転生 -7
月が雲に隠れると繁華街の灯りが一層煌びやかかに映える。
木曜日とあって週末ほど欲望に飢えた人たちはいないだろうが、仕事の疲れを癒す人や嫌なことを忘れたい人、酒を愛する人、愛する人ともっと親密になりたいために酒を飲む人たちで賑わっていることだろう。
恋と酒の共通点は人を熱くし、明るくして寛がせる。と言った人がいるらしい。
彩はビール、健志はジントニックを飲みながら繁華街の夜景に見入り、手を伸ばせば大切な人に触れることができると心が温かくなる。
ベランダで椅子に座る健志の太腿を跨いだ彩は背中を預け、背後から抱きかかえてくれる逞しい腕に手を添える。
「今はまだ9月、夜も温かいからこのまま眠ってみたい気もする」
「いいよ、眠りなよ。彩の体温や鼓動、呼吸を感じると幸せな気分になれる。眠ったらベッドに運んであげるから安心していいよ」
「このまま眠るのはもったいない気がする……一つ聞いてもいい??」
「いいよ、答えられないこともあるかもしれないけど……」
「彩にも秘密にしなきゃいけないことがあるの??」
「大切な人だからこそ話すことが大切だと思う。言葉にしなくても理解してくれるとは思わない。でも、大切な人だからこそ話せないこともある。友人には秘密にしなければいけないけど彩には知ってもらいことがあるし、その逆で友人には話せるけど彩だからこそ秘密にすることもある」
「クククッ、悠士さんとどんな遊びをしたかは飲み屋のオネエサンには話せるけど、彩には話せないってこと??」
「嫌なことを言うんだな。でもそのようなことかな」
「分かった。でも知りたいのは答えられることだよ。健志は夢の中で彩とどんなことでも出来るから独りでいても寂しくないって言ったでしょう、そしてその時は恋人なのか結婚しているのか教えてくれなかった……もし、彩にプロポーズするときはどんな言葉なのか知りたい」
後ろ向きで胸に抱きかかえられていた彩は太腿に横座りになって健志の顔を覗き込む。
突然見せたいじわるな笑みを浮かべた彩の表情にドキッとした健志は視線を繁華街の夜景に向けて話し始める。
「そうだな、生まれ変わった時は彩をお嫁さんにしたいけどプロポーズの言葉は決めている」
「生まれ変わったらプロポーズしてくれるんだ。今、お稽古してもいいよ」
「実は夢の中で済ませたよ」
「彩は喜んだでしょう??どんな言葉なのか教えて……」
「彩と結婚すればオレは幸せになれる。彩がオレのことを嫌いじゃなければ幸せなオレを見て彩も幸せな気分になれるはず、だから結婚してください」
「健志にとってなんだか都合のいいプロポーズだけど聞いたことがあるような気がする……」
「うん、釣りバカ日誌の中でハマちゃんがみち子さんにしたプロポーズ。君を幸せにする自信はありませんが、僕が幸せになる自信はあります。僕と結婚してください……これを拝借した。だめっ??」
「ダメじゃない。好きな人が幸せな気分になれば彩も幸せな気持ちになれる。大切な人が苦痛に苛まれているそばで彩が幸せな気持ちになれるわけがない。そんな言葉で告白されれば直ぐに抱きついてキスしちゃう……こんな風にね」
横座りから太腿を跨いで首に手を回してチュッと唇を合わせて小首を傾げる。
そんな仕草の可愛さに我慢できなくなった健志は彩を胸に抱きよせて額に唇を合わせる。
「アンッ、彩はキスが好きだけど、額じゃない」
「続きはベッドで……」
彩を横抱きにした健志は室内に入り、抱っこされた彩が窓を閉めるとベッドを目指す。
「ちょっと待って……」
彩はDVDを入れたクッション封筒を取り出してテーブルに置き、
「これはお土産だけど開けるのは明日、彩と一緒だよ。独りで開けると嫌いになるからね。分かった??」
「分かった、彩が帰ってくるまで預かっとく……引き出しに入れとくからね」
机の引き出しに封筒を入れた健志は再び彩を抱き上げる。
静かにベッドに横たえられた彩は健志の首に回した両手に力を込めて引き寄せ、
「ちゃんとしたキスをして、額は子供を寝かせる時にするキスの場所。彩は成熟した女だよ」
胸の前で手を組んで目を閉じる彩に覆いかぶさった健志はまたしても額に唇を合わせてチュッと音を立てる。
「彩は子供じゃないから額じゃダメだって言ったのに……どうして??」
わざとらしく怒って見せる彩の可愛さにドキッとしながらも、両手を掴んで動きを封じ、
「提案があるんだけど聞いてくれる??」
「聞いたら放してくれる??そんな強く掴まれると手が痛い」
「オレから離れたいんじゃ聞いてもらわなくてもいいよ」
「離れたいなんて言ってない、痛いって言っただけなのに。どんな提案なの??」
「今日は木曜で日曜までいられるんだろう??その間だけでいいから疑似夫婦ってことにしないか??……ダメか、そうだな。聞かなかったことにしてくれ」
「そうじゃない、急な話しでびっくりしたのと疑似夫婦ってどんなことをするのか分からないから戸惑っただけ。生まれ変わったらプロポーズしてくれるって言ったけど、その前にたとえ4日間でも夫婦になれるって嬉しい……転生って言葉かなぁ」
「転生、そうだね。日曜日、彩がこの部屋を出るまでは夫婦だよ……安心したから眠くなった。寝ようよ」
「キスは……それと夫婦ならすることがあるでしょう??」
「夫婦は毎日のようにしないだろう。今日は木曜で彩は明日出社すれば土日の連休。金曜の夜はオマンコが乾く暇もないほどやりまくるのが夫婦じゃないか??」
「そうなの??それが健志の理想の夫婦像なんだ、フ~ン。明日は仕事をセーブして夜に備えないといけないな……嘘は許さないからね」
「明日は生卵とヌルヌル粘々食品に精力剤で夜に備えるよ、それが夫婦だろう」
「クククッ、彩は水泳と今はヨガで鍛えているから体力勝負なら負けないよ。今日は旦那さまの言う通りに寝てあげる」
健志の腕に抱かれて居心地の良さを感じる彩はスゥ~、スゥ~と寝息を立て始める
転生 -6
悪友の悠士との遊び方を問われた健志は旗色が悪くなったのを隠すために、可愛い彩とキスしたいと呟き頬に手を添える。
それまで瞳の奥に隠れた真実を見逃すまいとして覗き込んでいた彩は目を閉じて顎を引く。
彩の可愛い仕草に頬を緩めた健志が額にチュッと唇を合わせると、目を閉じたまま
唇を尖らせて濃厚なキスをせがむ。
ツンツンと唇をつつき、湿らせた舌が閉じたままの彩の唇を右から左に刷き、上唇を挟んでチュッと吸うと、アンッと可愛い声が漏れる。
閉じていた目が開いて潤んだ瞳で見つめられるだけでドクドクと鼓動が激しくなり彩にも伝わる。
「ウフフッ、すごい。ドクドクと全身に血液を送り出す音が聞こえる。興奮しているの??ココはどうかな??……すごいっ、どうして??」
健志の太腿を跨ぐ彩が腰を浮かせると押さえつけられていたペニスがピョンと飛び出して宙を睨み、首に回していた右手を添えると熱くて岩のように硬い。
「彩の瞳でオレの心臓が撃ち抜かれたからだろうな」
「クククッ、彩は瞳で健志を犯して、健志は言葉の愛撫で彩のアソコを濡らす。似た者同士だね……好き者」
「やっぱり可愛い、キスさせてくれるね」
カチッと歯がぶつかるようなキスをする。
キスとセックスを覚えたばかりの頃のように相手に対する思いやりに欠け、只々、愛おしい相手に対する思いをぶつけ合うように唇を合わせる。
ハァハァッ……息をするのも忘れて貪り、苦しくなった二人は顔を離して笑みを浮かべる。
「彩と離れている時は今度会う時はこんなことを言おう、こんな事をしようと色々思い浮かべるけど、こうして目の前にすると本能のまま身体が動いてしまう」
「彩も同じ。まだまだ、どれほど健志のことが好きなのか自分でも分からないの」
「彩もそうか、オレも同じだ。会うたびに好きだと思う気持ちが強くなって、こんなことを言おうと思っていたことが言葉足らずに思えてしまう」
「いつまでも、こうしていたい」
健志の首に両手を回して身体を寄せ、頬と頬を合わせた彩は耳元で囁く。
「以前、健志は言ったよね。彩と離れている時、身体は寂しいけど頭の中で時間も他人の目も気にすることなく二人でしたいことをできるから堪えられるって……」
「あぁ、本当だ。世の中の人すべてに当てはまると思うけど片想いの特権だよ。オレが独りでいる時に見る夢の中の彩は誰を気にすることもなくオレだけの女だよ」
「ウフフッ、片想いだと言われると異論もあるけど、嬉しい。健志の夢の中の彩はどんなことをしているの??」
「いつも一緒にいると思うだろうけど違うよ。二人の関係はみんなから認められているし仲を裂こうとする人もいない。彩とオレは互いを尊重して時間や身体を必要以上に束縛しない、心でつながっているからね」
「楽しそう……もしかするとみんなが認める恋人同士、それとも結婚しているの??」
「それは……秘密。夢の中のことは夢の中に隠しとく、たとえ彩にでも話しちゃうとシャボン玉のように儚く消えちゃうような気がする」
「そうだね、その方がいいね。夢の中ではだれでも自由、彩も健志と同じ夢を見たい。現実の健志と彩は夢の中のようにはなれない、だからプラチナチェーン下着で彩は心を縛られている、そうだよね??」
健志の頬から離れた彩は潤んだ瞳でまっ直ぐ見つめて静かに目を閉じる。
頬を撫で、指先で唇の周囲をなぞり改めて彩への気持ちの昂りを待った健志は唇を重ねて舌を侵入させる。
二人の舌は擦り、擦られて絡み合い互いの口腔を出入りしながら歯茎を舐めて上顎をゾロリと舐める。
出入りを繰り返す舌は二人の間の宙で絡み合って華麗なダンスを踊る。
ウグウグッ、ニュルニュルッ……ハァハァッ……唇を合わせて甘噛みし、舌を絡ませて唾液を啜り合ってキスに酔いしれる二人の両手は肌を擦り、満足することなくまさぐり合う。
二人の欲求は唾液を啜り、愛する人の肌を撫でれば撫でるほど、もっともっと相手を知りたいと貪欲になる。
唇を離しては顔を見つめ合い、尽きせぬ思いに突き動かされように再び唇を重ねる。
いつ果てるとも知れないキスで口は乾き、バスルームの熱気に堪えられなくなった二人はボディシャンプーを振りかけて身体を擦り合い、汗と共に俗世の垢を洗い流し二人だけの世界に踏み入る。
クローゼットの健志のシャツの中で一番お気に入りの青いシャツを着けた彩は、
「どう、似合う??」
「白い肌にブルーがよく似合う。爽やかな清潔さや知的な感じと艶めかしい肌の妖艶さが同居している。彩は……」
「待って、健志が言う前に彩が自分で、ねっ……昼は淑女、夜は娼婦。だけど勘違いしないでね、娼婦になるのは健志といる時だけ……信じるでしょう??」
「信じる。彩を疑うのはオレの気持ちを疑うことになる」
健志はジントニック、彩はビールを持ってベランダに出た二人は椅子を並べて遠くに見える煌びやかな夜景を見ながら喉を潤す。
「ねぇ、彩を抱っこしてクチュクチュしないの??」
「言っただろう。夢の中でオレと彩は身体を求めるだけではなく気持ちがつながっているって。今は手を伸ばせば届く距離に彩がいるから心は満足している」
「クククッ、じゃあ、クチュクチュしなくてもいいから抱っこして」
言い終わる前に立ち上がった彩は健志の太腿を跨いで首に手を回し、唇を尖らせる。
そんな彩に、
「オレの顔と夜景とどっちを見たいんだ??」
「今はこのお顔を見たいの、文句ある??」
「オレも彩を正面からこんなに近くで見ることができて嬉しいよ」
「えっ、恥ずかしい……間違えた、恥ずかしくなんかない。意地悪な健志が彩を見て嬉しいって言うなら、彩も意地悪になって見せてあげない」
一旦、立ち上がって背中を向けて腿を跨ぎなおした彩は、
「きれい、ここから見る景色が大好き」
彩の言葉を聞いているのかいないのか、健志は髪に顔を埋めて息を吸い込むと、見ている月が恥ずかしそうに雲に隠れる。
「彩の好い匂いがする。大好きなムッチリの彩を抱きしめているのを嫉妬した月が隠れちゃったよ」
転生 -5
木曜の栞はますます元気になり肌艶もよく、ご主人の元気を吸い取っているのではないかと感じた優子は思ったまま質問する。
「そうなの、旦那様に愛されれば愛されるほど私は心が湧きたつし愛される悦びに浸る。旦那様の愛し方はほんの少し激しいけど、それが私の元気の素になるみたい、フフフッ」
優子が愛する人と私のエロビデオを見ながら可愛がってもらって善がり啼きするところを見たいなぁと言い残した栞は、
「さぁ、仕事、仕事。今日も楽しい一日になりそう」と周りの社員たちをも鼓舞する独り言を口にする。
この日の帰路は迷うことなく健志の住む街を目指す。
この街で仕事関係の人と会う機会が増えて勝手知ったる駅とばかりに慣れた風で改札を抜けた優子は、待ち合わせ場所に待ち人の顔を見つけて気持ちは優子から彩に変身する。
周りを気にする風もなく満面の笑みで彩に向かう健志は広げた両手で抱きかかえて額に唇を合わせる。
「おかえり」
「ただいま。立ち止まって見ている人がいるよ、恥ずかしい」
「オレは周りの人の目よりも自分の気持ちを大切にする」
「クククッ、痛いよ。逃げないから手の力を緩めて……昨日はありがとう。健志のお陰だって知らない夫が、ありがとう、助かったと喜んでいた」
「ご主人がどんな人か何も知らないけどオレは嫌いじゃないよ。ご主人がいるから彩がいる、彩がいるからオレは幸せな気持ちでいられる」
「ここまで、その先はよしましょう。どうにもならないもの……お腹が空いた」
最初に目についた煌びやかに飾られた中華料理店に入り、お腹が満足すると気持ちが新たな刺激を求める。
「近くにしゃれた店があるからカクテルを飲んでいこうか??」
「紹興酒とロゼワインを十分に堪能したから次の機会でいい。帰りたい」
健志は洒落たバーで愛を語りたいと思い、彩は二人きりになりたいと思う。
彩は仮の名前で本当の姿に戻ると夫がいて任された仕事もあり健志と同じように気持ちの望むまま動くわけにはいかない。
「分かった。歩いて帰るのはいいだろう??」
「クククッ、彩と歩くのを見ず知らずの人に見せたいの??……それとも暗くて人通りのない裏道に引き込んでエッチなことをしようと思っている??」
「金曜か土曜なら、そうするけど今日はしないよ。明日の彩の邪魔をするなと本能が顔を覗かせようとするオレを必死に押さえつけている……帰ろう」
スーパーの看板が見えると健志は立ち止まり、
「独りなら一週間程度の食材はあるけど、どれくらい追加すればいいかなぁ??」
「はっきり言えばいいのに……彩、旦那は日曜まで出張なんだろ、今日は木曜だから、金、土、日と3日分の買い物をするぞ。ついて来いって……クククッ」
「そこまで自信家じゃないから言いたいけど堪えていた。よし、買うぞ。ついて来い」
「はい……」
楽しそうに笑みを浮かべる彩が伸ばした手を健志は包み込むようにつなぐ。
「平日は何時頃に寝るの??」
「早くても23時、たいてい24時頃かな。どうして??」
「今、19時半、急いだ方がいいのか、ゆっくりでもいいのか、色々考えている」
「そんなに気にしてくれなくていいよ。明日は金曜、一日だけだから」
あれがいい、これがいいと他愛のない会話をしながら買い物を続け、鮮魚コーナーで、スズキか鯛を塩釜用に明日取りに来るから頼むよと注文して店を出る。
両手に荷物を持った健志に、「一つ持つよ」と言うと「大丈夫だよ」と答える。
「健志の両手が塞がっていると手を繋げないでしょう。彩のことが嫌いなの??」
両手に持つ荷物を覗き込んだ健志はワインとソーセージの塊を移して軽くしたバッグを手渡す。
手をつないで帰宅した二人は荷物をテーブルに置いて顔を見合わせ、絡まる視線に引き寄せられるように近付いて抱き合い、唇を合わせて舌を絡ませ真っ赤に燃える瞳は閉じることも忘れて奥底に隠れる気持ちを探る。
「大好き……」
「オレも彩が大好きだ。もっと早く会いたかった」
「そうね、でも、今だからこんなに好きになれるのかもしれない」
「そうだな、前提が違えば結果も違うかもしれない。今日は彩と一緒にいられる、嬉しいよ」
決して広くはないバスタブに二人で浸かり、太腿を跨ぐ彩は健志の胸に背中を預けて全身の力を抜いて目を閉じる。
健志の右手は彩の右手を掴み、左手を胸に回して柔らかな乳房に添える。
「いつまでも、こうしていたい……もっと大きなオッパイが好き??」
「手の平に収まるこれくらいがちょうどいい」
「跨いだ太腿が痛くない??彩のオチリは大きすぎると思う??」
「ウェストの括れから適度に張り出した腰や尻を経て太腿に至るラインがムッチリとしている女性が好きだよ」
「クククッ、他にも好きなところがある??」
首筋から髪の生え際や肩に舌を這わせ、
「大理石のような滑りを帯びた白い肌には染み一つなく触れると吸い込まれるような妖しい魅力がある。以前も言ったけど、後姿が凛として自立した女性の美しさがあるし、食事中の姿勢が良く食べる姿が美しいのはご両親に愛されて育った証拠だと思う……ある一点を除いてはオレの理想の女性だよ、彩は」
「えっ、何か好きになれないところがあるの??ほんとう??なに??教えて」
背中を預けていた彩は反転して健志を見つめ、嘘は許さないと言わんばかりに瞳の奥を覗き込む。
「彩とオレは身体を求めあうことで始まったけど、彩はオレ以外のチンポも欲しがる悪い女」
「健志と会う前は考えられないことだけどそうね、今は否定できない……その前に健志と悠士さんがこれまでどんな遊びをしてきたのか聞きたいな。二人で一人の女を抱くのは初めてじゃないように思うけど、どうなの??」
「……彩は可愛いな、キスしたい」
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転生 -4
水曜のこの日も無事終業時刻を迎え、栞は旦那様がまだ飽きていないから相手をしなきゃいけないのと嬉しそうな表情でいそいそと帰路に就き、愛美は友達と約束があるからと後を追うように退社する。
課長と打ち合わせを済ませた優子は課員とプロジェクト以外の通常業務を確認して伸びをする。
今朝の夫は日曜日までの出張準備をして出社した。
退社して駅に向かう途中の優子は何度もスマホを手にしては宙を仰いでバッグに戻すことを繰り返す。
公園で昼食を摂りながら栞の告白を聞いて昂奮し、意識しないまま胸を揉もうとして窘められた時、昨晩、オナニーで満足しとけばよかったと口にしたことを思い出す。
何もしないで後悔するよりも、何かをして失敗すれば反省する方が好い、そうしようと結論付けて改めてスマホを手にする。
「もしもし、何をしているの??……そうなんだ、退屈しているんだ……夕食は今日もタンシチューなの??……違うんだ、フ~ン、何か美味しいモノを食べるなら付き合ってあげてもいいよ……健志んちでもいいし外でもいい……分かった、それじゃあ、30分後くらいにね。急にゴメン」
健志との約束を終えて笑みを浮かべた優子は着信を知らせるスマホを見て顔を強張らせる。
「もしもし、どうしたの??……えっ、忘れ物??……会社の封筒に入って、あなたの部屋の机の上、そこになければ引き出しの中にあるのね……どうすればいいの??……うん、分かった。明日午前中に届くようにすればいいんだね、任せて。
今から電車に乗るところだから一旦帰って送る段取りがつけば連絡する」
工場に向かう電車の中で忘れ物に気付いた夫が通常の宅配便では翌日配達の受付時間を過ぎたので料金にこだわらずに送ってくれと言う。
健志にすぐ連絡をする。
「もしもし、ごめんなさい。出張する夫が忘れ物をしたらしいの。急いで帰って明日午前中に配達してくれる方法を考えなきゃいけなくなった。方法が思いつかないので混乱しているけど、そんなわけで今日はごめんなさい……えっ、ほんとう??
心当たりがあるの??……うん、お願い。どうすればいいの??……」
大まかな住所と送付物の大きさや予算を確かめた健志は心当たりがあるから彩は家に帰って荷物を用意し、駅で待ち合わせをしようと言う。
家に戻った優子は夫の部屋の前で目を閉じ、意を決したようにドアノブを掴む。
閉じた目を開き、フゥッ~と息を吐いてドアを開けて中に入る。
今朝から人気のなかった部屋はひんやりとして一瞬、たじろいだものの一歩を踏み出すとわだかまりの様なものはスッキリ晴れて、机に近寄り目的の封筒を手にする。
すぐに部屋を出ようとしたが立ち止まり、スゥッ~と胸いっぱいに息を吸い込んで、
「あの人の匂いがする……なつかしい」と漏らして無人のベッドに横たわる。
このベッドで抱かれるのはいつの事だろうと思うと楽しみでもあり、今は健志との仲を大切にしたいから付かず離れず夫との関係はヤジロベエのように不安定のように見えて実はバランスがとれているのが好いと苦笑いする。
今は上品な妻と評価される優子と長年心の奥に棲みついていた性的好奇心に長けた彩の間を行ったり来たりしながら、ヤジロベェの両側の夫と健志に対する思いの力のモーメントのバランスがとれていると自覚しているので不安はない。
「あなた、大切な書類が届くのを待っていてね。以前のあなたのように私を愛してくれる人が私のために、ひいてはあなたのために力を貸してくれるんだよ。良かったね……」
夫の部屋のドアを閉めながら無人の部屋に話しかける。
封筒を持って自室に入り、花模様の可愛い便せんに、
苦労したわよ、お土産を期待しているね、、、と書いて大ぶりのクッション封筒に入れて封をする。
愛していると書けなかったのは、夫の浮気が原因なのか健志の存在を意識してなのか自分でも分からない。
別のクッション封筒に引き出しの奥に隠すように入れてある栞のDVDを入れて封をし、バッグに入れる。
急いで待ち合わせの最寄り駅に向かうと健志は見知らぬ男性と二人で待っていてくれた。
いつものように両手を広げて迎えてくれるわけでもなく、額にキスしてくれるわけでもなく、しかし微笑みを浮かべた表情を見ると自然と心が浮き立つ。
「彼は赤帽組合加入の運び屋。どんな荷物でも秘密厳守で約束時刻にきっちり届けてくれるから安心していいよ。腕はフランク・マーティンにも負けない」
「えっ、誰??」
「映画、トランスポーターでジェイソン・ステイサムが演じたトランスポーター、運び屋だよ」
「知っている。急にフランク・マーティンって言うから分からなかった……急なお願いですが、よろしくお願いしています」
「承知しました。委細はタケに聞いているので任せてください。私のことはネット検索で知ったということにしましょう。仕事上の知り合いに夜、教えてもらったというのは誤解を招かないともかぎりませんから」
「お心遣いありがとうございます……夫に連絡します」
受け渡し時刻や料金などは夫と直接話してもらい、封筒を渡すと車は近くの駐車場に置いてあるのでここで失礼しますと去っていった。
「ありがとう。忘れ物をした夫も安心したと喜んでくれた……」
「どういたしまして。お礼を催促したいけど、ここは彩が住む街。オレにも自制心があるから今日はこのまま帰るよ。もし、明日時間があるなら食事でもどうかな??」
「食事だけ??お酒も飲みたいし、腕枕も欲しい。夫が帰ってくるのは日曜の夜になりそうなんだもん……だめ??」
「喜んで腕枕を提供させてもらうよ。以前は平気だったけど、彩と知り合ってからの独り寝は寂しすぎる」
今日ほどキスしてほしいと思ったことはない。
夫が忘れ物さえしなければ健志と食事をしてバーでカクテルを飲んで、その後は二人の気持ち次第……一日延びただけと思えばいいし、今日の出来事が二人の信頼を増したと思えば悪いことじゃないと気持ちが軽くなる。
転生 -3
帰宅した夫は予想通り水曜日から工場へ出張すると言い、工場が止まっている土曜、日曜に最終チェックするのが都合いいので場合によっては帰宅が日曜夜になるかもしれないと言う。
「大変だね、暑い時期だから身体に気をつけてね」
「ありがとう、夫婦が円満というか相互に理解し合うのが仕事に心置きなく打ち込める条件だと言った友人がいるけど、その言葉を思い出したよ。本当にありがとう」
「そんなことでお礼を言われるなんて……私も仕事をしているからよく分かる。私こそ、ありがとう」
改めてお礼の言葉を聞かされると、嘘と真実を交えるのは夫だけではなく私もそうだと面映ゆく感じながらも虚々実々の駆け引きを楽しむ余裕もある。
家事と翌日の準備も終わり大好きな入浴で火照った身体が冷めるのを待ちながら栞から受け取ったDVDを見つめる。
開封しようとして思いとどまり、机の引き出しに入れる。
眠ろうとしても目は冴えて引き出しに視線を移し、再びDVDを手に取る。
再び、三度開封しようとして思いとどまり、脳裏を過る思いに顔を綻ばせる。
水曜まで待てば夫は出張で家を空ける。そうすれば健志と二人でDYDを見ることができる。
彩は悪い女……恋する女も男も愛する人のことを思うと周りが見えなくなり、真っすぐに迷いもなく一点を見つめることがある。
以前なら道徳的に正しくないとか怖くて近付かないような深い闇にも健志と二人なら平気で足を踏み入れることができる。
スマホを手にしたくなるのを我慢する。
気持ちは彩になりかかっているけど今は優子でいるのが正しいと思う。
「おはよう……どうしたの、優子、寝不足のようね。クククッ、私のエロイ姿を見て昂奮しちゃったの??」
「封を切ってエロイ栞を見ればよかったけど独りで見るのはもったいないから必死で我慢して、その結果が寝不足」
「いつ見てくれるの??私も寝不足だけど旦那様の元気が乗り移って今のところ差し障りがない」
「彼と見てもいいでしょう??」
「本当に優子は悪い女。親友のエロ女優デビューを浮気相手と見ようとするなんて……クククッ、いいよ。同じことをしてもらいなさい」
「うん、もちろんだよ。彼が親友の喘ぎ声に昂奮するんだよ、燃えるだろうな……ご主人は激しかった??」
「知りたい??……あとでね。今日も給料以上の仕事をしようね。それが仕事を任せてくれる上司と会社に対する恩返し」
「おはよう……深沢さんの今の言葉、社長や全ての役員に聞かせたいな、あなたたちのチームの信頼が増すだろう」
「おはようございます、課長。深沢さんの言葉は私も松本さんも共有しています。また一つ私たちの絆が深まりました、期待してください」
「分かりました、鍬田さんから自信を示す言葉を聞いて安心しました。深沢さんはしっかり鍬田さんの尻を叩いているようですね、期待していますよ」
昼食は打ち合わせを兼ねて他の部署の社員とパワーランチだと言う愛美に、お願いしますと声をかけて二人は出かける。
最初に出会ったキッチンカーで買おうと決めてタコライスも持っていつもの公園の、いつものベンチに座る。
「DVDの内容は撮影直後にこの場所で弁当を食べながら話した通り。ストーリーが大切でもないから編集で順序は入れ替わっているところもあるけど、それは見てのお楽しみ。昨晩の旦那様は映像をたどるんじゃなく、僕の目の前で男たちに甚振られてオマンコをグショグショに濡らして善がり啼きしたのはどうしてだとか、僕よりも大きなチンポで串刺しにされて気持ち善かったのかって嫉妬心丸出しで責めるの……旦那様のチンポは先走り汁を滴らせてビンビン、目は怒りと言うより今にも泣きだすんじゃないかと思うほど真っ赤に染まっているの」
「ねぇ、泣き出しそうなご主人を見てどうだった??可愛いと思った??」
「そう、瞳を真っ赤に染めて今にも泣きだしそうな表情で私を責めるの……可愛いし、愛おしいし、もう最高。愛されているんだなぁって実感できる」
心ここにあらずという風で遠くを見つめる栞は嫉妬心を露わにした夫に責められたことを思い出して陶然とする。
痕が残ると仕事に支障を来すだろうと縄で自由を奪うことはせずに言葉と視線で栞を縛り、口腔に猛り狂うペニスを捻じ込み股間の二つの穴をオモチャで責められる。
喉の奥までペニスを突き入れられ、口元から先走り汁交じりの涎を滴らせて苦痛を訴えても夫には悦びの声とは聞こえない。
「浣腸された栞もはっきり映っているけど僕にスカトロジー趣味はない。大切な愛妻が見ず知らずの男たちのオカズになるのは悦ばしいけど、僕の趣味じゃない方法で責められるのは堪えられない。せめて放尿シーンだったらと思うよ、オシッコをしなさい」と、洗面器を突き出す。
ピュッピュッ、バシャバシャッ……迸りが洗面器を叩き、夫は興奮で指先が白くなるほど固く握りしめて股間を眼前に突き出し、栞は羞恥を忘れて貪るようにフェラチオに興じる。
流しっ放しのDVDは愛撫を求める栞の声と喘ぎ声が入り混じり、そこに男たちの責める声や身体を誉めそやす声が混じっていかにも納得ずくの乱交だということが画面を見なくても伝わる。
そんな様子を聞かされる優子は真昼間の公園だということを忘れ、右手に持っていたスプーンを置いて乳房を揉もうとする。
「優子、興奮するのは嬉しいけど場所を弁えなさい、続きは浮気相手と一緒の時にね……」
「えっ……ごめん、何をしようとしたんだろう。昨日、独りエッチをしとけばよかったな。さぁ、戻って、仕事、仕事」