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偽者 ~PRETENDER~ -1

同伴

モノトーンのミニタイトドレス姿でフェミニンにまとめた積りの美香は太腿の露出が気になって裾を引っ張り、髪に手を伸ばそうとして顔を上げると待ち合わせた男が近付いてくるのが見える。
中腰になって軽く会釈する美香を制した男は、
「待たせちゃって、ゴメン」
「いいえ、私こそ、ゴメンナサイ。約束の時刻の5分前だし、誘ったのは私だし……それに、内藤さんとは特別な関係じゃないけど嘘は言いたくないし……」
「うん??ややこしいことは聞きたくないな」
「ごめんなさい。なぞかけみたいで嫌だけど聞いてください……ある人が、内藤さんに、頼み事があるらしいの……」

「いらっしゃいませ」
「アイスコーヒーをください」
「アイスコーヒーですね、少々お待ちください」

「それで……聞くよ」
「いいの??」
オーダーを聞いた店員が去ると内藤が口を開き、美香は気弱そうな雰囲気を漂わせてドレスの胸元や髪を気にしながらも内藤を見つめ返す。
「ある人って、美香ちゃんが世話になっている人なんだろう??それでなきゃ、そんな頼まれ事をするはずがない」
「そうなの……私がこの世界、キャバ嬢になった頃から今まで、すごくお世話になっている人で、内藤さんも顔と名前は知っているはず……本当に、いいの??」
「同じ店の先輩か……好いよ。美香ちゃんの顔を潰せないだろう」
「今日、来てくれるでしょう??お店で紹介するので話は直接聞いてください」
言い終えた美香は一瞬、物憂げな表情を浮かべて通りを歩く人たちに視線を移し、一瞬浮かんだ色っぽさに内藤はドキッとして美香の視線を追う。
一日の仕事を終えて家路に付くべく駅へ向かう人やJRの駅を挟んで南北にある繁華街を目指す人、待ち合わせの時刻が気になるのか時計を見ながら急ぎ足の人などそれぞれの思いを胸に歩いているように見える。

「アイスコーヒーでございます」
「ありがとう」

「ごめんなさい。頼まれたのはね……」
「いいよ、店に行けば分かるんだろう??この後、用がないなら何か食べに行こうか??」
「いいの??怒ってない??」
「気にしなくていいよ。美香ちゃんは頼まれごとをオレに伝えた。要件は後刻、直接聞くってことで美香ちゃんは責任を果たした。それでいいだろう」
「うん……」
「どうした??何か心配があるの??」
「私と内藤さんは特別な関係じゃないけど……その人と内藤さんが仲良くなるのは……ちょっと……」
「たとえ相手が誰でも指名替えしたりしないよ。太客じゃなくて申し訳ないけど、美香ちゃんに恥をかかせないから安心していいよ」
「そんな事じゃないのに……」
「えっ??……食べたいモノがある??何でもいいよ」
屈託なく笑みを浮かべる内藤を癪に思った美香は頬を膨らませて怒った振りをする。
「気に障る事を言ったかなぁ……減量中で食事制限しているとか??」
「もう、本気で怒った……お肉が食べたい。しゃぶしゃぶがいい」
笑みを浮かべたまま、分かったと応えた内藤はスマホを手に取り、しゃぶしゃぶと個室を予約する。


「個室って何か分からないけど、エロイ。内藤さんは同伴の時、こういう店で食事をするの??」
「同伴どころか、そういう店はほとんど行かないよ。美香ちゃんの店くらいだよ」
「ぜったい、嘘。すごく慣れているような気がする……今日、相談事があるって先輩も、そんな雰囲気を感じ取っているような気がする」
「さぁ、食べよう。ここの、しゃぶしゃぶは旨いよ」

「ごちそうさま。美味しかったです……また、誘ってもらえますか??」
「お言葉を返すようですが、今日は私が誘ったのではありません。美香さんのお誘いを受けた私が、しゃぶしゃぶを食べさせろというので、この店にお連れしたのです……クククッ」
「いじわる。そんな事を言うと、もう誘ってあげないから……ウフフッ、アハハッ」
「それは困るな……誘ってもらえないなら、次はオレが誘っちゃおうかな」
「ふ~ん、内藤さんは私を誘いたいんだ……いいよ、誘われてあげる。私は食事をおねだりしたけど、内藤さんなら別のモノを欲しいって言ってもいいよ」


「座ってもいいですか??」
「内藤さん、さおりさんをご存知ですよね??」
「初めての時、さおりさんと美香ちゃんが付いてくれた。実はナンバークラスの売れっ子さん、それくらいは知ってるよ」
「お願いがあるのですが、聞いていただけますか??」
「あの、私は席を外しましょうか??」
立ちかけた美香を手で制したさおりは内藤が頷くのを確認して、
「美香ちゃんも聞いて……実はちょうど1週間先なのですが、両親が私のところに来るんです。実家に帰った時や電話で話す際に再婚を勧められるんです。私はバツイチなんです……ここでの仕事は嫌いじゃないし、結婚も今は考えたくないので婉曲に否定というか、何というか結婚の話を持ち出せない雰囲気を両親に感じてほしいなと思って……」
「それで私に恋人役を演じてほしいと……そういうことですか??」
「いえ、そこまでは考えておりません。ただ、お付き合いしている男性がいれば、それも内藤さんのような男性が……お願いできませんか??身勝手で無理なお願いだと承知で、どうでしょうか??」
「……う~ん、ご両親をだますのは……さおりさんの言うことも分かるし、ウ~ン……」
「そうですよね。直ぐに分かった、好いよって返事を頂ける人は信用できませんものね……お呼び立てしたうえに、急にご無理なお願いをして申し訳ございませんでした。忘れてください……美香ちゃんにも変なお願いをしてごめんなさいね」
「分かった、引き受けますよ。失礼な言い方だけど、面白そうだしね……段取りは決まってるの??」
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます。大体のところは……」

「失礼します。さおりさん、お願いします」
「えっ、はい、すぐ行きます……内藤さん、私の部屋に来ていただけませんか??美香ちゃんと一緒に……その時に作戦をお話しします。これが住所と簡単な地図、それと携帯番号です。すみません、お客様がいらっしゃったようなので失礼します」

「ふぅっ~……ごめんなさい。驚いたでしょう??私はびっくり……で、どうするの??」
「引き受けたんだから、行くしかないだろう??美香ちゃんの都合は??」
「私??私は行かないよ。内藤さん一人で行ってください。さおりさんが困っていても私は役に立てそうにないから……でも、二人っきりになっても変な事をしちゃ嫌だよ」
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

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さむいのも嫌
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夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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