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彩―隠し事 345

余波 -2

健志が夫婦ごっこの余韻に浸り、シーツに残った彩の匂いに埋もれて睡魔と戦っている頃、彩は優子に戻って帰宅した夫と遅い夕食を摂っていた。

工場は順調に稼働しているように見えるけど今のままだと、いつまた不調になるか分からないので構造上の問題点がないか調べるので出張が何度かあると思うと告げられた優子は、思わず綻びそうになる顔に渋面を浮かべるのを苦労した。
「私とは重要度が違うだろうけど仕事を任される大変さは分かる積もり。十分に休養を取ることを忘れないようにしてね」と、言葉をかけると夫は汚れのない笑顔になる。
「優子もプロジェクトのリーダーとしてメンバーと会社の期待を背負っているんだろう。僕も頑張るから優子も頑張れよ、応援している」
「私とあなたでは責任の程度が違う。私が任されたプロジェクトは仮に失敗してもなかったことにすれば損失の程度は限定的で私が責任を取ればいい。あなたが負っているのは成功しなければ生産計画に致命的な打撃を与えるかもしれない……尊敬できる仕事よ、すごいわ」
互いの仕事や離れていた数日間の出来事を虚実を交えながら会話を交わし、ビールの苦みを心地好いと思う余裕を感じる自分自身に驚きながら互いを思いやる夫婦の時間を過ごした。

後片付けなどの家事を済ませた優子に入浴を終えた夫が改まった様子で声をかける。
「美味しい食事と出張の疲れを癒してくれる温かい家庭、優子、ありがとう……おやすみ」
「おやすみなさい」
自室に入る前にかけられた慈しみのこもった言葉に心が和んだものの意地悪な気持ちが頭をもたげ、私も同じように仕事をしているのだから何か手伝ってくれてもいいのにと思って苦笑いが浮かぶ。

今も続いているだろう夫の浮気や手伝いをしてくれないことに以前のように苛立つことがない。
浮気していることを隠して平然と過ごす夫に、私が食事を作り家事をこなすのはあなたの浮気がスムーズにできるように協力するためじゃないよと愚痴りたくなるのを堪えていた。
世の中には不倫や浮気を許せないという人も多いし優子も生来の性格からそう思っていた。
健志と付き合うようになって自らの非を踏まえたうえで夫の浮気と向き合ってみると、私たちにはそう悪いことでもないのではないかと思える。
浮氣をされても嫌いになれなかった夫を今でも愛している。
仕事を口実にして寝室を別にし、肌を重ねることがなくなっても気持ちはつながっていると信じている。
夫の浮気を知った時は心が騒めき、なにに対しても心は此処に非ずという状態で集中力に欠けることもあったが健志と付き合い始めると気持ちにゆとりができて寛大になったと思う。
自分は正しいと他人の欠点をあげつらうよりも、優子自身が負い目を感じる行動をすることにより自分も含めて過ちに寛大になれた。

ほとんどの場合、産み育ててくれた両親や兄弟姉妹よりも長い時間を過ごすのが夫婦、二人の長い時間は平和で平坦な道がいつまでも続くわけもなく、急峻な上り坂や油断すると谷底に転落するような絶壁を歩くこともあるだろう……そんなことを考えるのは健志との付き合いに対する言い訳だろうが、今はあえて容認することにする。
健志との時間があるから誰に対しても優しくなれるし、次はいつ会えるだろうかと思うと仕事や家事を頑張れる。
優子は彩に変身して許されるはずのない不貞を働いているのだから、普段は貞淑で良き妻、仕事を頑張る女でなければいけない。
そんなことを考えると心は弾み、自然と笑みが浮かぶ。

健志と過ごした時間の疲れをゆっくりバスタイムで解きほぐし、リビングに戻った優子は夫の部屋に向かって、「おやすみなさい」と呟いて自室のドアを開ける。
バタンッ……独りになった優子は閉めたばかりのドアに寄りかかり、フゥッ~と息を吐き、バスローブを脱ぎ捨ててプラチナチェーン下着だけを着けた身体をスタンドミラーに映す。
「なかなかのものよ、エロイ身体。清楚で上品な奥様と私を知る人は褒めてくれるし、栞や松本さんと進める仕事もやりがいがある……優子からエロイ彩に変身すると健志はこの身体に首ったけ。ウフフッ、彩はこの下着と二人っきりの時は犬用の首輪を着けられて健志に支配されるけど、健志が彩に首ったけということは彩も健志を支配しているのと同じ……アンッ、気持ちいい……」
右手で下着とも言えないプラチナチェーンをなぞり、左手が胸の膨らみの先端を擦ると眉間に皺を刻み、しどけなく開いた口から甘い吐息が洩れる。

「イヤンッ、気持ち善くなっちゃう。いいの??気持ち善くなってもいいの??」
鏡の中の艶めかしい姿態に向かって話しかける。
「いいのよ、気持ち善くなりなさい、彩。あなたは彩でしょう??……私は優子、知っているでしょう??私は昼の顔。彩、あなたは眩しく煌めく夜景が作る陰に住む私の分身。彩がいるから私は気持ちと身体のバランスを保つことができる……これからもこの身体の中で仲良く共存しようね」
「アァ~ン、優子に認められて嬉しいけど、いいの??彩が存在しても??」
「いいのよ、お礼を言いたいくらいなんだから。旦那様が浮気をして私が壊れちゃうかもしれないと思うほど目の前が真っ暗になった時、彩が姿を現してエログって言ったっけ??ブログでこの身体を曝したりオナニー姿を見せたりした時、見ず知らずの男の人やなかには女の人も、彩さんの身体はきれいだ、どんな格好をしても清潔感があると褒めってもらったでしょう……優子の私があれを見た時、自分に対して自信を持つことができた。見ず知らずの人が褒めてくれる私の元にいずれ旦那様が帰ってきてくれると信じることができたの。本当だよ」
「ウフフッ、そうなんだ。優子は浮氣をする旦那さまを今でも愛している。優子の分身である私は彩に変身して健志に抱かれるの。変態チックなこともするよ。多摩川の木陰で全裸にされたし、夜の歩道の植え込みに隠れながらハダカンボになったこともある。そんなときの恥ずかしい姿は彩のスマホにあるから見てもいいよ。健志に見られながら見知らぬ男を受け入れたこともある。砂浜、マッサージ店、お座敷パブ、SMショークラブの共同オーナーが個人で主催するエロイパーティも……これからも優子のエロイ想いは彩が形にして発散してあげる」
自分の気持ちを持て余す優子は分身である彩と会話しながら気持ちの均衡を保とうとする。

「アァ~ン、イヤッ、気持ちいい……アンッ、クゥッ~、アソコがグチョグチョなんだもん」
胸の膨らみの先端を摘まんでいた左手は形を変えて歪になるほど乳房を揉みしだき、割れ目の左右を飾るプラチナチェーンをなぞっていた右手は、食虫植物の妖しい芳香に誘われる哀れな虫のように泥濘に没していく。
「クゥッ~、たまんない。気持ちいい、ダメッ、イヤァ~ン……」
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
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夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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