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初恋 -2/2

秘かな告白

「高校2年の時、私がタケに電話をした……違うか、電話に出たのは妹さんだったでしょう。お兄ちゃん、女の人から電話って言うのが聞こえて、いないって言っといてというタケの声も聞こえた」
「ゴメン、それは忘れてくれてって頼んだだろう??」
「クククッ、忘れてあげない。頭にきたから次の日タケの教室に行って、どうして居留守を使ったって言って、許して欲しければデートに誘いなさいと言ったんだよね……二人は付き合っているのかって言う人がいたから、たぶん私の名前も知らないと思うって訳の分かんないことをしゃべっちゃった」
「忘れてくれよ、デートだ、好きな女子がどうだこうだっていう話に興味がなかったからしょうがないだろう。で、付き合ってくれって言わされた」
「女の子に興味がなかったタケは私が初恋の相手でしょう??違うの??」
「違わない、本当の事だよ」
「ウフフッ、よかった……私は初恋じゃなかったけど、可憐な乙女が女に目覚める切っ掛けになった。タケと付き合ったからだよ」
「オレは……いや、この先は言わない」

「初体験じゃないけど二度目のエッチを私とした後は女好きの血に目覚めたんでしょう??」
「それこそ酷い言われ方だなぁ」
「岡田君が色々教えてくれたし、トッコちゃんがタケの家に近いから色々な噂話をね……タケが結婚した後も私に未練が残っていたのを知っている人が少なくとも2人いたからしょうがないでしょう」
「岡田は出入り禁止で住所録から抹消処分だ……マコは今、幸せなんだろう??」
「幸せだよ。夫は真面目で優しいし二人の子供も夫に似て好い子に育っているしね」
「しっかり惚気てくれて気持ち好いな」

タケから視線を逸らせて正面のバックバーを見つめ、フゥッ~と息を吐いたマコは、
「……50年余り生きてきて、折に触れて思い出すのは17歳から21~22歳までの事。後悔じゃないけど別の人生もあったかなって」
「自惚れだと申し訳ないけど、オレもその中にいるのかなぁ??」
「タケが主役だよ。いい歳になったのに高校時代から22歳までの数年が頭から離れないの。夫にも時々言われるんだよ、忘れられない想い出があるんだろうって……タケにも忘れられない想い出ってある??」
「あるよ。時々思い出すのは想像やら妄想が混じって真実じゃなかったかもしれないけど、それでもいいか??」
「うん、聞きたい」

「30年位前の話だけど、豊島園に遊びに行って風船を買った女子がいたんだって……その日の夜、当時走っていた夜行急行の銀河に乗って終着の大阪駅まで。翌朝、阪急電車で自宅に帰ったんだけど18歳の可愛い女子が風船を持って電車に乗るのって恥ずかしかったって話、しかもその風船が1週間ほどで萎んじゃって見る影もなくなったんだって……」
「ふ~ん、大切な風船だったんだと思うよ。30数年経った今でも持っているかもしれないね、きっと持っているよ。他にもある??」
「そうだなぁ……高校生カップルがいて、二人の住む街から大阪と神戸の距離は変わらないんだけど遊びに行くには乗り換えのない大阪が便利。ある日、女子が4人連れで神戸三宮を歩いていたら、向こうからくる男子三人連れがいて、カップルの二人が示し合わせたんだろうと疑われたけど、それぞれのグループで三宮に行こうと決めたのはカップルの二人じゃなかったんだって、気が合うんだなぁってオチ。つまんないか??」
「そんなことない、想像だけど女子はすごく喜んだはず。二人だけのデートに変更して映画のフラッシュダンスを見たんだと思う……なんかスッキリした。ウフフッ、このカクテルなんて言ったっけ??」
「キールロワイヤル。白ワインとカシスリキュールのカクテルがキール。白ワインをシャンパンやスパークリングワインにすればキールロワイヤル……スパークリングワインのシュワシュワが好いだろう」

「私の事をすべて忘れたわけでもないんだ……すべての事が思い通りにならないのは神様が悪戯するからかなぁ??でも。モヤモヤが晴れたような気がする、ありがとう」
「3年前にも言ったと思うけど、大阪へ行こうとするとマコの家の近くを通るだろう、そのたびに記憶が蘇るんだよ、これからも忘れることはないよ」
「ウフフッ、ウジウジ悩んでいたのがバカバカしくなってきた……私が忘れられないのはウェディングドレスを見た時のこと……」
「阪急三番街だったよな。それを言われると冷や汗が出るよ」
「私がウェディングドレスを着るときは隣に誰がいるのかなぁって言ったんだよね。クククッ……マコって呼んで、ギュッと抱きしめてキスしてくれた。高校三年生だよ、それも童貞の男子が回りにいる人を気にすることなくね、すごく嬉しかった……そうか、その時だ、私が女に目覚めたのは。そうに違いない」

カチッ……解錠する音がして30分ほど買い物に出かけると言ったマスターが帰ってきた。
「ただいま。話は済んだか??もう一度、買い物に行ってこようか??」
「いえ、ありがとうございました。美味しいキールロワイヤルを飲みながら二人で想い出話をして胸のつかえが下りました。マスターのお陰です、本当にありがとうございました」
「それは良かった。お客様の表情が明るくなったような気がします。キールロワイヤルの効果でしょうか??」
「そうです、思い悩んでいたことが泡になってシュワシュワッと飛んでっちゃいました」
「バーテンダー冥利に尽きます。お代わりを作りますか??」
「いえ、今日はこれで帰ります。ごちそうさまでした……タケ、今度誘ってくれる??」
「えっ、あぁ、今度帰ってきたときに連絡するよ」
「じゃあ、電話番号を書いとくね」
電話番号をメモしたカードをタケに手渡し、
「楽しみにしている。もう一度、思い出話をしたいだけだから安心して」と、告げて席を立つ。

「お前の事だから約束は守るだろう……誘っても大丈夫なのか??」
「想像しているようなことはしないですよ。ご主人やお子様と幸せに暮らしているようだし、人のモノは欲しがらない質ですから」
「人のモノは欲しがらないか、理由は??」
「妻を取られたくないから人妻や誰かと付き合っている女子を誘わない、それだけです」
「分かり易くて納得できる。久しぶりに奥さんと来てくれよ、待っている」
「帰るまでに一度来ます……お代わりをください」

取り留めのない話をしながら二杯目のジントニックを飲み干したタケは、いつも通り三杯目はクラッシュアイスでガムシロ抜きのグリーンティーフィズをガリガリ齧りながら飲み干し、
「2.3日の内に妻と一緒に来ます。ごちそうさまでした」
店を出て空を見上げても曇り空が広がり月も星も見えない。
マコと会う日がたとえ闇夜になっても帰り路を迷うことはないだろうと自らの心の内を確かめる。


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Author:ちっち
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