彩―隠し事 237
余韻 -5
「もしもし……こんな時間にごめんなさい、迷惑だった??」
「迷惑なわけがない、嬉しいよ。それより、どうした??」
「眠る前に好きな男の声を聴きたくなっちゃダメ??……好いムードの音楽が聞こえるけどBGMなの??お連れの方に失礼だから切ります」
「連れ??独りだよ、彩と初めて会った日の店、ホテルのバーにいるんだよ。あの日は彩と一緒だったから窓際のテーブル席、今日は独りだからカウンター席」
「ウフフッ、思い出した。独り住まいの無聊を慰めるのに酒を飲みたいときはここに来る、夜景がきれいな窓際の席はカップルのため……健志はそう言った。独りでカウンターは寂しい??隣に彩がいると好いなと思っている??」
「もちろんだよ。でも独りの時間があるから彩といる時間の大切さが分かる、幸せに慣れちゃうのもどうかと思う……」
「……そうなの??彩はいつも健志と一緒、そばにいなくても忘れさせてくれないんだもん」
「クククッ、下着を着けてくれているんだ。ゴールドとプラチナ、どっちを着けているの??」
「プラチナ、ゴールドは首回りがちょっと……冬はともかく秋になって首の付け根が隠れるような格好をしないと着ける勇気がない、ごめんね」
「そうだよな、ネックレスと思えないこともないけど違和感があるよな……マスター、スプモーニを作ってよ」
「えっ、彩のため??……あの日のラストオーダーがスプモーニだった。覚えているよ。陰膳みたいだね、最後はちゃんと飲んでよ」
「あぁ、彩の声を聴きながらスプモーニを飲めば今夜は夢の中でも彩と一緒にいられそうだよ」
「ほんとう??夢の中で彩とどんなことをするの??」
「いつだったか、言っただろ。恋する男は片思いや離れていても幸せだって。夢の中では惚れている女とどんなことでもできる。クククッ……彩の衣服を剥ぎ取って素っ裸のハウスキーパーにするのもいいな。キッチンに立つ彩の背後に忍び寄って髪の生え際から背中に息を吹きかけ、尻の割れ目を指でなぞる」
「そんなことをしてもいいの??料理中の彩は包丁を持っているからびっくりして振り向くと切っちゃうかもしれないし、フライパンが健志の顔に当たるかもしれないよ」
「じゃぁ、料理中は近付かない方がいいな。掃除をする彩を背後から見るのはどうだ??しゃがむたびに脚の間に蜜が滲むオンナノコがチラチラ見える」
「ウフフッ、その時の彩はね、いやらしい視線で犯そうとする健志を刺激するためにわざと見せているんだよ。気付かないの??」
「話が変わるけど、目の前のバックバーにテキーラ、チリカリエンテ.アネホがあるんだけど、じっと見ていると彩の裸体に見えてきた」
「チリなに??……チリカリエンテ.アネホ??ちょっと待って、調べるから……ウフフッ、色っぽいね。色違いのグリーンボトルやベージュボトルよりもアネホって言うの??レッドボトルが好い感じ、コカコーラのコンツァーボトルよりも好きになりそう。今から行きたいな、そのバーに。テキーラでしょう??カクテルをオーダーしてくれる??」
「テキーラベースならマルガリータって言いたいけど、エルディアブロにする。カシスの赤がボトルの赤に通じるし、ディアブロってスペイン語で悪魔って言葉だって……閉店の時刻が近づいたからスプモーニを飲んで帰るよ……彩の声が聞けて嬉しかった、ありがとう」
「もう切っちゃうの??今日はまだ眠くないのに、あ~ぁ、どこかに遊んでくれる男がいないかなぁ……ねぇ、月曜か火曜に夕食を一緒にどう??食事だけで申し訳ないけど」
「いいよ、喜んで相手させてもらいます。夕方から夜は家にいるから連絡してくれる??……うん、待っている。好い子で眠るんだよ、おやすみ。チュッ」
「お酒を楽しんでいる時間を邪魔しちゃってゴメンね。チュッ…
おやすみなさい」
ナイトテーブルに戻したスマホに名残を惜しむ手は離れることを躊躇い、口元を緩めた彩は、
「おやすみ、健志」と呟いて目を閉じる。
決して夫のことを忘れたわけではなく、好きか嫌いかと問われれば好きと答えるが愛しているかと問われれば根っこに夫の浮気があるだけに答えに窮する。
結果として言い訳にしかならないが、健志と付き合うようになって夫婦関係は大切だけど結婚したからと言って一生、他の人を愛さないのが正しいのかどうか揺らいでいる。
いずれ彩が現れることがなくなり夫だけを愛する日が戻ると感じているし、夫も優子だけを愛してくれる日が来ると信じている。
そんな日が来るまで、愛するということや恋愛について考えてみたい。
スタンダールは恋愛論、ツルゲーネフは初恋を著し、トルストイは人生論の中で恋愛について語っている。
決して愛に彷徨うことなく、優子と彩はいずれも今の自分の真の姿だと信じている。いつか彩がいなくなって優子だけで過ごす日が来るまで自分を見失うことなく正直に生きようと思う。
「もしもし……こんな時間にごめんなさい、迷惑だった??」
「迷惑なわけがない、嬉しいよ。それより、どうした??」
「眠る前に好きな男の声を聴きたくなっちゃダメ??……好いムードの音楽が聞こえるけどBGMなの??お連れの方に失礼だから切ります」
「連れ??独りだよ、彩と初めて会った日の店、ホテルのバーにいるんだよ。あの日は彩と一緒だったから窓際のテーブル席、今日は独りだからカウンター席」
「ウフフッ、思い出した。独り住まいの無聊を慰めるのに酒を飲みたいときはここに来る、夜景がきれいな窓際の席はカップルのため……健志はそう言った。独りでカウンターは寂しい??隣に彩がいると好いなと思っている??」
「もちろんだよ。でも独りの時間があるから彩といる時間の大切さが分かる、幸せに慣れちゃうのもどうかと思う……」
「……そうなの??彩はいつも健志と一緒、そばにいなくても忘れさせてくれないんだもん」
「クククッ、下着を着けてくれているんだ。ゴールドとプラチナ、どっちを着けているの??」
「プラチナ、ゴールドは首回りがちょっと……冬はともかく秋になって首の付け根が隠れるような格好をしないと着ける勇気がない、ごめんね」
「そうだよな、ネックレスと思えないこともないけど違和感があるよな……マスター、スプモーニを作ってよ」
「えっ、彩のため??……あの日のラストオーダーがスプモーニだった。覚えているよ。陰膳みたいだね、最後はちゃんと飲んでよ」
「あぁ、彩の声を聴きながらスプモーニを飲めば今夜は夢の中でも彩と一緒にいられそうだよ」
「ほんとう??夢の中で彩とどんなことをするの??」
「いつだったか、言っただろ。恋する男は片思いや離れていても幸せだって。夢の中では惚れている女とどんなことでもできる。クククッ……彩の衣服を剥ぎ取って素っ裸のハウスキーパーにするのもいいな。キッチンに立つ彩の背後に忍び寄って髪の生え際から背中に息を吹きかけ、尻の割れ目を指でなぞる」
「そんなことをしてもいいの??料理中の彩は包丁を持っているからびっくりして振り向くと切っちゃうかもしれないし、フライパンが健志の顔に当たるかもしれないよ」
「じゃぁ、料理中は近付かない方がいいな。掃除をする彩を背後から見るのはどうだ??しゃがむたびに脚の間に蜜が滲むオンナノコがチラチラ見える」
「ウフフッ、その時の彩はね、いやらしい視線で犯そうとする健志を刺激するためにわざと見せているんだよ。気付かないの??」
「話が変わるけど、目の前のバックバーにテキーラ、チリカリエンテ.アネホがあるんだけど、じっと見ていると彩の裸体に見えてきた」
「チリなに??……チリカリエンテ.アネホ??ちょっと待って、調べるから……ウフフッ、色っぽいね。色違いのグリーンボトルやベージュボトルよりもアネホって言うの??レッドボトルが好い感じ、コカコーラのコンツァーボトルよりも好きになりそう。今から行きたいな、そのバーに。テキーラでしょう??カクテルをオーダーしてくれる??」
「テキーラベースならマルガリータって言いたいけど、エルディアブロにする。カシスの赤がボトルの赤に通じるし、ディアブロってスペイン語で悪魔って言葉だって……閉店の時刻が近づいたからスプモーニを飲んで帰るよ……彩の声が聞けて嬉しかった、ありがとう」
「もう切っちゃうの??今日はまだ眠くないのに、あ~ぁ、どこかに遊んでくれる男がいないかなぁ……ねぇ、月曜か火曜に夕食を一緒にどう??食事だけで申し訳ないけど」
「いいよ、喜んで相手させてもらいます。夕方から夜は家にいるから連絡してくれる??……うん、待っている。好い子で眠るんだよ、おやすみ。チュッ」
「お酒を楽しんでいる時間を邪魔しちゃってゴメンね。チュッ…
おやすみなさい」
ナイトテーブルに戻したスマホに名残を惜しむ手は離れることを躊躇い、口元を緩めた彩は、
「おやすみ、健志」と呟いて目を閉じる。
決して夫のことを忘れたわけではなく、好きか嫌いかと問われれば好きと答えるが愛しているかと問われれば根っこに夫の浮気があるだけに答えに窮する。
結果として言い訳にしかならないが、健志と付き合うようになって夫婦関係は大切だけど結婚したからと言って一生、他の人を愛さないのが正しいのかどうか揺らいでいる。
いずれ彩が現れることがなくなり夫だけを愛する日が戻ると感じているし、夫も優子だけを愛してくれる日が来ると信じている。
そんな日が来るまで、愛するということや恋愛について考えてみたい。
スタンダールは恋愛論、ツルゲーネフは初恋を著し、トルストイは人生論の中で恋愛について語っている。
決して愛に彷徨うことなく、優子と彩はいずれも今の自分の真の姿だと信じている。いつか彩がいなくなって優子だけで過ごす日が来るまで自分を見失うことなく正直に生きようと思う。