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待ち合わせ 木の精-1/2

「遅いなぁ。約束の時刻は過ぎたのに……早く来ないと間に合わなくなっちゃう」
時刻を確かめた女は周囲を見回して再び時計に視線を移す。

「彩、待ちぼうけなのか??彩のような好い女を待たせて気を揉ませるとは果報者だな……どんな男なのだ??」
「誰??……どこにいるの??彩の名前を知っているからには知り合いなの??ねぇ、何処にいるの??」
「分からないのか??私は此処にいるよ。彩のすぐそばにいるよ」
「えっ、何処??どこなの??……どこにもいないじゃない」
「周りを見てもダメだよ。私は木霊、彩がいつも昼休みの休憩場所にしているベンチ横のハルニレに宿る木の精だよ」
木の精だという言葉を信じ、座り慣れた公園のベンチから立ち上がった彩はハルニレの木に触れる。
「この木に宿る精霊って本当なの??」

ザラザラした木肌に触れて20メートルを超えるハルニレの木を見上げても枝が大きく張り出して天辺を見ることができない。
「背が高いだけではなく夏でもベンチに日陰を作れるほど大きく張り出しているだろう。彩は気付いていたか??」
「うん、気付いていた。日陰を作ってくれるし少しの雨なら濡れずにいることができたから、この場所が好きだった」
「そうか、ありがとう。私はそんなとき、大きく広げた腕で彩を抱きしめて成熟した女性の感触や漂う香りを吸い込んで独りで満足していた……晴れの日も、曇っても雨が降っても、私は彩をこの場所で独り待っていた、いつもだよ」
「もしかして……勘違いだと自惚れるなって言われるかもしれないけど……もしかすると、彩のことを口説きたいの??」
「彩は利口な女性だね、私の気持ちが分かるんだ。そうだよ、さっきも言っただろう。彩がこのベンチに座るとき、いつも抱き締めていたって。私は彩のことが好きだよ」
「嬉しい。彩もあなたがハルニレだって知った時に少し調べてみたの。アイヌの言い伝えでは天地創造の際に最初に生まれたのがハルニレ。そのハルニレに雷神のカンナカムイが恋をして落雷があった.その炎からアイヌの英雄神であるオキクルミが生まれたんだよね。北海道にハルニレの木は多いんだよね、彩は海に潜るのが好きだから温かい海の方が好いけど」
「そうか、彩は南の海が好きなのか……今日の私は大好きな彩と話すことができてほんの少しエッチな気分になった……彩と夜に合ったことはないけど、夜ベンチに座る彩に悪戯をしてみたいな」
「ほんとう??いいわよ。どんな悪戯をされるのか聞かせてほしいな」
「分かった、私はこの場所から動くことはできない。彩がここへ来た日の夜はエッチな精霊になって夜の公園で彩を抱く妄想に浸っていた」
「聞かせてくれるでしょう??彩がエッチな木の精にどんな悪戯をされるのか??」
「いいとも、彩を待たせる薄情な男に代わって私が相手をしてあげるよ」


残業で遅くなった帰り道、見慣れた公園のはずなのにこの日はアプローチライトに誘われるように無人の園内に入りハルニレの木の下のベンチに座った。
昼間は近くの保育園児が保育士に守られて散歩の途中に立ち寄ったり、母親に見守られる幼児が駆け回り、仕事途中の勤め人がほんの少し休憩時間を取ったりと賑やかだった面影もなく静寂に包まれている。
誰もいない夜の公園のベンチで彩は両手を頭上に伸びをし、スゥッ~とゆっくり鼻から吸い込み、フゥッ~と口から吐出す深呼吸を繰り返す。
身体の奥に澱のように溜まっていた疲れが吐き出す息と共に体外に放出されて身体はもちろん、脳の疲れも解消されて楽になる。
再び伸びをして暗い空を見上げ、今日は新月かと独り言ちて立ち上がろうとしたその瞬間、ピュゥ~と風が吹き、
「彩、少しでいいから私と遊ぼうよ」と囁き声が聞こえる。
夜の公園とあって身震いした彩は警戒心を持って周囲を見回しても誰もいない。
「彩、私だよ。私はハルニレの木に宿る木の精だよ」
「えっ、本当なの??」
手を伸ばして木の幹に触れ、問いかけると再び風が吹いて葉っぱが、
「そうだよ、私に宿る木霊が彩と遊びたいといつも思っていたんだよ。今は夜で人っ子一人いないから邪魔をする人がいない。遊んでいきなよ」

三度目の風がピュッ~と吹くとハルニレの木がザワザワと騒ぎ、日の光を浴びようと上に伸びていた枝が彩をめがけて下りてくる。
小さな枝が彩に絡みついて動きを封じ、葉っぱが頬を撫でて唇を刷き、衣服の上から胸を擦ってスカートの中に忍び込もうとする枝もある。
「イヤァ~ン、サワサワ撫でられると気持ちいい。ダメッ、こんなところで、恥ずかしい」
憚りのない嬌声が夜のしじまを破る。

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ちっち

Author:ちっち
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アッチイのは嫌
さむいのも嫌
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夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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