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春時雨

「遅くなって、ゴメン……」
「雨の金曜日。週末のデートで楽しそうなカップルを見ながら窓際の予約席に1人座る好い女、人生最悪の時間を過ごした気がする」
「ごめん、食事は??」
「独りで先に食べるわけがないでしょう、お腹はペコペコだしミモザカクテルでお腹がタプンタプン。そういえば、私たちが初めて会ったのも雨の日だったよね」


春の雨の日だった。
「どうぞ、この傘を使ってください」
「そんな事をしたら、あなたが困るでしょう??」
「私には迎えが来るから大丈夫です」
「それでは、お借りします。明日のこの時刻、ここでお待ちしていますから」
「気にしないでください。住んでいるのはこの近くじゃないので、邪魔なら捨てちゃってもいいですよ」

「あれっ??お迎えの方は??」
「えっ、あぁ、急用が出来たらしくて会えなかったんです」
「待ち合わせは、恋人ですか??」
「いいえ、男の友人ですよ。迎えに来ないし電話連絡もないし家まで行ったのですが帰ってなくて……仕方ないので、このコンビニで傘を買おうと思って立ち寄ったところです」
「無責任な方ですね」
「いやぁ、連絡がないって言ったのは嘘で、自宅にもいないし連絡を入れたら日を間違えていました。明日の約束だったのを私が勘違いしちゃったらしいです」
「ずぶ濡れにしてしまってゴメンナサイ。私の家に来てください。このままじゃ風邪を引きますよ」
「いえ、大丈夫です。濡れネズミの男を連れて帰るとご家族がビックリしますよ。それは本意じゃないので遠慮します、気にしないでください」
「ウフフッ、一人住まいですからご懸念には及びません。夜食は何がいいですか??」
「それじゃ、乾くまで、お言葉に甘えてお邪魔させてもらおうかな」

「恥ずかしくて目を開けられないよ。あっちを向いてくれる」
翌朝、目が覚めたオレは夢の中で迷子にならず腕の中で丸くなって眠る女を見つめていた。
昨日まで赤の他人のオレに無防備な姿を晒して眠る女を見ると愛おしさが募り、寝顔を見続けるのに飽きることがなかった。
いつもポケットに隠し持っていた赤い糸。
これまで何度か手繰り寄せては糸の先に気配のない事を経験していた。

オレの視線が恥ずかしく、目を開けられないと可愛い事を言う女の髪に顔を埋めて胸いっぱいに匂いで満たし、温かい息を吹きかける。
「あんっ、くすぐったい」
狭いベッドでハダカンボの身体を寄せ合って眠った二人。
立ち上がりカーテンを開けると昨晩と打って変わり眩しい陽の光が部屋に入り込む。
「眩しい。今日は平日だし休みじゃないでしょう……」
「仕事が終わった後、もう一度会ってくれる??お礼を兼ねて食事に誘いたいんだけど」
「お礼代わりに誘ってくれるの??」
「うん??いや、付き合ってほしいんだけど……こんな恰好で言うのは礼儀に反するかな??」
「クククッ、私は強引な男も好きだよ。まだ時間があるでしょう、私の身体に聞いてみれば??……身体が好いって言えば私に異存はないよ」
二度目のセックスは互いの性感帯を確かめる余裕も出来て身体をまさぐり合い、唾液や体液を交換して濃密な時間を過ごした。


「そうだったね。あの日、急に雨が降らなければオレ達の出会いもなかった」
「夏の嘘つき雨を<狐雨>って言うけど、あの日は春。春の嘘つき雨ってなんていうのかな??」
「さぁ、なんて言うんだろう、春時雨かなぁ??」
「あの夫婦いいね。ベタベタするわけではなく、無関心でもなく、あんな関係が理想だな。あそこのカップルはどう見ても不倫としか思えないよね……なに、私の顔ばかり見ているでしょう」
「見つめても飽きることがない。今朝も目覚めた時に居るはずのない君に触れないかと思って、思わず手で回りを探っちゃったよ」
「クククッ、ハダカンボの私を探したの??それとも、服を着た私を探したの??」
「さぁ、どっちだったろう??どんな格好でも好いよ、目覚めた時に君が手の届く範囲にいて欲しい」
「そんな面倒な言い方をしないでくれる。はっきり言って」
「オレん処に来ないか。一緒に住んでくれよ」
「いいよ。いつ引っ越ししようか??」
「明日。引っ越し業者じゃなく、友達何人かと車を用意しといたから」
「えっ、私がウンて言わなかったらどうするの??」
「力ずくで引っ越しさせるさ……引っ越しを友人に頼めば、改めて紹介しなくても好いし一石二鳥。強引な男が好きなんだろう??」
「クククッ、明日の引っ越しに備えて腹一杯食べなきゃね」

<<おしまい>>
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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