彩―隠し事 238
余韻 -6
スッキリと気持ちの好い目覚めで迎えた日曜日、前日自室に向かう夫が、
「明日はゆっくりでいいよ。疲れをとるために惰眠を貪るつもりだから」
身体の芯に檻のように溜まった疲れを取るにはゴロゴロするよりも身体を動かした方がいいのに、と言いそうになるのを微笑みで誤魔化して、分かりましたと言った。
愛し愛されていると心から思えた頃ならヨガを一緒にしようと誘っただろう。
息を整え、指先や足先まで意識しながらポーズをとると普段使わない筋肉や神経がゆっくりと目を覚まし、身体だけではなく気持ちも活性化するのを感じる。
そんなことが脳裏をよぎる優子はパジャマ姿のままベッドに座り、目を閉じて息を整え、夫や健志、仕事や栞のことも意識から遠ざけて瞑想にふける。
静かに息を整え腹式呼吸を意識すると邪念が消えて頭の芯までスッキリする。
ベーコンをたっぷり使ったほうれん草キッシュ、シーフードサラダ、枝豆のポタージュスープなどのブランチを並べ終わると夫が眠そうな表情のまま現れる。
「いつものことだけど優子の美味い料理の誘惑には勝てない。食欲を刺激されて睡魔がどっかへ行っちゃったよ」
美味そうにキッシュを食べる夫を見つめる優子は思いを巡らす。
二人はお互いを人生の大切なパートナーとして選びともに歩く道すがら、さりげなく路傍に咲く野の花に惹かれて道草をしているのだと自分に言い訳をする。
浮氣を通じて大切な人への思いを新たにすることもあるだろう……浮気の過程で大切だと思っていた人に幻滅を感じるようなら最初の選択が間違えていた。
人は一生のうちで何度も過ちを犯す。間違いをすることは悪いことではない。
過ちを反省し、自分に正直に間違いを正すことが大切なのだと思う。
彩は健志との付き合いを通じて、夫に対する気持ちに揺らぎのないことを知った。
健志と歩く道が幸せのゴールにつながっているかどうか分からないが、夫と歩く道は途絶えることなくゴールに向かっていると確信できる。
今の気持ちを健志に伝えると怒るだろうか……彩は本当の名前じゃないと言ったとき、自分は独身だけどご主人を持つ妻の立場ではリスクある。
本当の名前や仕事、住んでいるところなど知らなくてもいい、オレが知るのは目の前にいる彩、それだけでいいと言った言葉を信じることにする。
連絡は彩からだけで、オレからはしないという約束は守ってくれている。
健志との関係を清算したくなれば連絡することを止めて彩という名をごみ箱に捨てればそれで済む。
彩が連絡した時に抱くことができれば健志はそれで満足するのか……それならば今も着けているプラチェーン下着を穿かせたりしないだろうし、着けるも外すも彩の意思次第で鍵は渡されている。
食事だけでも付き合ってくれるし、それでも嬉しいと言ってくれた。身体を重ねることがなくても満足してくれるのか聞いてみよう。
「ごちそうさま、美味しかったよ。ダルオモの身体に力が漲ったから持ち帰った仕事を片付けることにするよ」
バタン……以前のようにドアの閉まる音が二人の間の厚い壁を連想させることも無くなり平穏な気持ちで居られる。
午後は好きな音楽を聴きながら読書などで身体の疲れを癒し、時計がゆっくり時を刻むのに合わせて穏やかな時間を過ごす、
16時過ぎにまだまだジリジリ肌を焼く太陽に照らされながら買い物に行く。
夫と二人の夕食は何処にでもある夫婦のように遠からず近からず、そばにいて当たり前、良く言えば空気のような存在で無くした時に大切さを知るような関係になっていると感じる。
浮氣をしている夫が優子を大切に思っている心情は言葉や態度のそこかしこに感じられ、優子もまた健志に抱かれて善がり啼きしても夫への愛の炎が消えることがない。
二人とも浮気を続けても気持ちは良好な関係のままであることに身体と心は別なのかと苦笑いが浮かぶ。
「おはようございます。土曜日はありがとうございました。久しぶりに会ったアキは一緒に仕事をしていた頃と変わりなく、直ぐに離れていた時間を埋めることができました」
「妻も喜んでいたよ。この次は私を外して昔よく行った店で、三人で女子会をしたいと言っていました」
「いいですね。ぜひに、とお伝えください……あっ、栞、おはよう」
「おはようございます、課長。土曜日はありがとうございました」
「午前中の仕事を終えて昼食はこの公園のこのベンチ、優子の分も用意してきたよ……うん??礼はいいの、優子と私の弁当はついでだから」
「クククッ、ご主人との仲はどうなの??」
「相手をするのが大変……AVごっこだと言って私を責めるの。土曜日、課長のお宅から帰った私を素っ裸にして、やっと下着を着けるのを許されたのは今朝だよ」
「土曜から日曜、月曜の朝までずっとハダカンボのまま……栞はそれで幸せなの??」
「大好きな旦那様が私以外に目もくれず楽しんでくれるんだよ、こんなに楽しいし、嬉しいことがない……そうだ、木曜日なら優子んちにお泊りしてもいいってお許しが出た、いいでしょう、木曜日」
「えっ、うん、好いわよ」
「覚悟してね、優子の秘密をすべて聞き出しちゃうから、ウフフッ」
駅に向かう道すがら何度かスマホを手にしながら健志を呼び出すことはなく、そのまま帰宅する。
翌日、駅のホームで電車を待つ優子はスマホを手にする。
「もしもし、時間ある??……ホテルのロビーでいいかな……うん、20分くらいで着くと思う」
スッキリと気持ちの好い目覚めで迎えた日曜日、前日自室に向かう夫が、
「明日はゆっくりでいいよ。疲れをとるために惰眠を貪るつもりだから」
身体の芯に檻のように溜まった疲れを取るにはゴロゴロするよりも身体を動かした方がいいのに、と言いそうになるのを微笑みで誤魔化して、分かりましたと言った。
愛し愛されていると心から思えた頃ならヨガを一緒にしようと誘っただろう。
息を整え、指先や足先まで意識しながらポーズをとると普段使わない筋肉や神経がゆっくりと目を覚まし、身体だけではなく気持ちも活性化するのを感じる。
そんなことが脳裏をよぎる優子はパジャマ姿のままベッドに座り、目を閉じて息を整え、夫や健志、仕事や栞のことも意識から遠ざけて瞑想にふける。
静かに息を整え腹式呼吸を意識すると邪念が消えて頭の芯までスッキリする。
ベーコンをたっぷり使ったほうれん草キッシュ、シーフードサラダ、枝豆のポタージュスープなどのブランチを並べ終わると夫が眠そうな表情のまま現れる。
「いつものことだけど優子の美味い料理の誘惑には勝てない。食欲を刺激されて睡魔がどっかへ行っちゃったよ」
美味そうにキッシュを食べる夫を見つめる優子は思いを巡らす。
二人はお互いを人生の大切なパートナーとして選びともに歩く道すがら、さりげなく路傍に咲く野の花に惹かれて道草をしているのだと自分に言い訳をする。
浮氣を通じて大切な人への思いを新たにすることもあるだろう……浮気の過程で大切だと思っていた人に幻滅を感じるようなら最初の選択が間違えていた。
人は一生のうちで何度も過ちを犯す。間違いをすることは悪いことではない。
過ちを反省し、自分に正直に間違いを正すことが大切なのだと思う。
彩は健志との付き合いを通じて、夫に対する気持ちに揺らぎのないことを知った。
健志と歩く道が幸せのゴールにつながっているかどうか分からないが、夫と歩く道は途絶えることなくゴールに向かっていると確信できる。
今の気持ちを健志に伝えると怒るだろうか……彩は本当の名前じゃないと言ったとき、自分は独身だけどご主人を持つ妻の立場ではリスクある。
本当の名前や仕事、住んでいるところなど知らなくてもいい、オレが知るのは目の前にいる彩、それだけでいいと言った言葉を信じることにする。
連絡は彩からだけで、オレからはしないという約束は守ってくれている。
健志との関係を清算したくなれば連絡することを止めて彩という名をごみ箱に捨てればそれで済む。
彩が連絡した時に抱くことができれば健志はそれで満足するのか……それならば今も着けているプラチェーン下着を穿かせたりしないだろうし、着けるも外すも彩の意思次第で鍵は渡されている。
食事だけでも付き合ってくれるし、それでも嬉しいと言ってくれた。身体を重ねることがなくても満足してくれるのか聞いてみよう。
「ごちそうさま、美味しかったよ。ダルオモの身体に力が漲ったから持ち帰った仕事を片付けることにするよ」
バタン……以前のようにドアの閉まる音が二人の間の厚い壁を連想させることも無くなり平穏な気持ちで居られる。
午後は好きな音楽を聴きながら読書などで身体の疲れを癒し、時計がゆっくり時を刻むのに合わせて穏やかな時間を過ごす、
16時過ぎにまだまだジリジリ肌を焼く太陽に照らされながら買い物に行く。
夫と二人の夕食は何処にでもある夫婦のように遠からず近からず、そばにいて当たり前、良く言えば空気のような存在で無くした時に大切さを知るような関係になっていると感じる。
浮氣をしている夫が優子を大切に思っている心情は言葉や態度のそこかしこに感じられ、優子もまた健志に抱かれて善がり啼きしても夫への愛の炎が消えることがない。
二人とも浮気を続けても気持ちは良好な関係のままであることに身体と心は別なのかと苦笑いが浮かぶ。
「おはようございます。土曜日はありがとうございました。久しぶりに会ったアキは一緒に仕事をしていた頃と変わりなく、直ぐに離れていた時間を埋めることができました」
「妻も喜んでいたよ。この次は私を外して昔よく行った店で、三人で女子会をしたいと言っていました」
「いいですね。ぜひに、とお伝えください……あっ、栞、おはよう」
「おはようございます、課長。土曜日はありがとうございました」
「午前中の仕事を終えて昼食はこの公園のこのベンチ、優子の分も用意してきたよ……うん??礼はいいの、優子と私の弁当はついでだから」
「クククッ、ご主人との仲はどうなの??」
「相手をするのが大変……AVごっこだと言って私を責めるの。土曜日、課長のお宅から帰った私を素っ裸にして、やっと下着を着けるのを許されたのは今朝だよ」
「土曜から日曜、月曜の朝までずっとハダカンボのまま……栞はそれで幸せなの??」
「大好きな旦那様が私以外に目もくれず楽しんでくれるんだよ、こんなに楽しいし、嬉しいことがない……そうだ、木曜日なら優子んちにお泊りしてもいいってお許しが出た、いいでしょう、木曜日」
「えっ、うん、好いわよ」
「覚悟してね、優子の秘密をすべて聞き出しちゃうから、ウフフッ」
駅に向かう道すがら何度かスマホを手にしながら健志を呼び出すことはなく、そのまま帰宅する。
翌日、駅のホームで電車を待つ優子はスマホを手にする。
「もしもし、時間ある??……ホテルのロビーでいいかな……うん、20分くらいで着くと思う」