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エイプリルフール

エイプリルフール -1

ドアの前に座り込んで男を待つ女は玄関チャイムの音に表情を崩して立ち上がる。
フゥッ~・・・パシッ・・・宙を睨んで大きく息を吐き、自然と浮かぶ笑みを封じるために両手で頬を打ち、わざとらしく渋面を作ってドアに向かって話しかける。
「鍵を持っているでしょう??忘れたの??」

「オッス・・・怒ってる??」
「どうして??怒ってなんかいないよ。私に怒る理由があるの??あるんだったら教えて欲しい」
「キスしても良い??」
「どうして??あなたがキスしたいのならいいよ、我慢するから」
「ごめん、アユの人生の邪魔をしたくなかったから、あんな返事になっちゃった・・・ほんとにゴメン。オレの本心を知ってるだろ??」
「あなたの本心なんか分らない。奥さんの所に帰れば・・・あっ、ごめんなさい。本心じゃないの、信じて・・・」
「おあいこって事にしてくれる??これはお土産・・・」
「なに??・・・あっ、この間、私がシャーベットにするかどうか迷った杏仁豆腐だ、憶えてくれていたんだ。クククッ、こんな事で騙されちゃうんだよね」
笑みを封印しようと思っても自然と表情は緩み、ついには目を閉じて唇を突き出してしまう。
可愛いよ・・・そっと唇を重ねた男は目を閉じたままのアユに囁き、額にかかる髪に手櫛を入れて整える。

ガラステーブルを前に座った男のそばに座り込んだアユは顔を覗き込み、
「毎日この場所で食事するんだけど以前のように一人じゃないから楽しい・・・分る??」
「照れるような事を言わないでくれよ」
「だって本当なんだもん。見て、ベッドの位置を変えたから、あなたに見守られながら寝ることが出来るんだよ・・・私が眠る寸前もあなたは、しっかり私を見ていてくれる」
そりゃそうだ、絵の中のオレは寝ることも出来ないだろう。四六時中あの格好のままだよ・・・そんな言葉を口にせず、柔和な視線を女に向ける。
「照れちゃうよ、そんな事を言われると」
「また描かせてくれる??今度はあなたの寝顔を描きたいな。絵の中で眠るあなたに子守唄を歌ってあげる」

一瞬の静寂が二人に数時間前の緊張を思い出させる。
あなたとの事は清算しようと思います。今の関係を続けても明るい未来が待っていると思わないので潮時だと思います。
こんなメールを受け取った男は、
今までありがとう。短い時間だったけど、考えることもなかった美術館巡りなど新たな経験をさせてもらいました。私との時間が貴女にとって不快な想い出にならないようにと願います。
このような返信をすると、すぐに返信が届いた。
今日は4月1日、エイプリルフールだよ。あなたの返信が本心からの言葉なら私は生涯後悔するだろうし、あなたとの想い出が楽しいものになるはずがありません。初めてのデートが美術館、実家へ帰ると言うあなたに私も行きたいと言ったら大阪駅近くにホテルを取ってくれました。一緒には泊まれないと言うあなたの言葉に誠実さを感じた事を今は恨めしく思います。
男は直ぐに詫びの返信をした。
エイプリルフールは知っていたけど、私に余裕がなかった。ごめん、メールをすべて破棄して欲しい。これから直ぐに行く。

理由はどうあれ一度伝えた言葉をきれいさっぱり消し去る事は出来ない。
男はどうしても残るぎこちなさを解消する方法を一つしか思い浮かばないが、わだかまりが残る今、それを受け入れてもらえるかと躊躇する。
杏仁豆腐を食べ終わった事に気付かずスプーンで探る男の様子に頬を緩めたアユは、
「クククッ・・・食べ足りないの??私のを食べても良いよ。それとも私を食べたいの??」
「うっ、うん・・・」
「何がウンなの??ハッキリ言いなさい」
親子ほどでもないものの、アユは18歳の差を気にすることなくメールのやり取りの結果で優位に立ち、男は負けるが勝ちとアユに花を持たせる。

身体を接して座るアユのミニスカートから伸びる剥き出しの腿に手を置き、嫌がってない事を確かめてゆっくり擦り始める。
「アンッ、そんな・・・卑怯」
腿を擦られても平静を保っていたアユが内腿に接する指先が蠢き始めると甘い吐息を漏らし、抗議とも言えない口調で男を見つめる。
男はユカの言葉を封じるように唇を重ね、右手が腿から腰を経て胸の膨らみに至る。
「ハァハァッ・・・だめ、ずるい・・・こんな事をされたら・・・直接、ねっ、お願い・・・」
身体から力が抜けたものの瞳は欲情で真っ赤に燃え、挑むような視線で見つめる。

アユを見つめる男の表情はあくまで優しく、右手がシャツのボタンを外していく。
ハァハァッ・・・潤んだ瞳は焦点が合わず、露わにされていく乳房に触れる空気が羞恥を煽る。
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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