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口止め料

「土曜日は東京ドームシティに行きたい。いいでしょう??」
「いいよ」
「行ってくれるのは嬉しいけど何があるんだって聞いてくれないのはつまんない。言うことを聞いていれば円満に済むって思っているでしょう」
「いまから聞こうと思っていたんだよ、なにがあるの??まさかヒーローショーを見に行くんじゃないだろう??」
「なにそれ??……私が行きたいのは“ねこ休み展”写真やぬいぐるみなど猫クリエーターの作品が展示してあるらしい。友達が良かったって言うから行ってみたいの、ワンちゃんじゃないからダメ??」
「そんなことないよ、行こう。食事は神楽坂にしようか、詳しくないから調べといてよ」
「神楽坂かぁ、ねこ休み展より魅力的かもしれない……あっ、もうこんな時間だ、行かなきゃ。どうせ寝るんでしょう、19時半になったらいつもの通り電話するね」
寝転がったまま手を振る男に近付いたアユは顔の上でしゃがみ込み、パサッと開いたワンピースの裾で上半身を包み込んで股間を押し付け、二度ほど揺すり立てる。
「ハァハァッ……死ぬかと思った。おいで、キスを欲しくないの??」
上半身を起こした男は軽く唇を合わせ、行ってらっしゃい。あとで行くからと告げてアユを送り出す。

男は週に一度16時頃からアユの部屋で過ごして夕食を済ませた後、18時過ぎに自分の店に向かうのを見送り19時半頃、他の客には素知らぬふりで店に行く。
アユの言葉通り男は床で横になる。
男の自慢の一つは寝つきの良さで、今日も数分も経たずに寝息が漏れ始める。
二つ目の自慢は寝起きの良さでアユからの電話ですぐに目覚め、店に向かう。


「どうだった??オレは面白かったよ。アユが連れて行ってくれるところはいつも新鮮で楽しい」
「私は勉強になった、猫ちゃんの表現や一瞬をとらえるセンスっていうのかな、あなたをモデルにして何枚もクロッキーやスケッチしたけど参考になったような気がする。次はもっと好い男に書いてあげるから期待して……お腹が空いた」
「車は今の駐車場に置いとこう。30分ほど歩くかタクシーか、どっちがいい??」
「暑いからタクシーが好い」
アユがネットで調べたというステーキハウスの名を告げ、神楽坂の雰囲気を楽しみたいから近くで降ろして下さいと伝える。

運転手さんが神楽坂では有名だという寺の門前で降ろしてくれて店までの道順を教わり歩き始めたその時、
「おじさん、こんにちは」
「あれ、希美ちゃん、どうしたの??」
「大人のデートをしようと神楽坂に来で食事をする店を探しているところです。彼は同じ大学の1年先輩です……こちらは父の友人で住まいもすぐ近くの人」
「初めまして、彼女は……」アユの紹介を一瞬言い淀むと、
「大人の付き合いでしょう。詳しいことは聞かないし、おばさまには内緒にしとくから……ねっ、いいでしょう??」
「口止め料か、いいよ。彼女は友人のお嬢さんだけど、いいだろう??」
屈託のない笑顔で昼食に同行してもいいだろうとアユに確かめる。
四人が連れだってステーキハウスに向かう途中、友人の娘は男とアユを横目でチラチラと見比べて誰にも気付かれないように男の背中をつつく。

店ではカウンター席の離れた場所に分かれて座りオーダーは任せてもらうと確かめておく。
レンガに覆われた壁にはワインがずらりと並び、スタッフに外国人が多いこともあって神楽坂だということを忘れそうになる。
「アユ、好い店を教えてくれてありがとう」
「ネットで探したんだけど、こんなに素晴らしい雰囲気のある店だとは思わなかった。見て、あの二人も気に入ってくれたみたい……でも、大丈夫なの??」
「大丈夫だよ。アユの事は妻も知っているし何度か会っているだろう。今日も一緒だと気付いているよ」
「うん……私の大学の後輩になる姪御さんが、あなたの事を恋人にするなら好いけど夫にはしたくないって言ったんでしょう。よくわかる、ウフフッ」

スパークリングワインで乾杯し、アミューズのガスパチョで始まるコース料理は何品かの前菜からメインディッシュに続きデザートに満足してコーヒーや紅茶を飲みながら余韻に浸る。

「ごちそうさまでした。今日の事はおじさんとの秘密です、おばさまには秘密です……美味しかったよね、二人じゃ食べられなかったね」
スパークリングワインと赤ワインで男が知る普段よりも饒舌になった希美はボーイフレンドに笑顔を向ける。
「僕までご一緒させていただいてありがとうございました。秘密は守ります、約束します」
「私こそ、ありがとう。秘密を守ってもらえると聞いて安心したよ」
「はい、絶対です。ごちそうさまでした」
JR飯田橋駅に向かうと言う二人と別れた二人は、昔の面影を残す店とモダンな店が混在する神楽坂の風情ある雰囲気を楽しみながらそぞろ歩きする。

「秘密だと言う彼女の言葉をそのままにしといていいの??」
「しょうがないだろう。妻も知っているから報告していいよとは言えないし、どうでもいいよとも言えない。オレの秘密を知ったつもりの彼女が今度、家の近くで会った時にどんな顔をするか楽しみだし、クククッ」
「性格ワル~イ。この後の予定もあるんだけど怒らない??」
「怒らないよ、聞かせてくれる??」
「今日は暑いってことが分かっていたでしょう。だから涼む場所を予約しといたの……怒らないって約束したよね」
「そこでは汗を掻くようなことをしなくていいんだね」
「えっ、それはあなた次第。私にその気がなくても汗を流すためにシャワーを浴びる姿に昂奮しちゃったら嫌だって言えないし、我慢して相手してあげる」
「オレは汗を流した後、昼寝する。アユが嫌な事を我慢するようなことはしないって約束するよ」
「女はね、好きな男のためなら我慢するのを幸せだと感じるものなの。今日は我慢させて」
「男は素直な女が好きなんだよ。アユは素直な好い子だろ??」
「もう、いじわる。あなたの想像通り、私はエッチな女です……これで分かってくれる??」

声を潜めてもすれ違う人の中には二人を見つめて眉をひそめる人もいれば面白そうに笑みを浮かべる人もいる。
ディユースの予約を入れたホテルの場所を聞いた男は、
「よし、じゃぁ車を取りに行こう」
すれ違う人の絶えない通りで欲望を露わにするアユが欲求を溜め込んでいるのはオレにも責任があると苦いモノがこみ上げる。
ホテルに着いたらシャワーを浴びる前に窓に押し付け、背後から獣の恰好で一発目をやっちゃうかと妄想する

「何を考えているの??変なこと……あっ、エッチな事を考えたでしょう??」
頭を過った妄想を思い出した男は一発目……二回もできるほど若くはない事を思い出す。
いつも通りに若いアユを満足させることが、欲求不満を封じ込める口止め料になるのかと思って苦笑いを浮かべる。


            << おしまい >>

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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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