うわさ
他人が私の事をどう思っているのかという事が気になる。
私という人間を正しく理解した上での評判なら批判交じりでもやむを得ないと思うものの、大抵は根も葉もない噂話を根拠にした無責任なものだと持っている。
そんな無責任極まりない噂話を気にする自分が嫌になる事もある。
風俗嬢に馴染んだ私に古い友人から届く結婚式の招待状は正直嬉しくない。
昼間の陽の光の中で旧友の幸せを願うのは辛いと思うこともある。
出席しないと色々噂話をされているんじゃないかと気になり落ち着かない。
結局は噂話をされるのが嫌でお祝いの席に付くことになる。
今日は昼間の仕事時代の友人の結婚式。
今住んでいるマンションは気に入っているけど、引越しをして知り合いの住所録から私の名前を消し去りたいと思うことがある。
休日の大安と日柄も良い今日はホテルの宴会場の廊下は幸せな顔で満ち溢れている。
「本日はおめでとうございます。お招きいただきましてありがとうございます」
型通りに受付で挨拶を済ませ、ひっそりと片隅に佇み開宴を待つ。
仕事を一緒にしていた懐かしい顔もあるが、今の仕事など知られたくない話題になることは判っているのでなるべく顔を合わせたくない。
「あれっ、由美ちゃん。今日はどうしたの??」
「あっ、久保さん・・・久保さんこそどうしたのですか??」
「新郎は学生時代からの友人なんだよ。由美ちゃんは??」
「新婦は昔、私が昼間の仕事をしていた時の同僚なの」
「ふ~ん・・・縁は異なものって言うけどほんとだね」
「そうですね、今日会うとは夢にも思いませんでした」
「ところで、披露宴が終わった後なにか予定はあるの??」
「いいえ、ないですよ。お店も今日は日曜日でオヤスミだし」
「そう、じゃ時間くれないかな。話したい事もあるし」
「わかりました、大切なお客様ですから」
他人の幸せを素直に祝福できなくなりつつあった私に披露宴は退屈な時間だった。
今日はこの後、久保さんからどんなことを言われるのかと不安で落ち着かない。
退屈だけど落ち着かない、矛盾する気持ちの中で心が揺れる。
今日の新婦のように晴れやかな幸福を味わう場に立つことは諦めていたけど、よりによって久保さんに会うとは思いもしなかった。
嬉しく思う反面、不安もある。私にどのような話があるのだろう??
お客様としての久保さんとは身体の相性も良く、営業用の対応ではなく心を解き放ちすべてを委ねて真の快感を味わっていた。
私の身体を労ってくれ、他のお客様のように自分勝手にイクこともない久保さんは・・・正直、好き・・・
夢の中に久保さんは何度も出てきた。
片想いの相手とは夢の中で理想の恋愛をすることが出来る。
恋の字の心は下にあるから下心、愛の字では真ん中にあるから真心と言った人がいる。
私は久保さんを愛している。久保さんへの想いに下心はない。
夢の中で久保さんを相手に理想の恋愛をしている。
朝日が憎い、朝日と共に夢は醒める。
片想いなのはしょうが無い。今の仕事を選んだのは私・・・
今の仕事をしていなければ久保さんと会うこともなかった・・・
切ない・・・枕を涙で濡らすこともあった。
それも今日まで、久保さんの話を聞き、サヨナラを言った後はすっぱり忘れよう。
「ごめんね。無理言って」
「いいえ。久保さんは私にとって大切なお客様だから・・・」
「客だから、今この時間を承諾してくれたの??」
「はい・・・いいえ、久保さんだから・・・お客様としてではなく大切な人だから・・・」
「良かった。オレはもう店に行くのを止めようと思う」
「そうですよね・・・風俗嬢とお客様が今日のようなハレの場で会うのは良くないですよね。今までありがとうございました」
「そうじゃないよ。由美ちゃんが嫌じゃなかったらオレと付き合ってくれないかな」
「えっ・・・」
「客としてではなく恋人として・・・いや、最初は友達としてでもいいから付き合ってください」
「・・・うそ・・・冗談でしょう??」
「直ぐでなくてもいいから、今の仕事を止めてオレのお嫁さんになって欲しい」
「えっ・・・いいの??」
「由美ちゃんをお嫁さんにしたい。返事は直ぐでなくてもいいよ・・・この言葉を伝えるのに時間がかかったし、待つことも平気だから」
「ありがとうございます。考えることはないです、私でよければお嫁さんにしてください」
「ありがとう。今日、逢えてよかった」
「ほんとうは出席するかどうか迷ったけど良かった。結婚式を挙げた二人から幸せのお裾分けをももらった気持ちです・・・抱えきれないほどの幸せのおすそ分け」
<< おしまい >>
私という人間を正しく理解した上での評判なら批判交じりでもやむを得ないと思うものの、大抵は根も葉もない噂話を根拠にした無責任なものだと持っている。
そんな無責任極まりない噂話を気にする自分が嫌になる事もある。
風俗嬢に馴染んだ私に古い友人から届く結婚式の招待状は正直嬉しくない。
昼間の陽の光の中で旧友の幸せを願うのは辛いと思うこともある。
出席しないと色々噂話をされているんじゃないかと気になり落ち着かない。
結局は噂話をされるのが嫌でお祝いの席に付くことになる。
今日は昼間の仕事時代の友人の結婚式。
今住んでいるマンションは気に入っているけど、引越しをして知り合いの住所録から私の名前を消し去りたいと思うことがある。
休日の大安と日柄も良い今日はホテルの宴会場の廊下は幸せな顔で満ち溢れている。
「本日はおめでとうございます。お招きいただきましてありがとうございます」
型通りに受付で挨拶を済ませ、ひっそりと片隅に佇み開宴を待つ。
仕事を一緒にしていた懐かしい顔もあるが、今の仕事など知られたくない話題になることは判っているのでなるべく顔を合わせたくない。
「あれっ、由美ちゃん。今日はどうしたの??」
「あっ、久保さん・・・久保さんこそどうしたのですか??」
「新郎は学生時代からの友人なんだよ。由美ちゃんは??」
「新婦は昔、私が昼間の仕事をしていた時の同僚なの」
「ふ~ん・・・縁は異なものって言うけどほんとだね」
「そうですね、今日会うとは夢にも思いませんでした」
「ところで、披露宴が終わった後なにか予定はあるの??」
「いいえ、ないですよ。お店も今日は日曜日でオヤスミだし」
「そう、じゃ時間くれないかな。話したい事もあるし」
「わかりました、大切なお客様ですから」
他人の幸せを素直に祝福できなくなりつつあった私に披露宴は退屈な時間だった。
今日はこの後、久保さんからどんなことを言われるのかと不安で落ち着かない。
退屈だけど落ち着かない、矛盾する気持ちの中で心が揺れる。
今日の新婦のように晴れやかな幸福を味わう場に立つことは諦めていたけど、よりによって久保さんに会うとは思いもしなかった。
嬉しく思う反面、不安もある。私にどのような話があるのだろう??
お客様としての久保さんとは身体の相性も良く、営業用の対応ではなく心を解き放ちすべてを委ねて真の快感を味わっていた。
私の身体を労ってくれ、他のお客様のように自分勝手にイクこともない久保さんは・・・正直、好き・・・
夢の中に久保さんは何度も出てきた。
片想いの相手とは夢の中で理想の恋愛をすることが出来る。
恋の字の心は下にあるから下心、愛の字では真ん中にあるから真心と言った人がいる。
私は久保さんを愛している。久保さんへの想いに下心はない。
夢の中で久保さんを相手に理想の恋愛をしている。
朝日が憎い、朝日と共に夢は醒める。
片想いなのはしょうが無い。今の仕事を選んだのは私・・・
今の仕事をしていなければ久保さんと会うこともなかった・・・
切ない・・・枕を涙で濡らすこともあった。
それも今日まで、久保さんの話を聞き、サヨナラを言った後はすっぱり忘れよう。
「ごめんね。無理言って」
「いいえ。久保さんは私にとって大切なお客様だから・・・」
「客だから、今この時間を承諾してくれたの??」
「はい・・・いいえ、久保さんだから・・・お客様としてではなく大切な人だから・・・」
「良かった。オレはもう店に行くのを止めようと思う」
「そうですよね・・・風俗嬢とお客様が今日のようなハレの場で会うのは良くないですよね。今までありがとうございました」
「そうじゃないよ。由美ちゃんが嫌じゃなかったらオレと付き合ってくれないかな」
「えっ・・・」
「客としてではなく恋人として・・・いや、最初は友達としてでもいいから付き合ってください」
「・・・うそ・・・冗談でしょう??」
「直ぐでなくてもいいから、今の仕事を止めてオレのお嫁さんになって欲しい」
「えっ・・・いいの??」
「由美ちゃんをお嫁さんにしたい。返事は直ぐでなくてもいいよ・・・この言葉を伝えるのに時間がかかったし、待つことも平気だから」
「ありがとうございます。考えることはないです、私でよければお嫁さんにしてください」
「ありがとう。今日、逢えてよかった」
「ほんとうは出席するかどうか迷ったけど良かった。結婚式を挙げた二人から幸せのお裾分けをももらった気持ちです・・・抱えきれないほどの幸せのおすそ分け」
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