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彩―隠し事 215

栞 新たな一歩 -4

脱兎のごとく帰路を急ぐ栞の後姿を見つめる優子はヤレヤレとでも言うようにフゥッ~と息を吐き、帰り支度を始めると課長から声がかかる。
「鍬田さん、今日は深沢さんと一緒じゃないんですか??丁度いいと言うと失礼だけど10分ほど時間をいただけますか??」
「はい、分かりました」
さりげなく時刻を確かめた優子は承諾し、自席を立ち上がる様子のない課長の前に進み出る。
栞の不倫相手だった前任課長よりも若く、以前一緒に仕事をした頃よりも落ち着いた印象の課長の前に立つと男性を意識するわけでもないのに緊張を拭いきれない。
課長の話しは5分ほどで済み、優子がリーダーとなっているプロジェクトの進捗状況を確認することだった。
「分かりました。鍬田さんには余計な言葉でしょうが頑張ってください」
「はい、相談することもあると思いますが、ご助言をお願いいたします」
「分かりました。その時はお酒でも飲みながら……ダメですか。フフフッ、冗談です。忘れてください」
「仕事にかこつけて誘うのでなければ……お受けするかも。ウフフッ、冗談ですよ。失礼します」
課長の視線を背中に感じながら以前は口にすることもなかった際どい科白を吐いたのは、栞の告白や健志との危ない付き合いのせいだろうと口元を緩める。

帰路の電車で栞のことを考えまいと意識すればするほど鮮明に言葉が蘇り、車窓を流れる家々の屋根が屈託なく微笑む栞の笑顔に見えて固く目を閉じる。
今となっては栞のAV出演を止める術もなく、成り行きを見守るしかない。
どうしても脳裏から離れてくれないことを忘れるのに方法は三つ。
一番簡単なのは健志に抱いてもらうことだけど連絡することは憚られる。次に会う時は成り行きとは言え、健志の用意した複数の男たちに抱いてもらうことが二人の約束事のようになっている。
二つ目はオナニー―することだけど快感を貪れば栞の痴態が脳裏を駆け巡りそうでいい方法とは思えない。
最後は性的な思いを忘れること。プールで思い切り泳いだり頭の中を空っぽにしてヨガに打ち込んだり、あるいは最近お気に入りのバナナケーキを作るのもいいし好きな音楽を聴くこともできる。
決して栞への不安が払しょくしたわけではないが、妄想から解放される方法を思いついて気が軽くなる。

火曜の栞は軽い躁状態で普段以上に快活で仕事も難なくこなして自信に満ち溢れている。
「優子、今日も二人分のお弁当を用意したよ。例のところに行こうよ、早く……」
栞は優子の手を引くようにして公園に急ぐ。

「優子、驚かないでよ。優子の横に座っているのはAV女優の卵。旦那様と雨宮君が電話で話を詰めて決まったの……それでね、旦那様が雨宮君に栞の気持ちが変わらないうちに早く撮影してくださいってお願いしたんだけど、すぐに会社に連絡して今度の日曜日にスタジオや男優さん、スタッフを押さえてくれたの。それで、今日、旦那様と二人で訪問して具体的な撮影内容を話し合って契約書にサインって段取りになったんだよ。すごいでしょう」
「えっ、えぇ、すごいけど私は話の内容が理解……理解できるけど時間の進み方の速さについていけない……フゥッ~、喉が渇く」
ゴクゴクッ……喉を鳴らしてお茶を飲んだ優子は栞が用意してくれた弁当を無言のうちに平らげる。
「優子、怒っている??」
「怒ってなんかないよ……怒っているとすれば自分に対して。栞は私を信じて何でも話してくれるのに私は隠し事がある……」
「ウフフッ、優子に男が出来たんでしょう??浮気相手が、そうでしょう??」
「えっ、うん、実はそうなの。気付いていた??」
「いつから付き合っているのか、どんな人かは分からないけど、そうじゃないかなって思っていた。学生時代からの親友だよ。オッパイもクチュクチュしたしオマンコも舐めた仲だよ……気にしなくていいよ、優子と私は性格が違うんだから。ウフフッ、でも話してくれて嬉しい。今度落ち着いたら詳しく聞かせてね」
「うん、聞いてもらう。栞のビデオを見ながら教えてあげる……胸のつかえが下りた気分、ありがとう、栞」
具体的には話していないけどようやく健志との付き合いを栞に隠さずに済むと思うと気が楽になり、栞のAV出演を好かったねと諸手を上げて賛成できないけれどそれもアリかなと思うようになる。

そして翌日、水曜の昼休みも栞の用意してくれた弁当を持って公園に急ぐ。
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ちっち

Author:ちっち
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