2ntブログ

男と女のお話

アナアキー

「クククッ、ほんとう??浮気は悪い事じゃないんだ……ふ~ん、柏木さんの言葉とは思えない」
「オレは清廉潔白、浮気なんか、とんでもないって言うと思った??」
「下ネタは口にするけど、一度も私を誘わないし触ろうともしない。案外と真面目な人だと思っていた。開店早々に来てセットに延長1本で帰るって、奥さんが怖いの??」
「当たり前だろう。怖い人がいるから宵の口遊びに歯止めがかかって間違いを起こさない……ギリギリ許してもらえる範囲でエミちゃんに会いにきているんだよ」
「クククッ、信じていいのかどうか分からないなぁ。善人の仮面をかぶったワルかもしれない、一度だけ私の手を握ったんだよ」
「えっ、そんな事をした??記憶がないなぁ……いつ??」
「手が疲れているって言ったら指や手の甲をマッサージしてくれたでしょう??優しく包み込んでモミモミ、気持ち良かったなぁ……柏木さんなら、手じゃない処をモミモミしてもいいよ」
「えっ、肩こり??それとも足や腰が疲れてる??」
「真面目にそんな事を言うの??……つまんないから、マッサージの話はオシマイ。誰でも浮気はしてもいいの??」

「そんな事は言ってないよ。絶対にダメって言わないだけだよ。するも良し、しなければもっと良し。見つかった時はウダウダ言い訳をしない、絶対にしちゃいけない人もいる」
「へぇ~、浮気をしちゃいけない人がいるんだ。どんな人??」
「一番は政治家。国会って予算や外交の承認など重要な仕事もあるけど、立法府って言われるように法律を作るのが第一義だと思う。法律を作る人が法律を遵守するのは勿論、道徳的にも尊敬できる人じゃなきゃまずいと思うよ」
「言われてみれば、そうだね……政治家に対して他に思う事がある??」
「政治家になろうなんて奴はロクなもんじゃねぇだろ。すべてじゃないけど政治じゃなく性事に携わって私は立派な人です、投票の際は私に……恥ずかしくって絶対に言えねぇな、オレには」
「随分とアナーキーな言い方をするんだね。意外だなぁ……」
「アナーキーとは古風な表現をするんだね、意外だなぁ……それより、アナアキーはエミちゃんだろ??オレは穴を埋める道具を持っているけど」

「えっ、アナアキーって……アハハッ、ひどい冗談。穴ってアソコのこと??そりゃ、穴はあるけど最近は使ったことないなぁ。私の穴は用不用説で退化してなくなっちゃうかも、ねぇ、穴の維持に協力してくれない??」
「よせよ、オジサンにそんな事を言うと本気にしちゃうよ」
「あらっ、冗談だと思ったの??真面目な話だよ。柏木さんは若い、オジサンじゃないよ……その顔、笑うときは楽しそうに声を出すけど、今のようにはにかんで口元と目元を緩めるときって笑窪が出来るでしょう??チャーミングって言うかキュート、悪戯好きの男子って言う感じで好きだよ」
「エミちゃんにそこまで褒められると嬉しいけど、照れちゃうな」
「そう、その顔だよ。オミズ女子が安心する表情、邪気がないって言うかヤリタイっていう雰囲気がゼロ。無視されたみたいで逆に誘いたくなる……夜はモテルでしょう??」
「そんな事はないよ。身体が接するほど近くに座ってくれて、美味い水割りを作ってくれるし、話の相手をしてくれる。それだけで幸せだよ」

「ねぇ、今度、なにか食べに連れてってよ、同伴込みで、好いでしょう??」
「無理に誘わなくても開店早々に行くのに、強制ならしょうがないけど」
「ごめんなさい、同伴目的じゃないから食事の後、サヨナラしてもいいよ」
「ごめん、オレの方こそ言い方が悪かった。じゃぁ、来週でいいか??」
「うん、約束だよ。絶対だよ、嘘じゃないよね」
「約束する、同伴もいいよ。それ以上のことは言わないから安心して」
「今、そんな事を言わなくてもいいのに。柏木さんが相手なら雰囲気に流されちゃうかもって思っているのに、つまんない」
「オレは小心で真面目、揶揄わないでくれよ。行きたい店とか食べたいモノとかってある??」
「何でもいい、ファミレスでも好いから任せる」
「そうか……う~ん、鉄板焼きにしようか??」
「無理しなくてもいいのに、嬉しい。待ち合わせ時刻は??」


「10分くらい歩くけどいいかな??」
「うん……手をつないでもいい??ウフフッ……この辺りが地元なの??」
「違う、関西生まれだよ。学生時代、最初は溝の口に住んでいたんだけど遊び優先で引っ越してきた」
「ウフフッ、遊び優先か……じゃぁ、問題。通り過ぎた交差点は曙橋で、この先に東橋ってあるでしょう、川がないのにどうしてだ??」
「実はこの下にある。暗渠になっちゃった。ゴメンね、知らない、どうしてって言わなくて。着いたよ、ここだよ」
「お店から近いけど知らなかった。おしゃれで洒落てる」

「柏木さんと初デートで緊張しているからメニューも任せます」
「分かった、オレは肉でも白ワインなんだけど、赤の方がいい??」
「柏木さんと同じのが好い」
「バーニャカウダー、タコの何とかってのとサーロインステーキをミディアムに近いウェルダンで、あとは適当に作ってよ。ワインの銘柄は任せるからキンキンに冷えた白で」

「ごちそうさま。デザートのシャーベットまで全部美味しかったです。ありがとうございました……また、会いたいな。同伴なしの純粋デート、だめっ??」
「いいよ」
「今日は、アナアキーを確かめてもらえなかったけど諦めてないからね、ウフフッ」


<<おしまい>>

水割りのステアは反時計回り

「お代わりを作る??」
「最後の一杯は、ほんの少し濃い目にしてもらおうか……飲みきったら帰るけど、もう一度、乾杯してくれる??」
「咲耶も、もう一杯頼んでもいいの??ありがとう……同じモノをお願いします」
「ドリンクで酔っぱらわないように薄目にしといてよ」
「優しいね。二人っきりの時は酔わせてほしいけど……記憶をなくすほど酔わせてほしいな。もっと飲め、飲めないのなら口移しで飲ませちゃうぞって……」
「真に迫る演技、女優みたいだよ」
「女はね好きな男の前では女優になるの。一度抱かれると女優じゃいられなくなるけどね……、そうか、柏木さんの前じゃ女優のままなんだ。早く仮面を脱ぎたいな」

コツン、コツッ……カシャッ……トクトクッ……トクトクトクッ……カシャカシャッ……キュッ……コトッ。
「咲耶ちゃんのリズムにすっかり馴染んじゃったよ。氷を入れて軽くステアしてグラスを冷やす。ウィスキーと水を入れて掻きまわすときは反時計回り。グラスをキュッと拭いてコースターに。見ているだけで気持ちいいよ」
「時計回りは時間を早く進めるから、お客様に早く帰ってほしいって言う事に通じる。反時計回りは……時間の進行にブレーキをかけて、帰らないでほしいなって言う無言の言葉。ウフフッ、嬉しい??」
「客によって時計回りと反時計回りを使い分けているか聞かせてほしいな」
「ウフフッ、お客様は柏木さんだけじゃないの……秘密」
「今日はベッドで目を閉じると咲耶ちゃんを思い出して眠れなくなっちゃいそうだよ」
「ほんとう??じゃぁ、近いうちに食事に連れてってくれる??」
「好いよ。改めて連絡するよ」

「咲耶さん、おまちどうさまです。どうぞ」
「ありがとう……」
「今日は晴れていたから乾杯」
「乾杯、晴れていたからなの??フフフッ……そうだ、この間、お客様に聞いたんだけど、神保町にあるナントカってエッチな本やDVDを売っている店の社長がテレビで奥さん公認の浮気相手がいるって話したんだって……咲耶には考えられない」
「ふ~ん、それはすごいね」
「テレビで名前を名乗って顔出しで話したから本当なんだろうなってお客様が言ってたよ。それに、それだけじゃないの。ダブル不倫でね、不倫相手は人妻でご主人公認なんだって……信じられないよね」
「奥さん公認の浮気相手って言うのは、あるかなって思うけど、ダブル不倫で両方が公認ってすごいね。奥さんと旦那もセフレがいるって事??」
「どうかな??居ないと思うけど……それにね、浮気相手の人妻と奥さんが親友なんだって」
「元々、付き合っていた男女が別の人と結婚したんだけど関係が続いてるって事??」
「どうだっけ、頭がクラクラしながら聞いていたからよく覚えてないけど、そうじゃないと思うよ」
「世の中は広いね、いろんな人がいるんだ」

「神保町は本屋さんが多いんでしょう??」
「出版社や大手の本屋さんもあるけど、錦華公園てのがあって、そこでは1年に1回、古本祭りをやっていたはずだよ。エロ本屋さんも多かったけど、売り上げも落ちただろうし、すべての店がそのまま残っているとは思えないな。今はどうなっているんだろう??……神保町交差点から水道橋に向かってエロ本やDVD屋さんが多かった。そのほとんどは二階建て程度だったと思うけど、中に一軒、本店と交差点を渡って数分離れた場所にもある店は立派なビルだったよ」
「ふ~ん、昔、裏ビデオって呼んでいたんでしょう??今じゃ、ネットで当たり前に無修正モノを見ることが出来るけど、そういうのを売っていたの??」
「神保町じゃ売ってなかったと思うよ。オレの知らない店があったかもしれないけどね。そういう店は、新宿、渋谷、池袋にあったんじゃないかな」
「行った事がある??」
「何度かあるよ」
「ふ~ん……そういう店は違法な商品を並べてあるわけ??」
「そうじゃないよ。店の中はパーテーションで区切ってあって、商品番号やタイトル名と簡単な説明を書いた写真が貼ってある。パーテーションに沿ってテーブルが並んでいて、アルバムって言うかスクラップブックって言うか同じような商品案内が何冊も並んでいるんだよ。商品は優に千を超えていたと思うよ……客同志、目を合わせることもなく無言で選んで、番号をメモして愛想の悪い店員に渡す」
「そうすると、その商品を奥から出してくれるの??」
「そうじゃないよ。店には商品を置いてないんだよ……その筋の手入れを恐れてね。だから、メモを渡すと、15~20分待ってくださいと言われるんだよ。そのうちに商品を袋に入れたオニイサンが届けてくれるってわけ。店が摘発されて店長や店員が逮捕されてもトカゲの尻尾切りってヤツで、根元が大丈夫ならってことなんだろうね」

「ふ~ん、柏木さんがそんな店に詳しいのは意外だったな……じゃぁ、ついでに聞くけど、いわゆる裏ビデオって、昔はそういう店に行かなきゃ買えなかったの??」
「通販があったよ。一度買うと立派な装丁のカラーカタログを邪魔になるほど送ってくれるんだよ。それからカタログって言うよりパンフレットのポストインがあったけど、これは買ったことがないから分からない。友達から回ってくることもあったし、今ほどじゃないけど割と簡単に手に入った。オレもだけど、ダビング用のビデオデッキを買ったりとかね。当時は2DKの団地住まいだったからVHSの数が増えると息子に見せないように隠すのに苦労したなぁ……クククッ」
「エッチなビデオやDVD好きは分かったけど、本などの活字媒体は??」
「東京駅の八重洲北口には改札内と地下にエロ小説が充実している本屋さんがあったけど、松ナントカって店名が同じだったような気がする。新幹線に乗るときは重宝したよ。上野駅にも正面玄関を出て横断歩道を渡って直ぐのところにサラリーマン専用のようなエロ小説屋があったけど、これはわりと早く立ち食い蕎麦屋になって残念だったけどね」

「なんかエロイ。紳士のイメージだったのに、違っちゃったな。風俗とかは??」
「ないとは言わないけど、あまり経験ないなぁ……イメージと違ったから、これからステアする時は時計回りにされちゃうかな??」
「どうしようかな??洒落た店に誘ってくれたらエロくても我慢できるかも……柏木さんのような中年紳士には甘えと我がまま、それと素直さを上手に使い分けないとね。今までも好いお店に連れて行ってもらったけど、今回は期待を膨らませるよ」
「オレがエロイから??」
「そうだよ。それに、もしも酔っぱらったら最後まで介抱してもらうよ。今回は覚悟してね」
「そんな事を言うと、オジサンは期待しちゃうよ」
「今まで酔った振りしても相手にしてくれなかったくせに……はぐらかしてばかり。こんなにエッチな人にも相手にされない咲耶は可哀そう」
「ごちそうさま。帰るよ……近いうちに連絡する」
「もう……お見送りするの、いいでしょう??」
「ねっとり、エレチューでもするか??」
「いやだ、古い、その言い方。アンッ、濡れちゃいそう……今から咲耶を指名してくれるお客様には申し訳ないけど、気もそぞろで仕事にならないかも」


<<おしまい>>

雨 -1

一目惚れ

「いらっしゃ……い。ずぶ濡れ、雨が降ってますか??」
「今日の雨は真面目に一生懸命、降っているよ」
「真面目に……ウフフッ、そうなの??お客様が一人も来てくれないのは雨のせいなんだ。ようやく分かった、ありがとう」
「えっ、なに??」
「お茶っぴきは雨のせいなんだって分かったの。一生懸命な雨っぷりを教えてくれて、ありがとう……来店早々で申し訳ないけど、お店を開けておいてもしょうがないから閉めちゃいますね。ほんの少しの間、待ってください」
「片付け終わるまででいいから雨宿りさせてもらうよ……床を濡らすのは本意じゃないけど、許してほしい」
「どうぞ、濡れたお召し物はハンガーに掛けた方がいいでしょう。暖房を強くしますから」

女が指さすハンガーに上着を掛けた男は店内を見渡して趣味の良さに頬を緩め、女の出て行ったドアに視線を向ける。
ヴ~ンヴ~ン、エアコンの音がわずかに大きくなるとともに店内は暖かい空気に満ち、びしょ濡れの身体が急速に乾いていくような気がする。

ガシャガシャ……カチャ……シャッターを下ろして施錠した女はタオルを手にして髪を拭き、雨に濡れたベストとシャツを拭う。
黒髪をひっつめて黒いパンツと真っ白のシャツに黒ベストとバーテンダー姿の後ろ姿は凛として美しく、閉店するのを残念に思う、
「すごい雨……シャツに浸み込んじゃった。ごめんなさい、着替えてくるからお座りになって待っていてください」
「店を閉めたのに長居をしちゃ迷惑でしょうから帰ります」
「すぐ戻ります。今、帰られちゃったら本当に今日は、お茶っぴきで縁起が悪い。おねがい、すぐに戻ります」
苦笑いを浮かべた男は濡れたズボンの不快感を気にしながらスツールに腰を下ろし、待っていますと声をかける。

退屈する間もなく姿を現した女は、ゆったりサイズのスウェットにロングスカートとカジュアルな衣装で髪は下ろして清潔な色気を感じさせる。
言葉もなく見惚れる男に、
「どうしたの??鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして??」
「えっ、いや、あまりに雰囲気が変わったもんだから驚いちゃった。ごめんなさい」
「うふふっ……善く変わったのか悪く変わったのか聞かせてもらえますか??」
「あなたがそんな事を聞くのは嫌味ですよ、と言いたいところですが……凛としたバーテンダー姿も好いし、大人カジュアル姿もフェミニンな雰囲気を醸し出して惚れちゃいそうです。あっ、ごめんなさい、初めてなのに馴れ馴れしい言い方を許してください」
「ウフフッ、お世辞でも嬉しいです。どなたかに聞いて来店されたのですか、それとも雨宿りするためだったのですか??」
「雨宿りを兼ねて美味いカクテルを飲みたいなと思って……」
「あっ、そうだった。何をおつくりしますか??」
カウンターに入った女は髪をアップにまとめてクルクルと巻き、最後にボールペンをピン代わりにして留める。

リズム感のある手際の良さに自然と笑みが浮かび、
「トムコリンズをください」
「少々、お待ちください」
アイスピックで丸氷を作り、形を整えるために布で包んで両手で擦る。
「普段は100%のレモンジュースを使っているのですが、今日は絞りますね」
「ありがとう」
シェーカーに氷を入れて、ジンとレモンの搾り汁、フロストシュガーを加えて素早くシェークし、トップを外して最後の一滴までコリンズグラスに移してソーダを注いでステア―し、飾り切りしたレモンを添えて、どうぞと差し出す。
「いただきます……美味い。ジントニックが好きなのですが、あなたがシェークする姿を見たくてトムコリンズにしました。味もシェークする様子も素晴らしいです。雨宿りで立ち寄るには勿体ないバーです。乾杯していただけますか??あなたも何か飲んでください」
「それでは私がジントニックをいただきます」

流れるような動きでジントニックを作った女は、
「隣に座らせていただいてもよろしいですか??」
どうぞ……何かを期待して声が掠れていなかったかと男は頬を赤らめる。
女が隣のスツールに座るのを待って、
「雨が教えてくれた素晴らしい店と、腕のいいバーテンダーさんに乾杯」
「乾杯……バーテンダーには違いないけど店は閉めちゃったし、この格好だし……私の名前は、まなみ。愛が美しいと書いてまなみ。愛美と呼んでください」
「それでは、改めて愛美さんとの出会いに乾杯。私は……」
「待って、あなたの名前は聞かない。この次、来てくれることがあったらその時に聞かせて。今日は聞きたくない……勘違いしないでね。この店を開いて1年余り、お客様にこんな事を言ったり、バーテンダー衣装以外を見せたりするのは初めてだから」
「分かった。この次に来た時にボトルを入れて、ボトルキーパーに私の名前を書くことにするよ」
「うん……手付けを置いていってくれる??必ず来るっていう証、約束のようなモノ」
正面を向いたまま話し終えた愛美は男に顔を向けて目を閉じる。
愛美を抱き寄せて唇を合わせた男は濃厚になり過ぎず、かといって挨拶程度でもなく一目惚れを証明するようなキスをする。

雨 -2

男と女

キスを終えた二人は逸る気持ちを隠そうとして視線を合わさず、あえて正面を見てグラスを口にする。
男はバックバーの奥に張った鏡の中の愛美に可愛いよと囁く。
「フフフッ、なんか照れるな。こんな、はしたない誘い方をして変だけど……住まいは別にあるけど、二階が簡単な居住スペースになっているの……あなたの帰りを待っている女性がいればしょうがないけど、いないなら雨が止みそうもないし、衣服が乾くまで雨宿りしていかない??」

愛美に誘導されて二階に上がった男は視線を巡らす。
ベッドやバスタブ付きシャワーユニット以外に目立った家具もなく、衣類はハンガーラックと衣装ケースに幾つかある程度と愛美の言う住まいは別だという言葉を思い出させ、店内の趣味の好い内装との違いに苦笑いする。
「色気のない部屋でしょう。ここは仕事前と終わった後の仮眠程度しか使わないからキッチンスペースもこの程度で間に合うの……シャワーを使って、私も汗を流すから」
ずぶ濡れのズボンとシャツを脱いだ男は下着と靴下だけを残してシャワーユニットの前で立ち尽くす。
「全部、脱がなきゃ洗えないでしょう」
「それはマズイだろう」
「大人の男と女。女の部屋に入った男が今更だよ……諦めなさい。あなたは女郎蜘蛛の糸に絡めとられた雄蜘蛛、捕食されたくなかったら私を満足させなさい」
「愛美さんを満足させるしか、蜘蛛の糸から逃れる方法はないのか??」
「そうなの、さっきも言ったけど、男女を問わず、私以外の人をここに迎えたのは初めてだよ。ガッカリさせないでね……あなたに一目惚れしちゃったの、あなたは??」
「私も愛美さんに一目惚れ……今でもドキドキしてるよ」

「靴下やシャツは脱ぎっぱなしでいいよ。すぐに洗っちゃうから」
唇を合わせたくなるのを我慢した男は脱いだ靴下と下着をその場に残し、シャワーユニットの扉を開く。
コントロールパネルやシャワー用カランの付いた背面以外はクリアーガラスのため素通しで、愛美から丸見えなのが気になるものの、彼女が使用する景色を想像すると股間がピクッと反応する。
ボディシャンプーで全身と髪を洗い、シャンプーを流した男はバスタブに湯を張る用意をしてさっさと出る。

キッチンで手洗いしたのか、男の下着や靴下とシャツをハンガーに掛けた愛美は、ブラジャーとショーツだけを着けた姿の清潔な色気で男を刺激する。
「あらっ、私の下着姿じゃ昂奮しないんだ。悲しいな……私のガウンは小さいだろうからタオルで我慢してくれる??」
タオルを腰に巻いて縮こまったままの股間を隠した男の唇にチュッと音を立てて唇を合わせ、シャワーユニットに近付いてバスタブに湯を張ったのを見て満面に笑みを浮かべる。
ありがとうの言葉とともに愛美は振り返り、屈託のない笑顔に頬を熱くする男は、オレは間違いなく恋していると気持ちが騒めき始める。
背中を見せてブラジャーを外して嫣然と微笑み、ショーツを足から抜く瞬間に股間の陰りを見せる。

愛美は顔の左側を見せてバスタブに浸かり、巧みな手の動きで胸の膨らみの先端を隠す。
男の視線をくぎ付けにするしなやかな指の動きで白い腕を擦り、行儀の悪い格好でバスタブの縁に伸ばした足を見せつけて挑発する。
大部分はバスタブで隠れている太腿のムッチリとした肉感にゴクッと唾を飲み、膝下から踝に続く伸びやかな美しさに頬を緩める。
「どうしたの??裸の女を見るのが初めてではないでしょう??」
眉を吊り上げ、怒った振りをする男を焦らすようにボディシャンプーで全身を泡まみれにして、アッカンベーと舌を出す。
一見、クールに見えるけど積極的で、自分の意思を曲げない女性とイメージしていた愛美の茶目っ気に男の気持ちが穏やかになり、
「ワインを1本持ってくるよ」と、声をかけて店に戻り、チーズとクラッカー、白ワインとグラス2脚を用意して戻る。

バスローブ姿でベッドに座る愛美はチーズやワインを確かめて、
「これは偶然……じゃないよね??ゴーダチーズ、リースリングワインとリースリングワイン用グラス。リースリングワインを選んだのは、二人の時間に相応しいからかしら??」
「能書きを言うほどワインに造詣が深いわけじゃないから、この選択を褒めてもらえるのは嬉しいけど偶然だよ。愛美さんの店を見つけた事と言い、今日の私は人生最良の日を迎えたのかもしれない」
「好いわ、そういう事にしてあげる。開封してくれる??」
愛美に試されている事が分かっても男は平静を崩すことなく、いつも以上に巧く開栓して二つのグラスに注ぐ。

「愛美さんを紹介してくれた雨に乾杯」
「待っていた男性に合わせてくれた雨に乾杯」
顔の前で捧げ持ったグラスで乾杯した二人はフルーティーでキリッとした酸味の白ワインを味わい、どちらともなく顔を近付けて唇を合わせる。
蕩けるような唇の感触に酔い舌を絡ませて満足感に満ちた時間を過ごせることを確認した二人は、糸のように伸びた唾液が二人をつないで離れがたい思いを示すのを朱に染めた瞳で見つめる。
「恥ずかしい……男の人とこんな風に過ごすのは久しぶり」
「可愛いよ。今までも雨は嫌いじゃなかったけど、それは嫌な事を洗い流してくれるからだった。今日は改めて、雨が引き合わせてくれる出会いもある事を知って、もっと好きになった」
「あの日の雨が止んでいたら、すれ違っていただけかも……少し違うと思うけど、こんな詩の歌があったよね、知らない??」
「多分、西野カナさんの、ifだと思う」
「そうだ、それ、ifだった……明日、買いに行く。今度、あなたが名前を教えに来てくれたら、その曲で迎えてあげる。他のお客様がいても二人だけの秘密」

雨 -3

愛撫

男はガウンの紐を解いて愛美の白い肌を露わにし、胸の膨らみの先端にチュッとキスをする。
「クククッ、もう一つは??……仲間外れにされたら寂しいって言ってるよ」
反対側の乳首をベロッと舐めて、ゴメン、寂しかった??と呟いて、チュゥ~と音を立てて吸い上げる。
「アンッ、エッチ。いやらしい男は嫌いじゃないよ」
「じゃぁ、こんな事をしても嫌いにならないでくれる??」
ガウンを大きくはだけてグラスを手に取り、胸の谷間にワインを垂らす。
「ウッ、冷たい……ハァハァッ、昂奮する。思った通りの男……」
白い肌に広がるワインを舌と唇で舐めとり、臍に向けてツツゥ~と垂らす。
羞恥と快感で息を荒げる愛美の腹部が上下する度にワインが波打ち、男の股間が隠しようのない昂ぶりでタオルを押し上げる。
腰に巻いたバスタオルを開いて屹立するペニス見せつけて愛美の瞳が妖しく揺れると、ズズズッと音を立ててワインを吸い取り、股間を見つめる。
「何か言って……あなたに遊ばれるのって昂奮するけど、私だけ燃えるのって恥ずかしい」

「やっぱり愛美は左側から見られたいんだな。今は顔の右側を見せるのが自然なのに顔を背けて左側を見せようとする」
「何か意味があるの??私は何も意識してないけど」
「右脳左脳ってのが一時期、流行ったろ。左脳は論理、右脳は非論理的な感情や芸術、創造性などを司るって……バスタブに浸かった時も今も愛美は顔の左側を見せる。左側は右脳につながり本音や直感、感情を表しているらしいよ」
「あんっ、そんな左脳的な事は言わなくてもいいの。私の直感があなたを求めているの、もっと遊んで……」
愛美さんと呼んでいたのが呼び捨てになり、私がオレと呼称も変わり、愛美も男も本音を剥き出しにする。

愛美の脚に触れてワイングラスに注目させ、ワカメ酒を意識させる。
両足に力を込めた愛美はこれでいいのと声を震わせ、瞳は赤く染まって妖しく揺れる。
「オレにとっちゃ、リーデルやバカラのワイングラスよりも愛美グラスの方が好いよ……ワインを注ぐよ」
「ハァハァッ、だめっ、自然と足が震えちゃう。ワインが零れちゃうかも」
零れると言われては足の震えに合わせてユラユラ揺れる恥毛の動きを楽しむ余裕もなく、唇を近付けてズズズッと啜り、肌に張り付く恥毛を噛んで引っ張ったり揺らしたりして刺激する。
男の頭に添えた両手に力を込めた愛美は、股間を突き上げて腰を艶めかしく蠢かす。
股間を押し付けられる息苦しさを堪えると恥毛が鼻と口をくすぐり、滲み出た花蜜が頬に触れて愛美への愛おしさが募る。

口を大きく開け、大陰唇を覆うようにしてハァッ~と温かい息を吹きかけると、イヤァ~ンと男の欲情を声で刺激して身体を反転させ,うつ伏せになる。
黒髪が乱れ、ガウンは愛美の肌を守るもののムッチリとした太腿の裏側の白さが際立ち、膝下から伸びやかに足首に続くラインにゴクッと唾を飲む。
腰に巻いたバスタオルを外し、最後の砦のように愛美を守るガウンを剥ぎ取り、爪の先で足首から触れるか触れないかの微妙なタッチで撫で上がり、膝裏で円を描いて腿の裏を刷くように付け根に向かうと、ウッウッウゥッ~と艶めかしい声を漏らして両手の指先が白くなるほどシーツを握り眉間に皴を作る。
「立ち仕事で疲れているだろう??ふくらはぎが少し張ってるような気がする……マッサージしようか??」
「もう若くないのかなぁ……でも、今はいい……久しぶりなの、気持ちよくさせて、おねがい」
「ムラムラする思いを発散すると楽になるかもしれないね」
「クククッ、ばかっ、それじゃぁ私はセックスに飢えた女みたいじゃない。蜘蛛の糸を張り巡らせて好い男がかかるのを待っていたの……期待はずれでガッカリさせないでね」
ベッドに顔を埋めて横たわる愛美から緊張する様子が消えてリラックスし、シーツを掴んでいた指が開き眉間の皴も消えて穏やかな表情になる。

足の甲に人差し指から小指まで四本の指を添えて親指で足裏を押し、表情が緩むと足指を摘まんで順にマッサージする。
「気持ちいぃ。疲れが解れてリラックスしすぎで、しどけない格好になっちゃいそう」
フゥッ~……尻の割れ目に息を梳きつけると再び緊張が蘇ってキュッと力を込める。
「いやぁ~ン、そんな事をされたらゾクゾクする」
愛美は開ききっていた手を軽く握り、男を意識することなく頬を緩める。
男はその手に自分の手を重ねて尻を甘噛みし、残る手で腿を擦り膝裏で指先が円を描く。
尻を甘噛みしてチュッチュッと音を立てて唇を這わせ、そのまま背骨に沿って唇と舌で愛撫して首筋から耳の裏まで温かい息を吐きながら舌で刷いていく。
「アァ~ン、お尻を噛まれるのも気持ちいい。あなたの愛撫に私の身体が合わせようとしている気がする。ウックゥッ~……手をギュッと握って離さないで」
重ねるだけの左手は指を絡ませて固く握り、耳朶を甘噛みして乾いた舌先がゾロリと舐めて息を吹きかける。
「ヒィッ~……アウッ、イヤンッ、頭の中をあなたの息が駆け回るような気がする。ダメッ」
首と言わず肩と言わずに全身が総毛立ち、男が重ねてくれた左手に力を込めて握り返し、右手は指先が白くなるほどシーツを掴む。
足指を伸ばしたり曲げたりして襲い来る快感を堪え、穏やかだった表情が歓喜で歪む。

プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード