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ホテル -1

禁断

「ほんとに来ちゃったよ、いいの??」
「よく来てくれたね、嬉しいよ」
新大阪駅の新幹線ホームで下車した女からバッグを受け取った男は笑みを絶やすことなく抱き寄せて頬を合わせ、階段を下りて在来線ホームに向かう。
「今更だけど、無理してない??」
「大丈夫だよ、この間、アユを怒らせちゃっただろ。あの時は今日の事が頭にあったんだよ」
「そう言ってくれればよかったのに、あの時は一瞬だけどあなたの事を信じられないと思っちゃった。ごめんなさい」


「いつか、一度でいいからあなたとお泊りしたいな」
「そうだな、いつって約束できないけど、一泊でホテルに行こう」
「ディユースじゃなくて??」
「もちろんだよ。温泉でもいいよ」
「嘘、そんな事を言うあなたは嫌い。あなたは、夜、絶対に奥様のところへ帰る、たとえ奥様が留守の日でも帰るでしょう。寂しいなって思うけど、決めたことを守るあなたを信用できた」
「…………」
「何か言ってよ。守れない約束をする人は信用できないし、大嫌い。好きな男の言うことは信じたいの、嘘って分かっていても信じるのが女なんだよ。あなたは守れない約束をする人じゃないと思っていた……嫌い、信じられなくなった。帰って、もう会いたくない」
男は立ち去り、残っているのは置いていった合鍵だけ。

二か月ほど前の行き違いを思い出す。
女から出て行けと言われた男は言い訳一つせずに合鍵を残して部屋を去り、数日後、女の会いたいという連絡で仲直りできた。
「妻が一緒に行くと言い出す可能性を否定できなかったからなぁ……一旦約束をして、後日、あれはダメになったとは言えないだろう??」
「うん、今は分かりすぎるほど分かる。ごめんね、あなたの気持ちを理解できなくて、違う、何があっても信じることが出来なくて……電車に乗るの??」
「そうだよ、一駅だけどね」
新大阪駅15番ホームで待つ間もなく滑り込んだ電車に乗り、次の大阪駅で降りて駅から出ることなくデパートの入り口に並ぶホテルに入りチェックインする。

友人のお嬢さんの結婚披露宴に招待された男が、大阪で一泊するからアユも来ないかと誘ってくれたので半信半疑のまま泊りの準備をして新大阪駅に降り立ち、ホテルのロビーで感慨深げに周りを見回す。

「ありがとう」、「ごゆっくりお過ごしください」
部屋に案内してくれたベルボーイに礼を言い、挨拶と共にいなくなるとアユは窓際に近付いて眼下に広がる大阪の眺望に目を見張り、スゴイと感嘆の声を漏らして表情に喜色を残したままベッドに飛び乗り、落ち着く間もなくバスルームを覗く。
「いやらしい、私が一人で入っていても、あなたは見ることが出来る。ガラス張りでカーテンがない」
「おや、アユは独りで風呂に入りたいのか。オレは当然二人で入るものと思っていたのに、残念だなぁ」
「いじわる。二人で入るに決まっているでしょう……そうだ、それより結婚式はその恰好で行ったわけじゃないでしょう??着替えやそのほかの荷物はどうしたの??」
「着替えも引き出物も、花嫁の父親にオレの実家に届けるように頼んどいた」
「えっ、そんな事をして大丈夫なの??私といることがバレない??奥様が私を知っているとは言え、私たちは世間的にマズイ関係でしょう??」
「大丈夫だろう」
「私は、あなたのような人を亭主にしたくない……ウフフッ、私も水商売の女。勉強も兼ねて大阪の夜をあなたに案内してもらおうと思ったけど予定変更でこの部屋から出ない事にする」
「そうか、明日、家まで送ってバイバイするまで何でも希望通りにするよ」
「なんでも私の希望通りにしてくれるの??」
部屋のあちこちを確かめるアユをソファに座ったまま目で追う男に近付き、腿を跨いで座り、瞳を覗き込む。

優しく微笑んだままコクンと頷く男を見ると無茶な要求も出来なくなるし、たとえ暫らくの間とは言え彼と離れていた時間の寂寥感を思うと必要以上の満足感を求める気持ちになるはずもない。
「少し早いけど、食事をしたい……その後は、少しだけ散歩して戻ってからは長い夜を過ごすために風呂に入るの、いいでしょう??」
男の首に両手を回して身体を支え、太腿を跨ぐ下半身を妖しく蠢かすアユは欲情を隠そうともせずに甘え声で囁く。
「いいけど、その前に……」
アユの頬に両手を添えて顔を近付け、一言も発することなく瞳を覗き込む。
心の奥まで見通すような視線に畏怖するアユが思わず目を閉じると、閉じた瞼にキスされ舌先が感触を味わうように瞼を這う。
アンッ、気持ち良さで思わず声を漏らすと、それを封じて唇を合わされ、左手が頬を擦り、右手は腰から太腿を撫でる。
アウッ、ウグッウグッ……気持ち良さに堪えきれずに崩れ落ちそうになる身体を支えるために両手を男の背中に回し、体重を預けて寄り掛かる。
アユの身体を抱きかかえたまま倒れるようにソファの肘掛けに頭を乗せ、チュッと音を立てて唇を合わせる。
「寝かせないよ。もう許してくれって言っても聞かないからね。アユの足指から髪の毛に至るまでオレの跡を残しちゃうよ」
「ほんとう??でも、身体だけなの??心にあなたの跡は残さないの??何があってもあなたから離れられない女になりたい……こんな事を言うと負担になる??」
「アユがそれで幸せかどうか不安に思うよ、正直に言うと」
「今日は優しさを欲しくない……今日だけでもいいから、ほかの事は考えないで、あなたの想い出で身体も心も満たしたい」

レストランフロアーに降りてアユの希望するフレンチレストランに入る。
早い時間帯ということもあって予約なしでも窓際の席に案内され、先ほど感嘆の声を上げたのと同じ景色を見ながらの食事に満足する。
その後、阪急三番街を歩き、
「何回か改装もあったけど中学から高校生の頃はよく来た場所だよ」
「遊ぶのは神戸じゃなかったの??」
「神戸の方が好きだったけど、同じ兵庫県と言っても神戸は乗り換え,梅田は乗り換えなしだからね」
ビルの屋上にある赤い観覧車は高い処が苦手という男の反対で見上げるだけにする。

「このホテルで幼馴染のお嬢さんが結婚式と披露宴をしたんだよ」
ヒルトンホテルに併設されたヒルトンプラザでウィンドーショッピングを楽しみ、地下街を通じてホテルに戻る。

「お風呂の用意をするね。汗を流したいでしょう」
男を見つめるアユの瞳に淫蕩な光が宿る。
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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