2ntブログ

彩―隠し事 114

萌芽 -10

健志は友人を心配する彩の不安を忘れさせようとするかのように荒々しく胸を揉み、息をするのも苦しくなるほどのキスをして唾液を流し込む。
「ウッウッ、ウグッ、グウッ~、ハァハァッ……すごい、こんな激しい事をするなんて……」
「何かを忘れたい時は、それ以上の刺激が必要だろう??」
「彩にとって大切なことなのに忘れてもいいの??」
「どんなに親しくても立ち入っちゃいけないこともあるんじゃないか??」
「そうだね。性的嗜好は人それぞれ、結果を聞くのを楽しみにして今は自分の事だけを考えることにする」
彩の瞳は妖しく燃え、健志の股間に伸ばした右手が膨らみを確かめて笑みを浮かべる。
「ウフフッ、大きくなっている……ねぇ、もっと気持ち善くなりたい。脱がせて、早く」
「それはお断りだよ。彩は言っただろう……サービスしてあげるって、約束を守ってもらうよ」
「忘れるところだった、ゴメンね。約束通り彩が気持ち善くしてあげる」

健志の足元で跪き股間の膨らみに指を添えて上下に擦り始めると、
「彩、オレはそんなサービスを期待してないよ。椅子に座りなさい」
「えっ、なに??どうするの??」
「オレの可愛い彩は男がいなくてもエッチを我慢できないんだろう??」
「そんな言いかたをしないで……夫と最後に身体を重ねたのはいつだったか思いだすのも難しいけど、今は健志がいる。男がいなくてもなんて言い方をしないで」
「ごめん、そんな言葉を待っていたけど素直じゃなかった……彩、オレがいない独り寝の時エッチな気分になったらどうするんだ??」
「イヤンッ、答えたくない」
「彩……」
「分かったけどスケベな男と付き合うのは失敗だった。出会いの場所を間違えたかもしれない、ウフフッ」
「嬉しそうだな……何をすればいいか分かっているからだろう??」
「本当に嫌な男。いいよ、期待を裏切らなければいいけど」

健志と向かい合う位置に椅子を移動した彩はシェードで周囲から遮断されていることを確かめて艶めかしい動きになる。
シャツ越しに身体を擦り、身体を捩って健志が好きだという腰から太腿のラインを強調する。
「ゴクッ……」
「どうしたの??ウフフッ、彩を見て昂奮したの??ねぇ、そうなの??」
「そうだよ、どうして分かった??」
「生唾を飲んで奥歯を噛み締めたのは彩の腰から太腿のムッチリラインに参っちゃったから、手を固く握ったのは彩を抱きしめたくなったのを我慢したから……違う??」
「違わないよ。シャツが隠しているエッチな身体の虜になるのはしょうがない」
「褒めてくれたから少しだけ見せてあげる」

深く座り直した彩は嫣然として健志を見つめ、ショーツが隠れるギリギリまでシャツのボタンを外して胸の谷間を見せつける。
「エロイ腰や太腿、可愛い顔に視線が向いちゃうけどオッパイもポニョッとして色っぽい」
「ポニョッとしているって……褒めてもらっていると思ってもいい??」
「信じてくれ。これから何が始まるか楽しみだけど焦らさないでくれるか??」
「ウフフッ、焦る健志を見るのは気分が好い」

口に含んで滑りを与えた中指で胸の膨らみの先端を擦る彩の表情が艶めかしく変化して健志を見つめる。
「ウッウッ……クゥッ~、イヤンッ……」
秘めやかな喘ぎ声は健志に聞かそうとするわけではなく、気持ち善さを吐露しただけに過ぎない。
しどけなく開いた口から喘ぎ声を漏らし閉じた目元に皴を寄せた彩は艶めかしく、見つめる健志は昂奮で乾いた唇に舌を這わせて滑りを与える。
乳首を擦る右手に加えていつの間にか左手も胸の膨らみに伸び、シャツ越しに両手で乳房を刺激する。
健志は彩だけを見つめて雲が月を隠して暗闇になったのも気付かず、彩は健志の存在をつかの間忘れて乳房いじりに没頭する。

「お月さまが隠れて部屋の灯りも消してあるから真っ暗。遠くに見える街の灯りだけ……見えないからシャツを脱いじゃう」
月が隠れても目の前の彩が全く見えないわけでもなく、暗闇だからシャツを脱ぐという声に健志は目を閉じて聴覚に集中する。
サワサワッ、カサカサッ……目を閉じると暗闇の中で手を伸ばせば届くはずの距離にいるはずの彩が妄想の中の存在となり、ボタンを外して袖を抜く両手がたてる衣擦れの音が艶めかしくて思わず唾を飲み、照れ隠しのようにゴホンと空咳をする。
「クククッ、目を閉じて何を興奮しているの??月が隠れても健志のすることくらいは見えるわよ」
「えっ、そうか、そうだな……いつでも会えるわけじゃないからエロイ彩を記憶に刻んでおこうと思って想像を膨らませていた、ゴメン」
「ウフフッ、嬉しいけど目の前にいるときははっきりと見てほしい。恥ずかしいのを堪えて健志だけに見せているんだからね」
「分かった。彩の言うことも分かったし、パンツがピンクの紐パンっていうのも分かった」
「知っていたくせに質問した時は答えなかった……答えなかったから紐を解く権利はあげない」
右側の紐を解き、ほんの少し見せつけた股間に指を伸ばす。

彩―隠し事 113

萌芽 -9

「彩、それはすべて本当の事なの??」
「彼女は私に嘘を吐くはずがないし、親や互いの夫にも話せないことを相談する親友。だから真実だよ」
「今聞いた話は信じるけど一つだけ聞いてくれよ……彩はオレとのことをその親友に話したかい??彼女が彩に嘘を言ったと思わないけど、すべての事を知っているわけじゃないだろう??」
「嫌な男、知りたくない真実もあるし、すべてを知ったからって幸せになるわけじゃない。知らないことが幸せだってこともある……そう言いたいの??」
「そうだと思うよ。親しいからこそ聞いてほしいこともあれば、親しいからこそ知られたくないこともある。誰にも隠し事はあるだろうし、その隠し事がミステリアスな魅力になることもあるんじゃないかなぁ……」
「健志の目に彩のミステリアスな魅力が映っている??」
「あぁ、さっきも言ったけどスーツが似合っているから仕事が出来る女性だと想像できるけど、どんな仕事をしているか知らない。オレが知っているのは性的好奇心の強い夜の彩。昼間は淑女で夜は娼婦が我がままオヤジの理想だって言うけど大人の女の魅力たっぷりの彩は好い女。服を脱いだ身体は成熟した女性の魅力に溢れているけど、たぶん努力していると思う。色々とオレの知らない彩の姿を想像させるミステリアスな女だよ」
「おチビちゃんでムッチリの彩が好きなんだよね」
「そうだよ。SMショーパブで見た下着姿で縛られた彩を忘れることが出来なかった。そんな彩に偶然出会う幸運に恵まれたんだから機会を与えてくれた神様に感謝しているよ」

「人間は欲望に取りつかれると際限がなくなっちゃうのかもしれない。ウフフッ、健志は手を伸ばせば抱きしめることが出来る彩で満足しなさい……今頃、知らない男たちに抱かれているのかなぁ……彼女が経験するかもしれない今日の事って彩には想像もできない」
「えっ、知らない男たち??どういうことなの??」
「聞きたい??……まだ教えてあげない。食事の後で彩を満足させてくれたら教えてあげる」

バスルームを出た彩はクローゼットを開けて、
「これだ、これ。このシャツは彩のルームウェアだよ、知っていた??」
「オレのお気に入りだったんだけどなぁ……彩が自分のモノだっていうなら諦めるしかないな」
「クククッ、ありがとう。あとでお礼代わりにサービスしてあげる」
「そうか、ならサッサと食事を済ませよう」

「美味しい……料理が好きなの??」
「料理をしなくても食事に困ることはないけど、こんなクリエイティブな作業を人任せにするのは勿体ない。メニューから材料を揃える、あるいは食材からメニューを考える。出来上がりや盛り付けの美しさ、そんなことも楽しいし調理しながら終わった作業の後片付けも同時進行で進める段取りの良さ、最初から最後まで楽しめる……出来上がりを食べた彩の笑顔、これはご褒美だよ、ありがとう」
「お礼を言うのは私でしょう??鯛の塩釜を前にして木槌で塩の塊を打ったたくって最高。野蛮な行為で準備をするって食事ではなく餌のよう」
「そうだよ、餌で食欲を満たした後は性欲を満足させる。食欲も性欲も本来は原始的なモノだろう、シンプルなのがいいよ」
程よく冷えた白ワインが二人の気持ちを解して饒舌にし、性的な話題になっても陰湿になることなく笑みが消えることがない。
食事を終えた二人は後片付けを済ませ、氷を入れたグラスにワインの残りを開けてベランダに場所を移す。

「気持ちいい。爽やかな風と星の見えない夜空、氷を入れたワインは邪道だと思うけどスッキリして美味しい」
「彩の言葉に棘があるように感じるのは勘違いかな??」
「ウフフッ、見たまま、感じたままを言葉にしただけだよ。気にしないで……シャツの中の彩はどんな格好だか分かる??」
クローゼットから健志のシャツを出して身体に巻いたバスタオルを外した時、ピンクの紐パンだけを身に着け、胸の膨らみを隠すものがなかったことは気付いていたが知らない振りをする事にする。
「上品さを失わない彩だからシャツの下には上下お揃いの下着……そうだなぁ、可憐な色でピンクはどうだ??正解だろう??」
「どうかな??採点はオマケ付きで30点」
「厳しいな、満点を得るにはオレも努力をしないとな」

彩を抱き寄せた健志はグラスを傾けてシャツの胸に垂らす。
「アンッ、冷たい……えっ、ブラジャーを着けていないのが分かっちゃった」
濡れたシャツのせいで胸の膨らみがあからさまになり、ブラジャーを着けていないことが健志に知れる。
健志は膨らみの先端を指先で撫でながら、
「ブラジャーを着けていないのは分かったけど、パンツはどうかな??もしかするとノーパン、あるいは娼婦に変身した彩が穿くのはスケスケパンツ」
「クククッ、確かめてほしいけど、シャツを脱がせたりボタンを外したりしちゃダメだよ。ワインを垂らすのも、もうダメ……ウフフッ、昂奮して喉が渇いた、飲ませて」
グラスに残るワインを口に含んだ健志は唇を重ねて口移しで流し込む。
「ゴクッ……アンッ、いや。そんな事をされると我慢できなくなっちゃう」
ワインを飲ませた健志はシャツ越しに胸を揉み、再び唇を合わせて濃厚なキスをする。
彩は目を閉じ、その縁が赤みを帯びるのを見た健志は胸の膨らみを揉む手に力を込め、シャツ越しに先端を口に含んでコリコリと転がし甘噛みをする。
「イヤッ、直接が好い。シャツを脱がせて……早く」
「シャツを着けたままパンツを穿いているのかどうか確かめろって言ったのは彩だよ。オレはルール変更を認めないからシャツを脱がせたりしない」

突然、彩のスマホが着信を知らせ、ベランダからリビングに戻った彩の顔が曇る。
「ねぇ、大丈夫なの??彼も一緒なの??……うん、分かった。ほどほどにね。
何かあったら連絡してね……」
健志から視線を逸らすことなく話す彩は、栞と呼んだり課長と言ったりすること避ける冷静さを保つ。
話し終えたスマホを見つめる彩は、何かを吹っ切るように天井を向いてフゥッ~と息を吐く。
「どうした??何か心配事が出来たならオレに遠慮することはないよ」
「えっ、うん、そうじゃないの。今日、彩の想像もできないようなエッチな経験をするらしい友人がいるって言ったでしょう。その人なの……10分位で着くんだって……ねぇ、可愛がって、心配事を忘れさせてほしい」

彩―隠し事 112

萌芽 -8

まさか手をつないで退社することはないだろうが、栞と課長の夜の時間を付け回して覗き見たい気もするが優子にはそれ以上に大切な予定がある。
後ろ髪を引かれる思いで電車に乗り、精神的、肉体的な欲望を満たしてくれるはずの人に会いに行く。

他人の目には清楚で貞淑な人妻と映るらしいけれど、明日、部長とゴルフをすると言う夫を見送るどころか今日は実家へ無沙汰を詫びながら一泊し、土曜日は温泉宿で一泊して英気を養いたいと許しを請うた。
実家へ向かうどころか健志の元に急いでいる。
夫が浮気をしているから仕方なく私もと言い訳をする積りはない。
夫が浮気をしていない状態で健志と出会えばどうだっただろうと思わずにいられない……多分、嬉々として抱かれただろうと思う。

「もしもし……駅に着いたよ」
「迎えに行くから待っていてくれる??」
橋上駅の改札口を出てエスカレーターを降り、健志の部屋で抱かれてからどれくらい経ったのだろう、この街の景色は久しぶりと思い何気なく視線を巡らすと家を出たばかりのはずの健志が車の横に立って微笑んでいる。
急ぎ足で近付いた彩は、
「質問に答えてくれる??健志は彩に惚れているでしょう、ねぇ、どれくらい惚れているのか教えてくれる??」
「オレんちに着くまで迷子にならないかと心配だから迎えに来る程度かな」
「クククッ、いつから待っていたの??ねぇ、30分??1時間??どれくらい??」
「さぁ、待ちくたびれたから忘れちゃったよ」
「急に残業することになっていたらどうしたの??」
「夜中まででも待っていたよ、当然だろう」
彩の腰に手を回して抱き寄せ、鼻頭を擦り合わせて軽く唇を合わせる。
「お帰り、日曜の夕方まで彩の住まいはオレんちだろう??」
「ただいま……今、思いついたんだけど、お泊りセットを持ってきたけど彩の家って言ってくれたから最低限のモノを置いとこうかな、迷惑??」
「よし、決まり。駐車場に入れてくるからここで待っていてくれる??」

歯ブラシなどの日用品と下着などの衣類を買いそろえて駐車場に戻る。
「夕食は??」
「用意しているよ、何かはお楽しみってことで内緒」
5分ほどの車中での会話で夫に触れることなく、彩の私生活に及ぶような話題も出ることがない。
電車の中では夫の不実を責める資格は私にはないと自責の念に駆られることもあったが、健志と空間を共にするとそんな事は脳裏をかすめることも無くなり今の幸せにどっぷりと浸る。

テーブルには夕食の準備が整い、シンプルながら食欲をそそられる。
「ローストチキンと温野菜。この塩の塊は何??」
「鯛の塩釜、木槌を振るうのは彩の役目だよ。バゲットと白ワイン、彩り不足かもしれないけど勘弁してもらう」
「美味しそう。申し訳ないけどシャワーで汗を流したい」
「分かった。40度の設定でお風呂の準備はできている」
「ウフフッ、至れり尽くせりね、お姫様になったような気分」
スーツを脱いでハンガーに掛ける所作に無駄がなく、自分の女を隠そうとして無意識のうちに滲ませる恥じらいが健志の心を鷲掴みする。
「どうしたの??彩が上着を脱ぐだけで昂奮してくれるの??」
「おかしいか??……お姫様を抱っこするよ」
軽々と横抱きした彩の額にチュッと唇を合わせてバスルームに向かう。

40度の湯に浸かって背中を預けて寄りかかる彩を背後から抱きしめ、成熟した女性らしい肌の感触に酔う健志は髪に顔を埋めて匂いで胸を満たす。
「何度目かな、こうして健志に身体を預けるのって……仕事に集中している時は健志の事を意識することはなかったけど、一旦思い出すと気になってしょうがないの。夫の浮気に対する当てつけだという気はないし心の内に昔から棲みついていた卑猥な思いが現れたの。健志に会ったのがきっかけでね」
「クククッ、そうじゃないだろう。オレが彩に会ったのはSMショークラブ、今の話が本当ならオレに会う前に彩の淫らな思いは目覚めていたんだろう?」
「えっ、そうか、そうだよね……来週、会った時に学生時代からの親友のスゴイ経験を教えてあげるって言ったでしょう、憶えている??」
「憶えているよ、楽しみにしている」
「その彼女に連れて行ってもらったのが例の店。その彼女は新しいエッチ経験を積み重ねるらしいの、それも今日」
「想像できないけど、どんな事??」

彩は栞の名前や同僚であることを伏せて学生時代からの親友が浮気をしていることを夫に気付かれた事や、寝取られ願望を持つ夫に不貞の代償としてボイスレコーダーで記録することを求められて意のままに従ったことなどを話した。
しかも、その日はSMルームで女性従業員に素っ裸の身体を晒され、SMチェアに拘束されてアナルに怒張を迎え入れると同時に濡れそぼつオマンコにミニ電マを捻じ込まれた。
前後の穴を同時に責められて思うさま蹂躙されても彼女の淫蕩な身体は与えられる快感に震えて喘ぎ声を漏らし続けた。
そして疲れ果てた身体で帰宅した彼女が記録した音声を再生した夫は、卑猥な欲望を隠そうともせずに縄で縛り股間の恥毛を刈り取ったことなどを淡々と話した。
感情を込めると健志に寄りかかった彩の心の奥に潜む栞とは異質の性的欲望が姿を現し、自分自身でそれを制御する自信がない。

初恋 -2/2

秘かな告白

「高校2年の時、私がタケに電話をした……違うか、電話に出たのは妹さんだったでしょう。お兄ちゃん、女の人から電話って言うのが聞こえて、いないって言っといてというタケの声も聞こえた」
「ゴメン、それは忘れてくれてって頼んだだろう??」
「クククッ、忘れてあげない。頭にきたから次の日タケの教室に行って、どうして居留守を使ったって言って、許して欲しければデートに誘いなさいと言ったんだよね……二人は付き合っているのかって言う人がいたから、たぶん私の名前も知らないと思うって訳の分かんないことをしゃべっちゃった」
「忘れてくれよ、デートだ、好きな女子がどうだこうだっていう話に興味がなかったからしょうがないだろう。で、付き合ってくれって言わされた」
「女の子に興味がなかったタケは私が初恋の相手でしょう??違うの??」
「違わない、本当の事だよ」
「ウフフッ、よかった……私は初恋じゃなかったけど、可憐な乙女が女に目覚める切っ掛けになった。タケと付き合ったからだよ」
「オレは……いや、この先は言わない」

「初体験じゃないけど二度目のエッチを私とした後は女好きの血に目覚めたんでしょう??」
「それこそ酷い言われ方だなぁ」
「岡田君が色々教えてくれたし、トッコちゃんがタケの家に近いから色々な噂話をね……タケが結婚した後も私に未練が残っていたのを知っている人が少なくとも2人いたからしょうがないでしょう」
「岡田は出入り禁止で住所録から抹消処分だ……マコは今、幸せなんだろう??」
「幸せだよ。夫は真面目で優しいし二人の子供も夫に似て好い子に育っているしね」
「しっかり惚気てくれて気持ち好いな」

タケから視線を逸らせて正面のバックバーを見つめ、フゥッ~と息を吐いたマコは、
「……50年余り生きてきて、折に触れて思い出すのは17歳から21~22歳までの事。後悔じゃないけど別の人生もあったかなって」
「自惚れだと申し訳ないけど、オレもその中にいるのかなぁ??」
「タケが主役だよ。いい歳になったのに高校時代から22歳までの数年が頭から離れないの。夫にも時々言われるんだよ、忘れられない想い出があるんだろうって……タケにも忘れられない想い出ってある??」
「あるよ。時々思い出すのは想像やら妄想が混じって真実じゃなかったかもしれないけど、それでもいいか??」
「うん、聞きたい」

「30年位前の話だけど、豊島園に遊びに行って風船を買った女子がいたんだって……その日の夜、当時走っていた夜行急行の銀河に乗って終着の大阪駅まで。翌朝、阪急電車で自宅に帰ったんだけど18歳の可愛い女子が風船を持って電車に乗るのって恥ずかしかったって話、しかもその風船が1週間ほどで萎んじゃって見る影もなくなったんだって……」
「ふ~ん、大切な風船だったんだと思うよ。30数年経った今でも持っているかもしれないね、きっと持っているよ。他にもある??」
「そうだなぁ……高校生カップルがいて、二人の住む街から大阪と神戸の距離は変わらないんだけど遊びに行くには乗り換えのない大阪が便利。ある日、女子が4人連れで神戸三宮を歩いていたら、向こうからくる男子三人連れがいて、カップルの二人が示し合わせたんだろうと疑われたけど、それぞれのグループで三宮に行こうと決めたのはカップルの二人じゃなかったんだって、気が合うんだなぁってオチ。つまんないか??」
「そんなことない、想像だけど女子はすごく喜んだはず。二人だけのデートに変更して映画のフラッシュダンスを見たんだと思う……なんかスッキリした。ウフフッ、このカクテルなんて言ったっけ??」
「キールロワイヤル。白ワインとカシスリキュールのカクテルがキール。白ワインをシャンパンやスパークリングワインにすればキールロワイヤル……スパークリングワインのシュワシュワが好いだろう」

「私の事をすべて忘れたわけでもないんだ……すべての事が思い通りにならないのは神様が悪戯するからかなぁ??でも。モヤモヤが晴れたような気がする、ありがとう」
「3年前にも言ったと思うけど、大阪へ行こうとするとマコの家の近くを通るだろう、そのたびに記憶が蘇るんだよ、これからも忘れることはないよ」
「ウフフッ、ウジウジ悩んでいたのがバカバカしくなってきた……私が忘れられないのはウェディングドレスを見た時のこと……」
「阪急三番街だったよな。それを言われると冷や汗が出るよ」
「私がウェディングドレスを着るときは隣に誰がいるのかなぁって言ったんだよね。クククッ……マコって呼んで、ギュッと抱きしめてキスしてくれた。高校三年生だよ、それも童貞の男子が回りにいる人を気にすることなくね、すごく嬉しかった……そうか、その時だ、私が女に目覚めたのは。そうに違いない」

カチッ……解錠する音がして30分ほど買い物に出かけると言ったマスターが帰ってきた。
「ただいま。話は済んだか??もう一度、買い物に行ってこようか??」
「いえ、ありがとうございました。美味しいキールロワイヤルを飲みながら二人で想い出話をして胸のつかえが下りました。マスターのお陰です、本当にありがとうございました」
「それは良かった。お客様の表情が明るくなったような気がします。キールロワイヤルの効果でしょうか??」
「そうです、思い悩んでいたことが泡になってシュワシュワッと飛んでっちゃいました」
「バーテンダー冥利に尽きます。お代わりを作りますか??」
「いえ、今日はこれで帰ります。ごちそうさまでした……タケ、今度誘ってくれる??」
「えっ、あぁ、今度帰ってきたときに連絡するよ」
「じゃあ、電話番号を書いとくね」
電話番号をメモしたカードをタケに手渡し、
「楽しみにしている。もう一度、思い出話をしたいだけだから安心して」と、告げて席を立つ。

「お前の事だから約束は守るだろう……誘っても大丈夫なのか??」
「想像しているようなことはしないですよ。ご主人やお子様と幸せに暮らしているようだし、人のモノは欲しがらない質ですから」
「人のモノは欲しがらないか、理由は??」
「妻を取られたくないから人妻や誰かと付き合っている女子を誘わない、それだけです」
「分かり易くて納得できる。久しぶりに奥さんと来てくれよ、待っている」
「帰るまでに一度来ます……お代わりをください」

取り留めのない話をしながら二杯目のジントニックを飲み干したタケは、いつも通り三杯目はクラッシュアイスでガムシロ抜きのグリーンティーフィズをガリガリ齧りながら飲み干し、
「2.3日の内に妻と一緒に来ます。ごちそうさまでした」
店を出て空を見上げても曇り空が広がり月も星も見えない。
マコと会う日がたとえ闇夜になっても帰り路を迷うことはないだろうと自らの心の内を確かめる。


                                             <<< おわり >>>

初恋 -1/2

想い出 

「いらっしゃい。いつ帰ってきた??」
「金曜の夜」
「顔を出してくれないから帰ってこないのかと思っていた」
「色々忙しくて来られなかったんです」
「そうか……」
大型連休の最中とあって閑散としたカウンターに座った男にバーテンダーは親し気な軽口をたたく。
コトッ……オーダーを確かめることなくライムを添えたジントニックが男の前に置かれ、それを絞った男は美味そうに飲む。
「ジンとトニックウォーターにこだわりはないし、ライムは生でもジュースでも良いと言うのはジントニックに失礼かもしれないけど、先輩のジントニックは特別です。いつ飲んでも本当に美味いと思います」
「ありがとう……いらっしゃいませ。どうぞ、お好きな席に」
微かな香水の香りと共に女性客が入ってきた。
カウンターの男は新しい客に目もくれずバックバーを見ながらグラスに手を伸ばす。

「カクテルは詳しくないのですがワインベースで何かお勧めのものを頂けますか??」
「スパークリングワインでもよろしいですか??」
「はい、結構です」
バーテンダーとやり取りする声が気になる様子の男はチラリと女性客を盗み見て驚いた表情になる。
「こんにちは、3年ぶりですね」
男の驚いた表情とは違い、ニコッと微笑んで挨拶の言葉を口にする。
「えっ、うん、3年経ったんだ」
「なんだ、知り合いか??お客さまは初めてですよね??」
「はい、初めてです。この人は高校時代の友人でこの先でたまたま見かけたので跡をつけてここまで来ました」
「そうですか……」

「今日は待ち合わせなのか??」
「違うよ、独りで飲みたかっただけです」
「そうか、30分ほど買い物に行ってくるから二人で店番していてくれ……任せたよ」
バーテンダーは二人のぎくしゃくした様子を見て、いない方が好いだろうと察して女性客の前に紫がかった赤いカクテルのフルートグラスを置き、
「キールロワイヤルです。スパークリングワインとカシスリキュールのカクテルです……申し訳ないけど買い物に行ってくるので留守にします。店は閉めていくので30分ほど飲んでいてください」
二人の関係を知ろうともせずに女性客に声をかけ、男に頷いて見せたバーテンダーは店の照明を暗くして出ていく。
カチッ……シャッターこそ下ろさないものの鍵をかける音を聞くと残された二人の緊張が高まり静寂が店内を覆う。

「マスターは気を利かせてくれたようだけど、この店はよく来るの??」
「帰ってきたときは必ず来るよ。マスターは高校の4年先輩だよ」
「そうなんだ、私にとっても先輩になるんだね。ふ~ん」
女性客は店内を見回し、男の顔を見据えて視線を逸らすことがない。
堪えられなくなった男は目を伏せて、
「ご主人やお子様は元気ですか??」
「3年前もそうだったけど、その話し方は落ち着かない。私の想い出の中にいるタケの話し方が好いな……厚かましいお願いだって分かっているけど、ごめんなさい」
「緊張しているんだよ、ゴメン」
「そうなの??私の相手をするのに緊張するんだ、フ~ン……夫は単身赴任中で娘は友達を訪ねて長野県に行っているし、近くに住んでいる長男は家族旅行……寂しい独身生活。タケは??」
「オレはいつもと同じ実家生活。夜は友達と賑やかにやっているよ」
「相変わらずね、タケの事を色々耳に入れてくれる人がいるから……3年前は聞きたくても聞けなかったことだけど、質問を一つだけいいかな??」
「いいよ、答えられる範囲なら」
「……父の海外赴任に付いて行ったんだけど、もし私が日本に残っていればタケとの関係は今と違っていた可能性があった??」
「それは偶然会った3年前に頭を過った事だけど、正直に言うと分からない……30年前の事だろう、時間を戻すことができないからなぁ……」
「そうか、そうだよね……忘れていた積りだったけど、50歳近くなった頃から時々思い出すの、父に付いて行かなければ私の人生が変わっていたかなぁって……正直に言うと父も色々と考えちゃったみたい。タケの事じゃないよ、私は1年休学したでしょう、そんな事が良かったのかどうかって……母が亡くなって、父には負担をかけたから単身赴任で私の事で心配かけちゃいけないと思ったから付いて行ったんだけどね」
「お姉さんは結婚した後だったっけ??」
「そう、結婚して札幌に住んでいたの。大学が地元だったから姉の家に厄介になることが出来なかったからね」
「苦労したんだ、力になれなくてゴメン」
「そうだよ、タケにはそばにいてほしかった……私だけ帰国して復学。中学が同じで家も近くの岡田君からタケが学生結婚したって聞かされたの。岡田君とは今でも会うんでしょう??」
「昨日も一緒に飲んだし、明日はウチに来ることになっている」

「奥さんとは結婚前提で付き合っていたの??」
「……正直に言うと、将来を考えていたわけじゃない。突然、子供が出来たって聞かされたんだよ。その時はややこしいことを考えないで結婚しようって言った記憶がある」
「タケらしいと言えるけど、岡田君に結婚してるって聞かされた時は目の前が真っ暗、父の勤める会社を呪いそうになった……ウフフッ、でも今は幸せ。夫が単身赴任って言うのが癪だけどね。私の幸せを奪う単身赴任」
「一緒に行けばよかったのに」
「そうすると、今、この時間は存在しない……タケはその方が良かった??私って面倒な女??」
「困らせるなよ。ゴメン」
「謝ってばかり……高校3年生の冬休み、英語の先生の家に行ったのを覚えている??」
「憶えているよ。マコの担任だったよな。気が付いたら夜11時過ぎ、遅くなったことを気にした先生がマコの父親に電話して謝るから、オレに家まで送って行けって言った」
「そう、歩いて帰ったら12時。父が、タケの家は遠いから泊って行けばいいよって言ったんだよね」
「そうだった……はっきり覚えていないけど、お父さんに遅くなったことを詫びて逃げるようにして帰った記憶がある。そのお父さんも亡くなっちゃったんだよな」
「うん……タケが葬式に来てくれたのに会えなかった。後で芳名帳を見て知ったの、どうして声をかけてくれなかったんだろうって、奥様を気にしてなの??いい、返事は必要ない……で、あの日、タケが帰った後、父がお前から聞いていたより真面目な子だなって言ったのを思い出した。ウフフッ……あの時、引き留めて一緒の部屋で寝ればどうなっていただろうって、気になるなぁ」
「どうにもならないさ、自慢じゃないけどオレは経験してなかったからな」
「それも、岡田君から卒業した年の5月か6月に聞いた。女性経験がないからって福原の、そういう店に行ってやり方を教わったらしいって……本当なの??」
「本当だよ、マコとエッチするために受験勉強そっちのけで福原のソープに行ったよ。そのお陰で無事マコに童貞を捧げることが出来た」
「ひどい話、童貞はソープのお姉さんに捧げたんでしょう??私は二番目、結局はタケの一番目の女になれない運命だったんだ」

プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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