2ntブログ

彩―隠し事 314

転生 -19

ホワイトデニムに健志の青と白のストライプシャツを合わせた彩は薄手のカーディガンを羽織り、
「似合っている??」と健志に向けてポーズを決める。
「似合っているよ。可愛いし、きちっと感があるのが好きだな」と答える健志はホワイトチノパンとブルーのデニムシャツで爽やかさを強調する。

好きという言葉に変えて手をつなぐ二人は足取り軽く駅前の繁華街に向かって坂道を下り始める。
「もう少しゆっくり歩くか、歩幅を小さくして。出来ないなら繋いだ手を離して……」
彩は頬を膨らませて立ち止まる。
「クククッ、可愛いなぁ。拗ねた顔もふくれっ面も好きだよ」
「もう、本気で怒っているんだからね。健志が下り坂を普通に歩くと小柄な彩は駆けっこになっちゃう」
「ごめん……手を離そうか??」
「怒るよ……」
「じゃあ、お詫びの代わりに……お姫さま抱っこ、楽ちんだろう??」
右手を膝裏に添えて横抱きで二歩三歩と歩く。
「やめてよ、恥ずかしい。下ろして……ほら、あの子が見ている」
買い物帰りらしく駅前の本屋さんの袋を持った男の子がハァハァッと息遣いも荒く坂道を登ってくる途中で立ち止まる。
「身体の調子が悪いの??」
「えっ、そうじゃないの。歩くのに疲れたって言ったら抱っこしてあげるって……」
「ふ~ん、変なの。下り坂だよ、疲れるはずがないのに……じゃあね、バイバイ」
「バイバイ」
「バイバイ……楽ちんでいいけど下ろして、恥ずかしい」

彩が歩く速さに合わせて歩き始めると悪戯っぽく微笑んで流し目をくれ、ゆっくりになったり早くしたりと悪ふざけで健志を困らせる。
「いじわるをすると嫌いになる??」好奇心を隠そうともせずに健志の顔を覗き込む。
「彩がオレを困らせて喜ぶ意地悪な女だってことは知っているよ」
「意地悪なワルイ子には罰を与えるの??怖い……ウフフッ」
意味ありげに笑みを浮かべた健志は周囲を気にする様子もなく彩を抱きしめる。
イヤッ……声は出さずに口の動きだけで抗議する彩は胸と胸の間で拳を作って抗うものの、顔には笑みが浮かび成り行きを面白がっている。
「悪い子は許さないよ」
彩が精一杯力を込めても男の力に敵うはずもなく、二人の胸の間の両手を右手だけで掴まれて動きを封じられると抵抗することを止めて目を閉じる。
この街一番の賑やかな通りの入り口で周囲の視線を気にする様子もなく彩の唇を奪う健志は背中を撫でて腰を擦る。
「ウッ、ダメだってば。みんな見ているよ……あれっ、見ない振りして通り過ぎる」

「ダメだよ。大人になってもあんな恥ずかしいことをする人を見ちゃダメ。美味しいご飯を食べるんでしょう、お店が閉まっちゃうから急ぐよ」
土曜日の昼食時に店を閉めるレストランがあるはずもないが、路上で抱き合う二人を自分たちの子供に見せるわけにもいかないと手を引いて足早に遠ざかる。
カップルも一人で歩く人たちもキスする彩と健志を見る自分たちが恥ずかしいと言わんばかりに一瞥をくれるだけで通り過ぎていく。

彩の舌をしゃぶり、唾液を啜って満足した健志は抱き締める両手の力を抜いてゆっくり離れる。
「フゥッ~、案外、無視されるんだね」
「彩が逆の立場ならどうする??立ち止まって見つめるか??」
「どうかな……さらっと抱き合い軽くキスしていたら、いいなぁ、幸せそうだなぁって見るかもしれないけど、健志のように濃厚なフレンチキスを目の当たりにすると見る方が恥ずかしく思うかもしれない」
「そうだろ、見る人の方が変態だよ」
「路上でフレンチキスをするよりも見る方が変なの??健志は間違いなく、ヘ、ン、タ、イ」
「そんなに褒めてもらうと照れちゃうな」

モノレールでショッピングモールに移動する。
アリーナやショッピングモール、博物館などもある地区は土曜日とあって家族連れやカップルなどで賑わい、笑顔に溢れた人々に交じった二人は卑猥な思いが霧散する。
お泊りセットとして健志の部屋に置く化粧品や下着を買い、次はルームウェアの店だなと言う健志に、
「必要ない、健志のシャツがいい。彩が着ると嫌??」
「嫌なはずがないよ。可愛いなぁ、キスしてもいい??」
「それはダメ、帰ってからなら、いくらでもさせてあげるから今は我慢して、部屋で二人きりの時はチュッと額にキス。通りを歩きながらフレンチ・キス、嫌じゃないけど変だよ」

駅近くに戻ってビルの地下1階にあるスパイスカレーの店で昼食を済ませた二人はお茶専門店で紅茶とハーブティやフルーツティ、江戸切子のグラスセットを買い終わると、通りがよく見えるカフェで喉を潤す。

荷物が多くなったのでタクシーで帰宅し、一休みした健志は四個分の卵白を泡立てて粗塩と少量の小麦粉を加えて混ぜ合わせる。
「小麦粉を入れるの??」
「鯛にしっかり付けられるし、割った時に飛び散らなくていいよ」
「ふ~ん、そうなんだ……卵黄は使わないでしょう??プリンを作るね」
牛乳と砂糖、買ってきたばかりのバニラエッセンスを用意し、スイーツ作りも好きだと言う彩の流れるような動作に無駄はなく健志の表情は自然と緩む。
鯛の腹に紫蘇とスライスしたレモンを入れて混ぜ合わせた塩の上に紫蘇を敷き、鯛を置いて残りの塩をしっかりと押し付けて形を整える。
彩がプリン作りに集中しているのを確かめた健志は,箸を使って塩釜に何やら字を書いて卵黄を塗りオーブンで焼き始める。
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード