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彩―隠し事 258

愛欲 -4

「優子、時間があれば夕食を一緒にどう??」
「今日はたぶん大丈夫だと思うけど、明日は金曜日だから忙しいかな……」
「僕も今日ならと思って誘ったんだけど、16時過ぎに連絡するよ。それでいいかな??」
「うん、お店はあなたに任せる。あなたと一緒なら私はそれだけで……連絡を待っている」
深夜のオナニーで満足した優子のオンナノコが落ち着いているので気持ちに余裕があり、夫の急な誘いにも笑顔で応じることができる。
夫の浮気を疑っても嫌いになることもできず、肌を合わせることがなくなって一つ屋根の下で寝室を別にしても別れようと思ったことはなかった。
夫のことを好きかと問われれば好きだと答える。
愛しているかと問われれば昨日は愛していました、明日も愛していたいと答えるだろう。今日は愛しているかと問われれば好きですと答える。

優子が想像する通り、夫は優子も浮気相手も同時に愛し、仕事や何かと理由を付けてしか夜を一緒に過ごせない浮気相手を不憫に思い、惚れて一緒になった優子を今も愛しているので後ろめたさを残すという忸怩たる思いがある。
優子は夫の浮気を知って後も生来の性格もあって事を荒げることを避け、他人の目には以前のように仲睦まじい夫婦のように振る舞っていた。
そんな優子が彩と名乗ってSMショークラブに行ったことをきっかけとして健志と知り合い、夫が浮気相手と泊りがけで遊びに行ったときは何度か健志と夜を過ごした。
夫の都合に合わせて健志に会うことに不満を覚えることもあったがプラチナチェーン下着を着けているとどんな時にも心と身体を抱かれているようで安心できる。
彩に変身して健志に抱かれることで自分も過ちを犯していると、夫を恨めしく思う気持ちが薄れ、ぎくしゃくしていた関係も全ての不信や不満が氷解したわけでもないが穏やかな関係を取り戻した。
目には目を歯には歯をと夫がするから自分も浮気をするといった荒々しい気持ちで健志との関係を続けているわけではなく、人は同時に二人の相手を愛することができると実感している。

「先に行くよ。久しぶりに優子と食事するんだから早く仕事を片付けなきゃいけないし。行ってきます」
「行ってらっしゃい。連絡を待っているからね」

「行ってきます」
少し遅れて家を出る優子は誰もいないリビングに向かって声をかけ、玄関ドアの施錠を確かめてエレベーターホールに向かう。

「おはようございます」
「おはよう、今日は私がほんの少し早かったね。鍬田さんと先着争いをしているんだと妻に話したら面白がっていたよ……おはよう、今日は深沢さんと松本さんが一緒ですか、プロジェクトメンバーは張り切っているね」
「当然です。課長の奥さんに夫をよろしくって頼まれたし優子は学生時代からの親友、松本さんは食べちゃいたいくらい可愛い後輩……先頭に立ってみんなを引っ張ることはできないけど後ろから叱咤激励、疲れた表情を見せれば鞭を振るって頑張れって励ますのが私の役目」
「ハハハッ、鞭で励ますのが役目ですか。案外、リーダーは深沢さんかもわからないですね」
「課長のおっしゃる通りです。栞と親しく付き合うようになって以降、引っ込み思案の私を叱咤して励ましてくれた。ありがとう、栞」
「えっ、課長も優子も急になによ……
私ってスゴイって勘違いしちゃうじゃない」
「後輩の私が言うのもなんですが、鍬田さんがおっしゃった通り深沢さんを頼りにしているのを感じますよ。プロジェクトの方向について結論を迫られた鍬田さんは口を開く前に必ず深沢さんを見つめて考えを整理していると感じることが何度かありました。ごめんなさい、生意気なことを言って……」
「謝ることはないですよ。私が口を挟むのは水を差すことになるかもしれないから聞き流してもらって結構ですが、まじめに仕事に取り組めば立場は平等。方針や方向を示すのはリーダーの鍬田さん、目標に向かって鍬田さんは自説を押し付けるようなリーダーじゃないと思いますよ」
「課長のおっしゃる通りです。メンバーがバラバラにならないように整理はしますが角を矯めて牛を殺すようなことはしない積りだから、これからも自由闊達に意見を交わしましょう」

「おはようございます」
「おはようございます」
課員が続々と出社し室内は心地好い緊張感に包まれる。

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ちっち

Author:ちっち
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さむいのも嫌
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夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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