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彩―隠し事 259

愛欲 -5

「栞、今日は古い彼と食事の約束をしているから先に帰るね」
「えっ、古い彼って……そうか、ご主人だね。フフフッ、古いって言われ方でご主人が可哀そう。そうでもないか、エッチでムッチムチの優子とデートできるんだもんね」
「夫とはいえ絶対に触らせてあげないけどね」
声を潜める栞に優子は腰を艶めかしく揺すって見せる。
「エッチな身体は新しい彼のモノなの、クククッ……バイバイ」
背中を見せて歩き出す尻を撫でた栞は振り返って睨む優子に手を振る。

夫から懐かしい場所で待っていると連絡のあった店の前に立つと何の憂いもなく明日の幸せを信じて暮らしていた夫との生活が思い出されて苦いモノがこみ上げる。
ドアを開けると懐かしい顔が満面の笑みで迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。お久しぶりです……思い出の席でお待ちですよ」
夫が周りの人たちを気にする様子もなく立ち上がり手を振っている。
手を振ることを止めない夫を何事かと見つめる人たちの視線に羞恥を覚えた優子だが、人の目も気にせずに笑顔で迎えてくれる夫が誇らしくもあり自然と早足になる。

「遅くなってごめんね」
「そんなことはない、優子の方が遠いんだからしょうがないよ。懐かしい常連さんと思い出話しをする時間もあってよかった。あの頃の優子は可愛かったなぁ……誤解しないでくれよ、今も可愛い。優子のことをチラチラ見る人がいるだろう??気になるんだろうな」
島ラッキョウや海ブドウ、ミミガーなどを摘まみながらオリオンビールを飲むとプラチナチェーン下着を着けていることも健志の顔も思い出すこともなく心地いい酔いに笑顔が絶えることがない。
美味い料理と三線の音色が優子と夫、二人の気持ちを沖縄の想い出に誘う。

夫との共通の趣味であるスキューバダイビングで何度か潜った沖縄の海。
白い砂浜と青い空、海は何処までもアオイ。
優子の想い出の沖縄の海の色は青でもなく蒼でもなく藍や碧色でもない、アイランドブルー。
白い砂浜と青い空に赤いハイビスカスがよく似合う。
改めて言葉を交わさなくても二人で潜った群青の海の記憶が蘇り、将来を誓い合ったこの店のこの席が二人をつなぐ。
手を伸ばせば触れ合うことができるのにそれができない。それでもいつまでも二人で暮らしたいと思う。
沖縄の海は二人で行ったけど、たまには別々の旅をしたいと思うこともある。
そんなに遠くない将来、久しぶりに沖縄に行こうと誘ってみようと思う。

「懐かしかったし美味しかった。あなたと話すうち記憶が薄くなっていたことも鮮明に蘇ってくれた。誘ってくれて、ありがとう」
「優子が楽しそうで僕の喜びが何倍にもなった。また沖縄に行こう。潜りたいよな、透き通るように青い海に……優子は??」
「私も行きたい。絶対に行こうね」
「うん、昔と違って二人とも会社での責任も大きくなったけど、時間をやりくりして行こう」
破顔する優子は、約束だよ、指切りげんまんと手を伸ばしたくなる気持ちを抑えるとプラチナチェーン下着を着けていることを意識する。

「おはよう。優子、昨日はどうだった??古い彼との食事は楽しかった??」
「惚れ直しちゃった。私たちの共通の趣味がスキューバダイビングで沖縄の海が好きだって言ったでしょう。プロポーズされた懐かしい沖縄料理の店に行ったの、ウフフッ、懐かしいし楽しいし、最高の夜だった」
「じゃぁ、新しい彼と別れるんだ。それもいいかもね、優子の冒険は終わったのか……」
「勝手に決めないでよ。新しい彼と今すぐに別れるはずがないでしょう……彼には彩と名乗っているって言ったよね。優子と彩、私の中に二人の人格が共存していて今はそれが安定の基になっている」
「ふ~ん、みんなが知っている真面目で清楚な優子とチョイワル女の彩が共存しているんだ……なんか羨ましい気がする、ウフフッ」
「終わり、仕事を始めるよ」

「フゥッ~、終わった。今週も無事終了……優子、今日は??」
「今日??2時間くらいなら大丈夫だよ」
「じゃぁ、食事しようか。松本さん、一緒に行くでしょう??」
「はい、喜んで。私は一人暮らしだから時間の制約なしです」
「もしもし、深沢です……三人だけど空きがありますか??……お願いします。10分くらいで着きます……行くよ」
予約を済ませて先頭に立つ栞の後姿を見ながら優子と松本は苦笑いを浮かべる。

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ちっち

Author:ちっち
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夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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