気が強い女 1
ペットボトルの冷たい液体を飲む男は目の前の自転車置き場を彼方此方歩き回る女性を興味深げに見つめる。
パンツルックで背筋が伸び、膝下を伸ばして颯爽と歩く姿は凛として格好良く信念と自信に裏付けられた魅力に溢れている。
「困っている女を見るのが面白いの??それとも意地の悪い男なの??」
「えっ、誤解だよ。美しい女性だなぁと見惚れていただけだよ」
「ふ~ん、信じることにする。お願いがあるんだけど、私の自転車を捜して頂けませんか」
捜して頂けませんか、の言葉を強調した女は男の琴線をくすぐると信じて疑わない笑みと共に見つめる。
「ほいほい、どんな自転車??」
「白くて可愛いヤツ」
「ふ~ん、あなたの可愛い相棒かどうかわからないけど、私の目の前にあるこれはどうなの??」
「あらっ、こんな処にいたんだ。意地悪な人のそばだから探さなかった……帰ろうか、相棒くん」
盗難予防のカギを解除した女は白い自転車を押して男に近付く。
「美味しそうに飲んでいるけど何??」
「つぶつぶナタデココ入り赤リンゴ&青リンゴ」
「ふ~ん、美味しいの??」
「元々リンゴジュースが好きだし、プチプチのナタデココが口の中でコロコロする感触がいいよ」
「私も飲んでみたい。ごちそうしてくれる??」
「いいよ。この自動販売機で買ったから……残念、売り切れだってさ」
「ほんとうに意地悪な男…お腹が空いているから誘うには絶好のチャンスだよ」
「お願いがあるのですが、お聞き届けいただけませんか??」
「内容によるわね。どんなこと??」
「食事をしたいんだけど、この街のことは良く知らないので案内してくれませんか??」
「ウフフッ、食事を餌にしてナンパなの??駅近くのホテルだから少し遠いけど行きたいと思っていた鉄板焼きの店があるの、そこなら釣られてあげる」
「距離があるならチャリはもう少しここで待ってもらって車で行きますか??」
「そうね、私の愛車は此処で待ってもらって、あなたの愛車で拉致されてあげる」
自転車を元の位置に戻す後ろ姿を見つめる男は自然と頬が緩む。
「クククッ、私は後ろにも目があるの。見ていたでしょう??点数を付けると何点??」
「見ていたのを知っていたんだ。油断できねぇな……そうだなぁ……245点」
「満点だと思うほど自惚れちゃいないけど中途半端な点数は気になる」
「250点満点の245点。マイナス5は欠点をあげつらうわけじゃなく、満点じゃつまんないと思うから」
「ふ~ん、そうなんだ。私に惚れたって言うのはもう少し後にしてね……二つ目の交差点を左折して街の中心に向かってくれる」
「声や話し方も好きだな。245点を247点に変更するよ」
「クククッ、声でゾクゾクする??」
「えっ、答えは留保します」
「なんだ、つまんない」
その後は車内に微妙な緊張感が漂い、女の道案内以外の声は途絶える。
ホテルの最上階の鉄板焼きの店に入り案内された席に座ると緊張は一層高まる。
「私から食事をおねだりしたのに緊張する。のどがカラカラだし、心臓もバクバクしている」
「オレもだよ、どうしてだろうな??」
「あなたも緊張しているの??早く乾杯したいね。少しは落ち着くような気がする」
「乾杯」
「かんぱ~い……美味しい。スッキリして喉越しもいい」
乾杯で緊張が解れ前菜から始まる黒毛和牛コースのデザートを食べ終えると再び気まずさが漂い、二人ともその理由が分かっているだけにワインを飲むピッチが上がる。
「失礼して離席ざせてもらうよ」
「トイレ??それとも他の理由なの??」
「ワインを飲んで運転できないから部屋を予約してくる。待っていてくれる??」
「送ってもらえないんじゃ、私の愛車んところに戻るのが大変だし、自転車も酔っ払い運転はダメなんだよね……」
「そうか、そうだよな。あなたの分も部屋を取ろうか??」
「そうね、自宅はそんなに遠くないけどお願いしようかな」
「分かった。二人分の部屋を取ってくるから待っていてくれよ。せっかくだから飲み直そうよ」
「うん、待っている……」
二人は本音を言葉にできず、気持ちは妖しく揺れる瞳に委ねる。
女の瞳を見つめる男は口元を緩め、そんな男を見つめる女は頬を赤らめる。
背中を見せてエレベーターに向かう男は意を決したように宙を睨んで拳を握る。
「部屋は取れた??」
「取れたけど……どんな部屋でも怒らないと約束してくれる??」
「日の当たらない部屋、びっくりするほど狭い部屋……もしかすると、あなたと同じ部屋なの??ねぇ、そうなの??」
「えっ、うん……そうだよ。ごめん??」
「クククッ、意地悪な男だと思っていたけど悪い男でもあるんだ。私をホテルの部屋に閉じ込めて犯しまくる気なの??」
「それは言い過ぎだよ。あなたのような好い女と一晩でいいから、一度でいいから…やりたいなと思っただけだよ」
「一度抱けば満足できる程度の女と思われているんだ……ふ~ん、そうなんだ。美人だ、魅力的な人だ。こんな好い女と付き合う男が羨ましいとか後ろ姿さえもゾクゾクするほどそそられるって言ったのは嘘だったんだ」
「オレの言葉を盛らないでくれよ」
「こんな好い女と付き合う男が羨ましいとは言わなかったけど、少しはそう思ったでしょう??ねぇ、そうでしょう??」
「えっ、おう…そう思っちゃ悪いか??」
「悪くないわよ、あなたがどう思おうが私には関係ない、関係ないけど、私に関係することだから関係なくもない……こんなことを言う私って面倒な女??」
「正直な感想を言わせてもらうよ。気が強くて面倒な女……でも、可愛いなぁ」
「クククッ、私は面倒な女だけど可愛い女なの??……ねぇ、覚えている??私に惚れたって言うのは、もう少し後でって言ったでしょう。今、言ってもいいよ」
「さてと、部屋に行く??それともバーがいい??」
「惚れたって言わないのは私の魅力に太刀打ちできないって思っているからなの??大丈夫だよ、あなたは自分で思っている以上に好い男だよ」
「それは嬉しいな。提案だけど、部屋で飲み直そうか??」
「うん、あなたの提案に従う……私に対する評価が部屋を見れば分かるはず。楽しみだなぁ」
「困った人だなぁ。ハードルを高くしないでほしいな……まぁ、ハードルが高くなってもしょうがないほど好い女だけどな」
「ウフフッ、惚れたって言っても許してあげるよ。どうする??」
パンツルックで背筋が伸び、膝下を伸ばして颯爽と歩く姿は凛として格好良く信念と自信に裏付けられた魅力に溢れている。
「困っている女を見るのが面白いの??それとも意地の悪い男なの??」
「えっ、誤解だよ。美しい女性だなぁと見惚れていただけだよ」
「ふ~ん、信じることにする。お願いがあるんだけど、私の自転車を捜して頂けませんか」
捜して頂けませんか、の言葉を強調した女は男の琴線をくすぐると信じて疑わない笑みと共に見つめる。
「ほいほい、どんな自転車??」
「白くて可愛いヤツ」
「ふ~ん、あなたの可愛い相棒かどうかわからないけど、私の目の前にあるこれはどうなの??」
「あらっ、こんな処にいたんだ。意地悪な人のそばだから探さなかった……帰ろうか、相棒くん」
盗難予防のカギを解除した女は白い自転車を押して男に近付く。
「美味しそうに飲んでいるけど何??」
「つぶつぶナタデココ入り赤リンゴ&青リンゴ」
「ふ~ん、美味しいの??」
「元々リンゴジュースが好きだし、プチプチのナタデココが口の中でコロコロする感触がいいよ」
「私も飲んでみたい。ごちそうしてくれる??」
「いいよ。この自動販売機で買ったから……残念、売り切れだってさ」
「ほんとうに意地悪な男…お腹が空いているから誘うには絶好のチャンスだよ」
「お願いがあるのですが、お聞き届けいただけませんか??」
「内容によるわね。どんなこと??」
「食事をしたいんだけど、この街のことは良く知らないので案内してくれませんか??」
「ウフフッ、食事を餌にしてナンパなの??駅近くのホテルだから少し遠いけど行きたいと思っていた鉄板焼きの店があるの、そこなら釣られてあげる」
「距離があるならチャリはもう少しここで待ってもらって車で行きますか??」
「そうね、私の愛車は此処で待ってもらって、あなたの愛車で拉致されてあげる」
自転車を元の位置に戻す後ろ姿を見つめる男は自然と頬が緩む。
「クククッ、私は後ろにも目があるの。見ていたでしょう??点数を付けると何点??」
「見ていたのを知っていたんだ。油断できねぇな……そうだなぁ……245点」
「満点だと思うほど自惚れちゃいないけど中途半端な点数は気になる」
「250点満点の245点。マイナス5は欠点をあげつらうわけじゃなく、満点じゃつまんないと思うから」
「ふ~ん、そうなんだ。私に惚れたって言うのはもう少し後にしてね……二つ目の交差点を左折して街の中心に向かってくれる」
「声や話し方も好きだな。245点を247点に変更するよ」
「クククッ、声でゾクゾクする??」
「えっ、答えは留保します」
「なんだ、つまんない」
その後は車内に微妙な緊張感が漂い、女の道案内以外の声は途絶える。
ホテルの最上階の鉄板焼きの店に入り案内された席に座ると緊張は一層高まる。
「私から食事をおねだりしたのに緊張する。のどがカラカラだし、心臓もバクバクしている」
「オレもだよ、どうしてだろうな??」
「あなたも緊張しているの??早く乾杯したいね。少しは落ち着くような気がする」
「乾杯」
「かんぱ~い……美味しい。スッキリして喉越しもいい」
乾杯で緊張が解れ前菜から始まる黒毛和牛コースのデザートを食べ終えると再び気まずさが漂い、二人ともその理由が分かっているだけにワインを飲むピッチが上がる。
「失礼して離席ざせてもらうよ」
「トイレ??それとも他の理由なの??」
「ワインを飲んで運転できないから部屋を予約してくる。待っていてくれる??」
「送ってもらえないんじゃ、私の愛車んところに戻るのが大変だし、自転車も酔っ払い運転はダメなんだよね……」
「そうか、そうだよな。あなたの分も部屋を取ろうか??」
「そうね、自宅はそんなに遠くないけどお願いしようかな」
「分かった。二人分の部屋を取ってくるから待っていてくれよ。せっかくだから飲み直そうよ」
「うん、待っている……」
二人は本音を言葉にできず、気持ちは妖しく揺れる瞳に委ねる。
女の瞳を見つめる男は口元を緩め、そんな男を見つめる女は頬を赤らめる。
背中を見せてエレベーターに向かう男は意を決したように宙を睨んで拳を握る。
「部屋は取れた??」
「取れたけど……どんな部屋でも怒らないと約束してくれる??」
「日の当たらない部屋、びっくりするほど狭い部屋……もしかすると、あなたと同じ部屋なの??ねぇ、そうなの??」
「えっ、うん……そうだよ。ごめん??」
「クククッ、意地悪な男だと思っていたけど悪い男でもあるんだ。私をホテルの部屋に閉じ込めて犯しまくる気なの??」
「それは言い過ぎだよ。あなたのような好い女と一晩でいいから、一度でいいから…やりたいなと思っただけだよ」
「一度抱けば満足できる程度の女と思われているんだ……ふ~ん、そうなんだ。美人だ、魅力的な人だ。こんな好い女と付き合う男が羨ましいとか後ろ姿さえもゾクゾクするほどそそられるって言ったのは嘘だったんだ」
「オレの言葉を盛らないでくれよ」
「こんな好い女と付き合う男が羨ましいとは言わなかったけど、少しはそう思ったでしょう??ねぇ、そうでしょう??」
「えっ、おう…そう思っちゃ悪いか??」
「悪くないわよ、あなたがどう思おうが私には関係ない、関係ないけど、私に関係することだから関係なくもない……こんなことを言う私って面倒な女??」
「正直な感想を言わせてもらうよ。気が強くて面倒な女……でも、可愛いなぁ」
「クククッ、私は面倒な女だけど可愛い女なの??……ねぇ、覚えている??私に惚れたって言うのは、もう少し後でって言ったでしょう。今、言ってもいいよ」
「さてと、部屋に行く??それともバーがいい??」
「惚れたって言わないのは私の魅力に太刀打ちできないって思っているからなの??大丈夫だよ、あなたは自分で思っている以上に好い男だよ」
「それは嬉しいな。提案だけど、部屋で飲み直そうか??」
「うん、あなたの提案に従う……私に対する評価が部屋を見れば分かるはず。楽しみだなぁ」
「困った人だなぁ。ハードルを高くしないでほしいな……まぁ、ハードルが高くなってもしょうがないほど好い女だけどな」
「ウフフッ、惚れたって言っても許してあげるよ。どうする??」