窓
「どこなの??ベッドじゃないでしょう??」
抱き上げられた桜子は目隠しをされたままなので場所が分からず不安の言葉を口にする。
「下ろすよ。手を伸ばせば身体を支えることが出来るからね。いいね、分かったね??」
「なに、なに??冷たいしツルツルしている。鏡なの??もしかして、窓なの??」
「よく分かったね。桜子が手をついて身体を支えているのは窓だよ。目隠しのせいでレインボーブリッジを見ることが出来ないのが残念だろう??」
「オッパイもアソコも見えちゃう。いやっ、やめて」
「大丈夫だよ。部屋の灯りは落としてあるからスポットライトでも照射されなきゃ見えないよ。桜子はオレだけのモノ、誰にも見せない」
「嬉しい、私はあなたの女。約束だよ、柏木さんが自分でそう言ったんだからね……入れて、あなたとつながりたい」
「入れる前にナイティを脱いでもらうよ。このまま立ちバックでつながるとオレには桜子の肌が見えないからね」
剥ぎ取るようにナイティを脱がせ、足を開いて尻を突き出せと命じる。
「これでいいの??こんな格好は恥ずかしい。笑っちゃ嫌だよ」
幼少の頃から、この子の将来が楽しみだ。美人になると言われて育ち、長じてその言葉に変化があったとすれば将来が今に変わった事だった。
今の仕事に就いてからは指名客の人数は恵まれたものの身長が高いこともあって、お客さまは綺麗だねと言ってくれても誘いにくい雰囲気があると間接的な表現で言われたこともある。
自分から打ち解けて男性に頼るという性格でもないので他人が思うほど男性経験は多くないと思っている。
高浜に連れられて柏木が来店した時、一目惚れしたのも事実だが桜子を特別に意識することなく普通に接してくれたことも惹かれた理由だと思う。
高浜が桜子を指して、どうだスタイルは好いし美人だろうと言っても視線を逸らすこともなく、聞いていた以上だよ、ハマが褒めるのは間違いじゃないと言っただけで、冗談でも誘うわけでもなく楽しそうに水割りを飲んでいた。
お代わりを作ろうとして伸ばした桜子の手と偶然触れても動揺する事もなく、ゴメンと一言詫びただけで済ませた。
桜子の方が動揺して異変を高浜に指摘される始末だった。
そんな柏木にバックスタイルで貫かれるのだと思うと口から心臓が飛び出てしまうのではないかと思うほどバクバク、ドキドキして平静ではいられない。
「恥ずかしい。変なところを見ちゃ嫌だよ、こんな浅ましい格好であなたとつながるなんて……」
「夜の東京湾の景色を見ながら桜子とつながる。入れるよ」
ペニスが秘所に擦りつけられると窓に伸ばした手を握り、唇を噛んで足指の先に力を込めて悦びの瞬間に備えようとする。
摘まんだペニスを蠢かして十分に馴染ませ、腰を掴んだ手に力を込めてグイッと突き出すとあっけなく姿を消していく。
「ウッ、ウッ、アワワッ……くるくる、入ってくる。アウッ、ウゥッ~、こうして欲しかったの、嬉しい……ハァハァッ」
窓ガラスに手をついて自らの身体を支え、背面立位でつながっては柏木にしがみつくこともできず、息を荒げて悦びに浸るしかない。
ペニスを奥深くまで突き入れて円を描くように腰を蠢かし、背中に上半身を重ねて乳房を揉みしだくと、ウッと甘い声を漏らして崩れ落ちそうになる。
足を踏ん張り乳房に添えていた両手で桜子の身体を支えると、
「ダメ、腰が落ちそうになっちゃう。久しぶりのエッチがあなたとだから、立っているのも辛いほど気持ちいいの」
「気持ち善くなってくれて嬉しいよ。オレと桜子が初めて結ばれた日、大切にしたいし焦ることはないな」
桜子との結合を外すことなく背後の椅子に腰を下ろし背面座位に変化する。
「独りで楽しむには勿体ないから桜子にも見せてあげる……目隠しを外すよ」
「きれい……宝石箱をひっくり返したような美しさって言うけど、今見ている景色がそうだよね」
ライトアップされたレインボーブリッジが虹色に輝き、暗い海は湾を取り囲む建物や街路灯を映して宝石を散りばめたようにキラキラ光る。
波に翻弄される木の葉のように散りばめた宝石がユラユラ揺れる幻想的な景色に見入る桜子は、うっすらと窓に映る自らの痴態に気付いて悲鳴にも似た声を漏らす。
「イヤッ~、映っている、窓に映っているの」
「見るだけじゃダメだよ。桜子の女の部分がオレの男を美味そうに咥えこんでいる処を触ってみなさい」
「いやっ、そんなことを言わないで……触ってもいいの??」
恐る恐る伸ばした指が結合部をなぞり、猛るペニスに浮かぶ血管に指を這わせる。
「なに??ゴツゴツしてる。あなたのチンチンなの??」
「桜子を悦ばせるために思い切り大きくなっているんだよ、だからゴツゴツ節くれだったようになるんだよ」
「クククッ、変な抑揚をつけて赤ずきんのオオカミになったつもりなの??」
「そうだよ。オレはオオカミだよ。桜子を啼かせるために犯しちゃうんだよ」
「啼かせて、嬉し涙を流すほど苛められたい」
「もう一度、立って窓に手をつきなさい」
再び背面立位に変化して桜子の腰を掴んで大きく、ゆっくりとピストン運動を繰り返す。
グチャグチャ、ヌチャヌチャッ……桜子と柏木のモノが戯れて嬉し涙を流し、それが卑猥な音を奏でて二人の欲望にさらなる火を点ける。
「クゥッ~、あなたが腰を引くと私の昔の想い出が内臓と共に引き出されて、押し込まれるときは、あなたとの新しい想い出を記憶に刻まれるような気がする」
「そうか……こうやって腰を引くと桜子の想い出をオレのカリが引きずり出して、押し入るとオレの記憶が桜子に刻みこまれるのか、桜子は可愛い女だよ」
「もっと、激しいのが好い。壊れちゃうほど責められたい」
ピシッ……ヒィッ~、気持ちいい、痛くされると胸がキュンとなる……パンパンッ……きついっ、凶暴なチンチンが私を苛める、もっと激しく……尻を打たれると甲高い悦びの声を漏らし、ペニスを突き入れられると桜子の瞳に映る東京湾の夜景が揺れる。
ペニスを出し入れする度に桜子の背中が妖しく蠢き、ヴィーナスのえくぼが微笑んで見える。
「気持ちいぃ……東京湾の夜景がこんなにきれいだなんて、あなたの手が私の身体に触れる場所が性感帯になるって言ったけど、あなたといると景色さえもがいつもと違って見える」
満足
一目惚れした柏木を誘いドライブを楽しみ鴨川シーワールドで嬌声を上げた桜子はホテルの窓辺で立ちバックで貫かれ、女に生まれた悦びに浸りながら宝石箱をひっくり返したように煌びやかな東京湾の夜景に魅せられる。
ライトアップされたレインボーブリッジやそこを走る車のライト、湾を取り囲む建物から洩れる明かりや人々を誘ってやまない夜の街の灯り、高いビルが発する赤い航空障害灯など何気なく見ていた夜景が愛おしく思えてくる。
「ウッウッ、気持ちいぃ。もっと奥まで、あなたをもっと、いっぱい感じさせて」
「桜子が気持ち善くなってくれて嬉しい。ウッ、オレも気持ちいい。温かく包み込んで襞がウネウネする……オッ、どうしてるんだ??」
「うそ、私は何もしてない。あなたのモノを包み込んでウネウネしてるの??ほんとうなの??」
「あぁ、本当だ。奥へ引きずり込もうとしているようだよ」
「クゥッ~、気持ちいい……アウッ、グゥ~、そんな事をされたら壊れちゃう……ヒィッ~……」
背面立位でつながったまま、桜子の右足を抱え込んで身体が傾いたのも構わずにペニスを打ち込むと一層奥深くまで突き入り、突く場所も変わって予期せぬ刺激で悲鳴を上げる。
桜子の身体はオレが支えるからと言われても傾いた身体を支えるために両手を窓枠につくと、視線はレインボーブリッジを外れてホテルの真下にある自由の女神像やお台場海浜公園を捉える。
身体を捩って結合部を覗き込もうとしても見えるはずもなく、またもやペニスがあらぬ場所をつついて新たな刺激に歓喜の声を張り上げる。
「ヒィッ~、たまんない……すごいの、こんなことって……もうダメ、立っているのが辛い」
右足を支えられているとはいえ、片足立ちで悦びに震えるのは限界だと言う桜子を促し、つながったままでベッドに向かう。
「ベッドに上がるから一旦抜くよ」
挿入したペニスを引き抜き、桜子を抱き上げようとすると、
「ほんの少しでいいからこのまま、ねっ……」
仁王立ちの柏木に嫣然として跪き、愛液にまみれて濡れそぼつペニスをパクリと頬張る。
ジュルジュル、ヌチャヌチャッ……アッと言う間もなくペニスを口に含んだまま、左手が尻を抱えて右手でペニスの付け根を摘まんで顔を前後する。
「ウッ、クゥッ~、桜子の口はオマンコのように温かくて気持ちいい。舌で竿を嬲ってくれ……ウッ、玉を弄られるのもいい、清楚で上品な桜子がセックスの化身になったようだ、たまんないよ」
プファ~……フェラチオに熱中して喉の奥深くまで咥えこみ、息の続く限界まで舌を絡ませて陰嚢をサワサワと刺激していた桜子は、パニスにまとわりついていた滑りと唾液が口元を汚すのも意に介する様子もなく真っ赤に染めた瞳で上目遣いに見つめる。
両脇に手を差し入れて抱き起してベッドに押し倒し、口元の汚れを舐めとると桜子は両手を首に回して抱き寄せ、ビチャビチャ、ヌチャヌチャと卑猥な音を立てて唾液を啜る。
「チンチンに付いていた滑りも舐めとってくれたの??」
「もとは桜子のマン汁だろ??」
「私のマン汁が好きなの、ウフフッ……子宮めがけて火傷するほど熱いのを吐き出して……入れて」
正常位でつながる桜子の乱れ髪に手櫛を入れて整え、可愛いよと囁くと恥ずかしいと呟いて顔を背ける。
逸らした視線の先には窓があり、遠い向こうにレインボーブリッジと真っ黒な海が見える。
ライトアップして華やかなレインボーブリッジは夢や憧れにも似て柏木に抱かれる幸福感につながり、暗い海は欲望の深さを感じさせて柏木との関係に不安の予感もする。
「ウッ、じっとしていても気持ちいい。あなたの体温を感じる……ねぇ、一つ聞いてもいい??」
柏木の首に手を回してじっと見つめ、嘘は聞きたくない本心を聞かせてと無言のうちに伝える。
「なに??SMプレイをしたいとか??」
「バカ、あなたに抱かれるなら調味料は必要ない。私の事を好い女だって言ったでしょう……素材の良さを生かすも殺すも調理人次第。あなたの腕の中で私は、もっと好い女に育つの」
「そうか、オレを信じてくれるのか。聞きたい事って??」
「私はあなたが好き。あなたが私の事をどう思っているか聞きたい……正直な気持ちをね」
「今の正直な気持ちは……気持ちいい。桜子の襞がウネウネとオレを包み込んでくれるし肌はしっとりとして吸い込まれそうなほど馴染んでいる。昔からの付き合いのように安心できる」
「……それでもいい、百点じゃないけど許してあげる。また、お店ではなく外で会ってくれる??」
「オレの方こそお願いしたい。今日だけじゃ寂しいなと思っていたよ」
「ウフフッ、約束だよ……もうダメ、気持ちが安心したから身体も満足しちゃったみたい」
張り詰めた気持ちを解き放った桜子は首に回した手を離し、唇に舌を這わせて目を閉じる。
顔を背けることなく真っすぐ見つめたまま目を閉じる桜子を避ける術もなく、ツンツンと唇を合わせ、唾液を啜るような濃厚なキスをする。
恥骨をぶつけるように腰を押し付けて腰を蠢かし、桜子の目の縁がほんのり朱を帯びて快感を表情に表すとゆっくりと腰を前後してピストン運動をする。
ヌチャヌチャ、ニュルニュルッ、結合部が卑猥な音を奏でて桜子の身体が自然とずり上がろうとすると柏木は左手を首に巻いて動きを制御する。
「アァッ~、気持ちいい。あなたを一目見た時の印象が間違えてなかった。あなたに一目惚れしたの……」
「オレもだよ。桜子に初めて会った時に懐かしいような気持になった」
「こうなる運命だったのね……クゥッ~、あなたのモノが私の中でピクピクしている、まだでしょう??まだダメだよ、もっと、もっと、善くなるの」
両手を尻に添えて腰が浮くほど抱き寄せ、股間を擦りつけると悦びを現して柔和だった桜子の表情が一瞬辛そうになる。
「ウグッグッ、きつい。あなたのモノが子宮をこじ開けて中に入っちゃいそう……クゥッ~、こんな事って、すごい」
尻から離れた左手が再び首を抱き、右手が桜子の左足を抱えて腰を打ち付ける。
「どんな格好になっても襞が包み込んでウネウネと中に引きずり込もうとする。離れられなくなっちゃうよ」
「嬉しい。あなたの女になってあなた色に染まりたいから、ずっとこのままでもいい……アウッ、アワワッ、そんな奥まで……壊れちゃう」
桜子の右足を跨いだまま左足を跳ね上げて肩にかけ、猛り狂う怒張を子宮めがけて突き出すと顔を左右に振って髪を振り乱し、壊れちゃうと叫んで唇を噛む。
肩にかけた左足を下ろして両足を揃えさせて跨ぎ、挿入は浅くなるけど結合部を密着させて股間を押し付けると桜子の両手は柏木の背中を抱いて、
「もうだめ、逝っちゃう。もう何度目か分からない……アァ~ン、気持ちいぃ」
「オレもだ、気持ち善い、逝っちゃうよ……出ちゃうよ」
「ちょうだい、最後まであなたを感じさせて。奥に頂戴」
「ウッウッ……ウグッ、出ちゃったよ」
「ヒィッ~、すごい、熱い、すごい……あなたの熱いモノが私の女に降り注いだ……イヤンッ、このまま動かないで、あなたを感じるんだもん、ピクピクしてる」
ピロートーク
湯を張ったバスタブに浸かり夜の東京湾を照らす煌びやかな夜景に魅せられる柏木はバスルームのドアが開く気配に視線を向ける。
柏木に視線を向けることなくシャワーブースに入り、背中を見せたまましゃがみ込んで股間を洗い終えると振り返り、羞恥を浮かべてニコッと微笑む。
邪知のない可憐な笑顔に股間が反応しそうになり、両手で湯を掬ってブルブルッと顔にかける。
「私の背中を見たい??それとも正面??」
「桜子の顔を見ていたい」
「ウフフッ……これでいい??」
足を伸ばしてゆったり浸かることのできるバスタブの反対側に入り、足を絡めるようにして顔を見合わせると柏木は視線を外して夜景を見る。
「私に興味がないの??それとも意気地なしって呼ばれたい??」
「そうだな……興味はあるよ。桜子に興味がないって言うほど野暮じゃない」
「ウフフッ、意気地なしなんだ……こんな風にするとドキドキする??」
柏木の両足を跨いで少しずつにじり寄り、顔が接するほど近付いていく。
「私に興味がないわけじゃないんでしょう??どうして顔を逸らすの??」
「困らせるなよ。オレは自信家じゃないから、そんなことを言われても……」
「出ようよ。続きはベッドで問い詰めてあげる」
「取り調べのようだね」
「そうだよ、覚悟してね」
カーテンを開け放ったままナイティを着けてベッドに上がるとサラサラとしたシーツの感触が心地好く自然な振る舞いで柏木は左腕を伸ばし、桜子もまた当たり前のように腕枕される。
「幸せ……はしたないと思われたらどうしようと思いながら誘って良かった。断られたら店を辞めたかもしれない。そうなったら、あなたの責任だったんだよ」
「次もアリなら、オレが誘ってもいいか??」
「あれっ、今度はあなたが誘ってくれるって約束したのを忘れたの??お店は遠いから高浜さんに誘われた時だけで勘弁してあげる。店の外で会いたいの、忙しいって言うなら私があなたの家まで行くよ」
「オレが愛撫する処が性感帯になると言ってくれたけど、琴線に触れるとは桜子がオレにかけてくれる言葉の事だよ……」
「ウフフッ、ほんとう??じゃぁ、ご褒美を頂戴」
腕枕したまま体重をかけないように覆い被さり額に掛かる髪を整えると眩しそうに見上げて、
「早く、焦らしちゃ嫌」
柏木は舌を突き出して唇をつつく。それに応えるように桜子の舌が這い出て宙でつつき合い絡みつく。
舌が躍り、絡み合う二人は昂奮で息を荒げる。
ハァハァッ……ジュルジュル、ヌチャヌチャッ……桜子の上下の唇を甘噛みして舌先で唇を刷くと、柏木の首に両手を回して抱き寄せ、焦らすのは嫌だと言わんばかりに濃厚なキスを自ら仕掛ける。
覆い被さる柏木がゾロリと唾液を流し込むと瞳を真っ赤に染め、白い喉を上下して嚥下する。
クククッ……再び腕枕をしたまま横たわる柏木を見ることもなく暗い天井を見つめたまま桜子は思い出し笑いする。
「どうした、気持ち悪いな。何か思い出しちゃったか??」
「だって、おかしいんだもん。同伴でしゃれたお店や高級な食事をごちそうになることはあるけど、シャチのショーを見て水浸し……あんなに笑ったのは久しぶり」
「しゃれた店を知らないし、桜子に喜んでもらおうと考えたらシャチに思い至っただけだよ。おかしいか、そうか、そうだよな、ゴメン」
「誤解しないでよ、楽しかったんだから。食事を終えてこの部屋に戻った時、シャンパンを用意してくれたでしょう……しゃれた店を知らない人のする事じゃないよ。あなたの過去に嫉妬しちゃいそう」
「退職してからも高浜さんともう一人、三人の付き合いはずっと続いているんでしょう、いい事を教えてあげようか」
「うん、聞きたい」
「どうしようかな……ただじゃ嫌、ご褒美をくれたら教えてあげる」
柏木は右手の人差し指で桜子の左胸をつつく。
「アンッ、ポッチンに当たったけど、これじゃご褒美じゃない」
胸の膨らみの先端を指先で擦り、腕枕した左手が右胸の麓をヤワヤワと揉み始める。
「イヤンッ……クゥッ~、ねっ、言ったでしょう。あなたの触れる処が私の性感帯」
「嬉しい事を言うね」
指の腹で擦り、手の平で擦る。手の平がくすぐったく感じるまで円を描くように蠢かすと、桜子は眉間に皴を刻み、舌が唇を這う。
「アンッ、そんな事をされると……ウッ、クゥッ~、もう一度、抱いてくれるの??我慢できなくなっちゃう」
「好い事って何か、教えてくれるんだろう??」
「アンッ、意地悪……」
柏木の指が先端を摘まんでキュッキュッと捻ると目を閉じ、下唇を噛んで顔を仰け反らせる。
白い喉が艶っぽくて思わず唇を重ねようとすると、桜子が目を開ける。
「男の人には可愛げのない女に見えることもあるらしくて、しばらく男性と親しく付き合ったことがないの……それで、高浜さんに好い人いないかなって言ったら、居るよ。気に入るかどうか分からないけど、気後れすることなく桜子ちゃんの相手をする男がって、今度連れてくるからって言ってくれたのが柏木さんだったの」
「光栄だね、ハマはオレの事を何て言ったの??」
「クククッ、背の高い桜子ちゃんにサイズ負けすることはないし、上品で清楚、加えてスケベな好い女が好き……酷い言いかたでしょう。元同僚って聞いたから、粗野でがさつ、何か問題を起こしてクビになった男性を想像したの」
「それはヒドイな。桜子が悪いのかハマの言いかたが悪いのか分からないけど。で、印象は崩れた男って事だったのか」
「言ったでしょう、崩れたって言うのは好印象だって、会社帰りでスーツ姿のお客様が多いから新鮮だったの。それに一目惚れしたから……ウフフッ、今は腕枕をしてもらっている。私の印象がどうだったのか聞かせて……」
胸の膨らみを包み込むように添えた手を動かすこともなく、耳元に顔を近付けて息を吹きかける。
「イヤンッ、あなたの触れる場所が性感帯になっちゃうんだよ。気持ち善くなったら責任取ってくれる??」
「クククッ、桜子が相手なら一晩に3回は出来るだろうな、試してみるか??」
「バカッ、無理しなくていいよ。ねぇ、私の印象を聞かせて」
「水割りを作るとき流れるような動きで無駄がない。姿勢が好いし、表情が良かった。無理に合わせようとして不自然な笑顔を浮かべることはないし、凛として格好良かったよ」
「じゃぁ、どうして誘ってくれなかったの??」
「自信家じゃないから、桜子のような好い女を口説くには水割りの量が足りなかった」
「酔っぱらわせないと口説いてもらえなかったんだ。ザンネン……はしたないかなと思ったけど私が誘って正解だったんだ。ウフフッ、ねぇ、私の事が好き??」
「あぁ、好きだよ」
「指切りして、ねぇ、指切り……私の事を誘って店の外で会うって約束してよ」
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のます、指切った……約束したよ」
「これからはオレが誘うって約束するよ」
「うん、安心したら眠くなった。寝るのは時間がもったいないけど、楽しい明日は寝ないと来ないもんね」
「夢ン中で桜子がドッカへ行っちゃわないように腕枕してるよ」
「私が迷子にならないように心配してくるの??嬉しい」
「おやすみのキスをしよう」
二度目のデート
朝食はルームサービスで済ませ、11時過ぎにチェックアウトするまでベッドから離れることなくじゃれ合っても飽きることはない。
二人で朝を迎えるのが初めてと思えないほど気持ちも身体も馴染んでいた。
互いの記憶を身体と心に刻み込もうとしてまさぐり合うと性的渇望が蘇り、自然と男と女の象徴に手が伸びる。
二度目のセックスでようやく欲望が治まり平静を取り戻すことが出来た。
昼食を終えて桜子が住むマンションに送り、美味しいコーヒーを淹れるから寄って行くかという誘いを楽しみは次に取っておくと言って婉曲に断った。
桜子の誘いに嬉々として応じ、ダボハゼのように食らいついた一度目のデートを思うと次はオレが誘うと約束したものの連絡するのを躊躇する。
二週間を過ぎて、そろそろ連絡しないと記憶から洩れるかなと思い始めたタイミングで仙台の近郊に住む友人から誘いを受けた。
日帰りの予定で誘いを受け、これも何かの切っ掛けと思い、帰宅後、連絡することにした
当日、用を済ませて仙台駅に送ってもらったタイミングに合わせたようにスマホが着信を知らせてくれる。
「もしもし、私……分かるでしょう??」
「えっ、うん、分かるよ、もちろんだよ」
「じゃあ、名前を呼んでくれる??」
「桜子ちゃん」
「良かった、忘れられたのかと思っちゃった」
「明日にでも連絡しようと思っていたから驚いちゃったんだよ。それより、どうした??」
「インフルエンザに罹っちゃって寝込んでいたんだけど、完治したって先生のお墨付きを貰ったの。お店からもらった休みは残っているし、それで連絡したんだけど今は何しているの??」
「仙台駅で帰りの新幹線の切符を買うところだよ」
「東京駅、それとも大宮駅??インフルエンザは完治したから迎えに行ってもいいでしょう??」
「……仙台まで来ないか??帰るつもりだったけどホテルを予約するよ。急でムリかな??」
「無理じゃない、すぐに出る。長い間、待たせちゃ悪いもんね」
新幹線ホームから階段を下りてくる桜子は病み上がりとは思えないほど溌溂として歩く姿も凛として格好いい。
周囲を気にする様子もなく柏木に向かって手を振り、気付いた人は桜子と視線の先で微笑む柏木を見比べる。
「待たせちゃった??急いできたんだけど、ごめんね」
「来てくれてありがとう。バッグを持つよ」
バッグを持つ柏木に手を添えて歩く桜子は笑みを絶やすことなく横顔を覗き込み、
「初めての時は私がホテルのラウンジであなたを待っていたでしょう。私はあなただと直ぐに分かった。駅で待っていてくれたあなたは私が直ぐに分かった??ねぇ、どうだった??」
「分かったよ、桜子を見間違うわけがないだろう」
「ウフフッ、惚れているって言っても迷惑じゃないよ」
ホテルを目指して10分ほど歩き、部屋に案内されると桜子の頬が紅潮する。
「青葉山公園ですか??」
天井から床までの窓の向こうに見える景色を指差してベルボーイに問いかける。
「左様でございます。広瀬川を渡れば青葉山公園で政宗像がございます。明日、お時間があるようでしたら散策されるとよろしいですよ」
ベルボーイが退室するとテーブルに視線を移して、この間のシャンパンの様なサプライズがないのかと不満顔になる。
「インフルエンザ完治のお祝いをオプションで用意してもらっているよ。食事から帰った後の楽しみにしておこうか」
「ほんとう??ねぇ、なに??教えてよ……いじわる、ウフフッ」
「牛タンを食べに行こう」
フロントに立ち寄り、何軒かの牛タン専門店を教えてもらって中央通りを国分町に向かって歩く。
「不謹慎な言いかたになっちゃうけど、国分町って震災からの復興途中で賑わったところでしょう??夜の仕事を始めた頃、先輩に聞いたことがある。東京からも流れて行った人がいるらしいって……」
「何かで聞いた記憶があるよ。復興に携わる人たちも人間だから、食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求から逃れることはできない。オレの実家は関西で神戸淡路震災の直接の被害はなかったけど、近くのJR駅は被害があったし親戚や友人が被害を被った。数か月前に結婚したばかりの友人もね……震災後、ビルの地下で営業していた風俗店の再開は早かったらしいよ。水さえあればってことでバケツの水で……衣食足りてナントカって言うけど、性欲は生きる力にもなるんじゃないかな」
「クククッ、じゃぁ、牛タンで食欲を満たした後は、性欲、睡眠欲の順で満足させてくれるの??」
「仙台の牛タン、桜子の身体、桜子を抱いて眠る。幸せな夜になりそうだ……桜子に連絡してよかったよ」
「あのね、連絡したのは私。あなたじゃない、忘れたの??」
「ごめん、そうだった。明日連絡する積りだったから勘違いしちゃった」
地下に続く階段を下りた店で定食、牛タン冷しゃぶ、牛タンスモークなどを堪能し、
「せっかくの国分町、どこかで飲んでいこうか??」
「ホテルのバーでもいいし、部屋でも飲める。帰ろうよ」
高浜に言わせると、店では凛として口説く隙も見せてくれないという桜子が柏木の腕を巻き込むようにして歩くのを見ると、どう反応するかと思うと自然と表情が緩む。
「どうしたの??ニヤニヤして気持ち悪い」
「えっ……桜子のような好い女と歩いていると思うと嬉しくなっちゃうのはしょうがないだろう」
ホテルに戻った桜子は欲情を隠そうともせずにキスをねだり、お風呂の準備をしてくるねとバスルームに向かう。
桜子の喜ぶ顔を想像するとこみ上がる笑みを堪えることが出来ず、フンッと咳払いをしてコーヒーメーカーをセットする。
「大好き……花を浮かべたバスなんて南国のリゾートホテルみたい。お湯を足せばいいんだよね」
「花に埋もれてバスタイムを楽しむ桜子。桜の花じゃないと思うけど似合うだろうな。コーヒーを飲む??」
「うん、飲む、バスタイムは昂奮を鎮めてからにする」
バスルーム
「バラの花に埋もれた桜子を見たいから先に入りなよ」
桜子はバッグからナイトウェアを取り出して身体に合わせ、
「可愛い??」と囁いて嫣然として微笑む。
「家では、いつもそんな格好しているの??」
「どうして??もしかすると、色っぽくて、惚れちゃいそう??抱きしめたいなって思っている??……ダメ、楽しみは後にとっとくの」
柏木が一歩踏み出すと両手を伸ばして制止し、唇を尖らせてキスの恰好をしてバスルームに向かう。
「惚れちゃいそうだよ」
桜子のいなくなった部屋で独りごとを漏らし、冷蔵庫を開けてスパークリングワインを取り出してシールを切り取り、シャンパングラス2脚と共にバスルームに向かう。
「入るよ」
「ありがとう。フラワーバスなんて予想していなかったからドキドキするほど嬉しい……えっ、シャンパン??そうじゃないの、あなたと飲むならスパークリングワインもモエエシャンドン以上に美味しいはず」
ワインとグラスを桜子に手渡し、かけ湯代わりにシャワーブースに入るとわざとらしく柏木を無視してバスタブに浮かぶバラの花を身体の周囲に集め、立ち昇る香りにうっとりした表情を見せる。
桜子の周囲を飾るバラの花は桜子の活き活きとした魅力を際立たせる。
赤や真紅のバラの花の華やかさ、白やピンクの清潔感、黄色い花に感じる可憐な印象は桜子の魅力にそのまま通じる。
バスタブに浸かって屈託なく笑みを浮かべる桜子を挑発するように萎れたままのペニスをしごく振りをすると、満面の笑みと共に掬い取った湯をシャワーブースにかける。
大袈裟に驚いたふりをすると笑顔を浮かべていた表情が文字通り破顔大笑して早くおいでよと手招きする。
シャワーブースを出てバスタブに浸かると、華やかなバラの香りが鼻腔をくすぐる。
「早く開けて」と、スパークリングワインを差し出す。
ストッパーを外してコルクが飛ばないように親指で押さえたボトルを傾け、ガスをゆっくりと抜いて開栓する。
「フフフッ、上手。コルクを飛ばさないしガス抜きも巧くできた、格好いいよ」
「桜子に褒めてもらうと嬉しいな。すごい事をしたような気になるよ」
グラスにスパークリングワインを注いで乾杯する。
冷えたワインが喉を通る心地好さに酔いしれ、冷静さを取り戻すとバスルームを満たすバラの花の香りで幸せな気分になる。
「サプライズは嬉しいけど、洒落たことを何度もされるとあなたの過去に嫉妬しちゃう……初めてお客さまとして迎えた時、あなたは高浜さんに聞かれて、今は付き合っている人がいないって答えていたでしょう??あれは本当なの??」
「あれから2か月近くなるだろう。今は付き合っている女性がいる積りだよ……桜子と付き合っている積りなんだけど、オレの勘違いかなぁ??」
一瞬曇った桜子の表情が真っ赤なバラの花のように輝きを取り戻す。
「クククッ、あなたの触れる場所が私の性感帯だって言ったでしょう。今は耳が性感帯になったようで言葉が心地好い。お口も性感帯かどうか確かめてみて……」
鳥が餌を啄むように互いの唇をつつき、突き出した舌をつつき合い絡ませたりする内に隠しようの無い性的昂奮で瞳が赤みを帯びてハァハァと息を荒げる。
「可愛いよ……オレは桜子と付き合っている積りなんだけど、間違いないよな??」
「アンッ、そんな事は聞かなくても分かるでしょう。私はあなたに惚れているの、一目惚れ」
柏木がワインを口に含むと桜子は目を閉じ身体を寄せてくる。
そっと抱き寄せて唇を合わせ、ワインを流し込むと白い喉を上下して嚥下する。
「ウフフッ、美味しい。辛口のスパークワインって冷やして飲むものだって思っていたけど温かくても美味しい」
「桜子が美味しいって言ってくれるとオレは飲まなくても美味い気分になるよ」
「口移しだと百倍も美味しくなる。バラの花と芳香に包まれてワインを口移しで飲ませてもらう……インフルエンザに罹って辛いと思っていたけど、そのお陰でお休みを貰って仙台のホテルにいる。インフルエンザって好きになっちゃいそう」
「おいで、オレの背中に寄りかかるようにしなさい」
「これでいいの??お顔が見えないのは寂しけど、背中越しに抱きしめられると、あなたに守られているようで落ち着くし幸せな気分になる。いつまでもこのままでいたい気持ちになっちゃう」
「バラの香りに包まれて桜子を抱っこしていられるならずっとこのままでも好いな。ほら、オッパイに自然と触れることが出来るし、下腹部から腰や太腿を撫でることも出来る。フゥッ~、耳に息を吹きかけて、桜子好きだよ……愛を語り、髪に顔を埋めて桜子の匂いを胸いっぱいに吸い込む。桜子のすべてに触れることが出来るような気がする」
「すごく穏やかな気持ちになれる」
シャンパングラスを手に取って口に運び、
「私の味覚はいい加減。シャンパンでもスパークリングワインでも辛口は十分に冷やさないと美味しくないと思っていたけど、温かくなっているのに美味しい」
店での印象は淑やかにして穏やか、静かな女性と思っていた桜子が能弁になり、性的好奇心を隠そうともせずに腕の中にいる。
桜子を背中越しに抱きしめたまま手に持つグラスを桜子の口元に近付けるとゴクゴクと音を立てて飲み干す。
「シャボンまみれの身体を擦りつけて洗いっこしようよ」
柏木はバラの花を集めてトレーに載せ、手にしたボディソープを桜子の胸に谷間に垂らして塗り広げる。
「ダメだ、桜子は触れちゃダメ。オレの楽しみを奪わないでくれよ」
「クククッ、くすぐったい……あなたの身体にも振りかけて、こうするの」
バスタブの中で立ち上がり、向かい合って抱き合った二人は身体の接触を絶やすことなく上下左右に擦り合う。
手の平でソープを掬い取って背中や腿の裏側を擦り、身体を密着させたまま唇を重ねる。
ニュルニュル、ジュルジュルッ……妖艶なバラの香りに覆われていても清潔感のあったバスルームが二人の発する欲情が充満し、卑猥な空気で満たされる。
ボディソープにまみれて身体を擦り合い、気持ちの昂ぶりをぶつけ合った二人は濃厚なキスをしてバスタイムを終わらせる。
「あなたが先に……ベッドで待っていて……」
改めてシャワーを浴びた柏木はバスローブを着けてバスルームを出る。