同窓生
仕事を終えて家路を急ぐ男は交差点の赤信号で軽トラを停車させると歩道の向こうで手を振る女を見て苦笑いを浮かべる。
信号が青に変わり走らせ始めた車のウインカーを出すと満面の笑みで手を振り続け、横に停車してハザードランプを点灯すると、
「ごめんね。相談したいことがあるの……いつかのカフェに付き合ってもらえる??」
「しょうがねぇな、この車でよければ乗りなよ……面倒なことや姫に言い訳をしなきゃいけないことはNGだよ」
「分かっているって、奥さんに迷惑はかけません。約束します」
カフェの駐車場に軽トラを停めて店に入ると、窓際の席で手を振る女がいる。
「おぅ、どうした??」
「ごめんね、急に来てもらって」
「用があるのはマコだったの??」
「ウ~ン、そうだとも、違うとも……座ってよ、立っていられると話しづらい」
「いらっしゃいませ」
「私はカフェモカ、マコは??」
「アイスココアにしようかな」
「お客様はロコモコとアッサムティでよろしいですか??」
「おねがいします」
「タケはこの店によく来るの??」
「以前、ツウちゃんに連れてこられて以来、お腹が空いた時は立ち寄るよ」
「ふ~ん、今の店員さんが可愛いから??」
「よせよ、つまんない冗談は。それより相談って何??」
「これを見て……」
男がツウちゃんと呼んだ女が1枚のメモを取り出してテーブルに広げる。
「ふ~ん、○印のメンバーを集めろって言うのか??」
「そう、さすがに柏木君は話しが早い……昔も今も好きだよ」
「みっちゃん、よしなよ」
「はいはい、でもマコは今、柏木君と付き合っていないでしょう??」
「えっ、当たり前じゃない。タケには奥様がいるし、私にも夫がいる」
「それがどうしたの。私はバツイチで独身。柏木君の奥さんにもチャンスがあれば誘ってもいいと許可をもらっているよ」
苦笑いを浮かべる柏木を横目で盗み見たマコは、
「みっちゃん、私たちはタケの奥様に陶芸を教わっているでしょう。少しは礼儀を……」
「分かった、分かった。礼儀を守る淑女になります……それはそうと柏木君、○を付けた人たちに連絡してくれる??」
「メンドッチィけど、ツウちゃんの頼みだから引き受けるよ。場所と日時は??」
「全然決まってないの。この間、トッコちゃんたちと会った時に雨続きで外に出ないからお盆なのに会えないねって話しになって、近くに住んでいる人たちだけでも集まりたいねってことになったの」
「だったらメンバーは特定しないで来られる人だけでもいいだろう??」
「うん、勿論それでいいんだけど、ある程度の人数を決めないと場所の用意がしにくいでしょう??」
「そうだな、分かった。○印の男たちは責任をもって集めるけど増えるかもしれないよ」
「任せる。人数も多いほど楽しいじゃない。ねっ、マコ」
「うん、だけど、ムリをしなくてもいいからね」
頼みごとを引き受けてもらった女二人は安堵の含み笑いを交わし、飲み物を美味そうに口にする。
「柏木君は高校2年のクリスマス前のアレを覚えている??」
「覗き疑惑のことなら覚えているよ」
「クククッ、柏木君の教室に行って、昨日、お風呂に入っている私を覗こうとしたでしょうと言ったんだよね」
マコと呼ばれる女と笑みを交わした男は、何も答えずロコモコを美味そうに頬張る。
「周りにいた人たちは、エッという表情で柏木君と私を見るんだけど、一人が何時頃だよと聞くので23時頃だって言うと、それじゃあ人違いだ。その時刻ならマージャンをしていたから覗きはムリだってアリバイを証明した。勿論、覗き事件はありもしない嘘で柏木君と付き合う切っ掛けづくりの積りだった。それを聞いたトッコちゃんが放課後、柏木君はマコちゃんと付き合っているから、ちょっかい出しちゃダメだよって……」
「クククッ、私はクリスマスに付き合っている人がいないのは寂しいなと思って、男の子を順に思い出していたら、タケのことが急に気になりドキドキした」
「そうなんだ。私と同じでクリスマス前の人恋しさから付き合い始めたんだ、フ~ン??……あの時は聞かなかったけど、どっちから誘ったの??」
「私だよ。タケの家に電話したんだけど居留守をつかわれたから頭にきて、次の日、みっちゃんと同じようにタケの教室に行って、どうして居留守をつかったの??レディに失礼でしょう。謝る気があるなら私をデートに誘いなさいと叫んだの」
「マコがそんなことを…スゴイね。それですんなり付き合い始めたの??」
「わりとね……でも、タケはデートに慣れていないから初めのうちは面白くなかったよね」と、柏木に視線を移してニコッと微笑む。
「あの頃の柏木君なら想像できる。誕生日、バレンタインデー、体育祭や文化祭の後の女子からの誘いをすべて断っていたもんね……高校を卒業後の噂は女好きでやりまくりって話しが多かったけど……あっ、マコとの付き合いが終わってからの噂だよ」
「ヒデェ言われかただなぁ。きっぱり否定できなのが辛いけど……」
「クククッ、タケの女好きの火を点けたのは私かもね……どうなの??間違っている??」
「間違っていないよ。マコにデートを強要されたのが始まりだったけど感謝しているよ」
「マコじゃなく私と付き合っていれば柏木君は後に女好きって言われなかったかもしれないよ」
「クククッ、みっちゃんの魅力に惹かれて他の女子には目もくれなかったって言うの…昔からそうだったけど、その自信はすごいし羨ましい」
「イヤな女。マコと私、誰の目にもマコの方が可愛いし頭もいい。私がマコに勝るのは積極性とポジティブなところ。マコだって分かっているでしょう??」
「そんなことないよ。私はみっちゃんのそういう処だ大好きだし羨ましく思っている」
ロコモコを食べ終えた柏木は二人の会話に頬を緩め、美味そうに紅茶を飲む。
「あのね、今は柏木君のことで二人がもめているの、涼しい顔で紅茶を飲まないでくれる……そうだ、罰として私と付き合ってみる??40年近く片想いのままって悲しすぎると思うでしょう」
「みっちゃん、怒るよ。私からの質問、みんな、みっちゃんと呼ぶのにタケだけはツウちゃんって呼ぶのはどうして??」
「それは…いいだろう、答えなくても」
「私が答えるね。高校の入学式当日に一目惚れしたの。それでクラスが違ってガッカリしたんだけど、二人で話す機会があったから私は通子、ほとんどの人は、みっちゃんって呼ぶけど、ツウちゃんって呼んでほしいって頼んだの……それ以来の片想いで切なく健気な乙女。一度でいいから抱いてほしかった…ねぇ、マコ、柏木君は上手??気持ち善かった??」
「この話は最後だよ、いい??教えてあげる。タケは童貞だったけど最初から上手だった……気持ち善かったよ」
「えっ、初めてだったの??…デートすることもなかったのは本当だったんだ、マコが初恋の相手だったの??童貞喪失は高校2年か3年生、ふ~ん……その後、女好きの血に目覚めても私は相手してもらえなかった。悲しいなぁ……」
タケは私との初エッチに備えて神戸、福原のそういう店のオネェサンに手ほどきを受けた時に童貞喪失したと言わず、あくまで私とのセックスが初めてだったと言ったことに後ろめたさを覚え、見つめるタケの視線を感じて目元が熱を帯びるのを感じる。
「悪いけど眠くなったから先に帰るよ。連絡は間違いなくしとくから安心して……これで払っといてよ」
十分すぎるお金を置いた柏木は二人に微笑んで見せる。
「癪だなぁ、柏木君に片想いして40年近くなった……ねぇ、柏木君が実家に帰ってきて二人きりで会ったことはないの??」
「あるよ。歩いているタケを見つけて後をつけてバーで飲んだよ。それ以外は秘密……だけど、夫に隠さなきゃいけない事はしていない」
「ふ~ん、私は何度か柏木君の帰りを待ち伏せして、ここで時間を過ごしたことがある……今のマコの話しを聞いて、これ以上の進展を望むのはムリだって確信した。今までだって本気でそんなことを期待していたわけじゃないけどね」
「そうだよ。女好きって噂は嘘じゃないと思うけど、タケは悪い男じゃないよ」
「そうね、柏木君は好い男。これからも時々、この店に付き合ってもらうことにする。好いでしょう??」
「うん、奥様に迷惑を掛けないなら許してあげる。みっちゃんはバツイチの独身だもんね」
<< おしまい >>
信号が青に変わり走らせ始めた車のウインカーを出すと満面の笑みで手を振り続け、横に停車してハザードランプを点灯すると、
「ごめんね。相談したいことがあるの……いつかのカフェに付き合ってもらえる??」
「しょうがねぇな、この車でよければ乗りなよ……面倒なことや姫に言い訳をしなきゃいけないことはNGだよ」
「分かっているって、奥さんに迷惑はかけません。約束します」
カフェの駐車場に軽トラを停めて店に入ると、窓際の席で手を振る女がいる。
「おぅ、どうした??」
「ごめんね、急に来てもらって」
「用があるのはマコだったの??」
「ウ~ン、そうだとも、違うとも……座ってよ、立っていられると話しづらい」
「いらっしゃいませ」
「私はカフェモカ、マコは??」
「アイスココアにしようかな」
「お客様はロコモコとアッサムティでよろしいですか??」
「おねがいします」
「タケはこの店によく来るの??」
「以前、ツウちゃんに連れてこられて以来、お腹が空いた時は立ち寄るよ」
「ふ~ん、今の店員さんが可愛いから??」
「よせよ、つまんない冗談は。それより相談って何??」
「これを見て……」
男がツウちゃんと呼んだ女が1枚のメモを取り出してテーブルに広げる。
「ふ~ん、○印のメンバーを集めろって言うのか??」
「そう、さすがに柏木君は話しが早い……昔も今も好きだよ」
「みっちゃん、よしなよ」
「はいはい、でもマコは今、柏木君と付き合っていないでしょう??」
「えっ、当たり前じゃない。タケには奥様がいるし、私にも夫がいる」
「それがどうしたの。私はバツイチで独身。柏木君の奥さんにもチャンスがあれば誘ってもいいと許可をもらっているよ」
苦笑いを浮かべる柏木を横目で盗み見たマコは、
「みっちゃん、私たちはタケの奥様に陶芸を教わっているでしょう。少しは礼儀を……」
「分かった、分かった。礼儀を守る淑女になります……それはそうと柏木君、○を付けた人たちに連絡してくれる??」
「メンドッチィけど、ツウちゃんの頼みだから引き受けるよ。場所と日時は??」
「全然決まってないの。この間、トッコちゃんたちと会った時に雨続きで外に出ないからお盆なのに会えないねって話しになって、近くに住んでいる人たちだけでも集まりたいねってことになったの」
「だったらメンバーは特定しないで来られる人だけでもいいだろう??」
「うん、勿論それでいいんだけど、ある程度の人数を決めないと場所の用意がしにくいでしょう??」
「そうだな、分かった。○印の男たちは責任をもって集めるけど増えるかもしれないよ」
「任せる。人数も多いほど楽しいじゃない。ねっ、マコ」
「うん、だけど、ムリをしなくてもいいからね」
頼みごとを引き受けてもらった女二人は安堵の含み笑いを交わし、飲み物を美味そうに口にする。
「柏木君は高校2年のクリスマス前のアレを覚えている??」
「覗き疑惑のことなら覚えているよ」
「クククッ、柏木君の教室に行って、昨日、お風呂に入っている私を覗こうとしたでしょうと言ったんだよね」
マコと呼ばれる女と笑みを交わした男は、何も答えずロコモコを美味そうに頬張る。
「周りにいた人たちは、エッという表情で柏木君と私を見るんだけど、一人が何時頃だよと聞くので23時頃だって言うと、それじゃあ人違いだ。その時刻ならマージャンをしていたから覗きはムリだってアリバイを証明した。勿論、覗き事件はありもしない嘘で柏木君と付き合う切っ掛けづくりの積りだった。それを聞いたトッコちゃんが放課後、柏木君はマコちゃんと付き合っているから、ちょっかい出しちゃダメだよって……」
「クククッ、私はクリスマスに付き合っている人がいないのは寂しいなと思って、男の子を順に思い出していたら、タケのことが急に気になりドキドキした」
「そうなんだ。私と同じでクリスマス前の人恋しさから付き合い始めたんだ、フ~ン??……あの時は聞かなかったけど、どっちから誘ったの??」
「私だよ。タケの家に電話したんだけど居留守をつかわれたから頭にきて、次の日、みっちゃんと同じようにタケの教室に行って、どうして居留守をつかったの??レディに失礼でしょう。謝る気があるなら私をデートに誘いなさいと叫んだの」
「マコがそんなことを…スゴイね。それですんなり付き合い始めたの??」
「わりとね……でも、タケはデートに慣れていないから初めのうちは面白くなかったよね」と、柏木に視線を移してニコッと微笑む。
「あの頃の柏木君なら想像できる。誕生日、バレンタインデー、体育祭や文化祭の後の女子からの誘いをすべて断っていたもんね……高校を卒業後の噂は女好きでやりまくりって話しが多かったけど……あっ、マコとの付き合いが終わってからの噂だよ」
「ヒデェ言われかただなぁ。きっぱり否定できなのが辛いけど……」
「クククッ、タケの女好きの火を点けたのは私かもね……どうなの??間違っている??」
「間違っていないよ。マコにデートを強要されたのが始まりだったけど感謝しているよ」
「マコじゃなく私と付き合っていれば柏木君は後に女好きって言われなかったかもしれないよ」
「クククッ、みっちゃんの魅力に惹かれて他の女子には目もくれなかったって言うの…昔からそうだったけど、その自信はすごいし羨ましい」
「イヤな女。マコと私、誰の目にもマコの方が可愛いし頭もいい。私がマコに勝るのは積極性とポジティブなところ。マコだって分かっているでしょう??」
「そんなことないよ。私はみっちゃんのそういう処だ大好きだし羨ましく思っている」
ロコモコを食べ終えた柏木は二人の会話に頬を緩め、美味そうに紅茶を飲む。
「あのね、今は柏木君のことで二人がもめているの、涼しい顔で紅茶を飲まないでくれる……そうだ、罰として私と付き合ってみる??40年近く片想いのままって悲しすぎると思うでしょう」
「みっちゃん、怒るよ。私からの質問、みんな、みっちゃんと呼ぶのにタケだけはツウちゃんって呼ぶのはどうして??」
「それは…いいだろう、答えなくても」
「私が答えるね。高校の入学式当日に一目惚れしたの。それでクラスが違ってガッカリしたんだけど、二人で話す機会があったから私は通子、ほとんどの人は、みっちゃんって呼ぶけど、ツウちゃんって呼んでほしいって頼んだの……それ以来の片想いで切なく健気な乙女。一度でいいから抱いてほしかった…ねぇ、マコ、柏木君は上手??気持ち善かった??」
「この話は最後だよ、いい??教えてあげる。タケは童貞だったけど最初から上手だった……気持ち善かったよ」
「えっ、初めてだったの??…デートすることもなかったのは本当だったんだ、マコが初恋の相手だったの??童貞喪失は高校2年か3年生、ふ~ん……その後、女好きの血に目覚めても私は相手してもらえなかった。悲しいなぁ……」
タケは私との初エッチに備えて神戸、福原のそういう店のオネェサンに手ほどきを受けた時に童貞喪失したと言わず、あくまで私とのセックスが初めてだったと言ったことに後ろめたさを覚え、見つめるタケの視線を感じて目元が熱を帯びるのを感じる。
「悪いけど眠くなったから先に帰るよ。連絡は間違いなくしとくから安心して……これで払っといてよ」
十分すぎるお金を置いた柏木は二人に微笑んで見せる。
「癪だなぁ、柏木君に片想いして40年近くなった……ねぇ、柏木君が実家に帰ってきて二人きりで会ったことはないの??」
「あるよ。歩いているタケを見つけて後をつけてバーで飲んだよ。それ以外は秘密……だけど、夫に隠さなきゃいけない事はしていない」
「ふ~ん、私は何度か柏木君の帰りを待ち伏せして、ここで時間を過ごしたことがある……今のマコの話しを聞いて、これ以上の進展を望むのはムリだって確信した。今までだって本気でそんなことを期待していたわけじゃないけどね」
「そうだよ。女好きって噂は嘘じゃないと思うけど、タケは悪い男じゃないよ」
「そうね、柏木君は好い男。これからも時々、この店に付き合ってもらうことにする。好いでしょう??」
「うん、奥様に迷惑を掛けないなら許してあげる。みっちゃんはバツイチの独身だもんね」
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