獣欲 -2
夫の浮気に気付いて以降、夕食は他人行儀にならないようにと思えば思うほど意識過剰になり会話がぎこちなくなったが、健志と付き合うようになって精神的な余裕が生まれて緊張することなく話すことができる。
「優子は料理上手だから僕は幸せだよ」
「褒めてくれてありがとう。最近は忙しくて行けないけどスキンダイビングや好きな歌手のライブ以外は静かに家で過ごすのが好きだから……」
「忙しいのに美味しい食事を作って待っていてくれるから帰ってくるのが楽しみだよ」
「そういえば、美容院で見た雑誌に料理上手な奥さんは浮気をされにくいって書いてあったけど、男の人は料理上手な奥さんを裏切らず夕食が楽しみなの??」
「えっ、うん、そうだよ。心を込めた夕食を用意してお帰りなさいって迎えてくれる、これ以上の幸せはないよ。優子だって仕事をしているのに本当にありがとう」
軽く頭を下げる夫に浮気を気付かないとでも思っているのかと思うけど、つゆほども表情を変えずに追い打ちをかける。
「衣食足りて礼節を知るっていうけど、そうだよね、お腹が空いた状態で礼儀を弁えろって無理だよね。じゃぁ、これからもあなたらしくいてもらうために精一杯美味しい食事を用意するね」
「えっ、うん、おねがいします」
ついに夫はテーブルに手をついて頭を下げた。
浮気をしてもあなたのことは嫌いになれない。でも。あなたが浮気するなら私もする。私も浮気をすれば立場は対等、あなたのことを責める資格は私にはない。
あなたの浮気を認めてあげる、私ももう少し経験したいことがあるから……
食事を終えて自室に戻ろうとした夫に実家から連絡があり、急に帰省することになった。
「月曜は外せない会議があるから日曜の夜に帰る。2週続けて週末を留守にするけど、ごめんね」
「しょうがないよ、先週は仕事、今度は実家。一緒に行かなくてもいいの??」
「僕一人でいい、大好きなお土産を買ってくるからね」
「うん、楽しみにしてる……これからだと車で行くの??」
「そうだね、車にするよ」
「気をつけてね」
夫を見送った金曜日の夜、バスソルトを使ってゆったりと湯に浸かる彩の手は自然とプラチナチェーンに伸びる。
外したくなれば、いつでも外していいよと鍵を渡してくれたが自ら健志との縁を切るようでそんなことはできない。
割れ目にチェーンを食い込ませてクイクイ引っ張ると痛痒さが彩の性感を呼び起こす。
泡まみれの乳房を掬い上げるようにして揉みしだき先端を摘まむと、ウッ、イヤンッと気付かぬうちに艶めかしい声を漏らし、自分の声に驚いた彩は思わず周囲を見回す。
「浮気旦那が出かけたから誰もいるはずないのに、ウフフッ……シャワーを乳首に当てちゃおうかな……アンッ、気持ちいい」
胸の膨らみの先端は色素沈着が薄く上品な乳輪の中心でツンと立ち上がる乳首は清楚な佇まいで佐藤錦のようだと思う。
過剰なまでに刺激的なAVを見た時、女優の乳首がアメリカンチェリーのような存在感で男優が摘まんだり弾いたりするときの反応がエロっぽく、男性は彩のように可憐な乳首よりも大ぶりで黒っぽいエロオッパイを好むのかなと思ったことがある。
でも、彩はこのオッパイが好き。
姿見に映したハダカンボの身体を見ると白い肌は染み一つなく大理石のように艶やか、油断するとプックリする身体はヨガなどで体型を維持している。
肩は競泳を頑張ったせいで淑やかで上品な奥様と言われるには発達しているけれど、胸は大きすぎることなく、かといって小さくもなく程よい大きさでツンと上を向き張りがある。
ウェストの括れから腰を経て尻や太腿に至るラインはムッチリとして女の私が自分の身体と思っても色っぽく感じるし、成熟した女らしいあでやかさがあると思う。
リビングに向かう彩は夫のいない安心感で下着1枚身に着けることなく素っ裸のまま胸を張って歩く。
宙を睨んで息を吐き、意を決した彩は冷蔵庫から取り出した缶ビールを一気に飲み干し、スマホを手に取り健志を呼び出す。
「もしもし……邪魔だった??」
「彩??大丈夫だよ」
「少しの間、話してもいい??」
「どうかな、少しなら断りたいな。長い時間なら大歓迎だよ」
「クククッ、彩に惚れているでしょう??彩はどんな格好か分かる??当てたらご褒美を上げる」
「週末の今の時刻。家事を終えて奥様から女に戻った彩はスッポンポン。何も身に着けずにオナニーを始める前……正解だろう??」
「オナニーをするつもりはないけどスッポンポンは正解。ご褒美を上げる約束だけどしてほしいことはオナニー??」
「迷うなぁ……オナニーか、それともオッパイ、オマンコ飾りを受け取りに行ってもらうか……エロ下着を受け取りに行かせるのは申し訳ないからオナニーでいいか」
「彩なら平気だよ。明日でもいいなら取りに行く。それに急いで作ってくれたのに、いつまでも受け取りにいかないって失礼でしょう」
「素っ裸になって身に着け、サイズ調整のためにオッパイや股間をまさぐられるよ。いいのか??」
「多少は我慢しなきゃね。彩の浮気防止のために心を縛るモノなんでしょう。二人っきりで少しくらい触られても健志のために堪えるよ」
「そうか、じゃぁ、連絡しとくよ。夜にでも連絡してくれたら嬉しい」
いつの頃からか、心の奥に棲みついて知らず知らずのうちに育った卑猥な思いを試したいという妖しい気持ちを確かめる道を歩き始める決意をする。
獣欲 -1
洗濯や掃除を手早く済ませて夕食の準備も終えた優子は仕事の資料をリビングに持ち込み、彩から優子に戻った丁度そのタイミングで夫が帰宅する。
「ただいま……これはお土産」
「おかえりなさい、疲れたでしょう。お風呂の用意もできているけど、どうする??」
お土産を受け取った彩は自分でも驚くほど素直に労いの声をかけ、夫はテーブルに顔を近づけて食欲をそそる匂いに表情を綻ばせ、食事を先にすると伝える。
ぎこちなさは残るものの以前のよそよそしさは少なくなり、連休中の話題を避けて点けっぱなしのテレビを話題にして楽しく食事を済ませる。
夫が出張の話題を避けるのは同行したはずの不倫相手とのことがあるからだろうが、彩がその間どう過ごしたのかと聞かれることがないので安心できる。
食後の後片付けも手伝ってくれた夫は、
「先に風呂に入らせてもらう。疲れたからそのまま寝るよ、おやすみ」
「おやすみなさい」
昔のように身体を寄せることも愛を語ることも無かったが久しぶりに屈託のない夫の笑顔を見た気がする。
夫の笑顔の裏に不倫という事実があり、優子がそれに気づいているかどうか不安に苛まれていたのが笑顔と共に食事できたので安心できたのだろう。
優子の笑顔は彩に変身して妖しい思いを現実のものとし、更にもう一歩進もうとしていることを隠すためのもの。
浮気している夫を嫌いになれない。彩に変身して浮気しても夫を忘れることができない。
夫を愛し、夫に愛された幸せな日々を忘れることができない。忘れるとその時の自分を否定するような気がする。
明日からの仕事の確認と準備を終えた優子は入浴の準備をする。
タオルに続き下着を手に取ると彩の心を縛るプラチナチェーンを思い出して手が伸びる。
温かい湯に浸かり目を閉じると健志が思い出される。
健志の顔を打ち消そうとして目をこするとアキラの顔が浮かび、夫を思い描こうとしても現れてくれない。
ハッとして目を開けると目の前に夫が立っている。
「どうした……の……ウフフッ、気のせいか。どうかしている」
彩に変身して浮気どころか見ず知らずの男に抱かれようとする欲望を抑えろと罪深さを注意されているのかと思って身震いする。
何げなく全身に手を這わせると指先がプラチナチェーンに触れて躊躇する気持ちは霧散し、全身の血が滾るような高揚感で欲情が沸々と育つのを感じる。
「栞、おはよう」
「おはよう。優子は三連休をどうしていたの??……私は大変、旦那様の嫉妬がメラメラ、沸々、縛られたり舐められたりオモチャを三つの穴にぶち込まれたりで身体が持たない。連休はもういらない、フフフッ」
「三つの穴って……前と後ろと……」
「後ろ手に縛られてオッパイが歪になるほど縄を掛けられたの。シックスナインの格好で優子の言う前と後ろをオモチャで可愛がられて口マンコはこれでも咥えてろってチンポを舐めさせられちゃった。アソコはグチャグチャッ、ドロドロで口は涎がダラダラ、最後は溢れんばかりの男汁をお口に吐き出されちゃった。気持ちよかったなぁ」
「そう、そうなの、よかったね、栞」
「ごめん、優子は寂しい三連休……ごめん、一人で楽しい……ごめん、ごめんなさい」
「クククッ、いいよ、栞、気を遣わなくても私なりに幸せな三連休だったから」
「えっ、指とオモチャが友達で満足できる身体になっちゃったの??チンポが必要な時はいつでも紹介するから言ってね。遠慮なんかしなくていいよ」
いつもと変わらない栞のあけすけな話に毒気を抜かれ、親友を相手の隠し事はなくそうと思っていたが話すきっかけをなくしてしまう。
栞が言うには時間の許すかぎりご主人の責めは続き、帰るなり素っ裸にされて命じられれば寝室だけではなくバスルームや食事中にもご奉仕させられるという。そう話す栞の頬は紅潮して、嫌がるどころかオチンポをしゃぶりながら股間を濡らしてしまうともいう。
転勤が理由で清算した課長との不倫は、ご主人の責めが待ち遠しくて家に帰るのでこの先、会うつもりはないと伝えたという。
栞の抜け目のなさと要領の良さをご主人は信じているらしく、
「この次はAVに出演させようか、それとも僕の前で他人棒に犯させるか、あるいはレズッ気のある女性に一晩預けようか」などとネチネチ言葉責めも交えるらしい。
栞の様子から当分の間、お泊りに来ることはなさそうで心を縛られているプラチナチェーンを見られることはなさそうだと安心と隠し事を続ける申し訳なさが綯い交ぜになる。
新任課長は以前、仕事を一緒にしたこともある先輩で優子がプロジェクトリーダーとなっている仕事にも理解があり支障をきたすことなく進んでいる。
仕事も栞とも関係もこれまで通り、変化のないことが順調と感じられる。
夫は不倫している引け目と優子が浮気を感づいていないかもしれないという安心感で、接するぎこちなさが薄くなり自然体で振舞ってくれている気がする。
優子は彩に変身して健志との浮気を楽しみ、以前から身体の奥に棲みついていた妖しい欲望を一つまた一つと現実のものにし、それがきっかけとなって夫に対する不満やイライラすることがなくなり、それが二人の関係にあったぎくしゃくした感情を薄めているように思う。
仕事も夫との関係も不安に思うことがなく、栞がお泊りに来ることは当分なさそうで下腹部を飾るアクセサリーの秘密を話すこともなさそうだと安堵する。
安心感が独り寝の夜の卑猥な思いを育て、指が自然と股間に伸びてオナニーに耽る。
唇を噛んで漏らしそうになる喘ぎ声を堪え、目を閉じて妄想の世界に遊ぶと浮かんだ健志の顔が銀細工職人の顔に変わり、肌をまさぐる繊細な指の動きに足を突っ張り、気付くと指がオマンコに没してグチャグチャ、ヌチャヌチャと卑猥な音を奏でる。
暗い天井を見つめ、健志に会いたいと呟いて太腿で挟んだ枕に股間を押し付ける。
連休明けの火曜から金曜まで仕事でも栞や夫との関係にも何の憂いも残さず、あっという間に過ぎて終業時刻を迎える。
「鍬田さん、打ち合わせを兼ねて1時間ほど時間をいただけませんか??勿論、深沢さんも一緒に」
「私は構わないけど栞…深沢さんはどう??」
「オマケの私が色々言うのは申し訳ないけど、主人と約束があるので1時間なら大丈夫です」
「深沢さんは新規事業の渉外関係を担当しているんだろう??事業全般の現状と経過を知っておきたい。もちろん口出しすることはないから安心していいよ」
仕事が残っているので申し訳ないけど社外ではなく会議室でいいだろうということで移動する。
「改めて、お久しぶりです。当時は先輩として色々教えていただき、今度は直属上司としてご指導いただきます。よろしくお願いいたします」
「私こそ宜しくお願いします。鍬田さんを頼りにしています……会社は事情を知らないからしょうがないけど、わだかまりナシで頼むよ」
「あの~、以前お二人が一緒に仕事をしたのは知っていますが、それ以外にも事情があるようなので私は失礼します」
「あっ、ゴメン。前任課長から二人は学生時代からの親友だと聞いています。深沢さんにだけは本当のことを話しておきます」
「はい……でも、私のことは気になさらないでください」
「いや、過去の事情を聴いてもらった方がすっきりするよ……ご主人と結婚するというのを知らなくて鍬田さんにプロポーズしたんです。思い出すと今でも冷や汗が出ます……今は私も結婚して妻を愛しているので懐かしい思い出です。そういうことです」
「ごめんなさい……」
「深沢さんが謝ることはないよ。この話はこれでお終いということにしてください」
その後は新規事業を中心に課長の部下としての仕事などを確認し、予定より早く40分ほどで話は終わり、優子と栞は会社をあとにする。
「優子と課長にそんな過去があったなんて知らなかった」
「栞に話すのは課長に失礼かなと思って黙っていた。当時は課長じゃなかったけどね、ごめんね」
「当然だよ、私にも秘密にする優子が正しい……焼けぼっくいに火がつく、その時は教えてね、社内不倫の先輩としてイロエロ教えてあげる」
「ばかっ、そんなことにはならないよ……それじゃぁね、ご主人に苛めてもらってヒィヒィ善がり啼きしなさい」
「妬いてんの、バイバイ。また月曜にね」
「月曜まで、ごきげんよう。クククッ」
焼けぼっくいか、何人も同時に付き合えるほど器用な女じゃないよ。
車窓を流れる景色を見ながら思い出すのは課長でもなく夫でもなく健志のこと。
自然と手は腰を擦りプラチナチェーンを意識する。
海の見えるホテル -24
学生時代からの親友である栞は夫に浮気がばれ、セックスの様子をボイスレコーダーで録音することを許してもらう条件とされた。
浮気を音声で確認した夫は愛妻がSMプレイで責められて漏らす啼き声で寝取られ願望を満足させ、これまでにないほど激しく可愛がってくれたばかりではなく、もっと激しく責められて来いと命じた。
時を同じくして課長の転勤で不倫関係を清算することになり、最後は複数の男たちを相手にする乱交プレイをしたいと言われた栞は夫の希望に叶うと考えて承諾した。
優子が想像する課長とは思えないほどの変態プレイで栞を責め、それを聞かされた優子は彩に変身して自分も経験したみたいと妄想を温めていた。
夫が出張にかこつけて不倫相手を伴って留守にするので優子は彩に変身して健志と3泊4日の旅に出た。
そして今日、岩場に隠れてセックスするアキラとサチに会い、成り行きで相手を替えてセックスに及んだ。
その後、部屋に戻ってもモヤモヤする気持ちを持て余した彩はアナルオナニーを健志に見せつけて欲情を発散し、夜の海で素っ裸になって戯れると心の奥に隠したままにしていた見ず知らずの他人と、それも複数の男たちに犯されてみたいという妄想を現実のモノにしたいと口にした。
「……分かった」と、答えるのみで続く言葉を発することのない健志に不安を抱いた彩は横目で様子を探る。
健志はそんな彩に気付かない様子で無言のうちにホテルを目指し、小柄な彩は遅れまいとして小走りになる。
「待ってよ、ゆっくり歩いてほしい……気に入らないならダメって言えばいいじゃない……」
「えっ、あぁ、ゴメン。怒っているわけじゃないよ。どうすれば彩が喜んでくれるか考えていた、ゴメン」
「そうなんだ、心配して損しちゃった。ねぇ、手をつないで……」
差し出した健志の手の平はジットリ汗ばみ、怒っていないという言葉に嘘がないかと
表情を覗き込む。
「なんだよ、信用できないのか??」
「信用するけど、それもね……彩のことを大切だと思うなら他人にオモチャにされてもいいと思うのは……ちょっとね」
「面倒な人だなぁ」
「あぁ~、面倒な人って他人事みたい。面倒な女って言うところじゃない??……クククッ、こんな言い方をするのが面倒な女だよね。ねぇ、抱っこして、疲れちゃった」
軽々とお姫様抱っこをする健志の首に手を回して軽く唇を合わせた彩は、
「スカートを穿いていれば捲ってツルマンを見せてあげられたのに、ザンネン」
「そうだな、塩味のするマンコを舐めることができたのに、クククッ」
部屋に戻った二人は卑猥な思いと共に海の名残をシャワーで洗い流し、彩はビール、健志はウィスキーの水割りを用意してベランダに設えられた椅子に座り夜の海を眺める。
海は前日と同じように波が慎ましやかに月明りを反射し、規則正しく照らす灯台の灯りが夜の海を見張る。
「健志に会ってからの彩は自分でも怖いと思うほど欲望を抑えきれない……健志の部屋で見る夜景だけど華やかであればあるほど影が濃くなる。健志は言ったよね、夜の灯りが作る影は人間の欲望の象徴だって」
「人の好みや興味は千差万別。性的欲望も人それぞれ……オレは彩の立ち居振る舞いや雰囲気が好き。何をしても清潔感がある。食事をする、歩く、後姿、もちろんセックスもすべてが好きだよ」
「抽象的な誉め言葉じゃ信用できない。具体的に聞かせて……」
「二日目の朝、ヨガを終えた彩がスッポンポンで胡坐座りで太陽に向かい、お日さまのエネルギーを身体全体に受けていた姿。オッパイもツルマンもムッチリの身体が丸見えなのにスケベ心は生まれなかった、芸術を前にしてエロイ気持ちは生まれない。それほど彩はきれいだったよ」
「本当のことでも改めて褒められると嬉しい、フフフッ、冗談よ彩は己惚れ屋さんじゃないの」
「可愛いな。彩は何をしても、何を言っても、どんな時でも可愛い」
「本気にするよ……健志といると内気で人見知りする本当の私は姿を消して積極的な彩になれる……あの日、カヲルさんのいるSMクラブに行って良かった。行かなければ二人の歩く道が交差することがなかっただろうし他人のままだったよね、きっと」
「どっちも本当の彩だよ、きっと。悪い意味の裏表じゃなく、その人の持つ多様性が人間の深みになると思う」
ホテルでの最後の夜はツインルームらしく二つのベッドで寝ることにして離れて横になる。
健志は疲れもあってすぐに夢の国の住人になり、彩は健志以外の男性とエッチしたいと告げたことに後悔はないけれど不安と期待で身体の火照りが収まらず何度も寝返りを打つ。
「ねぇ、寝ちゃったの??……つまんない」
静かに独り言ちた彩はベッドを降りて健志を起こすことなく身体を寄せていく。
鼻頭をつつき、瞼に指先を這わせても目を開ける気配はなく、あきらめた彩は額にチュッと唇を合わせて健志の腕を抱き、おやすみなさいと囁いて目を閉じる。
祝日の月曜日、チェックアウトを早くした二人は往路の千葉東金道路ではなく、東関東自動車道路経由で帰路に就く。
「往路は海好きの彩に外房だと勘違いさせようとしたでしょう……楽しかった、また機会があれば今度は山あいの温泉地に行きたいな……覚えておいてね、約束だよ」
「分かった、覚えとくよ」
途中で昼食を済ませ、3時間余りで健志の部屋に戻り時刻を確かめた二人は離れがたい気持ちが沸き上がり交わす言葉が見つからずに静寂の中で立ち尽くす。
そのタイミングで健志のスマホが着信を知らせる。
「もしもし……そうか、ありがとう……今日というわけにはいかないけど、近いうちに彼女が1人で取りに行くと思う……そうじゃない……連絡するよ。ありがとう」
「どうしたの??彼女って誰??……いい、答えてもらわなくてもいい。帰るね、楽しかった、ありがとう」
「なにか勘違いしているようだから、帰る前に聞いてくれる??」
「いいよ、なに??」
彩は自分の世界に閉じこもろうとしているようで言葉に抑揚はなく冷たく感じる。
「今の電話は銀細工の友人からでホテルから頼んだのが出来たって。ほら、オッパイ飾りのついたヤツだよ。店が休みだったから彩のアクセサリーを大急ぎで作ってくれたんだって……」
「えっ、そうなの。ごめんなさい、健志の言う通り勘違いしちゃった……それで彩が1人で取りに行くの??」
「そうだよ、オッパイとオマンコ飾りのつながったモノだからサイズ合わせをしなきゃだめだろう。待っているのが面倒だから彩が一人で行ってくれよ、いいだろう??」
「スッポンポンになってアクセサリーを着けて……オッパイやアソコを触られちゃうの??」
「結果的にはそうなるかもしれないな。奴がスッポンポンの彩を前にして平静を保てるかオレには分からない……彩が嫌だって言うならしょうがないけどどうする??」
「いいの??1人で行っても、あの人は嫌いなタイプじゃないよ。芸術家タイプで指先がきれいだし繊細な動きをする……本当にいいの??」
「食事に対する嗜好と同様、性的な興味も人それぞれ……彩が好きだし信じている。
但し、聞いた話だけど風俗女性は身体だけではなく心を壊す場合もあるらしい。男に気を遣いすぎたり義務だと思ったりしないで趣味嗜好の範囲で抑えてほしい」
「うん、覚えておく。ありがとう」
「よし、それじゃぁ、ジーンズと下着を脱いでくれる」
健志が持つプラチナチェーン製パンツを見た彩は淫蕩な光を宿す瞳で見つめ、カーテンを開け放った窓に一瞬目をやってジーンズだけではなく、Tシャツとブラジャーも脱いで素っ裸になる。
下着を着け終えた健志はチェーンに沿って指を這わせ、飾り毛のない恥丘に唇を合わせて下腹部から胸の膨らみまで舌を這わせる。
「アンッ、気持ちいい。帰りたくなくなっちゃう……」
「クククッ、可愛いよ……名残が尽きないから家の近くまで送るよ」
「うん、今の関係を続けるためには好い奥様で居なきゃね。ウフフッ、世間的には彩は好い奥様、健志の前では悪い妻だけど好い愛人……キスして」
左手を腰に回してハダカンボの彩を抱きしめ、唇を合わせて濃厚なキスをしながら右手で髪を撫でて頬を擦る。
ウッ、ジュルジュルッ……唾液を交換する頃には健志の右脚が彩の両脚の間に入り込んで股間を刺激する。
「アンッ、ダメッ、ウッウッ、クゥッ~……気持ちいい、ハァハァッ」
真っ赤な瞳で見つめる二人は離れがたい思いを振り切って彩は衣服を整えて髪にブラシを入れ、健志はホテルで来ていた二人の衣服を洗濯機に入れてスイッチを入れる。
「ごめんね、彩の下着まで洗わせちゃって」
「いいさ、行くよ」
最寄り駅の近くの人通りの少ない場所で降りた彩は買い物を済ませて時刻を確かめ、ここからは好い奥様になるんだと自分に言い聞かせながら夏の太陽を見上げて目を眇め、フゥッ~と息を吐いて歩き始める。
海の見えるホテル -23
3日目の夕食も新鮮な魚料理に舌鼓を打ち満足した彩と健志は身体の興奮は冷めても気持ちの奥に残り火があるのを意識して部屋に戻るのを躊躇う。
サチとアキラとの淫猥遊びから戻ったホテルの部屋でアナルが張り裂けそうになるほど大ぶりなアナルパールを使ったオナニーを健志に見せつけた彩の性的昂奮は旨い夕食ですべて冷めたとは言い難く、若いアキラの男根を受け入れたことで新たな欲望の萌芽を感じさせる。
健志もまた食事が代償行動になる以上の興奮を覚えていたので彩の体温を感じると身体の火照りが火種となって燃え盛るような気がする。
「海のそばにいるのに泳がずに帰るのはつまんない」
「そうか、そうだな、彩の言う通りだ。プールは何処にあるんだろう、敷地が広いから分かんないよ」
「プールじゃなく海がいい」
「分かった、プールがあるんだから水着を売っているだろう。買いに行こう」
「水着なんか必要ない。暗い夜の海に人は……ねっ、高台から見た広い海で彩と健志、二人だけで遊ぶって最高だと思わない、ウフフッ」
淫蕩な笑みを浮かべて上目遣いにネットリ見つめる彩は色っぽく、夕食時に飲んだ冷酒のせいなのか、それとも湧き上がる欲望のせいなのか桜色に染まる表情は悩ましく健志のオトコを刺激する。
ブログをやっていた頃、彩のファンと名乗る男性がマリンスポーツ好きな彩さんが青い海と空を背景に水着を脱ぎ捨てたハダカンボで戯れる姿を見たいというコメントを思い出していた。
人っ子一人いない夜の砂浜に打ち寄せる波は闇に包まれた静かな海で心地好い音を奏でる。
満天の星とは言えないものの数えきれないほどの星が輝き、ホテルの部屋のベランダで卑猥な遊びをする二人を優しく見守ってくれた月は今日も優しい光を届けてくれる。
2人の足は自然とサチとアキラの二人と遊んだ砂浜に向く。
小さな砂浜は潮が満ちて岩の向こうに隠れているため周囲を確かめた彩はジーンズと靴を脱ぎ、それを見た健志は靴を脱いでチノパンを捲り上げ彩に続く。
下着姿で岩を巻くようにしてアキラの怒張を受け入れた砂浜に立つと、股間の滑りを拭ったハンカチが見当たらない。
「どうした??」
「ハンカチがないの、どうしちゃったんだろう。波にさらわれたかなぁ」
「砂浜ですれ違ったグループがいただろう、彼らが拾ったんだよ……すれ違ったあの女性がヌレヌレの股間を拭ったんだよって、今頃は彩のマン汁の残り香を嗅いで興奮しているかもしれない、クククッ」
フンッと呟いた彩は健志の相手をせず、打ち寄せる波に合わせて波打ち際を行ったり来たりと初めて海へ行った昔を思い出して波と戯れる。
「アンッ、パンツが濡れちゃった……これ以上濡らすとホテルに帰れなくなる。ウフフッ、全部脱いじゃう」
言うが早いかTシャツを脱いでブラジャーを外し、ショーツに指を入れて健志を翻弄する。
「オレの方が早いっ」
下着とチノパン、靴をまとめて脱ぎ捨ててシャツを脱いだ健志は素っ裸になり、彩に飛びついて抱きかかえるようにして倒れ込む。
バッシャ~ン……ビシャビシャ、バシャバシャ、上になったり下になったり、もつれ合う彩と健志は誰もいない夜の海で童心に戻って戯れる。
はしゃいでないと獣欲が蘇り、際限なくセックスせずにはいられない欲望を抑えるためでもあると二人は気付いている。
身体を絡ませて息が続く限り唇を合わせた二人は肩で息をして見つめ合い、どちらともなくウフフッと笑みを浮かべ、立ち上がった彩はショーツを脱いで沖へめがけて投げ捨てる。
「アァ~、気持ちいい……一度でいいから海でハダカンボになってみたかったの」
月明かりが彩の肌を乳白色に輝かせ、灯台の回転灯の中ですっくと立つ彩を見つめる健志は幻想的な美しさにゴクッと唾を飲む。
月明りの中で素っ裸で立つ彩に近付いた健志は、お月さまに見せつけるように彩の頬に手を添え、唇を合わせると見つめる月は恥ずかしいのか雲に隠れてしまう。
ウッ、ウグッ、フグッフグッ……ハァハァッ……波が二人の身体を洗うのも構わず濃厚なキスに酔う。
頬を擦り、波が乱した髪に手櫛を入れて全身をまさぐる……クゥッ~、ジュルジュルッ、もっと激しく……ザバァッ~、サァッ~……ひときわ大きな波が二人の興奮を冷ますように身体にぶつかり、彩は身をひるがえして沖に向かって泳ぎ出す。
「おいでよ、気持ちいいよ」
彩の後を追うようにして泳ぎ始めると、彩は水中に潜りって姿を消してしまう。
灯台の灯りを頼りに立ち泳ぎで姿を探そうとしてもすぐに暗くなり見つけることができない。
「ウッ、ウグッ……」
どこからともなく現れた彩が健志の背中に覆いかぶさり海に引きずりこもうとする。
海での彩は自由自在に振舞って健志を翻弄し、楽しい時間を過ごした二人は砂浜に戻り笑みを交わす。
「一度でいいから素っ裸で海に入ってみたかったの……一人じゃ怖いし、健志と一緒で良かった、ウフフッ」
「イルカが泳いでいるようだったよ。この近くにイルカだかクジラだったか観光船があるらしいけど必ず見ることができるとは保証できないらしい。オレは彩イルカを見たから満足だよ、フフフッ」
何をしても、どんな言葉を発しても笑みが絶えることはなく、来てよかったと改めて満足する。
「どうする、タオルを持ってこなかったよ」
「月明りと灯台の灯りに照らされた彩のハダカンボを見ながら乾くのを待つのは嫌じゃないよ」
「そうだね」
いうが早いか彩は素っ裸で寝っ転がり、健志もそばで大の字になる。
「……怒らないって約束してくれる??」
星空を見つめたまま健志を見ようともせずに彩は問いかける。
「約束する」彩の態度に冗談を言うべきじゃないと悟った健志は一言で答える。
「はっきり言うね。健志に見られながらアキラ君のオチンポを受け入れた時にゾクゾクするような快感を覚えたの。親友の話もしたけど彩もしてみたい……」
「……分かった」
静かに答えた健志に続ける言葉はなく波の音だけが静かに二人を包む。
海の見えるホテル -22
アナルディルドとミニ電マで昇りつめて弛緩した身体で横たわる彩は羞恥に染まる顔を健志に向けて何とも例えようのない笑みを浮かべる。
満足の笑みのようでもあり、苦笑いのように見えるしはにかんでいるようにも感じる。
彩の顔に浮かぶ笑みの真意を図りかねて困惑する健志と違い、彩の笑顔を見る健志の反応を理解している積りなので伏し目がちで、はにかんで見えるように意図し、抱きしめて可愛いとか愛の言葉を口にするのに合わせて改めてニコット微笑むと決めている。
命じられたとはいえ、嬉々としてアナルオナニーで昇りつめたことを見られたのは羞恥の極みだし、それを見た健志の気持ちを平静に戻すために彩は演技するつもりでいる。
男性以上に女はしたたかさで狡いのよ……健志は知っている??
そんな思いを知らずにいる健志は横たわったままの彩の頬に手を添えて唇を合わせ、
「満足した??可愛かったよ、一人の時の彩は激しいんだね……」
労わるような声をかけて挿入したままのアナルディルドを引き抜き、その時を待っていたかのように彩は微笑み言葉に媚びを滲ませる。
「アウッ、イヤンッ……見ちゃイヤ。彩のオチリに入っていたオモチャなんか見ないで、おねがい」
「彩に嫌われるのは本意じゃないから尻の穴を可愛がったパールは見ないよ。かわりに……」
ピシッ……仰向けで大股開きの彩の尻を叩いて四つん這いにさせる。
「イヤッ、見ないで。恥ずかしい」
ピシッ……アンッ、痛いっ……横たわろうとする彩を再び打つと尻は小気味いい音を立て、媚びを滲ませた甘い声とともにムッチリとした下半身を艶めかしく揺する。
フゥッ~、閉じた尻の割れ目に息を吹きかけると猥りがわしく開いてアナルが丸見えになる。
アナルパールが押し広げた窄まりは未だ閉じることを忘れたようにポッカリと洞が開いている。
「彩、手を伸ばして尻の穴を確かめてごらん」
「これでいいの??……えっ、イヤッ、彩のオチリが……穴が開いている、元に戻る??」
アナルの洞に気付いても驚いた様子もなく、アナルオナニーをした後はいつものことだと言いたげに健志の顔を覗き込む彩の表情に笑みが浮かぶ。
健志は尻に手を添えて割れ目を開き、洞に息を吹きかけて舌を伸ばす。
唾液を塗りこめるようにアナルの入り口と周囲を舐め回すうちに洞の入り口は閉じて、彩の口から艶めかしい喘ぎ声が漏れ始める。
「ウッ、イヤァ~ン、そんなことをしてほしいって言ってないのに……クゥッ~、ダメ」
「嫌がるとは思わなかった」と、言いながら尻に埋めた顔を上げようとせずに舌を伸ばし、右手で太ももを抱え込んで抵抗を封じ左手を伸ばして胸の膨らみを揉みしだく。
アナルオナニーを見せて昂奮した健志を自分のペースで操ろうとすることは諦め、事後の愛撫を心地よく受け入れる。
腰から背中を経て肩の辺りまで舐め上がり、四つん這いから仰向けにさせた彩に唇を重ねて濃厚なキスをする。
キスに酔い、腰や脇腹を擦られる心地好さに身を任せていた彩は健志の唇と舌が股間に行きつくと濃厚なキスはアナルに触れた舌で直接アソコをクンニするのを避けてくれたのだと思い知る。
SMショークラブで出会った健志だけど性的な付き合いでは信用していいのだと改めて感じる。
股間や内腿にまで滲む花蜜を舐めとった健志は顔を上げ、
「タクシーで教えてもらった、地球の丸く見える丘に行ってみようか??」
「うん、シャワーを浴びてくるね。健志は??」
「二人でシャワー室に入ると……クククッ、止めとくよ」
「変な笑い方、イヤな男。ウフフッ、直ぐに出てくるから待っていて」
ホテルを出て歩き始めると彩の表情と歩き方が不自然で健志は足を止める。
「彩、おんぶか抱っこしようか??」
「平気、オナニーで歩けなくなるほどヤワな女じゃありません。オチリも平気」
途中にある赤い山門の立派な寺に参拝して神妙な面持ちで願掛けし、改めて目的地に向かう。
途中の坂道で彩は、
「階段の上と下でジャンケンに勝った方がグリコとかチョコレートと言いながら階段を進むゲームを知っている??」
「知っているよ」
「階段じゃなく坂道だけど、ここでやろうよ」
夏休み前とは言え日曜ということもあって観光客や地元の人がいることを気にする様子もなく二人は楽しそうにジャンケンをし、決して小さくない声で、グリコ、パイナツプルと無邪気に遊ぶ。
初めは不思議そうに見ていた子供たちもジャンケンを始めて階段は遊技場のようになる。
「ずるい、彩と健志じゃ歩幅が違うのを承知で大股で進むんだもん、勝てるわけがない……ズルをしたから彩の言うことを聞いてもらうよ。約束したよ」
愛宕山の山頂にある、地球の丸く見える丘展望館から見る景色は心が洗わるほど雄大で爽快感を味わえる。
水平線が丸みを帯びていることはもちろん、夕日が海に沈む景色も見ることができるような気がする。
どこまでも海が広がり、天候に恵まれれば富士山や筑波山も見えるらしい。
屛風ヶ浦や銚子電鉄の電車、風力発電の風車と360度に視界が開けて自分は自然の一部、思い悩むことなどバカバカしいと思わせてくれる。
彩と健志は自然と寄り添い、互いの腰に手を回して二人でいることの幸せに酔いしれる。