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彩―隠し事 394 

温泉-1

今日は土曜日だから近くの温泉で一泊しようという提案に喜色を浮かべる彩の横顔を見る健志の頬は緩み、スマホに語り掛ける声は自然と弾み無事に予約を終える。
予約の最後に小声で何かを話した健志は、お願いしますと告げて彩に視線を向ける。
「露天風呂付の部屋を予約できたよ。チェックインは14時、急がなくてもゆっくりできそうだね」
「ゆっくりって、紗矢ちゃんたちとの時間で疲れたから温泉で癒したいんだ……なんだ、彩の思い違いってことなんだ、寂しいなぁ……」 
「えっ、何か誤解しているようだけど、思い違いってどういうこと??」
正面を向いたまま健志を見ようともせずに拗ねた振りをする彩を愛おしく思いながら問いかける。
「温泉好きの彩が露天風呂でリラックスしている姿を見ながら……クククッ、好い女だなぁって、涎を垂らす健志がチラ見するのを想像したんだけど違うんだ……」
「そうか、そんな好いこともあるんだ。彩と二人で温泉に浸かってのんびりしたいと思ったけど……水割りを飲みながら露天風呂に浸かる彩を見ることにしよう。白い肌がうっすらと朱色に染まり、伸ばした足を高く掲げて擦る、ウッ、ゴクッ」
「何を想像しているのよ、いやらしい。フフフッ……」

ハンドルを握る手の指が楽しそうにリズムを刻む。
「歌ってよ。リズムを刻む指を見るだけじゃつまんない」
「彩に聞いてもらうのは緊張するな、歌うよ……一つ出たホイのヨサホイのホイ、一人娘とする時にゃ親の承諾えにゃならぬ……二人娘とする時にゃ姉の方からせにゃならぬ……醜い娘とする時にゃ顔にハンカチせにゃならぬ、ホイホイ……」
「ひどい歌、もっと普通のが聴きたい」
「分かった、そうだなぁ……チンチン、チンチンチン……子供の頃の雪の朝、白く積もった庭に出て、チンチン摘まんでオシッコで、雪に名前を書いたっけ、オーチンチン、オーチンチン、あのチンポコよ、どこ行った……」
「もういい、今後一切、彩と一緒の時は歌わないで……クククッ、悪ぶってる??」
「悪ぶる、そうかもな。紗矢ちゃんたちと遊んだ昂奮が残っているかもしれない……今は可愛い彩と二人きり、照れ隠しで悪ぶっちゃうのはしょうがないだろう」
「クククッ、彩のことをそんな風に意識してくれるのは嬉しいかも……もうすぐ談合坂でしょう、何か食べたい」

土曜日の昼時でもあり、下り線の談合坂サービスエリアは笑顔と楽し気に会話を交わす人たちで溢れ、ドッグランに向かう犬連れの人もいる。
「山梨と言えば、ほうとう。彩は、ほうとうを食べたい」
「オレも、ほうとうにしよう……」
ほうとうを食べ終えた二人は、談合坂サービスエリア名物、談合坂あんぱんと田舎の豚まんを買って車に戻る。

「彩、運転してくれる??」
「疲れたの??彩も疲れた……クククッ、夜は大丈夫??」
健志を見つめていた彩は話し終えると、頬を緩めたまま正面を見て嫣然と微笑み、その横顔を見る健志もまた頬を緩め後部席に手を伸ばしてイルカを取り彩の胸に押し付ける。
「運転を代わらなくてもいいの??……イルカさんを抱っこして眠ってもいい??……他の女の子の匂いがしないけど、新しいでしょう??」
「彩が寝るために用意したイルカだよ。前の抱き枕は他の女性の匂いがして嫌だって言っただろう。そんなはずはないけど、海が好きな彩のために新しいのを用意した……助手席で抱き枕を抱いて寝る彩を見るのが好きだよ」
「クククッ、彩が別れを告げるとストーカーになっちゃいそう。楽しみだなぁ……」
「ストーカーになるのは先のこととして、今日は温泉に浸かってリラックスする彩の上気する表情やお湯を弾くオッパイを眺めながら水割りを飲むことにするよ」
「何もせずに眠れると思っている??」
「露天風呂に浸かる彩を独り占めで見ることができるんだよ。それで十分だよ」
「彩の挑発を我慢できるんだ……試すのが楽しみ」

イルカを抱きしめたままの彩は二度と言葉を発することなく目を閉じ、それほどの時間を経ずして微かな寝息をたてる。
スゥ~スゥッ~と規則正しく刻む寝息と高速道路のジョイントの通過音が心地好いハーモニーを奏で、気持ちが和む健志は鼻歌を口ずさむ。
♪たんたんタヌキのきんたまは~、か~ぜもないのにぶ~らぶら……彩は寝顔も可愛いなぁ……ABCの海岸で~、カニにチンポコはさまれた~、い~て~、い~て~はなせ、はなすもんか~ソーセージー、赤チン塗っても治らない、黒チン塗ったら毛が生えた~……」

突然、目覚めた彩は怒りを滲ませた表情で健志を睨む。
「ABCの歌の替え歌なの??変な唄を歌わないでって言ったでしょう??今度歌ったら、二度と会ってあげないからね」
「おっ、おはよう。寝顔は可愛かったよ」
「可愛いって言えば彩が喜ぶと思ってない??怒っているんだからね……タヌキの金玉が風にナントカって変な唄で起こされちゃったから」
「ごめん。露天風呂に浸かってエロイ格好で挑発するって聞いたから、ムスコを励ましていたんだよ。もうすぐ彩の入浴シーンを見られるんだよって……」
「スケベ……ウフフッ、エッチな男が好き。昼間は紳士、夜はエロイ狼に変身する男が大好き。期待外れは嫌だよ」

SMショークラブで下着姿になった彩が縄をまとい、それを見た健志がその記憶の鮮明なうちに偶然出会ったホテルのロビーで付き合いが始まった二人。
セックスだけが目的ではないほど惹かれても、性的な呪縛から逃れることができない。

「チェックインタイムの14時には少し時間があるから信玄餅テーマパークに行こうか??」
「いいね、行きたい」

人気の信玄餅の詰め放題はダメだろうなと思っていたものの彩を歓迎してくれたのか、12時を過ぎても参加することができた。
二人は童心に返ったようにはしゃぎ、詰め放題の後は信玄餅の製造工程の見学や和菓子美術館で四季折々を表現する奥深さを知り、和カフェでは桔梗信玄ソフトで興奮を冷ました。

「チェックインタイムが近付いたから行こうか」
「うん、露天風呂で戯れる妖艶な彩を見せてあげる。嬉しい??」
「ホテルまで2kmほどで笛吹川を渡ればすぐのようだね」

案内された部屋は和室二間で一つはベッドルームとして使用されている。
風呂は室内とウッドデッキに設えられた露天風呂とがあり、顔を綻ばす彩を見る健志は入浴シーンを想像して思わず唇を舐める。
「ご予約いただいたワインとおつまみはテーブルにご用意いたしました。ご夕食はお部屋食、18時開始で承っております……ごゆっくりおくつろぎください。失礼いたします」
仲居さんが退出すると彩はそそくさと衣服を脱ぎ捨て露天風呂に向かう。


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Author:ちっち
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