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10か月ぶりの疼き 1/2

「お久しぶりです。変わらないですね……あっ、変な意味じゃないから怒らないでよ」
「怒ってないよ。寒いから口がまわらないし、顔が固まっているんだよ。カナちゃんは相変わらず可愛いよ」
「もういい歳になったから可愛いじゃなく、美人とか好い女だとか言われたいな……どうですか??」
大袈裟に下から覗き込むような格好をするカナの若さに頬を緩めて、
「おう、美人だし好い女だよ。そんなカナちゃんだから振られるかもしれないと思いながら連絡したんだよ。来てくれて、ありがとう」
「いつでもいいから戻って来ることがあれば連絡してくださいってお願いしていたからでしょう??断られることも多かったけど約束したことは必ず守ってくれた。ウフフッ、変わらないですねって言ったのは、そういうことです」
「そうか、好い女に信用されるのは気持ちいいな。しばらく離れていたから店はカナちゃんに任せる」
「うん、その先を少し入った所に美味しいイタリアンの店ができたから、そこでもいい??」
「いいよ……そうだ、忘れる前にお年玉を渡しとこう。2022年がカナちゃんにとって好い年になりますように……」
「ありがとう。喜んで頂きます」

横道に入ると雪が凍って行く手を阻むように路地いっぱいに広がっている。
「いやだ、滑りそうで怖い」
「思いついた方法は二つ。一つはオレがカナちゃんを抱っこして通り抜ける。もう一つは秘密……どっちがいい??……ちょっと待って」

ポケットからスマホを取り出した男は、
「もしもし……どうした??……そうか、大丈夫なの??……代わらなくていいよ……うん、また連絡する……お大事に、奥さんによろしく伝えといて」
「どうしたの??」
「カナちゃんの店で待ち合わせている人がいるって言っただろ。奥さんに熱が出て、検査の結果は心配するような病気じゃなかったけど看病するって」
「ウフフッ、その人には申し訳ないけど私には邪魔者はいないってことだね」
「その言い方は気に入らないけど、そうだな……それはそうと、どうやって向こうまで行く??」
「抱っこしてもらうのは嬉しいけど、二人で転ぶとケガしちゃいそうだし、秘密の方にする」
「クククッ、後悔しても知らないよ。カナちゃんは来た方を見ていてくれる。この先はオレが見ながらするから」
「えっ、何をするんですか??……ウソ、嘘でしょう??」
ズボンのファスナーを下ろして萎びたペニスを摘まみ出すとカナちゃんは目を丸くする。
ジャァ~、ジャァ~、シュッ、シュッ……「ダメだ、一か所融かしただけで向こうまで渡れないなぁ……カナちゃん、抱っこで行こうか??」
「食事はファストフードでいいからホテルはダメ??我慢できない……すぐ近くにラブホがあるのを知っているでしょう??」

客とキャバ嬢の関係を二年余り続けてベッドを共にしたのは二度、同伴をお願いすれば断られることはなかったし、誕生日やクリスマスなどのイベントも目立つことを避けて協力してくれたけど、アフターをおねだりしても門限は22時だから帰ると言って取り合ってもらえなかった。
そんな男が、眩い灯りが妖しく煌めく通りから小道に入った所で凍った雪を融かすために立小便をする。
正気の沙汰と思えないが50を過ぎた男が楽しそうに立小便する姿に自然と笑みが浮かび、今日は口にするまいと思っていたホテルと言う言葉で誘ってしまう。

「ダメ??……オチンチンを見せるからだよ」
「一つ聞くけど、カナちゃんは付き合っている男がいる??」
「大丈夫、いません……人の持ち物は決して欲しがらない、それは女性でも同じって言うんでしょう??付き合っている男性はいないし、自分でクチュクチュするだけ。こんなところで何を言っているんだろう、恥ずかしい」
「……店が終わった後、一緒にホテルに泊まれる友人がいる??」
「どういうこと??」
「今は19時前だから21時まで2時間チョイ。夕食はコンビニ弁当で間に合わせてホテルのツインルームで気持ち善いことをする。ラブホ代わりに使うのは勿体ないからカナちゃんが一泊するってのはどう??」
「ラブホでもいいのに……ちょっと待って、確かめてみる……もしもし、今日店が終わった後、二人でホテルに泊まらない……違うよ、本当に二人だけ。ヤバイ話じゃない……理由は後で話すね……私は同伴で遅くなるけど、あとでね」
「大丈夫のようだね……もしもし、今日、ツインルームはありますか??……お願いします……10分ほどで着きます」

コンビニで弁当とカナの下着などを買って予約したホテルに向かう。
チェックインが終わり、エレベーターに向かう頃になるとカナの所作に羞恥が宿り俯き加減で男の腕にすがるように歩く。

限られた時間だからと直ぐにシャワーで汗を流す二人は互いの肌をまさぐり、唇を合わせて唾液を啜り、息を荒げて見つめ合う。
「ごめんなさい。はしたない言い方で誘っちゃった。怒っている??」
「あぁ、怒っているよ。ほんとに食事だけど好いと思っていたけど、可愛いカナちゃんに言わせちゃったのは男として落第だよ。オレが誘うべきだった……可愛いよ」

顔を近付けて舌先で唇をツンツンつつくと誘われるのを待っていたようにカナの舌が這い出て、宙でつつき合い絡め合って欲望の昂ぶりを確かめる。
右手が胸の膨らみを揉み、首を支える左手の中指と人差し指が耳を弄るとカナの全身から力が抜けて緊張を解き、与えられる快感に身を委ね始める。
「ウン、クゥッ~、気持ち善い。あなたにこんな事をしてもらうのは久しぶり。ウフフッ、夢の中で何度も抱いてもらったけど、肌の温もりが足りなかった」
背中を撫でて尻を鷲掴みしながらカナの両脚の間に右足を捻じ込んで股間を刺激すると早くも滲み出る花蜜を感じて昂奮を抑えきれなくなる。
密着させた身体の間にボディシャンプーを垂らして上下左右に身体を揺すり、背中や太腿は泡にまみれた手の平を躍らせる。
男の足元に跪いたカナはペニスにシャンプーを垂らし、愛おしそうに両手で擦りこれ以上はないほど勃起するとシャワーで泡を流してパクッと口に含んで前後する。

10か月ぶりの疼き 2/2

「ねぇ、ベッドに行きたい。身体の疼きが止まらないの……あなたが欲しい、おねがい」
男の身体をざっと拭ってバスローブを着せると、先に行って待っていてと霞がかかったような瞳を男に向ける。

ベッドで仰向けになった男はこんなことになった自制心のなさに苦笑いし、喉の渇きを覚えて冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを開栓する。
「フゥッ~、さっぱりした……私にも飲ませて、シャワーの後だから喉が渇いた」
一口ゴクリと飲んで喉の渇きを潤した男は二口目を口に含んでカナを抱き寄せ、唇を合わせて流し込む。
ゴクッ……白い喉を見せて飲み干すカナを左手で抱き寄せて右手はバスローブ越しに腰を擦り、胸を揉む。
「ウッ、クゥッ~、気持ちいい……久しぶりだから優しくしてね」

口移しに飲ませた後も唇は離れることはなく舌が戯れ二人の手は互いの肌をまさぐり、頬を擦る。
「優しいだけじゃ、イヤ。脱がして……」
ゴクッと喉を鳴らしてミネラルウォーターを飲み込んだカナは静かに目を閉じて自らの身体を任せる意思を示し、男の手は紐を解くことなく胸元をはだけて手の平で膨らみを包み込む。
「もう少し大きい方がいい??」
「そんなことを言った男がいるとすれば、そいつはカナの好さが分かっていない。カナにはバランスの取れた大きさだよ。それぞれの女性に相応しい大きさや形があると思うよ」
「やっぱり変わってない。約束を守るだけでなく優しいのも同じ……奥さんが羨ましい。あっ、ごめんなさい。つい……」
「可愛いよ……」
以前もベッドではカナちゃんではなくカナと呼ばれた記憶が蘇り、男の肌の記憶を呼び起こして胸に顔を埋めると、ギュッと抱きしめてくれる。

男はカナを仰向けに寝かせて中腰の姿勢で覆いかぶさるようにして瞳の奥の気持ちまで見透かそうとするかのように瞬きもせずに見つめる。
「いやっ、恥ずかしい」
目元を朱に染めて顔を逸らし、目を閉じるカナを見つめたまま、バスローブの紐を解いて肌を露出させる。
「きれいだよ。上気した肌が色っぽくてそそられる」
「ハァハァッ、いじわる……焦らさないで、おねがい。早く気持ち善くなりたい」
浮かせた身体をわずかに接して体重をかけないように覆い被さる男は右足をカナの両脚の間にこじ入れ、右手で左乳房を包み込み、右乳房の裾から先端に向かって舌先を這わせる。
ウッウッ、アウッ……頂上付近にたどり着いた舌は乳輪の周囲をなぞり、先端の突起をベロリと舐めてツンツン叩く。
「イヤァ~ン、焦らしてばかり……もっと、激しく……」
カナは股間を突き上げて男の太腿に押し付け、グリグリ揺すり立てて深い快感を得ようとする。

「カナは欲張りだな。女そのものだよ」
「そうだよ、私は欲深い女。あなたのオチンチンを欲しがるいやらしい女……ハァハァッ、オチンチンを舐めさせて、頬張りたいの」
羞恥をかなぐり捨てたカナは身体を起こしてバスローブを脱ぎ捨て、素っ裸にした男を押し倒すようにして素早く身体の向きを変え、シックスナインの体勢で宙を睨むオトコを口に含む。
ジュルジュル、ジュボジュボッ、ウグウグッ……ジュボッ、プファッ~、ハァハァッ……「おいしい、これが欲しかったの。あなたが会いたいって連絡してくれた時から、こうなることを望んでいたの……」
「オレもだよ……」
「嘘でもそう言ってくれると嬉しい」

ピチャピチャ、ニュルニュルッ…………アンッ、クゥッ~、気持ちいい……男の唇と舌がカナの股間で踊り、カナの口から秘めやかに押し殺した喘ぎ声が漏れる。
カナは股間に与えられる快感で身体と心を震わせ、目の前のオトコに舌を絡めて唾液まみれの竿を咥えて顔を上下する。
「気持ちいいよ、カナ。カナがオレのチンポをシャブシャブする度に目の前で尻がプリプリ動いて食べちゃいたくなるよ」
「アン、痛い。私のお尻は食用肉じゃない……クゥッ~、気持ちいい、これが好い」
尻を甘噛みしただけなのにカナの反応は大げさに過ぎ、そんなことも好ましく思う男は真上でパックリと綻びを見せるオンナノコに舌を伸ばしてベロリと舐める。

顔を跨ぐカナの腰に左手を添えて動きを封じ、クリトリスに舌を伸ばして円を描き、花蜜を滴らせる泉の周囲を指でなぞる。
与えられる快感で自然と足を閉じると顔を挟むことになり、男はそれを避けようとして泉の周囲で戯れていた指を花蜜の源泉に侵入させる。
「アンッ、そんなこと……本物が欲しい、指じゃなくオチンチンが欲しい。我慢できない」
まとっていた羞恥をかなぐり捨てたカナは身体の位置を変えて騎乗位の格好になり、摘まんだペニスをオンナノコに擦り付けて唇を噛み、アァッ~ンと艶めかしい声を漏らしながら腰を下ろしていく。
「カナの中は暖かくて気持ちいい。動かないでくれ、中がウネウネして我慢できなくなっちゃうよ」
「うそ、私は何もしてないよ。気持ちいいの、身体の芯がゾワゾワして震えを止めようとしてもダメなの…スゴイ」

ハァハァッ、ウッウッゥ~、自分でも気付かない膣奥の蠢動で新たな快感を得るカナは男の胸に手をついて背中を丸め、息を荒げて喘ぎ声を漏らしながら身体を震わせる。
自然と髪が男の首や胸をくすぐり、くすぐったさを堪えるために股間を突き上げられると、ヒィッ~と悲鳴にも似た喘ぎ声を漏らして胸に突っ伏してしまう。
「可愛いよ」の言葉と共に髪を撫でられると2年余りの付き合いで抱いてもらうのはやっと三度目だということを想い出して拗ねてみたくなる。
「ウソ、ほんとは可愛いなんて思ってないくせに……それとなく誘っても相手にしてくれかったもん、可愛いなんて思っていないでしょう??」
「困らせるなよ。オレは小心者だからカナちゃんと二人きりで過ごしたいと思っても、最期の橋を渡る勇気がなくて……ごめんね」
「クククッ、許してあげる条件に肩を思いっきり噛んでもいい??」
「えっ……少しでいいから加減してくれよ」
「うそ、歯型を残して奥さんを困らせるようなことはしません……その代わり、この次に来た時にまた会ってもらえますか??」
「あぁ、いつになるか分からないけど連絡するよ」
「ウフフッ、待っています。アンッ、そんなことをされたら、我慢できなくなっちゃう……」

騎乗位から横臥位に変化して濃厚なキスに言葉で尽くせない思いを込め、最期は正常位で同時に満足して絶頂を迎える。

時刻を気にしながらコンビニ弁当を食べる二人は、色気のない食事だねと苦笑いを浮かべながらも食欲に勝る性欲を満足させてくれる相手との時間に自然と満足の笑みが浮かぶ。


          << おしまい >>

営業―1

「ストップ……ダメだよ、擦っちゃうよ」
作業着姿の男は目の前で左折しようとする車に停まれと手で合図し、黒いパンツスーツ姿で車から降りた女は、
「狭い道の左折は苦手なの。もっと広い道がこの先にありますか??」
「ないこともないけど、好い女は直ぐに諦めちゃダメだよ」
「好い女って言った??セクハラだよ。褒めてもらったってことだから問題視しないけど」
「ゴメン……誘導するよ。ハンドルを切るのが早すぎるから私の合図に従って焦らないようにね」
「分かりました。お願いします」
屈託なく黒髪を掻き揚げた女は車に戻り、窓を開けてドキッとするほど魅力的な笑顔で男を見つめる。
車の前に移動した男は、
「ゆっくり、焦らず前に…いいよ、もう少し、ハンドルを切らずにもう少し……ストップ。いいよ、ハンドルを切って」
「いいのね……うわぁ~、擦らずに左折できた。ありがとうございます」
「この先も気をつけて……名残惜しいけど、バイバイ」

好い女だったけど、この格好じゃしょうがねぇなと独り言ちた男は軽トラを離れ、手の中の小銭でチャラチャラ音を立てながら自動販売機に向かう。
「よかった、まだいた。ハァハァッ……名残惜しいって聞こえたので戻ってきたの。私にコーヒーを奢ってくれる??」
作業着姿の男が振り返るとフィアット500で去ったはずの女が息を弾ませて左折に苦労した角に立っている。
「車はどうしたの??」
「この先の公園の脇に停めてきた。あそこなら邪魔にならないでしょう??」
「この自動販売機カフェの専用駐車場だから大丈夫だよ……コーヒーは幾つかあるけど、どれがいい??」
「ブラックコーヒーをお願いします」

女は開栓した缶コーヒーを手にして男が持つ缶紅茶に軽く当て、
「乾杯……いただきます……美味しい」
恥じらいを感じさせる上品な笑みを浮かべて男を見つめ、男は言葉を発することなく満面の笑みで応える。
「先ほどは、ありがとうございました」
「擦りそうだったから思わず声をかけちゃった。余計なことでなければいいんだけど」
「狭い道への左折が苦手だと言ったのは本当です。しかもコンクリート塀だし助かりました」
ゴクッ……お礼の言葉とそれに対する返礼を終わると新たな話題の切っ掛けもなくした二人は飲み物を口にし、顔を見合わせることもなく視線を泳がせる。

「失礼なことを聞いてもいいですか??」
「失礼なことなら聞くなよって言いたいけど、好い女に反論する勇気はないからいいよ」
「セクハラだって言ったでしょう、ウフフッ……その恰好、お仕事を聞いてもよろしいですか??」
「農業だよ。この先に畑があるんだけど作業を終えて帰るところ」
「農業ですか、ふ~ん……長いのですか??」
「いや、私は1年半ほど」
「そうですか。ご両親の後を継いだとか…ですか??」
「いや、長年の夢を実現するために農地を買って始めた」
「楽しそうですね……私はホステスをしています。飲みに行くことはありますか??」
「嫌いじゃないよ。1年半ほど前に実家に帰って農業を始めたけど、その前は関東にいて、よく飲みに行っていたよ」
「今はあまり行かないようですね……神戸の店で少し遠いけど今度来てくれませんか??缶コーヒーも含めて改めてお礼を言いたいので……」
「神戸か、遠いな……」
「ムリですか……」
「クククッ、行くよ。あなたのような人に電話やメールじゃなく目の前で生営業されて断る勇気を持ち合わせていないよ」
「ウフフッ、約束ですよ。名刺よりも電話番号かLINEがいいですよね??名刺だと無視されるかもしれないし、ウフフッ……」
屈託なく笑みを浮かべる女の表情は見ているだけで気持ちが浮き立ち、心が弾む男は快く応える。
「電話でいいかな??LINEはやっていないから」
スマホを取り出した男は女が告げる番号に掛け、着信を確かめた女は満面の笑みで、お名前を聞いてもいいですかと言う。
「柏木。一つ聞いてもいいかな??」
「どうぞ」
「お店の種類は??」
「クラブで少し高めの店です……いいですか??」
「せっかくのお誘いだから精一杯おしゃれしていくよ。店に合わせないと楽しめないだろうからね」
「ウフフッ、作業着がお似合いですけど、どんな格好でお見えになるのか楽しみにしています。来てくれないと電話しますよ……」
「必ず行くよ、約束する。好い女との約束を反故にするほど自信家じゃないしな」
「またぁ……好い女って受け取り方次第でセクハラですよ。クククッ、褒めてもらっているようだから許します」
「あなたの笑顔はいいなぁ。その笑顔を見たいから会いに行くよ。名前を聞いてもいいかなぁ」
「あおいです。梅雨の頃に咲く花の葵です。店は三宮の東門街にあります」
「葵さん、ア行でまとめたね。売れっ子の人気者なんだろうな」
「源氏名のジンクスをご存じとは相当遊んでいますね」
「年を食っているからだよ。遊び慣れているわけじゃない……おっ、こんな時刻になった。早く帰らないと怒られちゃう、今日はこれで失礼するよ」
「奥様を愛しているのですね」
「妻は一番大切な人だよ。両親や息子よりもね」
「安くはないお店なので若いお客様よりもある程度お年を召した方が多いのですが、奥様を愛していると仰る人のほうが魅力的なことが多いです。柏木様が奥様を一番大切な人と仰ったので信用できます」
「ありがとう。店で会う日が楽しみだ。近いうちに行くけど電話で店の名前や場所を聞くことにするよ」
「お待ちしています。今日はありがとうございました。今までで一番おいしい缶コーヒーでした」


営業―2

「柏木様、いらっしゃいませ。信じていたけど、ウフフッ、本当に来ていただいた……ウフフッ、自然と笑っちゃう」
「お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいよ。あの日もそう思ったけど、葵さんの笑顔はいいなぁ」
「お世辞だなんて思っていないでしょう??柏木様は今日もマイペース、先日の作業着姿で軽トラもお似合いでしたけど、今日のスーツ姿も格好いいです。奥様には申し訳ありませんが惚れちゃいます……迷惑ですか??」
「遊び慣れていないから洒落たことも言えないし本気にするよ」
「心外だなぁ、私は本気です。心にもない事は言いません……それに今の柏木様の表情、困惑していないし笑顔でさらっと私の言葉を聞いてくれた。遊び慣れていそうで手強い男性です」
ネイビースーツにグレーのシャツ、ブラウンのネクタイ姿の柏木を見つめる葵の瞳が妖しく燃える。

店は東門街にあると聞いていたが店の名前が分からなかったので電話で確かめた。
その時の葵は本当に待ちわびた電話の着信だと感じさせてくれる反応で、店の名前を聞く柏木も声が上擦るほど感激してしまった。
「ウフフッ、先ほどの電話での柏木様の声、私の勘違いだと恥ずかしいのですが、何か弾んでいるように聞こえたのですが間違いでしょうか??」
「正直に言うと、葵さんが電話に出てくれたので感激した。揶揄われている可能性もあると思っていたからね」
「私も正直に言います。あの日、柏木様に一目惚れしました……それで、はしたなくお店に来てくださいとお願いしました」
「葵さんの言葉を聞いていると申し訳ないけど息苦しくなっちゃうよ……グレンフィディックを入れてもらおうか」
「ボトルを入れて頂けるのは、またお会いできると思ってもいいのでしょうか??」
「あれっ、迷惑かなぁ??」
「いじわる。大歓迎です……それよりも、食事をしたいです……ダメですか??奥様を愛していらっしゃるので、迷惑だと言われれば諦めます」
「すごいな、圧倒されるよ。グイグイ正面から攻められている気分だよ」
「普段の私はこんなじゃありません。今日の私は…いえ、先日初めて柏木様にお会いした時も異常な私でした」
「分かった。次の日曜日はどう??」
「次の日曜日……明後日ですね。約束ですよ。指切りをしてもらえますか???」
右手の小指を絡ませた二人は、周囲を気にして小声で、指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます、指切ったと声を合わせて満面の笑みを浮かべる。

「朱莉と申します。お二人の会話が弾んでいるようですからお邪魔なら戻りますが……」
「朱莉ちゃん、遠慮しなくてもいいのよ。柏木様、いいでしょう??」
「どうぞ、葵さんと二人きりでは息がつまりそうだったので歓迎するよ」
「えっ、ひどい。まるで私が苛めているような言われかた……拗ねちゃおうかな」
「こんなに楽しそうな葵さんを見るのは久しぶりです」
「大当たり、分かっちゃった??朱莉ちゃんの言う通りだよ。でも勘違いしないでね。お客様に惚れたんじゃなく、惚れた人がお客様になってくれたの……でも、これは内緒だよ」
「分かりました。葵さんの秘密は守ります」

その後は朱莉を交えて会話が弾み、葵は朱莉を相手に明後日のデートの約束まで口にする。
「ごちそうさまです。葵さん、口止め料は高くつきますよ。覚悟してください」
「好いわよ。この間、食べたいねって言った、ホテルの神戸ビーフディナーコースをご馳走する。それでいいでしょう??」
「神戸ビーフディナーがさざんかでのモノならその口止め料は私が払うよ」
「えっ、柏木様はさざんかをご存じなのですか??」
朱莉の問いに柏木は丁寧に答える。
「そのホテル内に妻の次に大切なワンコを預けることのできるペットホテルがあるからね。家族が神戸で食事する時や泊まるときは重宝しているよ」
「私もお泊りしたいな……冗談です。そんな困ったような顔をしないでよ。はしたなくお願いしましたが、そこまで厚かましくありません……今のところはね、ウフフッ」

セットに追加一回で、今日は帰ると告げた柏木は、サインするように手を動かしチェックしてと伝える。
黒服の持ってきた請求書を見た柏木は表情一つ変えることなくミラショーンの財布を取り出して支払いを済ませる。
「明後日、電話をくださいますか??ディナーは朱莉ちゃんも交えてですから、可能なら昼食をご一緒したいです」
「いいよ。土曜は仕事だろう??都合のいい時刻を聞いておこうか」
「十時以降ならいつでもいいです。柏木様に会う日を想像して何か月も前から用意しておいた下着を穿いて連絡をお待ちしています……それよりも待ち合わせ場所と時刻を今、決めておきますか??」
積極的すぎる葵の言葉に先行きを案じる朱莉は一瞬、表情を曇らせる。

「おはよう。遅くなってゴメン」
「おはようございます。柏木様は遅くありません、私が早すぎました」
ガーメントバッグを持ち、膝丈のトレンチスカートに黒Tシャツ、デニムジャケットを羽織った葵は清潔な色気で柏木の琴線を刺激する。
「乗って……ドライブを兼ねて昼食に行こう」
柏木は車から降りることなくウィンドウを下げて声をかけ、バッグを後部座席に置いた葵は優雅な動きで乗り込む。
「はい、今日は全てお任せします。服を脱げと言われれば脱ぐ用意もしています……ガツガツした女は嫌いですか??」
「オレは葵ちゃんほど若くないからなぁ……」
「ウフフッ、私がオレになった、私も柏木さんと二人きりの時は葵じゃなく本名のシノに戻りたい。柊に乃木坂の乃と書きます」
「柊乃ちゃんか、冬の寒さに負けずに可憐な白い花を咲かせる柊。葉っぱはとげとげに守られていて凛として自立する女性に育ってほしいというご両親の願いが込められているのかな」
「ウフフッ、12月生まれの私は両親から名前の由来をそのように聞いています。柊乃ちゃんじゃなく、シノと呼ばれたい。ダメですか??」
「分かった。シノ、出発するよ。行先は任せてもらうからね」
膝丈のスカートから覗く白い太腿を見た柏木は視線を下げたままシノに話しかける。
「クククッ、ムッチリ太腿を撫でたいと思った??」
「敵わねぇなぁ、言う通りだよ、オレはシノに惹かれつつある」
「ウフフッ、虜になっちゃえばいいのに。そうだ、柏木さんじゃなく呼び方を変えたい」
「大抵の友人はオレのことをタケって言うけど、それでいいよ」
「フフフッ、私はシノで、あなたはタケ。また少し距離が縮まったような気がする……大人の男と女、この後はタケ次第」

京橋インターで阪神高速に乗り西に向かう。
「お店に来てくれた時はミラショーンのスーツとシャツ、財布とベルトもミラショーンだったから車はアウディかボルボかなって想像していたけど予想外でした」
「クククッ、初めて会った時はキャリーでスズキ。これも国産でトヨタ、残念でした」
「何をしても、何を身に着けてもタケは格好いいです。私はタケを見ているだけで幸せな気持ちになります」
「知り合ってから合計で3時間にもなっていないんじゃないか??そんなにオレを信用してもいいのか??」
「はい、一目惚れですから……ウフフッ」
シノはタケの横顔を見て顔を綻ばせ、シノの視線を感じるタケは正面を向いたまま左手を伸ばすと、シノはその手を取り自らの頬を押し付け、淫蕩な思いを隠すことなく人差し指を口に含んで舌を絡ませ顔を前後する。
「まだ早いよ。我慢できなくなっちゃうと事故っちゃうよ」
「まだ早いと言ったよ。ウフフッ、興奮で濡れちゃう……」

垂水ジャンクションで神戸淡路鳴門道に進路を変えると、
「淡路島??まさか四国まで行かないよね??」と声を弾ませる。

営業―3

車が明石海峡大橋を渡り始めるとシノの表情が一層華やぎ、横顔を盗み見るタケは青い空や海の眩さに負けずに輝くさまに頬が緩む。
「うん??どうしたの??私の顔に何か付いている??」
「えっ、ゴメン。この橋を渡るときは海や空の景色、橋の向こうに広がる淡路島に心が躍るんだけど今日はシノの横顔に惹かれちゃったよ」
「ウフフッ、タケと手をつないで歩く淡路島の砂浜。そんな二人をもう一人の私が笑顔で見つめている情景を想像した」
「可愛いなぁ……砂浜に押し倒して唇を奪いたい……」
「イヤッ、そんなに見つめないで……前を見て運転してよ。アンッ、濡れちゃう」
「クククッ、本気で押し倒さないとシノは狂っちゃいそうだな」
「うん、押し倒して…私を奪ってほしい。タケの女になりたい……一つ、質問をしても怒らない??」
「内容によるよ。どんなこと??」
「怒られるかもしれないなら止めとく。質問をしたいというのは忘れて……」
「分かった。昼はバーベキューを予約したけどいいかな??」
「淡路島だから海鮮バーベキュー、それとも淡路牛かなぁ。楽しみ、昼は魚介で夜は肉、ウフフッ、作業着もスーツ姿もチノパンも車も全て、格好いいし似合っている」
「シノの黒いパンツスーツ、店でのドレス。頭ン中の画集の最初に出てくるよ」
「嫌な男、画集には奥様以外に何人の女性が描かれているの??」
「ほとんどの女性を妻が知っているし、たくさんの女性を知っているわけじゃない」
「……奥様公認ってわけなの??」
「公認ってわけじゃないけど、妻に言わせると男は二種類。立小便は悪い事だからと絶対にしない男と、人が見ていないとか大きな迷惑をかけなければしてもいいと考える男。オレは後者だと思われているらしい」
「浮気を立小便に例える奥様なの??ご自分に自信を持っている人なんだ。知り合った頃は何をしていたの??……聞きたかったことなの。奥様に申し訳ないことをしているって自覚があるから……」
「シノと同じような仕事をしていてオレは大学生。子供が出来たらしいと言われて結婚した」
「学生なのにオミズの女性と付き合っていたんだ。クククッ、まじめな学生だったんだ」
「妻とはお互いに便利な男と女、きちんと付き合っていた仲じゃなかったよ……そんなこんなで、結婚する時に出された条件が、水商売以外の女性とは付き合わない、妻よりも年下の女性とは付き合わないという二つ。そうだ、オレの両親や妹の家族と良好な関係で、関係が上手くいかなくなった時はオレを追い出して妻を家族として認めると言っている。オレにとっては最高の言葉で妻を評価してもらっているよ」
「じゃぁ、私の年齢は少々問題がありそうだけど、行き過ぎたことをしなければ関係を続けても差し障りはないんだね……今日は絶対に押し倒してもらっちゃうよ」

高速道路から見える景色から海が消え、のどかな田園風景が広がったと思うと再び海が見えてを繰り返すうちに高速を降り、20分くらいで着くと思うよとタケは告げる。
淡路島の東海岸を南下すると開け放った窓から忍び込む磯の香りが二人をいつもと違う世界に誘ってくれる。

「ここなの??三宮を出発してから一時間も経っていないのに全然違う景色と海の香りが迎えてくれて、別世界に来たような気がする」
駐車場に車を入れるとシノは邪気のない笑顔で周囲を見回し、両手を宙に伸ばして大きな息と共に清々しい空気で身体を満たす。
タケが手を伸ばすと迷うことなく手をつなぎ、眩しそうに横顔を見つめて歩を進める。

「予約しておいた柏木です」
「いらっしゃいませ。お待ちしていました……ご案内いたします」
テラス席に案内されると、タケは直ぐに用意してくださいと告げ、今日はこのまま帰らなければいけないのでアルコールはいらないと言う。

アワビやイセエビ、サザエなど海鮮スペシャルセットと牛カルビや豚ロースなどの焼き肉セットが用意される。
バイキングコーナーの野菜サラダを山のように盛ったシノは、
「ディナーは朱莉ちゃんと一緒でしょう。ランチはこんなだったよと教えてあげよう、悔しがるだろうな、ウフフッ」
スマホを取り出してバーベキューセットや目の前に広がる青い海を撮影し、タケに寄り添うように座って肩に頬を寄せ、自撮りを済ませると満面の笑みで向かい合う席に戻る。

一目惚れしたというタケを前にしてもシノは健啖ぶりを隠そうとせずに皿を空けていく。
「大食いの女は嫌い??」
「シノは何をしても好ましく見えるし、予約した食事に満足してくれたようで嬉しいよ」
デザートを食べ終わり腹がくちくなったシノの表情は雲一つない空のように晴れやかで、どこまでも続く青い海のように澄みきっている。
コーヒーとミルクの層がきれいに出来上がったアイスラテのグラスを手にして、満足そうに笑みを浮かべるシノがバーベキューを食べ始めるまで淫蕩な思いを隠そうともせずに困らせるような言葉を口にしていたことを思い出したタケは意地悪な笑みを浮かべる。
「ねぇ、どうしたの??変なことを考えているでしょう??」
「そうだよ、オレは意地悪な男だよ、シノ。下着を脱いでオレに渡しなさい」
「うそ、今、此処で??」
「そうだ、今すぐにだ。出来るだろう??」
「ハァハァッ、タケがこんなに意地悪な男だと思わなかった」
「イヤなら脱がなくてもいいよ。可愛い女に嫌がることはさせたくないからね」
「いじわる、タケの命令に逆らえないって知っているくせに……誰も見ていないよね、脱いじゃうよ」

手にしたままのアイスラテをゴクリと飲んだシノは周囲の人たちが食事に夢中になっているのを確かめ、一瞬目を閉じて息を吐き、意を決したように脱ぐよと呟いて両手をスカートの中に潜らせる。

「脱いだよ。どうすればいいの??」
「預かっておくからよこしなさい」
「いやな男……こんな男に一目惚れした私はバカな女」
言葉とは裏腹に頬は緩み、握った手の中で丸めたショーツをタケの手の平に押し付ける。
「オレはディナーの後、帰らなきゃいけないからシノと朱莉ちゃんで泊っていくか??」
「どういうこと??」
「このまま何もしないでシノとバイバイする気がないから部屋を取って一発やるのはどうかと思って…朱莉ちゃんの都合が悪いとか泊りは嫌だって言えばデイユースでもいいんだけど、どうだろう??」
「クククッ、生々しい言葉。海鮮バーベキューや淡路牛の後はホテルで私を味わって、締めは神戸牛なの??贅沢な男…ウフフッ」
「朱莉ちゃんに申し訳ないからベッドは使わないようにするけどね」
「うん、変態チックに抱かれてもいい。タケの匂いが残る部屋で朱莉ちゃんと宿泊する」
「朱莉ちゃんの都合を確かめなくてもいいの??」
「そうだね、連絡してみる……もしもし、朱莉……そう、ドライブを兼ねて淡路島に来て昼食を終わった処……ウフフッ、で、相談なんだけどディナーを終えた後、私とホテルに泊まらない??……そうなの、タケが我慢できないらしいの……うん、タケって柏木さんのことだよ。デイユースじゃなくツインルームを予約するからやらせろって言うの……ウフフッ、匂いや気配が残っていればゴメンね。それじゃあ、18時にね」
「朱莉ちゃんは承諾してくれたようだね。部屋をとるよ……今晩、ツインルームを予約できますか…………取れたよ。シノの希望通り砂浜で遊んでいこうか」
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さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

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