彩―隠し事 30
会員制バー -1
「へぇ~、そんな事があったんだ」
健志の部屋に二日分のお泊りセットを持ち込んだ彩は夕食を食べながら、仲の好い友人と一緒にAV撮影を見学したこと、その友人とレズビアン遊びをしたことを話しても健志は驚いた様子もなく、時に相槌を挟みながら目を輝かせて聞いてくれる。
そんな反応に健志は私をどのような人間だと思っているのかと疑念を持ったが、初対面の場面が独りでSMクラブに行って見知らぬ人たちの前で下着姿の身体に縄を掛けられ、身悶える姿を見られたのだと思うと、その後の付き合い方が紳士的だったと思わざるを得ない。
「AV女優さんのいるお店が色々あるらしいけど行ったことがある??」
「キャバクラなら行ったことがあるよ。友人に誘われて六本木の有名店にね」
「ふ~ん、そうなんだ。そういうお店は普通の店とは違う??」
「そうだなぁ、エロイなぁって思った人が、そばで水割りを作ってくれるんだからね……」
「やりたいと思った??」
「ソープみたいに、それが目的じゃないからな。それにやらせてくれないだろ」
「クククッ……ねぇ、食事をしながらこんな話をする彩の事をどんな女だと思ってる??」
「う~ん、一言で表現するのは難しいな……人妻であることはこの際、忘れることにするよ。恋愛って一目惚れから始まると思うんだけど、エッチが好きだけど清潔感があるしスポーツ好きでアクティブ。何よりウェストの括れから腰を経て尻から太腿に続くラインが好きだなぁ……後は、ウ~ン、言葉で説明すると嘘になりそうだな、とにかく好きだよ」
「ムッチリが好きなんだ、良かった、ありがとう。エッチでスケベでもいいの??」
「そんな事も、あんな事も彩のすべてが好きだよ」
「ウフフッ、彩が本名じゃないって言っても、女性の方が、リスクが大きいからそれでも良いじゃないかって言ってくれたけど、それは変わらない??」
「変わらないよ。将来、結婚って話でも出れば別だけど、今の関係が進展するとも思えないから彩でいてくれた方がお互いに好いと思うよ」
「うん、その方が安心して素の自分を見せることが出来そうに思う。奔放で淫らな女の部分があるって思うんだけど、それを曝け出せない欲求不満みたいな部分もあるからね……ねぇ、健志の知ってる刺激的なところへ連れて行ってくれる??」
「分かった、彩が気に入るかどうか分からないけど、面白い店に行こう」
食事を終えた二人はシャワーで昼間の汗を流して出かける準備をする。
色っぽいスカート姿が良いという健志の言葉通りに、ひざ丈のラップスカートとセーター姿の彩は、グレーとブラックのシックな色使いもあって都会的で洗練された様子を醸し出し、上品な色気を滲ませる。
高台にある住宅街から駅へ戻るタクシーに乗り、目的地を目指す。
途中、運転手がバックミラーの角度を調節して胸に視線を向けるのに気付いた彩は健志に合図する。
健志は気付いているよとバックミラーに視線を向けて彩の手を握る。
通勤途中や買い物中に他人の視線をこれほど感じた事はなく、恋する女は他人から見ても魅力的に見えるのだろうかと心が弾む。
そっと健志の横顔を見ると、彩の視線を気付かぬかのように窓外を見つめているのが癪で握られた手に爪を立てる。
驚いたように見つめた健志は彩の顔に浮かぶ悪戯っぽい表情に満面の笑みで応え、手の甲に残る爪の痕を消そうと擦る彩を抱き寄せて唇を合わせる。
「ハァハァッ……いやっ、運転手さんに見られちゃう」
媚びを含んだような声で話す彩は、バックミラーの中で物欲しげに見つめる運転手の視線に股間を熱くする。
駅の反対側にある繁華街の外れでタクシーを降り、一瞬怯んだ様子の彩に、すぐそこだよと声をかけて手をつなぐ。
狭い路地の中ほどにある、その店の看板は人の目に曝されるのを拒むように密やかに佇み、会員制と書かれている。
地階に続く階段を下りる彩は、刺激的な店に連れて行ってと言った事を思い出し、この先にある店はSMバーと比べてどうなのかと動悸が激しくなる。
「ここだよ」
“会員制・TIAMO” と書かれた重厚な木製のドアを引いて中に入ると、二重扉になっており、それをまた入ると、
「いらっしゃいませ」の、挨拶と共に迎えてくれた店は、お座敷バーでカウンター席とテーブル席がある。
カウンターの中には男性と女性が入り、掘りごたつ形式の席がある。
カウンター席はカップルらしい二組と男性客が四人で満席となり、彩は健志の指さすテーブル席に向かう。
健志と向かい合う席に座ろうとすると、隣を指さし、
「隣に座りなさい」と、言われたので場所を変える。
女性も含めてすべての客の視線が値踏みをするように彩の身体を上から下までねめ回し、中には見つめたままで無作法を恥じることもなく唇に舌を這わせて滑りを与える者までいる。
彩は取り出したハンカチを太腿や膝を覆うように掛けて、健志に救いを求めようとした処でカウンターの中にいたママらしき女性がウィスキーやミネラルウォーターと薄茶色のカクテルなどを運んでくる。
「ごめんなさいね。遠慮を知らない人たちで驚いたでしょう??」
「えっ、いえ……正直に言うと、ほんの少し」
「お名前を聞いてもいいかしら??それと、今日はどうします??」
「この人は彩。今日は見るだけにするよ」
「そうね、その方がいいわね……お店から彩さんへのウェルカムドリンクです。このカクテルはオーガズムと言うの。意味深でしょう??楽しんでね」
「いただきます……甘くて美味しい」
彩にとってはカクテルの名前よりも、立ち去るママの言葉の方が意味深だと口にしようとしたタイミングで、
「彩を見る客のスケベな視線を感じなかった??」
「すごかった、襲われちゃうんじゃないかと思ったよ」
「案外とそれが、この店への正しい感想かもしれないよ」
スケベ心丸出しで彩を見つめた客たちは、そんな事を忘れたかのように談笑しながら酒を飲み、健志も屈託なく話に加わり彩だけが取り残されて不満だと思い始めた頃、時計を見たマスターは、
「店を閉めてきます」と、告げてドアを出る。
客たちは落ち着きがなくなり、特に女性二人は息を荒くして、一人はタイトミニワンピースの裾を気にして、もう一人はシャワー室に行きたいと男性の手を取る。
「私のオナニーを見たい人は手を挙げて」
ワンピースの裾を気にしていた女が突然、男たちに声をかける。
はい、はい。見たい。俺も見たい……男たちは我先に手を上げて声をかけ、あっけにとられる彩が健志を見ると、同じように手を挙げて見たいと叫んでいる。
カウンター席を離れた女は健志に歩み寄り、「脱がせてくれる??パンツを穿いたままじゃオナニーできない」と囁く。
「へぇ~、そんな事があったんだ」
健志の部屋に二日分のお泊りセットを持ち込んだ彩は夕食を食べながら、仲の好い友人と一緒にAV撮影を見学したこと、その友人とレズビアン遊びをしたことを話しても健志は驚いた様子もなく、時に相槌を挟みながら目を輝かせて聞いてくれる。
そんな反応に健志は私をどのような人間だと思っているのかと疑念を持ったが、初対面の場面が独りでSMクラブに行って見知らぬ人たちの前で下着姿の身体に縄を掛けられ、身悶える姿を見られたのだと思うと、その後の付き合い方が紳士的だったと思わざるを得ない。
「AV女優さんのいるお店が色々あるらしいけど行ったことがある??」
「キャバクラなら行ったことがあるよ。友人に誘われて六本木の有名店にね」
「ふ~ん、そうなんだ。そういうお店は普通の店とは違う??」
「そうだなぁ、エロイなぁって思った人が、そばで水割りを作ってくれるんだからね……」
「やりたいと思った??」
「ソープみたいに、それが目的じゃないからな。それにやらせてくれないだろ」
「クククッ……ねぇ、食事をしながらこんな話をする彩の事をどんな女だと思ってる??」
「う~ん、一言で表現するのは難しいな……人妻であることはこの際、忘れることにするよ。恋愛って一目惚れから始まると思うんだけど、エッチが好きだけど清潔感があるしスポーツ好きでアクティブ。何よりウェストの括れから腰を経て尻から太腿に続くラインが好きだなぁ……後は、ウ~ン、言葉で説明すると嘘になりそうだな、とにかく好きだよ」
「ムッチリが好きなんだ、良かった、ありがとう。エッチでスケベでもいいの??」
「そんな事も、あんな事も彩のすべてが好きだよ」
「ウフフッ、彩が本名じゃないって言っても、女性の方が、リスクが大きいからそれでも良いじゃないかって言ってくれたけど、それは変わらない??」
「変わらないよ。将来、結婚って話でも出れば別だけど、今の関係が進展するとも思えないから彩でいてくれた方がお互いに好いと思うよ」
「うん、その方が安心して素の自分を見せることが出来そうに思う。奔放で淫らな女の部分があるって思うんだけど、それを曝け出せない欲求不満みたいな部分もあるからね……ねぇ、健志の知ってる刺激的なところへ連れて行ってくれる??」
「分かった、彩が気に入るかどうか分からないけど、面白い店に行こう」
食事を終えた二人はシャワーで昼間の汗を流して出かける準備をする。
色っぽいスカート姿が良いという健志の言葉通りに、ひざ丈のラップスカートとセーター姿の彩は、グレーとブラックのシックな色使いもあって都会的で洗練された様子を醸し出し、上品な色気を滲ませる。
高台にある住宅街から駅へ戻るタクシーに乗り、目的地を目指す。
途中、運転手がバックミラーの角度を調節して胸に視線を向けるのに気付いた彩は健志に合図する。
健志は気付いているよとバックミラーに視線を向けて彩の手を握る。
通勤途中や買い物中に他人の視線をこれほど感じた事はなく、恋する女は他人から見ても魅力的に見えるのだろうかと心が弾む。
そっと健志の横顔を見ると、彩の視線を気付かぬかのように窓外を見つめているのが癪で握られた手に爪を立てる。
驚いたように見つめた健志は彩の顔に浮かぶ悪戯っぽい表情に満面の笑みで応え、手の甲に残る爪の痕を消そうと擦る彩を抱き寄せて唇を合わせる。
「ハァハァッ……いやっ、運転手さんに見られちゃう」
媚びを含んだような声で話す彩は、バックミラーの中で物欲しげに見つめる運転手の視線に股間を熱くする。
駅の反対側にある繁華街の外れでタクシーを降り、一瞬怯んだ様子の彩に、すぐそこだよと声をかけて手をつなぐ。
狭い路地の中ほどにある、その店の看板は人の目に曝されるのを拒むように密やかに佇み、会員制と書かれている。
地階に続く階段を下りる彩は、刺激的な店に連れて行ってと言った事を思い出し、この先にある店はSMバーと比べてどうなのかと動悸が激しくなる。
「ここだよ」
“会員制・TIAMO” と書かれた重厚な木製のドアを引いて中に入ると、二重扉になっており、それをまた入ると、
「いらっしゃいませ」の、挨拶と共に迎えてくれた店は、お座敷バーでカウンター席とテーブル席がある。
カウンターの中には男性と女性が入り、掘りごたつ形式の席がある。
カウンター席はカップルらしい二組と男性客が四人で満席となり、彩は健志の指さすテーブル席に向かう。
健志と向かい合う席に座ろうとすると、隣を指さし、
「隣に座りなさい」と、言われたので場所を変える。
女性も含めてすべての客の視線が値踏みをするように彩の身体を上から下までねめ回し、中には見つめたままで無作法を恥じることもなく唇に舌を這わせて滑りを与える者までいる。
彩は取り出したハンカチを太腿や膝を覆うように掛けて、健志に救いを求めようとした処でカウンターの中にいたママらしき女性がウィスキーやミネラルウォーターと薄茶色のカクテルなどを運んでくる。
「ごめんなさいね。遠慮を知らない人たちで驚いたでしょう??」
「えっ、いえ……正直に言うと、ほんの少し」
「お名前を聞いてもいいかしら??それと、今日はどうします??」
「この人は彩。今日は見るだけにするよ」
「そうね、その方がいいわね……お店から彩さんへのウェルカムドリンクです。このカクテルはオーガズムと言うの。意味深でしょう??楽しんでね」
「いただきます……甘くて美味しい」
彩にとってはカクテルの名前よりも、立ち去るママの言葉の方が意味深だと口にしようとしたタイミングで、
「彩を見る客のスケベな視線を感じなかった??」
「すごかった、襲われちゃうんじゃないかと思ったよ」
「案外とそれが、この店への正しい感想かもしれないよ」
スケベ心丸出しで彩を見つめた客たちは、そんな事を忘れたかのように談笑しながら酒を飲み、健志も屈託なく話に加わり彩だけが取り残されて不満だと思い始めた頃、時計を見たマスターは、
「店を閉めてきます」と、告げてドアを出る。
客たちは落ち着きがなくなり、特に女性二人は息を荒くして、一人はタイトミニワンピースの裾を気にして、もう一人はシャワー室に行きたいと男性の手を取る。
「私のオナニーを見たい人は手を挙げて」
ワンピースの裾を気にしていた女が突然、男たちに声をかける。
はい、はい。見たい。俺も見たい……男たちは我先に手を上げて声をかけ、あっけにとられる彩が健志を見ると、同じように手を挙げて見たいと叫んでいる。
カウンター席を離れた女は健志に歩み寄り、「脱がせてくれる??パンツを穿いたままじゃオナニーできない」と囁く。