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エイプリルフール

エイプリルフール -4

対面座位でつながる男はアユの尻と腰を抱えるものの、堅い床に座ったままではクッションを利用する事も出来ず、思うように刺激を与えられない。
ハァハァッ・・・アユは男の、男はアユの荒い息遣いさえも新たな興奮の愛撫に代えて瞳を真っ赤に染める。
アンッアンッ、ウゥッ~・・・両手を健の肩に置いて身体を支えたアユは円を描くように下半身を蠢かし、自ら与えた刺激で喘ぎ声を漏らす。
男は左手をアユの背中に回し、右手で乳房を揉みしだく。
「アユの中は温かくて気持ち良い・・・オッパイはオレの手にしっとり馴染むし、いつまでもつながっていたい気持ちだよ」
「うん、私も・・・あなたのモノが温かくて身体の芯まで気持ち良くなる。ウフフッ、こうするとどんな感じ??」
両足を踏ん張るアユは男を見つめて口元を緩め、肩に置いた両手を支えに身体を上下する。
「ウッ、気持ちいぃよ・・・アユはスケベに磨きをかけていくね・・・」
「イヤンッ、そんな言い方しないで。気持ちいぃんだもん・・・アウッ、ウッウッ、子宮が・・・あなたのモノが奥まで・・・」
アウッ、アァッ~ン・・・ウッウッ、イッ、イヤァ~ン・・・間断なく喘ぎ声が漏れ始め、身体を上下する事を忘れてしがみつく。

「噛んでも良い??」
返事も聞かず、男の肩に顔を埋めたアユは歯を立てる。
グッ、ウグッ・・・心の奥に隠したアユの気持ちを思うと苦痛の声を漏らす事も我慢する。
「ごめんなさい・・・痕が付いちゃった、血が滲んでる。どうして怒らないの??」
「気持ち良くて我慢できなかったんだろ??怒れないよ」
「・・・そうね、気持ち良くて興奮しすぎちゃった」
身体が快感で満足すれば嫌な事は記憶から姿を消すかと思ったものの、快感が深くなった気の緩みに乗じて不安の元が忍び込んでくる。

両足に込めた力を抜いて男の腿に体重を預けたアユは、
「ねぇ、怒らないで聞いてくれる??」
「噛んだ事??オレに責任があるからオレから話すよ」
「優しいのね・・・聞かせて、今は素直に聞ける・・・と思う」
対面座位でつながったままアユの背中と腰に手を回した男は話し始める。

「本音をぶつけると二人の関係が壊れると思って、イライラする思いを誤魔化すために歯を立てたんだろう??思い上がりなら申し訳ないけど・・・」
「うん、多分そうだと思う・・・でも自分でもよく分からない」
「前にも言ったけど、アユの事は好きだけど一番大切だとは言えない。でもアユと一緒にいるときは、アユ以外の事は考えないし一緒に過ごす時間を大切にしたい。わがままで理不尽だと言われればそうかもしれないけど、嘘は言わなかったし、これからも言わない」
「分かってる。今日の事はちょっとした行き違いだって事も分ってる。あなたは帰るべき場所があるから付き合いは私の意思を尊重するって言われた時、私との時間を大切にするなら束縛されてこそ実感できるのにと思ったのも事実、でも信じる・・・奥さんの事を聞かせてくれる??あなたの事を好きな私にブレーキを掛けるために・・・」

好きという言葉をてらいもなく口にして、気持ちを正直にぶつけるアユを愛おしく思うと同時に申し訳ないという気持ちが込み上げる。
「ブレーキか、嬉しいような申し訳ないような、ごめんね・・・オレが三年の時に年上の妻との間に子供が出来て結婚した。オヤジから出され条件は二つ。一つは、結婚式は親の見栄で葬式は子供の見栄。結婚式を任せることと仕送りを増額するから大学を卒業する事」
「ふ~ン、幸せ??」
「あぁ、幸せだよ・・・言葉にしても詮無い事だけどアユと会う時間が違っていればオレの人生は違ったものになっていたかも分らない」
「クククッ、あなたと奥さんが会った頃の私は1歳か2歳じゃないかな??今の関係でしか、あなたと会う方法はなかったって事ね・・・ねぇ、私の事を少しでも大切に思ってくれるなら私にもわがままを言ってくれる??それでこそ対等でしょう??」
「あぁ、分かった。これからは遠慮しないよ。明日は土曜日だろ、ぶらぶら歩きたいんだけど付き合ってくれるね??」
「いいよ、付き合ってあげる。どこを歩きたいの??」
「神楽坂」
「えっ・・・ウフフッ、いじわる・・・この雑誌に気付いたんでしょう??・・・ありがとう。車じゃなく電車でね、お酒を飲んだり食事をしたり目的もなくぶらぶらしたいな・・・ねぇ、続きはベッドで、ねっ・・・」

首に手を回して身体を支えるアユを股間でつながったまま抱き上げた男は、足元の雑誌を見て口元を緩める。
「何がおかしいの??いやな男、早く・・・ベッドで気持ち良くして・・・アンッ、あなたのモノが奥まで・・・」
尻に手を添えて数歩移動すればいいベッドに向かうと足を進めるたびにペニスが子宮をつつくと顔を顰める。決して苦痛を堪えられないと表情ではなく、刺激を楽しんでいるようにも見える。
ウフフッ・・・何か思い出したか??・・・「うん、あなたの予約してくれた大阪駅につながるホテルで待ってたら軽トラで迎えに来てくれたんだよ。すごくびっくりした」
「実家にいただろう、好きな女性とデートするから車を借りるよとも言えないし・・・でも、面白がっていたじゃないか」
「おねだりしたからとは言え、大阪でデートだからしゃれた雰囲気を用意してくれるのかなと思ったら・・・ウフフッ、楽しかったよ。軽トラでデートなんて何度も出来る事じゃないもん」

ベッドに寝かせたアユと正常位でつながる男は乱れ髪を整え、可愛いよと囁いて頬を撫でると気持ち良さげに目を閉じる。
閉じた瞼に唇を合わせると、アンッ、いやッと男の琴線に触れる艶めかしい声を漏らす。
「瞼のキスが好き。私の新しい性感帯・・・ジュンって何かが滴る感じがした」
「アユの可愛い喘ぎ声がオレの気持ちを心地良くくすぐる・・・ジュンってなったのを感じた瞬間、オレのがピクピクしたのを分かった??」
「うん、分かったよ。愛されていると確信した・・・好いでしょう??二人だけの時は・・・大丈夫。すべて承知してるから・・・」
「ごめん・・・エイプリルフールメールに過剰反応しなければアユに嫌な思いをさせなかったのに、ほんとうにゴメン」
「大丈夫だって。あなたの事を好きだって確信できて良かったとさえ思ってるよ・・・アンッ、ほんとに怒るよ。チンチンが小っちゃくなっちゃった」
「ごめん・・・許してくれる??」
「許さない、これは絶対に許さない・・・私の中に入ってるのに小っちゃくなるなんて許せるはずがないでしょう」
「ごめん・・・止めようか??」
「クククッ・・・途中で止めるなんて、もっと怒るよ。舐めてあげる・・・気持ち良くなんないと明日の神楽坂が楽しくないでしょう。ねっ、ナメナメして大きくしてあげる」


                       << おしまい >>

お伽噺

心花 -1

「バイバイ・・・浮気しちゃダメだよ」
馴染みの店を出たところで、いつに変わらぬ言葉で見送りを受けたオレは、いつもと同じコンビニに入り冷凍ケースの前に立つ。
美味い酒を飲んでの帰り道、アイスバーをかじりながら空に浮かぶ月を見て歩くのが気に入っている。
最近のお気に入りアイスを探していると、近付いた女子店員が、
「いつものは品切れです。夕方、見た時にはもうなかったんです」
いつだったか美味い酒を飲んだ帰りに必ず立ち寄る店内は他にも客がいる時間帯なのに、その日は、たまたまレジ付近には女子店員しかいなくて、
「飲み屋さんからの帰りでしょう??この甘いアイスが良いんですか??」
「酒を飲んでいる最中は楽しいんだけど、一人歩いて帰る時間は、むなしく感じることもあるんですよ・・・そんな時は、この甘いアイスが寂しさを癒してくれる」
そんな会話をしたこともあって、最近は差し障りのない範囲で挨拶以外の言葉も交わすようになっている。
他のレジが空いていても彼女がいるレジに並ぶこともある。

ガリガリ君を手にしてレジの前に立つと、
「今日から700円以上で、クジを1回引けますよ」
「う~ん、それじゃ、このビッグフランクを5本ください」
「えっ、アッ、ごめんなさい・・・余計なことを言っちゃいました・・・いいですか??・・・それでは、クジを1回引いてください」
「じゃぁ・・・これでいいや」
「開けますね・・・当たり、キャラメルが当たりました。取ってきます」

新手の押し売りに掛かっちゃったな・・・と、思いながらも不快な感じはなく、棚に向かう女子店員の後姿を追う。
「これです。キャラメル・サレ・・・美味しいですよ。私は好きです、これが・・・」
じゃ、プレゼントするよ、と言っても受け取らないし、次の客が近付いてきたので店を出る。

ガリガリ君をかじりながら、空を見上げると真ん丸な月が優しく微笑みかけてくる。
月に住むと言うウサギを探しながら、ゆっくり歩いていると靴音が近付いてくる。
コツコツコツッ・・・ハイヒールらしい靴音が大きくなるにつれて、グリーンノートの香りが鼻孔をくすぐる。
コツッコツッ・・・近付いてくる女性が不快に感じないように、そっと横を見ると、茶目っ気を感じさせるクルクル動く瞳がオレを見つめている。
好い香りですね・・・なんとも間抜けた言葉が口をつく。
「良かった・・・お気に入りのエルメスの香水なの。私には、そのアイスが魅力的なんだけど・・・」
「かじる??・・・良いよ、どうぞ」
「ガリッ・・・うぅ~ン、冷たくて美味しい・・・その袋は何が入ってるの??」
「これっ??・・・フランクフルトソーセージだよ」
「それを、待っている人がいるの??」
「いないよ。700円以上買えばクジを引けるって言うから買っただけだから」
「食べたいな・・・お腹が空いちゃった」
「この先の公園のベンチに行こうか・・・あっ、大丈夫。何もしないよ。ソーセージを食べるだけだから」

酒屋の前の自動販売機で紅茶を買って言葉を交わすこともなく無言で公園を目指す。
吐く息に混じるアルコールの匂いと、お気に入りだと言う香水の香りに、女が仕事で頑張った昼間の疲れを感じて心が穏やかになってくる。
チラッと女の表情を盗み見ても、初対面のオレを警戒することなく、なにやら楽しげに歩いている。
昼間は母親に連れられた幼児やボール遊びに興じる男児でにぎやかな公園も、夜の帳が下りてガーデンライトの明かりに照らされるこの時刻は、人っ子一人見ることもなく不気味にさえ感じる。
公園の入り口が見える奥まで進み、ベンチに並んで座る。
プシュッ・・・プシュッ・・・女はコーラを、オレは紅茶のプルトップ缶を、音を立てて開ける。

「どうぞ・・・」
「ありがとう、変な女だと思ってる??」
正面を向いたまま、ソーセージを一口食べた女が問いかける。
「初対面の男がかじってるガリガリ君を食べる女子はいないだろうな・・・そう考えると、確かに変わってるね」
「仕事で失敗しちゃったの・・・愚痴を言いたいんだけど、知り合いには弱みを見せたくないし・・・つまんない意地みたいなもんだけどね。普段、男になんか負けないって突っ張っているから、愚痴もこぼせないの・・・」
「そうか、いくら美しい人でも名前も知らない人に慰めや励ましの言葉を掛けるような事は出来ないけど愚痴を聞くだけなら出来るよ。欝々とした気分で内向するより、発散した方が良い時もあるだろうからね」
「美しい人・・・お世辞って好きじゃない」
「・・・何があったのか知らないけど、自分の美しさを知っているのに拗ねたような事を言う人は好きじゃないな」
「ごめんなさい・・・愚痴を聞いてくれる??相槌も助言も必要ない、あなたの言う通り吐き出したいの、すべてはそれから」

今日の仕事の失敗、これまで仕事の成果を正当に評価されなかった事、友人や昔の恋人との関係など吐き出せずにため込んでいた不満をぶちまけた女はオレの顔を覗き込む。
「どう、嫌な女でしょう??・・・助言は必要ないけど感想を聞かせてくれる??」
「あなたが頑張ってるのはよく分かったよ。ほんの少しだけ息抜き出来ると良いね」
「そう思うんだけど、正当な評価をされない悔しさで次もまた頑張っちゃう・・・クククッ、悪循環ね。冷静に考えてみると、私に対する他人の評価は正当なものかもしれない」
「間違えてないよ、きっと・・・オレはそう思う」
「どうして??私の事を何も知らないのに」
「詳しくは知らない。でも、美人だって事は知ってる。それだけで十分だろう」
「ウフフッ、私を口説いてる??」
「口説いたりしないよ。美しい人が弱ってる時になんとかしようなんて、さもしいことは考えないよ」
首を傾げてオレの言葉の意味を忖度していた女は破顔一笑してオレを見つめる。
「落ち込んでなければ口説くの??・・・提案があるんだけど、金曜日の同じ時刻、この場所で口説いてくれない??」
「チャンスを与えてくれるんだ。たとえ雨っぷりでも口説きに来るよ」
「ありがとう・・・久しぶりに本心から笑えた。金曜日を楽しみにしてるね」

お伽話

心花 -2

不思議な縁で結ばれそうな女と別れた帰路、夜空で微笑む満月に視線を移すと自然と笑みが浮かぶ。

金曜日の約束を確認した女はオレの手を取り、手の平に心花と書いて、
「私の名前。読める??」
「心花と書いて、どう読むか??幾つか読み方があるけど、みか・・・みかさん??」
「スゴイ・・・正しく呼んでもらったのは久しぶり。同じ名前の人と付き合ったことがあるの??」
「ないよ、たまたま知っていただけ」
「字も読み方も好きなんだけど正しく呼んでもらえないと寂しいよね・・・ありがとう」
ベンチで隣り合って座り、覗き込むようにして相好を崩した表情で見つめられると妙にドキドキして思わず顔を背けてしまった。
「ウフフッ、照れてるの??好い女に見つめられると恥ずかしい??・・・金曜に口説かれるのを楽しみにしてる。これ以上そばにいると口説かれる前に口説きたくなりそうだから帰るね・・・ウフフッ、金曜が楽しみ。今日は、ありがとう」
立ち去る心花の後ろ姿は凛として、見ず知らずの男に愚痴をこぼした事など感じさせずに颯爽と歩いていく。
エルメス香水の残り香はインド洋に浮かぶ孤島で砂浜に寝転がってみる景色を想像させ、スパイシーな爽やかさの中に緑や海の匂いを感じさせる。

心花はどの店の雰囲気に合うかと想像しながら歩いていたものの、揶揄われている事を全く想像していない事に苦笑いを浮かべる。
あれほどの好い女とひと時とは言え楽しい時間を過ごせたことを喜ぶ余裕があるかと自らに問う。
金曜日、心花と名乗った女性が来なくても腹立たしく思うことなくブランコを揺らす事が出来るだろうと結論して空を見上げる。


「ごめんなさい、待たせちゃって」
先日と同じベンチに座って時刻を確かめているタイミングで目の前に立つ心花は、爽やかな笑顔と香りでオレを魅了する。
「心花さんはピタリだよ。私が早く来ただけだから」
「クククッ、この前は確か・・・オレって言ってなかった??」
「今日はまだ酔ってないし、心花さんの魅力に負けちゃってるね・・・焦ってるように見える??」
「ごめんなさい、そんな意味じゃないから気にしないで・・・う~ん、この間の約束って言うか話を忘れてくれる??」
「えっ、どうして?・・・・そうか、そうだよね。ごめん、本気にしたわけじゃないから安心していいよ」
「言い方が悪かった、ごめんなさい・・・今日の私は誤ってばかり。約束だから口説いてもらうんじゃなくて、その気になったら口説いて欲しいの・・・ダメかな??」
「口説く時は本気でって事だね、いいよ分かった・・・そのための時間をもらえるんだろう??」
「うん、もちろん・・・です。ウフフッ・・・」
「食事は済ませた??・・・私も済ませたから、バーに付き合ってくれる??」
「オレの方がいい。あの日以来、あなたの事をオレでイメージしてたから。ダメ??」
「クククッ・・・飲みに行こうか??オレと」
「あぁ、不自然。今のオレは嫌味だよ・・・罰として、もしも私が酔っ払ったら面倒見ろよ、分かった??」
こぼれそうになる笑みを隠すために空を見上げると、先日の満月から右側がほんの少し痩せた月が、上手くやれよと微笑んでくれる。

「少し歩くけど大丈夫??」
「大丈夫、優しい事は分かってたけど気配りをありがとう。ハイヒールでも平気」
数分歩いて、フランス料理とワインの店に入り予約してあった二人用個室に案内される。
ワインに詳しくない男はいつものように料理をオーダーしてそれに合うワインを選んでもらう。
「鴨肉のコンフィは赤ワインの方が合いますが、どうします??」
「今日は何が何でも白とは言わないで任せるよ・・・私にも人の意見を聞く耳があるからね」

「白が好きなんだ。コンフィに合わせて赤は私のためなの??」
「店自慢のメニューだから美味しく食べてもらわないと店にも心花さんにも失礼だからね」
「ワインの飲み方がどうのって講釈を垂れるより好きだよ。好きなものを好きなように飲む、必要があればプロの助言を受け入れる・・・仕事のパートナーもそんな人なら良いんだけどね。あっ、ごめんなさい」

鴨肉のコンフィ、生ハム、野菜サラダ、ピクルスなどを口にしながらワインを飲むうちに二人の精神的な距離が接近し、絡み合う視線に妖しさが混じる。
男は焦りを隠すようにグラスのワインを一気に飲み干して渇きを潤し、胸が締め付けられるような思いに苛まれる心花は最後に残った生ハムを口にする。
「この後の予定は??」
「今日は金曜だからもう少し一緒にいたい。心花さんの時間をオレにくれる??」
「もう少しでいいの??・・・どれくらいの時間??」
男はポケットからカードキーを取り出して心花に見せる。
「クククッ、セクハラだよそれは」
「そうか、そう取られてもしょうがないね・・・場所を替えて飲み直そうよ」
「飲み直しか・・・魅力的な言葉だけど、あなたの下心が気になるし、はいはいって言うほど安い女と見られるてるのかなぁ??」
「その言葉は心外だな。一目惚れ、降参します。飲み直しの機会を与えてください、お願いします」
「ウフフッ、分かった、分かったから、もう止めて」

ホテルのロビーは週末を過ごす人や食事をする人たちでにぎわい、ラウンジで奏でるピアノ曲が立ち寄る人々の表情を和ませる。
男に促されて部屋に入った心花はテーブルを見つめて、エッと驚きの声をあげて背後に立つ男を振り返って顔をほころばせる。
真っ赤なバラの花が一輪とシャンパンクーラーに入ったボトルが二人を迎えてくれる。
「キスしても許してあげる」

お伽話

心花 -3

心花の額に掛かる髪を整えた男が顔を近付けていくとハァハァッと息を荒げながらも視線を外すことなく見つめ返す。
「久しぶりなの、優しくしてね・・・」
男はチュッと音を立てて額に唇を合わせて離れてしまう。
「あぁ、バカにしてる。
キスしたくなるほどの魅力を感じないの??」
「夜は長いよ、心花さん相手に焦りたくない。オレは典哉と書いてフミヤ、正しく呼んでもらうのは半分以下かな」
「フミヤ・・・さん。好い名前だと思う。典哉さんと心花、何か通じるものがあるね、そう思わない??」
「思うよ。乾杯しようか・・・バスの用意をしてきてもいいかな??」
「好いよとは言いにくいわね。待ってて、手を洗ってくるから」
心花が姿を消すと同時に風呂を用意する音が聞こえる。

ワインクーラーから取り出したボトルについた水気を拭いてキャップシールを切り取りストッパーを外す。
コルクに指をかけてしっかり握り、ゆっくりボトルを回すとコルクが浮いてくるのが分かる。
なおもボトルを回してコルクが抜けそうになるほど浮き上がってくれば、コルクとボトルの隙間からガスが抜け出るのを待って栓を抜く。
二つのグラスにシャンパンを注ぎ入れて乾杯する。
「美味しい・・・シャンパンとこのバラの花は私のために用意してくれたの??」
「そうだよ。真っ赤なバラの花一輪の花言葉と共に受け取ってもらえたら嬉しい」
「口説き文句と思ってもいいの??・・・ありがとう。真っ赤なバラの花言葉は、あなたを愛しています。一輪の意味は一目惚れって事だよね??違った??」
「そうらしいよ、にわか知識で花屋さんに教わったばかりだから間違いないと思う。それに、シャンパンはシャンパーニュ地方で作られたもので、産地が違えばスパークリングワインって呼ばれるけど、そのシャンパーニュ地方ではシャンパンの泡に幸せがこもっていて、泡がシュワシュワするのは幸せが続くって意味があるらしいよ」
「それは酒屋さんに教わった事なんでしょう??」
「くどかったね、ごめん・・・乾杯しようよ。心花さんとの出会いに乾杯」
「乾杯・・・満月の日のガリガリ君に感謝しなきゃ。それと、さん付けは止めてくれる??ここまできて心花さんは、ちょっとね・・・ミカって呼んで欲しい」
「クククッ・・・ミカ、美しいだけじゃなく好い女」
「ありがとう・・・ねぇ、キスして、誤魔化さないキスが好い。後悔させないでね」

心花は仕事を通じての人間関係や別れて久しい恋人を原因として他人との距離感に悩んでいたが、目の前の典哉に対しては自分から距離を詰めようとしている事を意識する。
なぜだろうと自問すると氷のように固まりつつあった気持ちが、典哉の笑顔で少しずつ氷解していく事に思いを巡らす。
屈託のない笑顔は北風と太陽のイソップ寓話のように心花の気持ちを解きほぐし、典哉に会った翌日から他人を信じる気持ちが強くなったような気がする。

向かい合って座っていた典哉は伸ばした両手を左右に開き、心花は誘われるままに立ち上がって左膝に座る。
「ねぇ、優しくしてね。男性とこんな事をするのは久しぶりだから」
無言の典哉が左手を背中に回して心花を支え、右手が頬を擦ると、
「ミカって呼んで・・・お願い」
典哉が優しく微笑んで、
「ミカ、可愛いよ」と囁くと口元を緩めて目を閉じる。

男は視覚で恋をして女は聴覚で恋をするという。
典哉の可愛いよという声で目くるめく悦びに包まれる心花は、目を閉じて耳に残る余韻に酔いしれる。
典哉は頬を紅潮させて目を閉じる心花の美しさにときめき、心の昂ぶりのままに唇を重ねる。
二度三度と啄むように唇を合わせて心花の反応を確かめ、唇を挟んで舌先でつつき迎え入れようと唇が開くと舌を侵入させる。
舌を重ねて擦り、性急と感じさせないように絡ませると久しぶりだと言った心花が反応を示して息を荒げて舌が妖しく蠢き始める。
互いの舌が口腔を出入りし、典哉が半開きにした唇を丸めると心花の舌だけが出入りを繰り返す。
「クククッ・・・いやらしいキス。私の舌がチンチンになって女の子に出入りするような感じを味わった。典哉はスケベ、エッチな男は好きよ」
「風呂の準備が出来る頃じゃない??」
「キスが気持ち好いから忘れてた・・・フミヤが先に行って、私も後で・・・ねッ」
嫣然と微笑む心花の容姿は典哉の股間を直撃して服を脱ぐのが躊躇われる。
「オレが先でなきゃダメか??」
「先に行けない理由があるの??・・・ふ~ん、今更照れてもしょうがないでしょう。見せて・・・」

下着も脱いで素っ裸になった典哉の股間には半立ちの象徴がぶら下がり、心花は視線を外す事が出来ずに唾を飲む。
待ってるよ・・・見せてと言いながら見つめるだけで立ち尽くす心花に何も強要することなく、さわやかな笑顔を残した典哉はバスルームに向かう。

フゥッ~・・・バスタブに肩まで浸かった典哉は両足をバスタブの縁に載せて両手を宙に伸ばし、思い切り身体を伸ばす。
「あらッ、リラックスしているね。フミヤにとって、文字通り裸の付き合いを始めてする私は緊張する必要のない女・・・嬉しいわ」
皮肉交じりの言葉にも嫌味な感じはなく、心花の表情は楽し気に笑みが浮かぶ。
「そうだよ。満月の夜に声をかけられた時も懐かしいって言うか、初対面って感じはしなかった。今もオレの腿を跨ぐミカを背中越しに抱きしめるのが自然な気がする」
「クククッ、これでいいの??」
両手で胸と股間を隠した心花は後ろ向きでバスタブに入り、背中を典哉に預けてゴリゴリ押し付ける。
顔をしかめた典哉が背中越しに胸の膨らみを揉み、先端を摘まんで、これでどうだと問うと、
「イヤンッ、そんな・・・卑怯な事を」
「クククッ、お茶目で可愛いな」
耳元で囁くと抵抗は止み、満面に笑みを浮かべて振り返ると同時に目を閉じる。

お伽話

心花 -4

氷を入れたシャンパンを口に含み、振り向いた心花に口移しで流し込む。
「冷たくて美味しい」
「じゃぁ、これはどうだ??」
氷を口に含んで心花の肩に滑らせると、キャッと驚きの声をあげ、その後はこれも気持ち良いとされるがまま楽しむ。

振り向いた心花の頬を擦り唇に指を這わせて、ミカに会わせてくれた神様にお礼を言わなきゃいけないなと呟くと、閉じていた目を開いて口元を緩め、
「クククッ・・・私と出会えたのがそんなに嬉しいの、証拠を見せて。信じさせて・・・」
真っ赤に燃える瞳は典哉の言葉に嘘が混じるのを許さず、同時に隠しようのない欲情がチロチロと燃え始める。
「真っ赤なバラの花に込めた思いに嘘はないよ、信じて欲しい」
仕事の成果を正当に評価されなかった事、友人や昔の恋人との関係など不満に思っていたことを見ず知らずの典哉に吐露した事を思いやると、決して言葉に嘘を混ぜてはいけないし裏切るような言動で傷つけまいと心に誓う。
「信じる。信じられると思えばこそ、赤の他人だったあなたに聞いて欲しかったの・・・本当の事を教えてあげようか。この間は愚痴を聞いてもらうほど仕事の付き合いがギクシャクしてたんだけど、フミヤに会ってから気持ちに余裕が出来て、何日かだけど、スムーズに進み始めたの」
「ほんとう??それは嬉しいな」
「うん、ほんとうだよ。男性は信じられるし愛おしい存在だって教えてくれる??愛する幸せを思い出させて欲しい」

話し終えた心花は後ろ向きから典哉を睨みつけるように立ち上がり、両手を垂らしたまま胸も股間も隠すことなくすべてを見せつけて立ちつくす。
「感想は??・・・私に一目惚れしたんでしょう??何も隠すことなく目の前に立ってるんだよ」
見ず知らずの典哉が食べていたガリガリ君を欲しいと言った大胆さを蘇らせ、その中に羞恥を滲ませて挑発するような言葉は上擦り、両足をフルフル震わせる。
小さな三角形に整えられた恥毛は心花の持つ上品な色気を際立たせ、典哉は思わず手を伸ばす。
濡れて肌に張り付いた恥毛は心花を守る最後の砦となって、奥で佇む華麗な花弁を隠す。
見つめられ、触れられる羞恥に堪えられなくなった心花は、
「ダメ、恥ずかしい。足が震えているでしょう??強がって恥ずかしさを隠そうとしたけどダメ・・・ハァハァッ」
肩に置いた手で身体を支えて崩れ落ちるように腿を跨いで座る心花の背中に左手を回し、右手を胸の膨らみに当てると全身から力が抜ける。
「本当に久しぶりなの・・・男の人を、うぅうん、フミヤの事を大切な人だと思わせて、お願い・・・めいわく??」
「オレの想いはバラの花に込めたし、ミカの気持ちは受け取った」
「ありがとう・・・フミヤが相手だと素直になれる。恥ずかしくてまだ震えてる、わかるでしょう??」

瞳を見つめ、羞恥に揺れるのを確かめた典哉は心花を抱きしめる。
「痛い、嬉しいけど苦しいよ・・・出ようよ、ベッドで、ネッ・・・洗わせて」
典哉の身体を泡だらけにして洗った心花は股間で宙を睨むモノを見つめて、
「これは後のお楽しみ、フミヤが自分で洗って・・・ウフフッ、逞しい」
遊び慣れてる風を装うものの声は震え、昂奮で乾く唇に何度も舌を這わせ頬を紅潮させる。
髪の毛から足先まで心花に任せて股間だけを自分の手で洗った典哉は、先に出るよと言い残して肩越しに手を振りベッドに向かう。

フルートタイプのシャンパングラスに残った液体を飲み干した心花は、
「あなたと同じくらい私の身体はイケてると思うんだけど、どう思う??・・・グラスのあなたには答えられないか??」
見かけだけに惚れた前の男は最低の奴だった。
何をするにも自分優先で優しさの欠片も持っていない男だった。
フミヤは違う。壊れかかっていた仕事上の人間関係を回復できたのは、彼のお陰。束の間の会話を楽しんだだけなのに人を信じる力を与えてくれた。

「お待たせ・・・あらっ、てっきりスッポンポンでベッドに横たわっていると思ったのに」
部屋の明かりを消した心花は、窓際の椅子に座って景色を楽しんでいるような典哉を癪に思って口を尖らせる。
「その表情が可愛い。黙っていると美しさが際立ち、やわな男は気後れして、それを誤魔化すためにきついことを言いたくなる。喜怒哀楽を表情に表すと、ミカの魅力が増すし接しやすくなる」
典哉の指摘は思い当たる節がある。
「私は美しいんだ。ふ~ん、そうなんだ・・・こうして近付くとフミヤも気後れして何もできないの??」
ボディソープの香りと糸屑一本身に着けていない身体をバスタオルで包んだ心花は、典哉の両足を揃えて太腿を跨ぐ。

「正直に言って、何をしたいの??景色を見たいの??・・・こんな好い女を目の前にして、それはヤボってもんじゃない??」
典哉の首に両手を回して、悪戯に満ちた瞳をクルクル動かす心花はウソを許さないよと、わざとらしく覗き込む。
唇を重ねて唾液を交換するような濃厚なキスを交わし、抱きしめたままバスタオルを剥ぎ取って一糸まとわぬ姿にした心花を立ち上がらせる。

暗闇を背景にして隠すもののない肌を晒す心花を窓から忍び込む月明かりが照らし、見つめる典哉は美しさに圧倒されて唾を飲む。
優しい月明かりに照らされた肌はバスタイムの余韻と昂奮で乳白色に輝き、心花はすべてを見られる羞恥心が快感に変わっていくのを意識する。
「恥ずかしいのに気持ちいぃ。熱いの、我慢出来ない。抱いて・・・」
立ち上った典哉は心花を抱きしめ、そのまま窓に押し付ける。
「いやっ、見えちゃう。フミヤだけに見て欲しいの、知らない人になんか見られたくない」
「大丈夫だよ。ミカが灯りを消したおかげで真っ暗、公園を歩く人が見上げたとしても見えないよ」
振り返った心花が視線を落としても夜の公園を歩く人はなく、モノレールの軌道は静かに佇んでいる。
プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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