2ntブログ

男と女のお話

ホテルのバー

「ねぇ、そのギムレットを飲ませて」
「いいよ、どうぞ」
「あれっ、初めて会った時、あなたが飲んでいたジンライムだったっけ、あれと似ているような気がするんだけど」
「材料はジンとライムで同じ。大きな違いは、ギムレットはシェイクしてカクテルグラス、ジンライムはウィスキーグラスでステアする。ジンって癖があるけどシェイクすることでライムと混じり合って角が取れる」
「ふ~ン、アルコールの能書きを言う人って好きだよ。酒の似合う男性が好きだし、こだわりを持っている人が好い」
「ギムレットとジンライム、どっちが好き??」
「はっきり覚えてないけど、味はこれ、色はジンライムがいい」
「今日はフレッシュライムを絞ってもらったからさっぱり爽やかでガムシロを加えて、なによりシェイクしている。この前のジンライムはライムジュース使用だったから少し甘いのと色のグリーンが、はっきり出る」
「ふ~ん」
「ギムレットはレイモンドチャンドラーの小説、私立探偵フィリップ・マーローシリーズで有名なカクテルだよ。“ギムレットには早すぎる”というセリフでね」
「それ、知っている。”長いお別れ”だよね」
「チャンドラーを読むの??君は予想外にハードボイルド派??女性は小説に感情移入するのかと思っていた」
「英文科だったんだけど、先生が変な人でチャンドラーのファン。その上マーローのセリフがお気に入りで、教材として使っていたの」
「なるほど変だ。If I was not hard.I would not be alive.If I could not ever be gentle.I would not deserve to be alive。男は強くなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格がない」
「そうそれ、授業の開始前、出席簿を廻しながら、そのセリフで始まっていた」
「オレも受けたかったな、その授業」
「うん、モテタだろうね、女子大だから」

「ちょっと用を思い出したから、しばらく失礼させてもらうよ」 
男は席を立つ。

女は退屈したわけでもないのに両手で頬杖をついて窓いっぱいに広がる高層ビル群の灯りや川を行き交う船の景色を楽しみ、一つの星も見えない空を見つめて席を外した男との明日が見えない事を重ね合わせて口元を引き締める。

男は席に戻り窓外の景色に見入る女を見つめる。
「どうしたの、私の顔に何かついている??」
「この夜景はいつでもあるけど、この一瞬の君は今しかいない」
「褒めてもらっていると思っていいの??」

ショパンのノクターンが演奏されている。何番かは知らないが昔ハリウッド映画で有名になったと聞いたことがある。
夜の始まりに流麗なピアノの調べが心地良く、朝日を見る頃にはもっと幸せな気持ちになっているに違いないと頬が緩む。

「どうしたの??思い出し笑いのようで感じ悪い……このバーにあなたは男同士や1人で来ることはないと思うけど、過去は詮索しないし許してあげる」
「それは、それは、ありがとう。でも誤解だよ、君以外の女性を想い出したわけじゃないよ」
「ふ~ん、信じるかどうかは……ねぇ、会うのは今日で2度目だけど、私を口説く気がある??」
「明日は休みだろう、今日は送らないよ。君の時間をプレゼントしてもらいたい」
ポケットから電子キーを取り出してテーブルに置く。

「ウフフッ、紳士がオオカミになるの??」
「好い女を前にして、いつまでも紳士でいるほど失礼でも野暮でもない積りだよ」
「席を立った時から期待していた」
「自信家の女は嫌いじゃないよ。グラスを持つ白い指、飲むときにチラッと覗く赤い舌が妙に艶めかしくて我慢できなくなる」
「ゾクゾクする、もっと言って」
「生ハムを食べる口元を見ていると、オレが食われているような気になる」
「そう、私は男を食べるのが好きな女なの。カマキリの交尾って行為を終えたオスはメスに食べられちゃうの。子種を吸い取られた挙句、最後は母と子のための栄養になるんだよ」
「君はオレを食い尽くして栄養にしちゃうのか??」
「私との子孫を残す価値がある男ならね。生まれてくる子供のために栄養になってもらうかもしれないけど、今は私を楽しませるために生かしといてあげる。気持ちよくさせてね、期待しているよ」
女の瞳は欲情を滾らせて淫蕩な光を宿し、昂奮で乾いた唇に舌を這わせて滑りを与える様子に男の股間が反応しそうになる。

男は人差指と中指をテーブルに置き、何かを想像させて卑猥に蠢かす。
グラスを持ち、視線は女を捉えて離さず、舌先をグラスの縁に這わせる。
「クククッ……もっと、やって……」
思いを込めて舌先を出し入れし、グラスの縁を舐めてワインを舌先で掬うように口に運ぶ。
「ねぇ、もう止めて、舐めるのは止めて。私たちを見て笑っている人がいる」
「嫌だ……君のアソコが濡れるまで止めない……」

女はキーを取り立ち上がる。
「我慢できない。もうグショグショ……部屋に行こうよ」

オオカミを前にして目が潤んでいる……女はカマキリではなく可愛い子羊のようだ。


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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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