2ntブログ

男と女のお話

土砂降り ―1/2

用があって連絡した友人との話が終わると、
「そばにいる妻が久しぶりに会いたいと言っているんだけど、どうだろう」
「オレも、そう思っていた。善は急げって言うから土曜日に行ってもいいか??」
「ちょっと待ってくれよ。俺は好いけど確かめてみる……待っているってよ」

相変わらず仲の好い夫婦と過ごした時間は心地好く、奥さん心づくしの料理で飲む酒も身体の隅々まで染みわたり、旧友との想い出話は過ぎ去りし時間がまるで昨日のことのように思い出されて懐かしさに浸った。
泊って行けという勧めを固辞して、また来るよと言い残して駅に通じる道を歩いている。
至福の時間を過ごしたこの街を離れがたい思いがして空腹を感じることもないのに目に付いたファミリーレストランの入り口がある二階に向かって階段を昇る。
週末の夜ということもあって店は混雑しており直ぐに席に案内されることはないようだ。

「お待ちどうさまでした。三人さまですね、お席にご案内いたします」
残されたのはオレと、その前に入店したらしい女性一人だけになった。
「あの~、失礼ですけどご一緒いたしませんか。カップルや家族連ればかりのようで一人で席を占領するのは心苦しいです。どうでしょうか??」
店内を見渡したオレは女性の言うことは間違いではないと知り、
「そうですね。一人用の席があるとも思えないのでそういたしましょうか」

「お待ちどうさまでした。お一人さま……失礼いたしました。お二人様ですね、ご案内いたします」
女はリブステーキとガーリックトースト、ワカメサラダをパンプキンスープと共に貪るように食べ、その健啖ぶりに自然と頬が緩むオレはマルゲリータピザとムール貝をグラスワインで味わう。
「私の顔に何かついていますか??」
「ごめん、食べっぷりが清々しくて見とれていました」
「えっ、ウフフッ、恥ずかしい処を見せちゃいました。見かけによらず小食なんですね??」
「いや、友人宅で上手い料理を食べてお腹は満足していたからね」
「それじゃぁ、どうしてこの店に……私の匂いに引き寄せられたの??」
「そうかもしれない。食事をする貴女を見ているだけで幸せな気持ちになる」
「ふ~ん……ねぇ、大人の男と女がファミレスで食事をしただけでサヨナラを言うのは野暮だと思わない??」
「この後、バーに付き合ってもらえないかな??」
「いいわよ。私を誘いたかったのでしょう??」
「オレはこの街に詳しくないけど、どうしよう」
「私はこの街に住んでいるから好い店を教えてあげる。今度、ご友人と飲みに行くといいわよ。女の子は絶対に喜ぶはずだから」
「申し訳ないけど、友人は男。その奥さんが美味い料理を作ってくれたけどね」
「そうなの……そうと決めたら早い方がいいでしょう。遅くなると雨が降るって予報が出ていたし」

女性を同伴すると喜ぶというバーは駅の近くにあり木製の重厚なドアを開けて店内に入ると大きな水槽が目に入る。
緑色の水生植物の間を色とりどりの熱帯魚と思しき魚が泳いでいる光景は先ほどまで見ず知らずだった女性がそばにいるのを忘れてしまうほど心を惹かれる。
淡い青色をベースにした店内は知的で落ち着いた雰囲気に溢れ、大人の男女が愛を確かめる手助けをしてくれると信じられる。

水槽を取り囲むように設えられたボックス席は埋まっているのでカウンター席に着く。
「どうですか、この店は??なかなかのものでしょう」
「なかなかのモノじゃなく素晴らしいです。シックで落ち着いた雰囲気、水槽を見て癒される、女性を口説くには最高の店です」
案内してくれた女性の選択に感嘆し、前に立つバーテンダーに頷いて見せる。
「お褒め頂いてありがとうございます……何をおつくりしますか」
スモークナッツなどのお通しを置いたバーテンダーに、ジントニックを注文した男が女性に目をやると、
「私の分は頼んでくれないの??」
「あなたと一緒にいるとレディキラーを飲ませたくなるから止めとくよ」
「えっ、レディキラー??それはどんなカクテルなの??」
男の横顔を見つめ、バーテンダーに視線を移した女はけげんな表情を浮かべる。
「摩耶さん、私がお教えします。レディキラーというのはカクテルの名前ではなく甘くて飲みやすい衣をまとっているけどアルコール度数が高いカクテルで女殺しと呼ばれるモノの俗名。ウォッカとオレンジジュースのスクリュードライバーの名前は聞いたことがあるでしょう??大昔からの定番ね。名前で油断しちゃいけないのが、ロングアイランドアイスティー……こちらの男性とは今日初めて会ったようですが信じてもよさそうですよ。ごめんなさい、おしゃべりが過ぎました。摩耶さんには、グラスホッパーをお作りします」

グラスホッパーとジントニックで乾杯し、摩耶はミントの香りと生クリームの口当たりの良さで快活になる。
友達を訪ねたと言っていたけどどんな関係だとか、どこに住んでいるのかと矢継ぎ早に質問し、男の身体を叩き、太腿に手を置いて顔を覗き込む。
スモークチーズやピクルスに舌鼓を打ち、男はウィスキーの水割り、摩耶はモスコミュールで再び乾杯する。
元々、甘え上手なのか目元をほんのり桜色に染めて身体を寄せる仕草が色っぽく、楽しい時間が過ぎていく。
「カレーなど食事も美味しけど今日はムリね。わざわざ食べに来ても損はないよ」

「ごちそうさま。これからはビールやワインだけじゃなくカクテルも飲もうかな、色々教えてください」
「喜んで、摩耶さんがカクテル好きになってくれて嬉しいです。お客様のお陰ですね。お二人でお見えになるのをお待ちしています」
バーテンダーは摩耶に話しかけ、男にも気持ちの好い言葉をかける。

店を出ると予想もしない土砂降りの雨で二人は躊躇する。
とりあえず駅まで行こうということで駆け出したものの、下着まで滲みるほど雨に打たれてしまった。
「どうするの??」
「帰るよ。今日はありがとう、楽しかった」
このまま摩耶と別れるのは忍び難い思いもするが続ける言葉が見つからない
「こんなに濡れちゃって、引き留めた私にも責任がある。乾くまでウチに寄ってきなさいよ。私は一人住まいだし気を遣う必要もないでしょう。ねっ、そうしよう」
「一人住まいじゃマズいだろう。遠慮するよ」
「私に恥を掻かせるつもり……しょうがないね、濡れ鼠になって風邪をひいても私の責任じゃないからね。今日はご馳走していただいてありがとうございました。さようなら」
「えっ、すこしだけ、乾くまで厄介になってもいいかな??」
「ウフフッ、端から素直にそう言えばいいのよ」

駅の反対側から手をつないだ二人は摩耶の指差す方向に雨の中を駆け出す。
これじゃぁ、摩耶の家で雨宿りするよりも電車に乗った方が合理的だったなと思うと自然と笑みが浮かぶ。
そんな男を見て摩耶は、
「あなたは雨が好きなの??含み笑いなんかして気持ち悪い。クククッ、なんか楽しくなってきた」

「狭いけど我慢してね」
狭い玄関に立ち、広くはない部屋を前にして摩耶はシャツを脱ぎ、スカートも脱いで下着姿になる。
「なにしているの??脱いじゃいなさいよ、ずぶ濡れのママ上がる気なの??」
「えっ、そうだね」
上着を脱ぎ、靴と靴下を脱いで立ち尽くしていると、
「早く、全部脱いじゃいなさい。下着もね……直ぐに洗濯すれば雨が止む頃には乾くよ、早くっ……」
下着姿になった摩耶を前にして素っ裸になる勇気もなく、どうしていいか考えていると摩耶が追い打ちをかける。

「なにを恥ずかしがっているのよ。ブラジャーを着けてフルフルフリㇽのパンツを穿いているの??それとも臍が二つあるとか、チンチンが爪楊枝くらいの大きさとか……絶対に笑わないと約束するから脱ぎなさいよ」
意を決した男は身に着けるすべてを脱いで素っ裸になる。
「お湯を張り始めたところだけど、お風呂に入っちゃって」
摩耶の気迫に押されっぱなしの男は素っ裸のママ指差すドアを開けて僅かに湯の入ったバスタブに入る。
摩耶は男のモノも自分の脱いだものもすべて洗濯機に入れて、最後に上下の下着も脱いで放り込む。
「寒いから一緒に入っていいでしょう??」
摩耶は急に羞恥を覚えたように胸と股間を手で覆い、話す言葉は震えを帯びる。
「オレの腿を跨ぐようにして入ればいいよ」
決して大きくはないバスタブは二人が同時に入ると腹部まで湯に浸かる。
「ドキドキしているのが分かるでしょう??精一杯、突っ張って頑張ったけどもう限界、優しくしてね」
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
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夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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