撫で、チュッと音を立てて額にキスをする。
「可愛いよ、アユ。ここで、ここからやり直そう」
「うん、話しはまた誤解につながるかもしれない、抱いて、あなたに抱かれたら何を聞いても信じられる」
「そうじゃない。オレはアユに嘘は言わない」
「そうだった、ごめんなさい」

髪を撫でていた左手で頭を抱きかかえるようにして引き寄せ、顔を髪に埋めて香りを吸いこむ。
息をするのも苦しくなるほど抱きしめられる幸せ。
あなたの体温を感じるし肌の匂いも感じる。
男の胸の逞しさはセクシー、あなたの胸の逞しさは私に優しさを感じさせてくれる。
あなたの優しさは、愛されていると感じさせてくれる。
あなたは私に愛の言葉を語らない。
あなたにとって一番大切なのは奥様。私に愛の言葉を語らないのは嘘を吐かない証。私を好きだと言ってくれる、愛しているとは言わない。
髪は女の命と言われる。あなたは髪の匂いで胸を満たして私を感じようとしてくれている。
私もあなたをもっと、もっと感じたい。

男の手からすり抜けるようにしてその場にしゃがみ込み、ベルトに指をかけて上目遣いに男を見つめる。
男はアユの額に掛かる髪を梳くようにして左右に分けて意味ありげに微笑む。
「エッチな女は嫌い??」
「オレと二人の時にエッチになるアユは好きだよ」
「お店のお客様に色っぽい私を見せるのは??」
「許さない」
「妬いてくれるの??ウフフッ、嬉しい」

ズボンと下着を引き下ろしたアユは剥き出しになったペニスに指を這わす。
両手の指先が膝から腿の付け根に向かって内腿を撫で上がり、俯いて萎んだままのペニスの先端に息を吹きかける。
「この子は私の事が嫌いなのかな??大きくなってくれない」
言葉とは違って指の動きは愛おしく思っていることを隠しようもなく、目元は優しさに満ちている。
ウッ……右手の手の平で陰嚢を支えてヤワヤワと蠢かし、男が気持ち良さに堪えかねて声を漏らすと爪の先が会陰部から尻の割れ目に沿って刷くようになぞる。
萎れていたペニスが鎌首をもたげるようにピクピク蠢き、アユの左手がシャツの裾から這い入って男の乳首を摘まむ。
「ウッ、クゥッ~……上手だよ、立っているのが辛い」
「ダメ、我慢しなさい……この子に会いたくて、店を閉めた後、独りで泣いていたんだから、あなたも我慢するの……」

仲直り

仲直り -1

「ごめんなさい。私から会いたいって連絡したのに遅れちゃって」
「約束の時刻よりも相当早いのを承知だから君は悪くないよ。いつもの癖のようなもんだからね」
「あなたらしい。約束時刻前に待ってる……あっ、コーヒーをください」
「そんな事を意識してないよ、偶然だよ……なんか、すごく久しぶりっていう感じがするけど元気だった??」
「あまり元気じゃない……」

木曜日の16時、日の入り時刻が近付いて西の空はオレンジ色に輝き、ビルの二階にある喫茶店に長く尾を引く夕日が差し込む。
いかにも喫茶店然としてカフェという呼び方は馴染みそうもない店内は、テーブルどうしの間隔も広く、世間の喧騒から取り残されたようにゆっくりと時を刻んでいく。
目の前の男と待ち合わせの際に空いていれば必ず座る窓際の席に座り、いつものように大きなガラス窓越しに通りを歩く人たちを見ても感じ方はこれまでと違う。
楽しそうな人、人の間を縫うように急ぎ足で歩く人、混雑している通りで自分たちの世界に入り込み他人を意識することなく互いの顔を見ながら歩くカップル、此処から見る景色が好きだったけど今日は楽しめないどころか段々と憂鬱になる。
挨拶を終えると話の接ぎ穂が見つからず、視線を絡ませることもなく、むしろ避けるようなぎこちなさで遠くに見える山並みに視線を向ける。

二年ほど前、女がやっている店の常連客に連れられてきた男と男女の仲になるのは大した時間を必要としなかった。
そんな関係になっても男は週一のペースで来店してウィスキーの水割りを三杯飲んできれいに帰り、他の客が二人の関係を気付いた様子もない。
来店する前の二時間ほどを女の家で過ごし、開店準備のために先に出た後は男が一人で留守番を兼ねて一時間ほど時間調整する。
土曜日は男に用がない限り一緒に過ごす。趣味の美術館巡りに誘っても男は嫌な顔をせずに付き合ってくれるし、一枚の絵を前にしての会話も楽しい。
美術に対する造詣がないと男は言うけど感想は的外れどころか、そういう見方も出来るのだと新鮮な気持ちになることも少なくない。


五日前の土曜日。
今は挨拶を終わってぎこちなく通りを見つめる二人は女の部屋でのんびりと過ごしていた。
付き合い始めてすぐの頃のように会えば必ずセックスをするということもなく、時間と空間を共有するだけで満足できる落ち着いた関係になっていた。
男が結婚していることは初めて店に来る前に男の友達から聞いていたので二人の関係を過大に期待することもなかったし、彼も一番大切なのは妻だと正直に話してくれたので何の問題もなかった。
そして……

「ゴールデンウィークって大嫌い、あなたは??」
「好きも嫌いも考えた事はないな。どうにもならない事を考えるのは好きじゃないから。金曜の次は土曜、その次は日曜、赤く塗ってあれば休日。もっとも勤め人じゃないから、こんな事を言っていられるのかもしれないけどね」
「フフフッ、あなたらしい……半年くらい前、あなたが実家へ一人で帰った時、私が一人で宿泊するのが条件で大阪のホテルを用意してくれたでしょう。夕食を一緒に食べたあと、軽トラで御堂筋をドライブしたのが楽しかったなぁ、乗り心地は悪かったけど……いつか、一度でいいからあなたとお泊りしたいな」
「そうだな、いつって約束できないけど、一緒にホテルに行こう」
「ディユースじゃなくて??」
「もちろんだよ、温泉でもいいよ」
「嘘、そんな事を言うあなたは嫌い。あなたは、夜、絶対に奥様のところへ帰る、たとえ奥様が留守の日でも帰るでしょう。寂しいなって思うけど、決めたことを守るあなたを信用できる」
「…………」
「何か言ってよ。守れない約束をする人は信用できないし、大嫌い。好きな男の言うことは信じたいの、嘘って分かっていても信じるのが女なんだよ。あなたは守れない約束をする人じゃないと思っていた……嫌い、信じられなくなった。帰って、もう会いたくない」
「ごめんね……これまで、ありがとう」

男は立ち去り、残っているのは置いていった合鍵だけ。
独りになった部屋を見回すと彼をモデルにして描いた油絵と水彩画が掛けてあり、どうして、もう会いたくないとまで言ったのか後悔に苛まれる。
スケッチ帖を開くと何人もの彼が現れる。
笑顔、昼寝、すまし顔……スケッチ帖の中の彼と視線が合うと自然と涙が滲む。
直ぐにごめんなさいと言えばよかった。彼なら私の気持ちを斟酌してくれたと思う。
彼を追いかければよかった。買い物にでも行くかと微笑んでくれたかもしれない。
その日は店に出る気もなくなり、年末から一緒にやってもらっている女の子に、身体の調子が悪いから一人で店を開けてもらえないかと頼み、用意しておいたお通しを自宅まで取りに来てもらった。
私を一目見た彼女はすべてを推し量り、「ケンカしちゃったんですか??」
「うん、もう会いたくないって言っちゃったの。ゴメンね、今日は独りで開けてくれる??」

閉店後、彼女から連絡があり、今日は疲れたので泊めてもらえないかと言ってくれた。
彼女の優しさに甘えることにして楽しかった想い出を語り、自棄酒に付き合ってもらって泣き明かした。
「水曜日にもしも来てくれなかったら、ママから連絡した方がいいですよ。時間が経てば経つほど連絡しにくくなるでしょうから……別れるいい切っ掛けだと思っているなら別ですけど」

水曜日、わずかな期待を胸にして入口に注意を払っても彼を迎えることが出来なかった。
「ママ、欲しいものは自分で捕まえに行かないと逃げちゃうよ」
「うん、ありがとう。出来る事をやってみる」

そして、私はここにいる。

彩―隠し事 20

新たな刺激    

昨日の朝は不快に感じた満員電車の揺れも今日は楽しむことが出来る。
身体の向きを工夫して膝に余裕を持たせると電車の揺れに無理に抗うことなく立つことが出来るし、ヨガと同じように身体を鍛えているような気もして得した気持ちになる。
あれはいつの事だったろう??
離れた場所だったのではっきり見たわけではないが、足を踏まれた、踏まないのと些細な言い争いが殴り合いの喧嘩になって電車が大幅に遅れたことがある。
そんなにストレスを溜めて今日の仕事に差し支えないのだろうかと、その場に相応しくない事を考えるほど仕事が楽しく好きだったし、今もそれは変わらない。
周囲の人たちの表情をさりげなく見ると、ほとんどの人が表情を消して不快な時間をやり過ごそうと苦心しているように思える。電車が揺れると、その表情は一様に不快なものに変わり、ごめんなさいと小さな声で謝る人や、チッと舌打ちする人もいる。

えっ、なに??この手はおかしい……
電車の揺れに合わせて自然な風を装ってお尻に触れた手の甲が左右に蠢く。
手の平で触ればアウト、手の甲ならセーフ、今でもこんな都市伝説のような迷信を信じるバカな男なの??それとも、清楚で淑やかに見えるらしい私なら痴漢行為をしても騒がないと思っているの??
久しぶりに使ってみようかな……安全ピン。私は淑やかだけじゃないのよ。
「痛いっ……」
「あっ、ごめんなさい。洋服に安全ピンが付いていたみたい。大丈夫ですか??……大変、血が出てる。次の駅で降りて駅員さんに治療してもらいましょうよ、本当にごめんなさい」
「いえっ、大丈夫です。僕が悪いんです、大丈夫、心配しないでください。ごめんなさい。ほんとに、ごめんなさい」
駅で停車した電車のドアが開くと同時に男は顔を伏せるようにして降りてしまった。
クククッ、あれじゃ痴漢していましたと宣言したようなもんじゃない。

痴漢にあった時、恥ずかしいからと黙って耐える、手が触れているけど痴漢じゃない満員電車だからしょうがないとあきらめる、窓の外を見たり車内のあちこちに視線を巡らせて気を紛らすなどと反応を幾つかに分けられるけど、優子は高校時代から黙って耐えるということはできず、安全ピンを撃退用の武器として用意していた。
安全ピンを持っていることも忘れるほど過去の記憶になっていたが、今日は久しぶりに痴漢の対象になった。
彩となって健志と卑猥な遊びに興じたせいで痴漢を呼び寄せるほど色っぽくなったのかと思うと腹が立たない。

「おはよう。今日の優子はやる気満々のようだね、元気を少し分けて欲しいよ。昨晩は旦那に抱かれてやったんだけど、久しぶりだったせいか、しつこくて参っちゃった。寝不足なの、化粧のノリも悪いし最悪……たまには抱かせてやんなきゃダメね。そうだ、今日、時間ある??面白い処へ行こうよ」
言いたい事を言い終えた友人は、優子の返事も確かめずにスキップでもしそうなほど軽やかに自席に着き、あっけに取られる優子に、定時に帰れるようにするんだよと告げてウィンクする。

昨夜の準備の甲斐もあり支障なく仕事を終えた優子は、友人と共に退社する。
「優子、旦那に帰りが遅くなると連絡しといた方がいいよ」
夫も知っている友人と食事をするから帰宅が遅くなると連絡して、秘密クラブのある盛り場の方向に歩き始める。
「ねぇ、いつかのSMショークラブじゃないよね??」
「うん??あの店は優子に刺激が強すぎた??今日はね昔の男の仕事現場を見せて欲しいって言ってあったんだけど、今日、お前の住んでる町の近くが現場だから見たければ来いよって連絡が来たの。一人じゃ怖いから優子を誘ったってわけ」
「ふ~ン、私の知らない世界をたくさん知ってるよね」
「遊びだと優子の先生になれるかもしれないけど、仕事は敵わない。優子は私の憧れだよ、優子といると本当に楽しい。いつかの約束を覚えてる??」
「二人で温泉に行こうって話でしょう??忘れるわけがないし、旦那には時期は決まっていないけどって話してあるよ」
「そうなんだ、楽しみ……露天風呂付の部屋にしようね。優子と二人で風呂に入ってオッパイを揉みっこするの……いやだっ、想像すると濡れちゃう」
行き交う人たちを気にする風もなく大仰に股間を抑えて嬌声を上げても、夜の盛り場では特に目立つこともなく他人の視線を気にすることもない。

盛り場を通り過ぎて住宅街に差し掛かってもキャッキャッ騒いでじゃれ合うと、さすがにすれ違う人たちの中には顔を顰める人もいるけれど友人は気にする様子もない。
電柱の住所表示に視線をとめた友人は、
「着いたようよ、このマンションかな??」と、自分に言い聞かせてスマホを取り出す。
「迎えに来てくれるって」
優子に告げると友人は宙を睨んで目を閉じ、フゥッ~と息を吐いて両手で軽く頬を叩く。
「ねぇ、なんなの??面白い事ってなに??変な事をされるのは嫌だよ」
優子が不安に満ちた声をかけたタイミングで、迎えに降りてきた男が、
「こっちだよ、早く。もうすぐ始まるからね、何しろ時間との勝負だから急いで」
優子は不安に苛まれながらも何事が始まるのかを聞かされることなくエレベーターに乗る。
「挨拶は時間がないから省略で良いよね。一つだけ気を付けてね、声を出さないように……さぁ着いたよ」
エレベーターを降りると、何の変哲もない廊下を目的の部屋に向かって歩く。
「あのね、優子、今から行くのはAVの撮影現場、ここに貸しスタジオがあって撮影するんだって……そうだよね??」
「そうだよ、時間貸しのスタジオだから時間内に終了しなきゃいけないんだ。この部屋だよ、静かにね」

彩―隠し事 19

健志    

彩がオナニーに耽っている頃、帰宅した健志はシャワーで彩との楽しい記憶を一旦洗い流し、証券会社のPC用トレーディングツールを開く。
機械メーカーの務めを辞した後、生活の糧を得る手段としている日経平均先物取引をするためだ。
個別企業の株式を売買するのではなく、ニュースなどで日経平均株価はいくらですと言っている株価指数に連動する商品の売買でハイリスクハイリターンの典型のような商品であり、取引時間は8時45分から15時15分まで、休みを挟んで16時30分から翌朝5時30分までの2回、合わせて19時間30分あるのでリスク管理さえ怠らなければこれほど便利で面白いモノはない。
グローバル経済と言われる中、日本だけではなく米国を中心に世界各地の政治経済ニュースや各国経済指標を読み解きながらトレードするのは知的好奇心を刺激されてトレードのための準備そのものも楽しい。

早々に目標金額を得た健志は、欲は敵と自分に言い聞かせ、自分だけのデータを取得するために必要事項をエクセルシートに入力して重要と思える事柄をトレードノートにメモしてベッドに入る。
以前付き合った女性に、あなたの寝つきの良さはそばにいて腹が立つといわれたほどで、彩との記憶を蘇らせることなく直ぐに夢の中の住人になる。

気持ちの好い朝を迎えた健志はシリアルやハムエッグ、チーズと生野菜などを用意して牛乳をたっぷり注いだミルクティで朝食を済ませる。
料理は嫌いじゃないので自分で準備することは苦にならない。
メニューから材料を揃える、あるいは食材を確かめてメニューを決める。
どちらからのアプローチも健志の好奇心を刺激する作業で嫌いではない。
それは部屋の掃除にしても同様で段取りを考えるだけでも楽しく、一人で暮らすことを嫌だと思った事はない。

食事を終えた健志は昨日穿いていたズボンのポケットから出してテーブルに置いあった彩の下着を見つめ、誰もいないのに洩れそうになる笑みを必死に我慢する。
クククッ……ついに我慢も限界に達し、それでも大笑いすることは避けて苦笑いを浮かべる。
ステーキハウスのレストルームで下着を脱ぐ彩がどんな表情だったのか想像するだけで笑みが浮かぶし、眼下に見るこの街の夜景をバックに裸体を曝した美しさを鮮明に思い出すことが出来る。
ウェストなど要所要所は艶めかしい括れを持ち、成熟した女性らしくムッチリとした身体は見るだけで欲情をそそられる。
健志は彫刻刀で掘り出したようなモデル体型の美しさよりも生命力と色気を感じさせてくれる彩の身体に魅力を感じるし抱きたいと思う。

この部屋で彩を抱いた時の感触が蘇る。
仰向けに寝たオレを跨いで奥深くまでを飲み込んだ彩が肩と下腹部を上下させるほどの荒い息で覆いかぶさり、髪が胸をくすぐった時の感触が切ない思い出となって蘇る。
対面座位でつながると目の前にツンと上を向いたオッパイの持ち主である彩が羞恥と快感で朱に染めた表情で見つめ、愛おしさで胸がいっぱいになったオレは乳房を掬うように手を添え、くすみがなく可憐にさえ見える乳輪に舌を這わせて先端を口に含み、コロコロ転がして甘噛みをした。
彩は精一杯身体を寄せてオレの背中に回した手に力を籠め、胸の膨らみを押し付けるようにして肩に顔を埋めて洩れそうになる喘ぎ声を堪えていた。

彩の身体は彩そのもの、これまでの人生が現れている。
肩を中心にして上半身の発達は海や水泳好きを感じさせるし、身体全体のバランスのとれたムッチリ感と括れは自制心と節制を想像させて益々好ましい。
顔の化粧は言うに及ばず、乳房や太もも、膝などはケアする事を忘れない女性も、よく言われる首の周辺や背中、肘なども彩は注意を怠っていないと感じ取れるし、立ち姿を後ろから見た時の凛とした美しさは神々しささえ感じさせる。

彩の魅力を思い出すと人並みに絵を描くことが出来ればいいのにと思う。
スマホを使えば見たままの彩を残すことが出来るけれど健志はそれを好まない。
彩の姿を見たままではなく感じたままの美しさを残したいと思うが、それには絵を描くのが相応しいと思うし、心のキャンパスには鮮明に描き切っている。
現実のキャンパスに表現する術を持たない不甲斐なさを今ほど残念に思う事はない。
以前、付き合った女性の部屋でついうたた寝をしたオレを描いた絵を見せられたことがある。ほんの少しデフォルメしたその絵は、彼女の目にオレはこんな風に映っているのかと感動したことがある。

「さて、これをどうするか……」
真剣な面持ちで言葉にした健志はニヤッと笑みを浮かべて立ち上がり、使わないままになっていた額を取り出す。
額装したショーツとブラジャーは匂い立つばかりに彩の魅力を感じさせ、これを見た時、笑って許してくれるか目が点になるほど怒るか、それを想像するのさえが楽しい。
壁には掛けず、机の上で此処がいいか、それともこっちかなと場所を移動しながら居場所を探しして最後はPCのそばに立てる。


おなじ頃、夫を送り出した彩はパンツスーツの身支度を済ませて就寝前に揃えた資料を確認していた。
よしっ、昨夜の健志との淫らな行為の記憶を追い払い、自らを鼓舞するために声を出して彩から優子に変身し、エレベーターホールに向かう。
「おはようございます」
「おはよう。鍬田さんちはいつも仲が良くて羨ましいよ。ご主人を玄関で見送っていただろう??私がそんな事をしてもらったのは、いつだったのか思い出せないよ」
エントランスまで愚痴を聞かされた優子は、他人には仲が良いと思わせる私は大した悪女かもしれないと微笑み、真っ青な空を見上げて伸びをする。

堕ちる

幸子の悲劇-27

「えっ??えっ??やめて……何でも言うことを聞きます、やめてください」
僅かとはいえハサミの切っ先を膣口に捻じ込まれた幸子は、宙に浮いたままの不安定な身体を揺らすまいとして声を震わせる。
「そう、やっぱり幸子はいい子ね。何でもいう事を聞いてくれるんでしょう??しばらくでいいから動かないようしてくれる??可愛い幸子に傷を付けたくないから……シィッ~……」
先端だけが侵入していたハサミを根元近くまで押し込んで妖子は手を放す。
「動いちゃだめよ、怪我したくないでしょう??見せてあげる……誰か鏡を取ってくれる」
手渡された鏡を空中で俯せの幸子が自らの股間を見ることが出来る位置に持って行った妖子は、
「どう??見える??」
「ハァハァッ、うそっ、こんな事って……アソコにハサミが突き刺さっているなんて……揺らさないで、怪我したくない」
鏡の中の股間は銀色に輝くハサミを飲み込んだまま蜜を滴らせているのがはっきり分かる。
「こんな恰好でハサミを突っ込まれてもマン汁を溢れさせるなんて、とんでもなくスケベな女」
「そんな事を……ヒッ、ヒィッ~……」
嘲笑の言葉に反応して言葉を返すタイミングでハサミは抜け落ちて幸子は恐怖で叫び、ハサミはボトッと音を立てて床に落ちる。

床に落ちたハサミは幸子の膣壁を尖った切っ先で傷をつけるのが目的ではなく、気付かないうちに持ち替えられたそれは、先端は極端なほど丸みを帯びて幸子に恐怖心を与えるのが目的だったと理解する。
「いやぁ~ン、怖かったの。アソコがグチャグチャに傷付けられるのかと思っちゃった……ヒッヒッ、ウゥッ~」
恐怖で引きつっていた表情は泣き笑いから変化して安堵に変わり、上目遣いにゾクッとするような色っぽい表情を男たちに向ける。
両手、両足の自由を奪われて宙に浮いているにもかかわらず、逃れようと抗い縄が擦れてギシギシと淫靡な音を響かせる幸子の表情が悩ましく、男たちの欲情を煽る。

「俺たちも色々な女を見てきたが幸子のようなタイプは初めてだな」
「ほんとうだ。許してくれと泣き叫ぶ女。どうするのが楽かと身体が判断して、早く入れてくれと哀願する振りで媚びを売る女やMっ気に目覚めたのもいた」
「そうだ、ところが幸子は違う。浣腸、アナル、縛り、責めがきつくなるほど妖艶さが増してすべてを受け入れてしまう。セックスへの欲深さは底なし沼のようだな」
「クククッ、そんな事を言ってるようじゃ、あなたたち三人はまだまだね……秘密にしてるわけじゃないから教えてあげる。私は幸子と同じ立場でここへ来たの。その時、性への才能を見出してくれた人がいて借金を清算した後、ここに残らないかと声をかけてくれたのが今の私の始まり……幸子は私と同じようになれるはずだから期待してる。勿論、幸子が望めばだけどね」
三人の男たちは顔を見合わせて無言になり、妖子は話しの後半で幸子の顔が良く見えるようにと真ん前でしゃがみ込み、髪を撫でて乳房を支えるように手を添える。
「幸子。幸子に期待しているって言う私の言葉を理解してくれるでしょう??今の幸子の立場は昔の私とそっくり。ウフフッ、大丈夫よ、堪えなさい。それ以上は何も言わない」

たっぷりとした重量感を持つ乳房は柔らかさも十分にあり、手の平に馴染む感触は同性の妖子でさえ唾を飲み、苛めたくなる思いを抑えきれない。
乳房を鷲掴みにして指の間から徐々にはみ出てくるほど力を込めると幸子の表情は苦痛を浮かべ、それが妖子の責めを一層きつくさせる。
乳首を摘まんで幸子の表情が歪むのを楽しむように力を込めていく。
ウグッ、クゥッ~……ウググッ、クゥッ~、いたいッ~……眉間に皺を刻み背中で縛られた両手指を白くなるほど握りしめて足指を開いたり閉じたりして堪えようとしても悲鳴が漏れる。
悲鳴を漏らした後、健気にも唇を噛んで堪える幸子を見る男の一人が足指を口に含んでチュバチュバと音を立てて舐めまわす。
「アウッ、アワワッ、いやっ、そんな事をされたら、クゥッ~、気持ちいい……アウッ、ウッウッ、ウゥッ~、たまんない」
妖子の責めを堪える健気さに憐憫の情を覚えた男も、喘ぎ声を聴くと嗜虐心を催して優しさをかなぐり捨て、口に含んだ足指に歯を立てる。
「クゥッ~、痛い、アウッ、ウググッ……ヒィッ~、オッパイ、オッパイが千切れちゃう、ウググ、グゥッ~」
足指に歯を立てられて乳首が千切れそうなほど摘まんだ指に力を込められ、ギシギシと縄の軋み音を響かせて宙に浮かぶ身体を揺すられると幸子の喘ぎ声は苦痛と恐怖を堪える声に変わり、ついに涙声になる。
「ウッウッ、怖い、いや、いやっ、クッ、ウゥゥッウゥゥッ~」
泣き喚くことなく忍び泣くように切なく漏らす声に憐れみを感じて、再び優しく愛撫する。
噛んでいた足指の間を舌がゾロリと舐め、温かい口に含まれてフェラチオのように

手足の自由を奪われて宙に吊るされ、泣きたくなるほどの不安の後の優しい愛撫は妖子と三人の男を信頼する気持ちを芽生えさせ、幸子が気付かぬうちに依頼心が強くなる。
それは、彼らの要求や命令に逆らわなくなるのと同じ意味を持ち、先ほど聞かされた妖子の言葉を心の奥に刻み込む。
プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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