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偽者 ~PRETENDER~ -6

美香 -1

マンションに向かって軽く頭を下げる内藤を窓際で右手を振って見送る佐緒里はカットソーだけを身に着け、下着やショートパンツを穿かないどころか内腿に滴る精液を左手で受け止める。
角を曲がり内藤の姿が見えなくなるとカーテンの陰に隠れてカフェの入り口を注視する。
出てきた……一瞬、佐緒里の部屋を見上げて直ぐに顔を伏せ、内藤を追うように歩き始める。
手を振って内藤を見送り、カーテンの陰に隠れて美香を確かめた佐緒里は左手を顔に近付けて栗の花のような匂いに酔い、自ら抱かれることを催促した事を思い出して身体の芯を熱くする。

内藤は手を振る佐緒里に軽く会釈し、何気ない振りで正面に見えるカフェに視線を向けても美香の姿が確認できない。
角を曲がりカフェが道路の反対側になる位置になると視線を向けることもなく淡々と歩を進める。

美香は内藤がマンションから出てくると時計を見て滞在時間を確認し、フゥッ~と息を吐いて何もなかったようだと喜色を浮かべ、そんな様子に店員が怪訝な表情を浮かべると羞恥で頬を朱に染める。
ごちそうさまと言いおいて大急ぎでチェックを済ませ、内藤を見送るために窓際に立っていた佐緒里が見えないことを確かめて店を出る。
背後を気にする様子もなく歩く内藤に近付き過ぎないように跡をつけると、悪戯好きだと言われた昔を思い出して心が躍る。
日曜の午後ということで家族連れやカップル、あるいは一人で歩く人など平日に比べて雑多で大股で歩く内藤を見失わないように跡をつけるのは容易ではない。
駅に続く道を歩く後ろ姿を見て、このまま電車に乗ったらどうしようと思っていると地図の前で立ち止まり、あっという間に二人の距離が縮まってしまう。

「あれっ、美香ちゃんも近くに住んでるの??」
「えっ、えぇ、お店に近いから、駅の向こうだけど。内藤さんこそ、どうしたのですか??」
「オレ??オレは近くに住んでいるから……嘘だよ。忘れちゃったの??今日は、さおりさんの部屋を訪ねる約束だったから」
「あっ、そうか、そうだったね。ごめんなさい、忘れていた……それで、さおりさんと二人っきりだったんでしょう??どうだったの??」
「どうだったって、ご両親がお見えになる日の作戦を聞いてきたよ」
「ふ~ん、それだけなんだ。そうか、そうだよね」
「店で見る美香ちゃんも好いけど、お日さまに照らされて眩しそうな表情の美香ちゃんも可愛いな」
「ほんとう??私に惚れちゃいそうになる??……少し早いけど、夕食を二人で食べたいなぁって思った??……うそ、冗談だよ」
「いや、冗談じゃなく、美香ちゃんに予定がなければ一緒に食べてくれないかなぁ??」
「ほんとうなの??ぜひ、お願いします」
「夕食には早すぎるから、このホテルで休憩しようか」
「えっ……はい。いいですよ」
内藤の意図を誤解する美香は小さな声でハイと応え、ドクドクと早鐘を打つ鼓動を誰かに気付かれないかと動揺を隠すために俯いて歩く。

ロビーラウンジでミルクティをオーダーすると、美香は落ち着きを取り戻す。
「少し、ガッカリしたかも……ウフフッ」
「どうして??」
「正直な女と正直じゃない女、どっちが好きですか??」
「そうだなぁ……正直な人が好いよ。特に美香ちゃんは正直な人だと信じてる」
「困ったなぁ、内藤さんに嫌われたくないから正直に言うね……さおりさんの部屋を見張っていたの。だから、内藤さんに会ったのは偶然じゃないの……怒った??ごめんなさい」
「えっ、どうして見張ってたの??さおりさんの秘密を探ろうとして休みの日は見張ってるの??」
「そうじゃない……そうじゃないの……さおりさんは女性として魅力的な人だから内藤さんは二人っきりになれば、フラフラッとなって……それが嫌だったの……」
「フラフラ、クラクラッとなったオレはオオカミに豹変して襲うとでも??」
「内藤さんは襲う必要ないもん……さおりさんは内藤さんの事が好きだもん、きっとそう……私のお客様にするために場内指名を勧めてくれたけど、内藤さんの事をよく聞かれたし、今回だって……」
「ハハハッ、ごめん……ちょっと待ってくれる」

レストルームに行くのかと思って内藤の背中を追うとフロントに立ち寄り話をしている。
期待と羞恥で戻ってくる内藤を見ることもできない美香は俯いたまま膝に置いた手を握ったり伸ばしたりする。
「美香ちゃん。家は近いって言ったよね、一旦帰ってきなよ。オレはこの部屋で待っているから……お泊りするのに準備が必要だろ」
思わぬ成り行きであっけにとられた美香が内藤を見ると、カードキーを見せてニッコリ微笑む。
「今日は休みだろう。一緒にお泊りしてくれるね??」
「えっ、そんな事を急に言われても準備もあるし……そんな、どうしよう」
「準備のために帰ってもいいよ、オレは待っているから。戻ってきたら食事にしようか……いいだろう??」
「ハァハァッ、何だか分からないけど昂奮する。内藤さんがこんなに強引だと思わなかった」
「強引なのを嫌いじゃないだろう??よし、決まりだ。いいね??」
顔を上げることもできず俯いたままコクンと頷いた美香は、意を決したように顔を上げてすっきりした表情でミルクティを飲み干す。
「もし、もしもですよ。私が戻ってこなかったら,どうします??」
「寂しく独り寝をするよ。そして、今度店に行ったときに、美香ちゃんはオレをホテルのダブルベッドに残してドッカに行っちゃったと言いふらしてやる」
「クククッ、理不尽にそんな事を言われると困っちゃう……今の強引さをもってすれば本当に言いそうで怖い、フフフッ」

弾むような足取りで帰宅した美香は逸る気持ちを抑えることが出来ずに早々にシャワーを浴び、この日のために用意した下着を身に着ける。
一泊に必要な準備を整えてバッグを閉じた美香は忘れていたと独り言ち、下着をもう一セット準備する。
あまり早く戻るのは抱いてほしいと催促しているようだしと自らを戒め、ゆっくりとコーヒーを淹れて好きな音楽を聴いていると内藤を焦らしている気持になって平静さを取り戻す。

コンコンッ……「来てくれてありがとう。似合っているよ、すごく可愛い」
喜色を浮かべて美香を迎えた内藤はさりげなく全身を見て笑みを浮かべる。
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ちっち

Author:ちっち
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さむいのも嫌
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