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Goodbye my love

「ごめんなさい、呼び出すようなことをして……」
「ごめん、メールを気付かなかったよ。昨夜も見ないで寝ちゃったから」
「いまどき、ケータイは電話だけ、SNSって何って言うのはあなたくらいだよ。今回みたいに急用でも連絡の取りようがないんだから……奥様の事を思うと電話はしづらいし……」
「ほんとにごめん。それより、何かあったの??」
「用がなきゃ連絡しちゃダメなの??」
「そんな事はないし、嬉しいけど、お別れを言われたのは、ついこの前だろ」
「フフフッ、ヨリを戻して欲しいって言ったらどうする??……ウソウソッ、そんな困ったような顔をしないでよ」
「もしかしたらって、嬉しくって……」
「うそ、本当に困ったような顔をした。それでなきゃ私も困るけど……お店の大家さんと女の子に挨拶をしようと思っているの。大家さんには5年位お世話になったし、一緒に頑張ってくれた女の子も心配だしね、このご時勢だから」
「そうだね、あの子はどうしたの??昼の勤めだけで夜のアルバイトは止めようかなって、言っていたように思うんだけど」
「午後、会うんだけど、アルバイトでキャバクラに勤めるって言っていたよ。多分、お店には、もう出ていると思う。お客になってあげて、今は大変だもん」
「いいよ。お店と名前を連絡してもらってよ、太客にはなれないけどね」
「エッチはしちゃだめだよ」
「えっ??」
「嫌じゃない。昔の男が知り合いとエッチしていると思うのは……私は奥様のように寛大じゃないから」
「クククッ、昔の女が他人の妻になって、毎晩ヒィヒィ啼かされているのかと思うと気が狂いそうになるよ」
「バカッ、止めてよ。ホテルのロビーで待っているって、今朝メールが届いた時はドキッとしたんだから」
「もう10時だよ、12時までしか時間がないって言ってたろ、早く部屋へ行こうよ」
「それくらい強引なら、サヨナラは言わなかったかもね……」

男から視線を外すことなくローズレモネードを口に運び、男はシナモンココアをシナモンスティックでかき回し、視線の先にはホットレモネードを両手で持ち、いかにも美味そうに飲む女がいる。
苦笑いと共に一ヶ月ほど前のことを思い出していた。
「何を考えているの??想い出し笑いなんかして……」
「ほんとうに好い女だなって……もう会えないのかと思うと残念だよ」
「奥様に、これまでご迷惑をおかけしました。お店を止めて結婚しますって、連絡したの……ちょっと、化粧室に行ってくるね」
驚いた表情の男を残して席を離れていく。


いつもの土曜日のように女のスナックへ行き、帰ろうとした時のこと。
「ねぇ、私の希望を叶えてくれる??」
「いいよ。何をすればいい??」
「一度でいいから、二人でお泊りしたいの……お願い。今回だけでいいから」
「冗談はよしなよ。彼女がびっくりしてるよ」
オレは返す言葉も思い浮かばず驚きと共にもう一人の女を視線で示す。
「冗談じゃないの。一度だけ……二度とは言わないから」
あまりに必死な様子に頭に浮かんだ妻の顔を追い払い、
「判った。来週か再来週の週末でいいかな??……何処がいいの、行きたい所があるんだろ??」
「何処でもいい、ここから歩いて数分のホテルでいいの。一度でいいから朝日をあなたの腕の中で見たいだけ」


そして翌々週の週末、実家へ二泊の予定で出かけた妻の留守に10kmほど離れた街のホテルに一泊した。
何度かディユースで使ったことのあるホテルなので景色を見ることもなく、すぐに男をベッドに押し倒してベルトを外し、下着もろとも脱がせてむしゃぶりつく。
いつもと違う女の様子に好奇を宿した男は抗う事も異を唱えることもせずに顔を上下する様子を見つめる。
ヌチャヌチャ、グチャグチャッ……プファ~、ハァハァッ……頬張ったペニスに思いを伝えようとするかのように息の続く限りフェラチオした女は、上気した顔を上げて男を見つめ、荒い息が落ち着く間もなく、
「このまま欲しい。今すぐ……入れてもいいでしょう??」
男の返事を待つことなく引きちぎるようにして自らの衣服を脱ぎ捨てた女は騎乗位でつながり、そのまま身体を倒して唇を合わせる。

グロスを引いたように滑りと妖しい艶を湛える唇を合わせ、性的興奮を高揚させた女は真っ赤な瞳で男を見つめる。
「何があったかは聞かないけど、すごいな今日は……」
「嫌いになる??」
「なるわけがない、前にも言ったろ。オレは何があっても味方だよ」
激しい欲望の塊のようだった女は姿を消し、いつもの穏やかな表情に戻る。
「ごめんなさい……今日は私のしたいようにさせて、お願い」


別れを告げるのが目的だと分かったのはセックスを終えた後の事だった。
生まれ故郷に帰って市役所に勤める男と結婚すると聞かされた。
そう聞かされた時、別れを思う切ない気持ちと同時に安堵する自分もいた。
愛する妻がいる身で他の女性と親しく付き合う事も何度かあった。
自己保身……それを否定する積りはないが、修羅場を迎えないためには振られて付き合いを清算するのが一番だ。
それも可能なら女性に幸せな将来が待っていることが望ましい。

席に着く女のはにかんだ表情が眩しく、記憶の隅に隠した宝箱の中に入れたのは早すぎたかと悔やむ気持ちが一瞬脳裏をよぎる。
「ウフフッ、私と別れたのを寂しいと思ったでしょう??」
「そう言われると返事に困るな……、合っているとも間違えているとも言わないけど、どうしてそう思ったか聞きたいな」
「私がどれほど、あなたの事を好きだったか気付かなかったの??奥様がいるから我慢したけど、ワンちゃんが大好きな飼い主さんの気持ちを探ろうと必死で見つめることがあるでしょう??私も、あなたの一挙手一投足を見つめていたんだよ。目の前にいなくても誰と何をしているんだろうって考えていたから、ほんの少しの変化でも気付くの……分かった??って、これは奥様が言ってたよ」
「えっ??」

「その先を知りたかったら奥様に聞いてみれば……今日、会ってもらったのはね……あなたと別れても奥様が私との付き合いを続けてくれるって言ってくれたの、それを教えといてあげようと思って」
「妻の事を思うと電話しづらいって言わなかった??」
「あなたを呼び出してくださいって奥様に言える??」
「言われてみれば、そうだね」
「あなたと付き合っていると気付いたからだと思うけど、私の店に一人で来た時からのお付き合い。水商売の先輩としても色々教わったし大切にしたい関係だから知っておいてほしいの。途中で気付いたらいろいろ勘繰るでしょう??」
「……うん、ありがとう」
どう言葉を返したらいいのか分からず、困っているオレに、
「奥様もあなたも、小布施の栗製品が好きらしいよね。近いうちに奥様あてに送るけど、びっくりしないで済むでしょう??」

「それじゃぁ、私は行くね。あなたが大好きだったし楽しい思い出がいっぱいあるけど、これからは亭主になる人の事を大好きになるの……」
立ち上がってオレに近付いた女は、チュッと頬に唇を合わせ、
「これが最後の想い出」と、囁いて颯爽と立ち去る。
独り残されて後姿を見つめるオレは、好い女だなぁ、口説きたくなるよと言葉にはせず見送る。
オレは記憶の宝箱に隠した想い出を折に触れて見るのだろうが、彼女はサッサと忘れてご主人と新しい恋をするのだろうなと思うと苦笑いが浮かぶ。
カップの底に残る冷えたシナモンココアを飲み干すと、こんなにも不味い飲み物だったかと慌てて水を飲む。
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プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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