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彩―隠し事 234

余韻 -2

スッキリした目覚めは久しぶりのオナニーのお陰かなと思うとその原因を作ってくれた栞に感謝しなければいけないという結論になり苦笑いが浮かぶ。
料理が好きだし得意でもある優子が手際よく二人分の朝食をテーブルに並べ終わるタイミングで夫が起きてくる。
「おはよう。もう少し惰眠を貪るつもりだったけど旨そうな匂いで起こされちゃったよ」
「ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったのに……」
「えっ、ゴメン。素直な言い方じゃなかったね。いつも美味しい食事をありがとう……いただきます」

二人を知る共通の友人や近所の人は人も羨む仲の好い夫婦だと思っているだろうが、優子が夫の浮気を疑い始めてそれが確信に変わった頃から肌を合わせることがなくなり、玄関から一歩外に出ると今まで通りに仲の好い夫婦を気取り、中に入ると氷で出来た部屋のように寒々とした空気が流れていた。
学生時代から親友の栞は性的好奇心が強く奔放なところもあり、彼女に連れられて行ったSMショークラブをきっかけに出会った健志と付き合うようになって夫の浮気にも寛容な気持ちが芽生えてイライラすることがなくなった。
以前と同じとは言い難いものの浮気を知ってからも嫌いにならなかった夫なので優子自身も隠し事が出来た今、肌を合わすことはないものの会話などは夫婦として互いを慈しむ感情が戻ったと思う。
元来、潔癖症なところもある優子なので浮気を知った頃は偶然にでも手を触れるのは嫌、洗濯も一緒にするのを避けるようなこともあったが今はそれほど忌み嫌うこともないどころか、甘え声で誘ったらどんな反応をするかと悪戯心が芽生えることもある。
チン毛を剃った方が舐めやすいだろうとかアナルを試してみようかと言うこともあった夫だけにその気になるだろうし、どんな表情で愛を語るのだろうと想像するのも楽しい。
結ばれるとすれば夫の部屋がいい。どんな部屋になっているのか確かめることができて一石二鳥だと思うほど精神的に余裕ができた。
クククッ……プラチナチェーン下着を着けた妻を見るとどんな顔をするのだろう……健志に気を惹かれている今、夫に抱かれるとそれは浮気になるのだろうかと自然と笑みが浮かぶ。
夫とのセックスを想像したり、互いに独身だった頃に誘われたことのある新任課長を気にしたりとプラチナチェーン下着のせいで妄想は止まることを知らずに膨らむ。
健志に会えない時も気持ちを縛ってくれる大切な下着だと思っていたが性的な欲求不満が募り始める。
会いたい、健志の胸に顔を埋めて抱きしめてほしい。

「なぁ、優子。美味しい料理のお礼にディナーをご馳走させてくれないか??至らない点がたくさんある僕のお詫びもかねてどうだろう??」
「えっ……うん、いいよ。二人で食事…デートするなんて久しぶりだよね」
「僕のせいだね、ゴメン……早速だけど、今日はどうかな??」
「大丈夫だと思うけど、連絡してくれる??」
「分かった。連絡するよ……ごちそうさま。今日も美味しかったよ」

先に出かけた夫を見送った優子は抑えきれない笑みを鼻歌で誤魔化して出勤の準備をし、身支度を始める。
久しぶりのデートで食欲を満たした夫が性欲を滾らせたらと思うと指は自然とプラチナチェーン下着に伸びる。
鍵付き下着を穿いているのを見た夫はどんな表情でどんなことを言うだろうと思うと身震いするほどの興奮に襲われる。
自分の浮気を棚に上げて私の不貞を詰るだろうか、それとも浮気を解消するから優子も止めてくれと言うだろうか……多分、浮気をしたのは申し訳なかった、関係を清算するから優子も止めてくれと言うだろう。
愛を語り二人の将来を夢見たあの頃に直ぐに戻れない。肌を重ねて互いのすべてを知ろうとして性感帯を探ったベッドで今は独り寝する日々が続いている。
今でも夫を愛しているかと問われれば、はいと答えるだろう。
愛し愛される幸せを当然だと思い始めた時期を倦怠期というのだろうか……夫に対する新鮮な愛を感じるにはもう少し時間が必要だと思う。

今はまだ健志との関係を清算するつもりはない。
健志との関係が始まって夫の浮気に対して寛容になれたのだから決して悪いことではなく、夫がいずれ私との関係修復を求める時期が来たならその時に健志と付き合ったことを良かったと思えるだろう。
優子はほとんどの人が認める通り清楚で貞淑な人妻、彩は優子が貞淑な人妻で居るための欲望処理係で悪い女。
女の善なる部分は男に希望や勇気を与え、悪の部分に男たちが妖しい魅力を感じて女性の深みを感じると思う。

食事の後、夫がホテルに誘っても理由をつけて断ることしよう。
帰宅後、身体を密着しようとしてもうまくすり抜けることにする。
そして明日は健志に夕食を一緒にしようと誘ってみよう。
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Author:ちっち
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