「土曜日は東京ドームシティに行きたい。いいでしょう??」
「いいよ」
「行ってくれるのは嬉しいけど何があるんだって聞いてくれないのはつまんない。言うことを聞いていれば円満に済むって思っているでしょう」
「いまから聞こうと思っていたんだよ、なにがあるの??まさかヒーローショーを見に行くんじゃないだろう??」
「なにそれ??……私が行きたいのは“ねこ休み展”写真やぬいぐるみなど猫クリエーターの作品が展示してあるらしい。友達が良かったって言うから行ってみたいの、ワンちゃんじゃないからダメ??」
「そんなことないよ、行こう。食事は神楽坂にしようか、詳しくないから調べといてよ」
「神楽坂かぁ、ねこ休み展より魅力的かもしれない……あっ、もうこんな時間だ、行かなきゃ。どうせ寝るんでしょう、19時半になったらいつもの通り電話するね」
寝転がったまま手を振る男に近付いたアユは顔の上でしゃがみ込み、パサッと開いたワンピースの裾で上半身を包み込んで股間を押し付け、二度ほど揺すり立てる。
「ハァハァッ……死ぬかと思った。おいで、キスを欲しくないの??」
上半身を起こした男は軽く唇を合わせ、行ってらっしゃい。あとで行くからと告げてアユを送り出す。
男は週に一度16時頃からアユの部屋で過ごして夕食を済ませた後、18時過ぎに自分の店に向かうのを見送り19時半頃、他の客には素知らぬふりで店に行く。
アユの言葉通り男は床で横になる。
男の自慢の一つは寝つきの良さで、今日も数分も経たずに寝息が漏れ始める。
二つ目の自慢は寝起きの良さでアユからの電話ですぐに目覚め、店に向かう。
「どうだった??オレは面白かったよ。アユが連れて行ってくれるところはいつも新鮮で楽しい」
「私は勉強になった、猫ちゃんの表現や一瞬をとらえるセンスっていうのかな、あなたをモデルにして何枚もクロッキーやスケッチしたけど参考になったような気がする。次はもっと好い男に書いてあげるから期待して……お腹が空いた」
「車は今の駐車場に置いとこう。30分ほど歩くかタクシーか、どっちがいい??」
「暑いからタクシーが好い」
アユがネットで調べたというステーキハウスの名を告げ、神楽坂の雰囲気を楽しみたいから近くで降ろして下さいと伝える。
運転手さんが神楽坂では有名だという寺の門前で降ろしてくれて店までの道順を教わり歩き始めたその時、
「おじさん、こんにちは」
「あれ、希美ちゃん、どうしたの??」
「大人のデートをしようと神楽坂に来で食事をする店を探しているところです。彼は同じ大学の1年先輩です……こちらは父の友人で住まいもすぐ近くの人」
「初めまして、彼女は……」アユの紹介を一瞬言い淀むと、
「大人の付き合いでしょう。詳しいことは聞かないし、おばさまには内緒にしとくから……ねっ、いいでしょう??」
「口止め料か、いいよ。彼女は友人のお嬢さんだけど、いいだろう??」
屈託のない笑顔で昼食に同行してもいいだろうとアユに確かめる。
四人が連れだってステーキハウスに向かう途中、友人の娘は男とアユを横目でチラチラと見比べて誰にも気付かれないように男の背中をつつく。
店ではカウンター席の離れた場所に分かれて座りオーダーは任せてもらうと確かめておく。
レンガに覆われた壁にはワインがずらりと並び、スタッフに外国人が多いこともあって神楽坂だということを忘れそうになる。
「アユ、好い店を教えてくれてありがとう」
「ネットで探したんだけど、こんなに素晴らしい雰囲気のある店だとは思わなかった。見て、あの二人も気に入ってくれたみたい……でも、大丈夫なの??」
「大丈夫だよ。アユの事は妻も知っているし何度か会っているだろう。今日も一緒だと気付いているよ」
「うん……私の大学の後輩になる姪御さんが、あなたの事を恋人にするなら好いけど夫にはしたくないって言ったんでしょう。よくわかる、ウフフッ」
スパークリングワインで乾杯し、アミューズのガスパチョで始まるコース料理は何品かの前菜からメインディッシュに続きデザートに満足してコーヒーや紅茶を飲みながら余韻に浸る。
「ごちそうさまでした。今日の事はおじさんとの秘密です、おばさまには秘密です……美味しかったよね、二人じゃ食べられなかったね」
スパークリングワインと赤ワインで男が知る普段よりも饒舌になった希美はボーイフレンドに笑顔を向ける。
「僕までご一緒させていただいてありがとうございました。秘密は守ります、約束します」
「私こそ、ありがとう。秘密を守ってもらえると聞いて安心したよ」
「はい、絶対です。ごちそうさまでした」
JR飯田橋駅に向かうと言う二人と別れた二人は、昔の面影を残す店とモダンな店が混在する神楽坂の風情ある雰囲気を楽しみながらそぞろ歩きする。
「秘密だと言う彼女の言葉をそのままにしといていいの??」
「しょうがないだろう。妻も知っているから報告していいよとは言えないし、どうでもいいよとも言えない。オレの秘密を知ったつもりの彼女が今度、家の近くで会った時にどんな顔をするか楽しみだし、クククッ」
「性格ワル~イ。この後の予定もあるんだけど怒らない??」
「怒らないよ、聞かせてくれる??」
「今日は暑いってことが分かっていたでしょう。だから涼む場所を予約しといたの……怒らないって約束したよね」
「そこでは汗を掻くようなことをしなくていいんだね」
「えっ、それはあなた次第。私にその気がなくても汗を流すためにシャワーを浴びる姿に昂奮しちゃったら嫌だって言えないし、我慢して相手してあげる」
「オレは汗を流した後、昼寝する。アユが嫌な事を我慢するようなことはしないって約束するよ」
「女はね、好きな男のためなら我慢するのを幸せだと感じるものなの。今日は我慢させて」
「男は素直な女が好きなんだよ。アユは素直な好い子だろ??」
「もう、いじわる。あなたの想像通り、私はエッチな女です……これで分かってくれる??」
声を潜めてもすれ違う人の中には二人を見つめて眉をひそめる人もいれば面白そうに笑みを浮かべる人もいる。
ディユースの予約を入れたホテルの場所を聞いた男は、
「よし、じゃぁ車を取りに行こう」
すれ違う人の絶えない通りで欲望を露わにするアユが欲求を溜め込んでいるのはオレにも責任があると苦いモノがこみ上げる。
ホテルに着いたらシャワーを浴びる前に窓に押し付け、背後から獣の恰好で一発目をやっちゃうかと妄想する
。
「何を考えているの??変なこと……あっ、エッチな事を考えたでしょう??」
頭を過った妄想を思い出した男は一発目……二回もできるほど若くはない事を思い出す。
いつも通りに若いアユを満足させることが、欲求不満を封じ込める口止め料になるのかと思って苦笑いを浮かべる。
<< おしまい >>
覚醒 -15
冷酒を飲みながら刺身やウマキに舌鼓を打ち、その間も彩は下着代わりにつけたプラチナチェーンを気にして手は自然と下腹部や股間に伸びる。
そんな様子に健志は顔が綻ぶのを避けることが出来ず、わざとらしく苦虫を潰したような表情を作る。
「何がおかしいの??そのわざとらしさに腹が立つ」
と、抗議する彩の表情もまた自然と浮かぶ笑みを堪えることが出来ず、ついに、フフフッと笑いだしてしまう。
「フフフッ……昨日の仕事帰りから今まで丸一日も経ったのか、まだ一日なのかすごく色んなことがあった」
離れている時間も彩のオンナが健志を意識するようにと着けられたプラチナ製の下着が昂奮の冷めることのない身体の火照りを意識させる。
「どうした??顔が赤くなるほど冷酒を飲んだわけでもないだろうに」
「そんなことはないよ、普段、ビールを飲んでいるから冷酒に慣れていないし、これは喉越しがいいから、つい飲みすぎちゃう」
「そうか、期待したオレの間違いか、ザンネン。下着に昂奮してくれているのかと期待していたよ」
「そんなことを言って彩を困らせないでよ……本当のことを言うと、仕事中も通勤電車の中でもプラチナの重量感と冷たさが健志の存在を忘れさせてくれないだろうと想像して昂奮する、恥ずかしい」
「そうか、嬉しいよ。個室だし鰻が焼き上がるまでもう少し時間がかかるはず……彩、ここにおいで、どうなっているか確かめさせてくれるだろう」
手招きする健志に抗う事もなく、ゴクッと冷酒を飲み干した彩は、フゥッ~と息を吐いてにじり寄っていく。
「可愛いよ、大好きだ……この染み一つないスベスベの太腿の先を確かめるよ」
「アァ~、いやらしい。オチンポが勃起しなくなったオジイチャンが小娘を可愛がっているみたいで昂奮する。見て、はやく、彩のアソコがどうなっているか確かめて」
「そうだな、早くしないと仲居さんがお待ちどうさまって入ってくるかもしれないな……それにしても上品な彩とも思えない下品な言葉遣いだな」
「平日の昼間の私は夫が浮気をしているのを知っているのに貞節を守る健気な人妻。健志が知っているのは彩、彩はセックスが好きな変態ちゃんなの、知っているでしょう??早く確かめて、健志には見せてあげるけど仲居さんには見られたくない」
彩は健志の顔に股間を押し付けんばかりに近付いていく。
短パンを膝まで引き下ろすと直ぐに彩は後ろ向きになる。
「見せてあげない……恥ずかしい」
「そうか、好いよ、ここにも穴が開いているようだから覗いてみることにしよう」
会陰部を通って腰につながるプラチナチェーンを左右に分けて割れ目に指を添え、窄まりに舌を伸ばすと彩は声を漏らすまいとして口に手を押し付ける。
割れ目を開いたまま顔を遠ざけると、
「いや、確かめるのはそこじゃないでしょう」と、自分で後ろ向きになった事を忘れたかのように抗議して前を向く。
ウェストの括れに沿ってプラチナチェーンが腰を一周して臍の下ではダイヤが輝き、それを挟んで二本のチェーンが割れ目を強調するように会陰部から背後に伸びている。
赤と青、二つの鈴が垂れ下がり、指先で弾くと、チリンチリリンと涼やかな音を響かせる。
「ハァハァッ、じっと見つめられると健志の体温が彩のオンナに通じて子宮が熱くなる。ねぇ、どうなっているの??いつもと違う??それとも同じ??ねぇ、教えて」
ニュル、ズルッ、ズズズッ……彩の腰を抱きかかえた健志は言葉で告げずに内腿にまで滴る花蜜を舌先で舐めとり、蜜が湧き出る源泉に口を押し付けてズズズッと音を立てて吸い取る。
蜜を吸い取った後は腰を抱く手に一層の力を込めて抱き寄せ、彩のオンナを頬張るようにして尖らせた舌を出し入れし、クリトリスに向かってベロッと舐め上がる。。
「クゥッ~、たまんない。そんなことをされたら我慢出来なくなっちゃう」
新たに湧き出た蜜を舐めとった健志は何事もなかったかのように短パンを引き上げて、
「彩ジュースは濃厚で美味しかった。鰻が焼き上がる頃だよ……えっ、誰だろう??」
彩が席に戻るのを待っていたかのようなタイミングで健志のスマホが着信を知らせてくれる。
スマホを見た健志は、
「カヲルさんだよ、どうする??」
「どうするって聞かれても用件も分からないし……早く出た方がいいよ」
「もしもし……彩と食事中だよ。何か用なの??……聞いてみるから待って」
「カヲルさんがオレンチに来たいって言うんだけど好いかな??彩が嫌なら断るけど」
「う~ん、むげに断るのも失礼だし……変な事をしない約束をしてくれると嬉しい」
「もしもし、彩はカヲルがエッチな事をしない約束をしてくれると嬉しいって言っているよ……そうか、分かった。40~50分ほどかな、今は18時過ぎだから19時頃になると思う」
カヲルと呼び捨てにしたのが気になるけれど付き合いはカヲルさんとの方が長いようだから二人の仲を問い詰めたりするのは止めようと決める。
「お待ちどうさまでした、鰻重でございます。お届けの鰻重も今、出ましたのでもうすぐ着くと思います」」
「ありがとう。申し訳ないけど白焼きを二人前、お土産で用意してもらえますか」
「はい、承りました。いつもありがとうございます。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
「明日のお昼頃、帰る積りだけどすんなりとサヨウナラは言えそうもないわね。ウフフッ、来週の三連休が楽しみ」
「場所はもう決めてあるよ……遠くがいいって聞いたけど、それは期待外れかもしれない。でもロケーションは気に入ってもらえると思う」
「ふ~ん、健志が彩のために選んでくれた場所なら満足できるはず……どこかは聞かないし聞きたくない。一週間、どこかなって想像する楽しみにとっとく」
「金曜の出発でいいだろ??予約の都合があるから聞いときたい」
「うん、大丈夫だと思う。残業しなくてもいいように仕事を頑張んなきゃ」
「可愛い彩に付き合うのは大変だよ。エッチ体力がスゴイから……クククッ」
「いまさら何よ、彩と健志が出会ったのは何処なの??」
「そうか、そうだな。初めて彩を見たのはSMショークラブで下着一枚になった彩がムッチリと旨そうな身体を縄化粧した時だった。こうして今、正面から見ると白くてモチットした肌はエロっぽいのに清楚で上品さを失わない。キリッとした表情や顎のラインは自分を忘れない強さを感じるし上半身はスポーツ好きな快活さを表している」
そんな事を話しながらの食事も楽しく鰻重を平らげてデザートを食べ終わる頃には白焼きも出来上がった。
「ごちそうさまでした」
店を出て時刻を確かめた健志は丁度いいな、歩いて帰ろうと彩に話しかける。
カヲルが大人しく約束を守ってくれるかどうかは分からないけど不安に思うことはなく、冷酒で暖められた身体を撫でていく微風が気持ちいい。
覚醒 -14
目の縁を朱に染めた彩は視線をドアに向けたままシャツを脱ぎ、短パンを下ろして下着姿になる。
「パンツも脱がなきゃダメ??」
「サイズ合わせの試着だよ。脱がなきゃ分かんないよ。早くしなさい」
性的昂奮で昂る彩はドアを確かめ、振り向いて小さな窓から見える向かいのビルの壁に取り付けられた猥雑な看板から目を逸らすようにしてパンツを脱ぐと健志は無言で手を伸ばす。
受け取った下着に顔を埋めてフゥッ~と息を吸い込み、彩の匂いがすると呟く。
「嫌な男……ブラジャーは着けたままでもいいでしょう??」
「しょうがないな……穿かせてあげるよ」
蹲った健志が持つプラチナ製の下着のようなモノに視線を落とした彩が肩に置いた手を支えとして右足、左足の順に入れると腰まで引き上げてカチッと鍵をかける。
冷蔵庫の上に卓上ミラーを見つけた健志は手に取り、再び蹲り彩を見上げる。
「見てごらん……ムッチリとして白い肌には金の方が似合うかなと思うけど、よく似合っているよ……金はまたの機会にしよう。どんな感じがする??」
卓上ミラーに映したことで股間部分しか見えず、自らの上半身や表情が見えない事が彩の救いになる。
「いやらしい姿。これを付けるとツルツルマンコが強調されて視線を外すことが出来なくなる。恥ずかしい」
「恥ずかしがることなないよ。昂奮しているんだろう??」
「ハァハァッ……これを付けるだけで全身がゾワゾワする。鍵を留めるカチッという音を聞いた瞬間にアソコがドロッっとなったような気がする」
確かめてみようと言う健志は腰を一周するプラチナチェーンに指を這わせ、割れ目を強調するように下腹部から会陰部を通り腰に伸びる二本のチェーンをなぞる。
割れ目から染み出た花蜜が内腿にまで滴り、顔を近付けた健志が舌先で滑りを舐めとると新たな蜜がニュルッと滲み出る。
「彩、いい加減にしないと際限なく舐め続けなくなっちゃうよ」
「だって、こんな格好でそんな事をされると気持ち善くて自分を抑えきれないんだもん」
「そうか、しょうがないな。彼を呼ぶからね」
「えっ、嫌。こんな姿は健志以外の男性に見られたくない、許して、おねがい」
「病院で検査をしてもらっていると思えばいいんだよ。サイズを確認してもらわなきゃダメだろう……分かるね」
顔を強張らせ、唇を噛んで羞恥に堪える彩を胸に抱きかかえ、可愛いよと囁いて唇を合わせると舌を絡ませて貪るように唾液を啜る。
「ハァハァッ、病院の先生だと思えばいいんだよね。エッチな事を想像する彩がおかしい、そうだよね」
「そうだよ、彩が言う通り。呼ぶよ……お~い、好いよ。着けたからサイズを確認してくれ」
「失礼……似合っています……肌に触れるかもしれませんが許してください」
チェーンのあちこちに指をかけて緩みを確かめる。
「アッ、ごめんなさい……アンッ……ウッ」
店主の指が肌に触れるたび、チェーンを引っ張って緩みを確かめるたびに甘い吐息が漏れて足が震え、滑りが内腿にまで滴り健志の手を握って見つめる瞳は妖しく燃える。
「ハァハァッ……恥ずかしい。まだ、サイズの確認は必要ですか」
「あっ、ごめんなさい。つい見とれてしまいました。丁度いいサイズで修正する必要はないでしょう……今更だけど、成熟した白い肌には金の方が良かったかもしれないな」
「そうだな、ゴージャスな身体を強調できたかもしれないな。とはいえ、これは他人に見せるモノではなくオレの女だと意識してもらうための手段だからいいんだよ」
「そうか、それなら俺がとやかく言うことじゃないな……鏡を見ていてください」
健志に鏡を持つように促し、彩に声をかける。
腰の周囲を一周するチェーンの下腹部を指差し、
「このダイヤは小さいけれど天然です、合成ダイヤじゃありません。それと、この丸カンにはナスカンで鈴をつけることが出来ます……取ってくれ」
二つの鈴が入ったガラス容器を指差す。
健志が蓋を取った容器を近付けると、赤と青、二つの鈴をナスカンで取り付けて指差で軽く弾く。
チリン、チリリ~ン涼やかな音と共に、割れ目から新たな花蜜が滴り芳しい匂いに店主は顔を赤らめる。
「ゴホンッ、何も問題ないようだ。サイズは丁度いいし、ダイヤと鈴の取り付けにも問題はない……華やかな金で作るときや胸のアクセサリーを作るときは連絡してくれ。請求書は送っとくよ」
「こんなに早くやってもらえるとは思わなかった。ありがとう……晩飯を届けさせようか??」
「えっ、お言葉に甘えようか。頼むよ……タケは好い奴だよ。ありがとうございました」
チェーンに鈴を着けたまま短パンを穿いた彩の下半身に目をくれることなく、卑猥な思いを宿すことなく別れの挨拶を告げる。
雑居ビルを出た彩は健志の腕にすがるように抱きかかえ、下着の代わりに股間を飾るアクセサリーが見えないかと気にする。
「分からないよね、大丈夫だよね??」
「変な恰好をすると他人の注意を引くことになるけど普通にしてれば分からないさ。上品な奥様がツルツルマンコを強調するような恥ずかしい格好を短パンで隠しているとは思わないよ」
チリンチリン……彩の耳に鈴の音が響く。
「聞こえない??」
「なにが??」
「鈴の音」
「何も聞こえない。気にするから空耳だよ、きっと」
五分ほど歩いて鰻屋に入り、うな重を三人前頼んでその内の一つを出てきたばかりの手作りアクセサリー屋に届けてくれるように頼んだ。
「ヤツは鰻が好きなんだよ。彩のツルマンとムッチリしてエロエロの身体を自作のアクセサリーで飾った姿を思い出して好物を頬張る……ヤツには至福の時間だろうよ」
覚醒 -13
空腹を刺激する匂いで目覚めた彩は、母猫のそばで丸くなり安心して眠る子猫のように健志に抱かれて熟睡したことを思い出す。
十人余りの見ず知らずの男女の前で下着も含めて全て脱がされて股間を丸見えの恰好で椅子に拘束され、飾り毛を剃り落とされてオモチャで嬲られた挙句あろうことかオナニーまでさせられた……そんな記憶が蘇り手首に視線を移し、腿を擦ると微かにではあるけど縄の痕が残っている。
蘇った記憶が現実だったと思っても羞恥を覚えることはなく、思い切り泳いだ後のような爽快感が身体を包み誰に見せるわけでもなく自然と笑みが浮かぶ。
シャッ~……カーテンで隠れていた陽光が健志の手で招き入れられる。
「眩しい……目を開けられない」
「クククッ、可愛いよ」
抱き起した彩の両方の瞼に、チュッとキスをして、
「これで目を開けられるだろう??」
「うん、健志のキスのお陰……食欲をそそる匂いがするのだけど朝食の用意をしてくれたの??」
「お姫様はコーヒーと紅茶、どちらがお好みですか??」
「執事に任せます」
「ありがとうございます。それでは、少々お待ちください」
健志が運んできたのは、湯気が立ち昇るリンゴとチーズのトースト、クラムチャウダーとカップになみなみと注がれたミルクティ、それとアボカドとグリーンサラダで、それを見た彩は、
「これはいつもの朝食と同じなの??」
「いつもはシリアルとミルクティ、野菜と果物の残りものに蜂蜜を加えたジュースくらいだよ……ベランダに出ようか??」
「眩しいのはキスで治ったけど、起きたばかりで歩けない」
微笑みと共に楽々と抱え上げてベランダの椅子に座らせて額に唇を合わせると口を尖らせて、そこじゃないと拗ねた振りをする。
そんな彩にとびっきりの笑顔を見せて背を向けトレーを運んでくる。
フォークで突き刺したアボカドを彩の口に近付けて、
「彩とノンビリ朝食を食べる。至福の時間だよ……キスよりも美味いアボカドの方が好きだろう」
「朝日に守られて美味しい食事を摂る……今日は土曜日、明日もこんな朝食が好いな。それと今日はのんびり過ごしたい」
「そうだね、そうしよう……可愛い彩を見るのがすごく眩しいよ」
「お日さまのせいじゃなく彩が眩しいの??……美味しい食事を用意してくれたお礼で彩の衣服を決めさせてあげる」
食事を終えた彩は白い短パンとデニムシャツを着けて健志の前でクルリと回り、
「可愛い??惚れ直す??ねぇ、どうなの??」と、囁く。
健志は問いかけに答えず、プリンとした尻を撫で短パンから伸びるムッチリとした太腿に手を這わせてシャツ越しに胸の膨らみを鷲掴みする。
クゥッ~と鼻を鳴らした彩は、
「下着を脱がせてくれるの??」と、嫣然と微笑んで健志の気勢を見事にかわす。
映画を見たり音楽を聴いたり、雑誌を見ている内に時間はゆったりと過ぎていく。
寄り添って座った時は手をつないだり肌をまさぐったりとそばにいることを確かめ合い、視線を絡ませて瞳の奥に宿る妖しい思いのまま唇を重ねる。
離れている時、健志のそばを彩が通ると尻や太腿に手を伸ばす。
「クククッ、痴漢に触られましたって訴えちゃおうかな」
朝食が遅かったこともあり夕食までのつなぎでパンケーキを焼いて空腹を満たし、オーダーしたアクセサリーが出来上がったと連絡があったので家を出る。
早く行こう、そのままの恰好でいいよと彩を急かす健志は白パンツにネイビーブルーのシャツを着けてパーカーを羽織る。
「彩と色がオソロなんだ、ウフフッ……どんなアクセサリーか楽しみ。ねぇ、ネックレスなの??短パンのままでいいということはアンクレットかなぁ??」
健志は微笑むだけで答えようとしない。
駅近くの繁華街に向かいカヲルの住むマンションから距離のある雑居ビルの前に立つ。
一階にコンビニ店、花屋が入るビルのギシギシと怪しい音を立てて昇るエレベーターを二階で下りる。
「着いたよ、この店だよ」
siiverとだけ書いた営業内容不明の表札が掛かる店に入る。
「早かったな。この女性が付けるのか??……白い短パンにデニムシャツとサンダル。清潔感とスポーティ、色気もある。似合うと思うよ」
「オレもそう思う……ここじゃまずいだろう」
「隣の部屋に用意してあるよ。部屋って言っても寝室だけどな」
挨拶もそこそこに男二人は彩を不安にさせる意味不明の会話を続け、店主は隣室のドアを開ける。
寝室だという言葉通り部屋にはベッドと冷蔵庫しかなく、壁には幾つかの衣類が掛けられている。
「何をするの??変な事をしちゃ嫌だよ。ねぇ、健志、どういうことなの??」
「今からアクセサリーを試着するんだよ。彩、すべて脱いで素っ裸になりなさい」
「そんな、嫌、出来ない。ちゃんと説明して、どう言うことなの??寝室って、まさか??」
「誤解しているようだけど、説明するから聞いてくれるね」
健志と離れていても二人がつながっている証を彩が忘れないように下着を用意した。
健志の言葉に合わせて店主が彩に示したのは、プラチナ製だがネックレスともアンクレットとも見えない品物だった。
「これは何??これがアクセサリーなの??」
「そうだよ……こうすると分かるだろう。離れていてもオレはいつも彩の股間にいる。彩に用意したのはプラチナ製の下着……下着のようなモノかな」
「貞操帯とは違うの??」
「違うよ。オナニーはできるし着けたままセックスもできる。下半身に触れる度、オレの事を思い出せるはずだよ」
「なぁ、俺がいるから彼女は困っているんだろう。試す間、俺は部屋を出ているよ……前後の目印代わりに小っちゃいけどダイヤを付けといたよ、それとその鈴はダイヤの下のフックにナスカンで留めるようにしてある」
「二人っきりになったから早く抜いじゃいなよ。彩の裸を見たいからって間違えた振りで入ってきちゃうかもしれないよ」
「分かった」
覚醒 -12
この街の夜に集う人々の欲望を貪欲に飲み込んでしまう繁華街の灯りを見ながら彩はスプモーニ、健志はジントニックのグラスを傾けてゆっくりと刻む時間に身を委ねる。
「一人の時にスプモーニを飲むことがあるの??それとも、彩の知らない女性客用なの??」
「クククッ、彩のためだよ。トニックウォーターはジントニックと共通、グレープフルーツジュースは問題ない。カンパリを用意すればいいだけだからね……ここは彩以外の女性を招かない」
「ふ~ん、一応、信じてあげる……一時間ほど前の事が遠い昔のように思える。今ほどゆったりとした気分になるのは久しぶり」
「忙しいんだ。仕事が順調ってことらしいね、彩なら大丈夫だよ」
「ウフフッ、彩がどんな仕事をしているか知らないのに……でも、ありがとう。彩の仕事を教えてあげようか」
「聞きたくない。彩の仕事を知れば、本当の名前を知りたくなる。次は住んでいる処、ご主人はどんな人か……あれもこれも知りたくなる。今の関係を壊したくないから知らないままでいる方がいい」
「そうね、今はまだ知らない方がいいかもね……見て、痕がこんなに薄くなった」
「ほんとうだ、温めてマッサージしたのが良かったんだね。この痕が消える時は彩の記憶からオレがいなくなるってことじゃないよな??」
「心配している??……じゃぁ、彩が逃げられないように拘束しとけばいいのに。彩は健志につながれていたい」
「……分かった。離れている時間もオレの女だという印をつけとこう。仕事中もご主人と食事をしている時も彩のオンナにオレを意識させる」
彩の身体にオレの女だという印を刻むと聞いても健志が何を考えているのか分からず期待と不安で続く言葉を待つ。
傷付けられることはないだろうと思うけど物思いに耽っているようで視線を合わそうとしない。
突然、彩を見て笑みを浮かべた健志は机を前にして何かを書き始め、彩が何をしているのと聞いても秘密、いずれ分かるよと教えてくれない。
スプモーニを飲みながら夜の街と健志を交互に見ていると、スキャンしている様にも見えて何をしているのか気になる。
PCで何やらしていた健志は彩に視線を向けて終わったよと言うものの、何が終わったのか教えてくれそうもない。
「何をしていたの??エッチな事だと思うけどすごく気になる」
「彩が気に入ってくれると嬉しいけど、離れている時もオレの事を忘れないようにプラチナ製のアクセサリーを友人に注文した」
「ほんとう??プラチナ製のネックレスか何かなの??嬉しい、絶対に気に入ると思う、ありがとう」
スマホが着信を知らせて健志が話し始める。
「……そうだよ、銀は時間と共に硫化銀に変化して黒くなるからプラチナで頼むよ……絵が下手だけど分かってくれたようで安心した……明日、夕方にはできるの。急いでくれるのは嬉しいけど雑な仕事は嫌だぜ……そうか、うん、任せる。頼んだよ」
「彩、アクセサリーは夕方に出来るって、楽しみにしてくれてもいいよ」
「今は夜っていうより、夜中だよ。どんな店なの??」
「個人営業で元々夜型人間、週末は競馬をやっているから夜、仕事をして昼間は寝ていた方が無駄遣いしなくていいらしい」
「ふ~ん、人それぞれ……あの華やかな灯りを求めて色々な人が集まってくるし、明るければ明るいほど影も濃くなる。そうでしょう??」
「そうだと思うよ。昼間の彩は本来の姿で上品で貞淑な妻でありながら仕事もバリバリこなす。時々だけど夜になって身体の奥に巣食うスケベな思いが目覚めると彩に変身して影を求めて徘徊する」
「そうだよ、そんな時に会ったのが健志……えっ、彩のスマホに着信が、ちょっと待って」
「もしもし、栞なの??どうしたの??今どこにいるの??大丈夫なの??……ごめん、栞の事なのに私が昂奮しちゃダメだよね……そんなことない。栞は学生時代からの大切な親友だもん……うん、それで、どうしたの??」
今日、浮気相手が用意する初対面の男たちと乱交プレイを楽しむという親友からの電話だと察しが付く。
自然と聞こえるのはしょうがないにしても、そばにいて聞き耳を立てたり彩の表情から会話の内容を探ったりするのは不作法だと思う健志は空になったグラスを片付けて寝室に入り、寝る準備をする。
「気付いたと思うけど浮気相手と乱交プレイをした友人からの電話だった。浮気相手を含めて五人の男性の相手をしたんだって……精も根も尽き果ててやっと自宅に着いたんだけど、これからご主人に報告するんだって。多分、今日は寝かせてもらえないだろうなって……」
「えっ……大丈夫なの??」
「話したと思うけど、ご主人は寝取られ願望って言うのかなぁ、彩の親友である妻が他人に抱かれることを想像して昂奮する性癖があるんだって。今日が二回目らしいけどボイスレコーダーで録音したのを再生して、どんな事をされたんだ、気持ち善かったのかって責めるんだって……今晩は寝かせてもらえないほど責められるだろうって声を上ずらせていた」
「彩と彩の親友の性欲は際限がなさそうだね、やわな男じゃ相手をできそうもないな」
「彩もなの??否定はしないけどね。水泳などのマリンスポーツと今はヨガで鍛えているからセックスも強いよ」
「彩、憶えているだろ、お風呂でシャワーに打たれながら終わったことを」
「ウフフッ、もう一度しようなんて言わないから安心していいよ。眠くなっちゃった、寝ようよ」
長かった金曜日が終わっても土曜日と日曜の午後まで二人でいる時間はたっぷりある。