2ntブログ

おとぎ話

膝枕-4

「見るだけじゃ、いやっ・・・可愛がって・・・あなたに抱かれて気持ち良くなりたかったの・・・」
体重を掛けないように注意しながら覆い被さり、唇を合わせてバスローブに手を掛ける。
「脱いじゃう・・・こんな事をするのは、いやっ??はしたないと思う??」
仰向けに寝たままでは脱ぎにくく、もどかしく思う美緒は突然起き上がってバスローブを脱ぎすてる。
「クククッ・・・お茶目で可愛いよ」と言いざま、美緒の身体を仰向けから俯せに反転させ、腰の辺りから指の爪先で脇腹を撫で上げる
「ヒィィッ~、ウッウッ、クゥッ~・・・電気が走ったみたいに変な感じ・・・うぅうん、気持ち良いの・・・」
ベッドに突っ伏した美緒に覆い被さり、肩から首筋を鼻先でなぞる。
「好い匂いがする・・・上品で洗練された街角を歩くオレが官能的でミステリアスな悪女とすれ違う光景を想像する」
「ウフフッ、それって褒め言葉なの??・・・悪女は贅沢なの、簡単には満足しないよ」

染み一つない白い背中に両手の指を立てて触れるか触れないかの微妙なタッチで撫で回す。指先が産毛の存在を感じるような繊細さで縦横無尽に動き回る。
「アウッ、なに??・・・すごい、毛穴が開き産毛が立ち上がってくるような感じがする・・・気持ちいぃ・・・」
指を立てたまま右手は右腿に、左手が左腿を這い回ると美緒の口から、ウッウッ、アッ、アンッと吐息が漏れ始める。
手の平が腿の裏を撫でて指先で摘まむように膝裏を刺激しながら背骨の両側を舌が這い、同じ場所を唇が刺激する。
鼻先でなぞり息が肌を刺激する。十本の指は休むことなく這い回り、美緒は唇を噛んで吐息が漏れるのを我慢して両手はシーツを掴む。
オレは髪に顔を埋めて熱い息を地肌に吹きかけ、息を吸い込んで美緒の香りを楽しむ。
「ヤンッ、髪の匂いなんか嗅がないで・・・はずかしいよ」
「どうして、恥ずかしがることはないよ。美緒の髪の毛一本、足の指まですべて味わいたいよ」
「クククッ、ほんとう??・・・もっとやって、今度はこっち・・・好き」
俯せから仰向けに姿勢を替えた美緒はオレと視線が合うと、一言囁き自然と口元を緩めて目を閉じる。
最後に漏らした、好きと言う言葉は愛撫を指すのかオレの事を言っているのか、一瞬考えてみたもののこだわる事はないと思い愛撫を続けることにする。

チュッ・・・イヤンッ、ウフフッ・・・わざと音を立てて唇を合わせ、美緒の意識をオレに向かわせる。
意志が強く生意気そうに尖った顎を甘噛みして首に舌を這わせると、顎を仰け反らせて白い喉を見せ、アンッ、いぃ、ガツガツしてないのが好いの・・・と感に堪えないような声を漏らして唾を飲む。飲み込んだ唾液が白い喉を通過する様子が艶めかしい。
片方の乳房を揉みながら鎖骨の窪みに沿って舌を這わせる。
乳房を揉む手はそのままに、舌と唇は鎖骨から肩を経て脇腹を舐めながら時に甘噛みも交える。
ブ~ンブ~ン・・・エアコンの音、美緒とオレの下着を入れた乾燥機の音が静かな部屋で振動音を立てている。それらに交じって、ンッ、ンッ、アウッアァッ~・・・シャリシャリッ・・・秘めやかな吐息に交じり、身悶える美緒がシーツを擦る音がする。
秘密めいた静かな音や声が部屋の空気を淫靡なものに変えていく。
「どうして、もっと早く誘わなかったんだろう・・・こんなご馳走が目の前に居たって言うのに・・・」
「アンッ・・・ほんとう??本当にそう思ってる??・・・まだ、前菜の途中だよ、オッパイの先っちょも味わってくれる??・・・それからメインディッシュの材料を吟味して、調理の仕方を考えてくれなきゃ・・・アウッ、いいの、そこがいぃ、待ってたの・・・」

オレは美緒を見つめ、美緒は恥じらいを帯びながらもキラキラと瞳を輝かせてオレを見つめる。
「キスして・・・」
美緒の声は震え、オレは黙したまま頷く。美緒の頬に手を添えて唇を近付けていくと目を閉じる。
閉じた瞼に唇を合わせて舌を左右に這わせ、鼻梁を鼻先で擦りながら下りていき唇を重ねる。
「好きだよ・・・」
「私も・・・舌や指の愛撫も感じるけど、今の好きだよって言葉が一番気持ち良かった・・・もう一度言って、だめっ??」
「ダメなもんか・・・美緒が好きだ。今までも大切な物はあったけど、これからは美緒が一番大切だよ」
「アァ~ン、私を気持ち良くさせるのが上手・・・私は、私はね、前からあなたが一番大切だった。お店に来てくれるだけでその日は幸せな気持ちになれたの・・・今日は、やっと・・・ウフフッ」

おとぎ話

膝枕-5

唇を合わせて何度もつつき合い、互いの気持ちがこれ以上ないほど昂ぶったのを確かめて舌を絡め唾液を交換するような濃厚なキスをする。
舌が出入りして重なり合い、相手の舌の周りを踊るように擦り合う。
ハァハァッ・・・ブチュブチュッ・・・ウッウゥ~ン・・・ほんの少し離れて見つめ合い、瞳の奥に潜む愛を確かめて再び唇を重ねる。
「ハァハァッ・・・だめっ、逝っちゃいそう・・・あなたに抱かれるのを待ち過ぎたみたい、どこに触れても気持ち良いの・・・」
「オレもだ・・・舌が柔らかな唇を割って押し入る時は、オマンコに挿入する時はこんな感じかなぁって想像するよ」
「クククッ、エッチ・・・いやらしいあなたが好きよ・・・もっと、可愛がって・・・おねがい」
赤く染まった瞳が挑むようにオレを見つめ、喘ぐように話しかけてくる。

片方の乳首を口に含んで舌先で弾いたり転がしたりしながら、もう片方の乳輪を指でなぞり焦れた美緒が突き上げるように催促するのを待って二本の指の間に挟む。
アウッ、イィ・・・乳首を挟んだまま乳房を揉みしだき、口に含んだ乳首を甘噛みする。
「クゥッ~・・・気持ちいぃ、痛痒いのが良いの。アソコが寂しがってる、可愛がってって言ってるよ・・・」
焦れたように下半身を蠢かして股間への愛撫を催促する。

乳首を摘まんでいた手は脇腹を撫で下りて成熟した女性らしく張り出した腰から腿を撫で、唇と舌は舐めたり息を吹きかけたりしながら恥丘に至り、開いた口に頬張って甘噛みし、恥毛を噛んで引っ張る。
「アンッ、遊ばれてる、そんなに強く引っ張られたら抜けちゃうよ・・・そこを噛まれても気持ち良い、どこでもあなたが触れたところが私の性感帯」
「フフフッ、すごいね。美緒は全身が性感帯なんだ・・・どこを愛撫しても感じてくれるから嬉しくなっちゃうよ」
「イヤンッ、知ってるくせに。あなたが上手なの、私の身体はあなたをずっと待っていたんだから・・・」

鼠蹊部を撫でるとバギナへの愛撫を期待する美緒は自らの手を腹部に伸ばし、その手がおずおずと股間に向かおうとする。
手を見つめて視線を合わせると、手が勝手に動いちゃったのと可愛い事を言って腰の下に入れて身体で押さえ動かないようにする。
「美緒は良い子だよ、邪魔しないように手をどけてくれたんだ・・・」

アウッアンッ、ウッウッ・・・手の平で膝裏を撫で、指が脹脛からアキレス腱の辺りを揉むと美緒の口から気持ち良さげな吐息が漏れる。
足指の付け根を揉み。指の間にオレの指を絡ませて内腿に舌を這わせると、
「アンッ、くすぐったい・・・アハッ、気持ち良くなってきた」
予期せぬ快感を堪える美緒は足首を蠢かして、腰の下に入れていた手でオレの髪を掴む。
足指を揉み甲も揉む。脹脛から膝裏を経て内腿に指や爪を這わせながら時に強く摘まみ、唇と舌は腿の付け根から鼠蹊部を刺激する。
鼠蹊部を伸ばした舌でベロ~ンと舐め上げて指を会陰部に伸ばし、何度か行き来させて窄まりに近付くと尻の割れ目を窄めて触られるのを嫌がる素振りを見せる。

再び内腿の付け根付近をサワサワと擦り、鼠蹊部に指を這わせて舌がなぞりチュッと音を立てて吸ってみる。
「うぅ~ン、気持ちいぃ・・・もっと強く吸って・・・あなたが私を可愛がったっていう印をつけて・・・」
「どこに付けようか??・・・腿の付け根に付けちゃおうか??」
内腿の付け根付近に吸い付き、チュッ~と音を立ててキスマークを付ける。
「しばらく、オレ以外の男に身体を開けないな・・・」
「えっ、怒るよ、そんな事を言うと・・・あなた以外の男に気を惹かれる事なんてないよ」
「ごめんね、つい・・・言っちゃいけない事を口にした、本当にゴメン」
「うん・・・むきになってゴメンネ。あのね・・・いぃ、今は何も言わない」

「美緒、すごい事になってるよ・・・気付いてるだろう??」
「イヤンッ、そんな事は言えない・・・恥ずかしい」
股間で上下に伸びる1本の筋。綻びはしどけなく開いて朝露に濡れた薔薇のように華やかに咲き誇り、妖しい香りの蜜を滴らせてオレを誘う。
真っ赤な花弁で視覚を刺激され、魅惑の匂いで臭覚を刺激されるオレは溢れ出る蜜を味わいたくなるのを耐えて、大陰唇に指を添えてパクパクと開いたり閉じたりを繰り返す。
「イヤンッ、遊んじゃ嫌だ・・・舐めて・・・グチャグチャといやらしい音がするほど舐めて欲しい」
割れ目を大きく開き、芳しい香りと妖しく華やかな花弁に我慢できず、むしゃぶりつくように口に含むと、ウッと言う声と共に身体を硬直させてオレの髪を引っ張る。
「ごめん、痛かった??・・・つい興奮しちゃった」
「いいの。愛撫ロボットに相手されているんじゃないから、感情をさらけ出されると嬉しい」

おとぎ話

膝枕-6

指を添えて大陰唇を開くとオレを誘う妖花の奥から花蜜がしとどに溢れ、ズズズッと音を立てて吸うと快感を耐えきれずに両方の腿で上半身を締め付ける。
「気持ち良くなってくれているんだよね・・・ここを舐めると、どうかな・・・」
小陰唇が作る溝を舐めて甘噛みし、顔を左右にブルブル振る。
「イヤンッ、ビラビラをブルブルされると千切れちゃうよ・・・気持ち良いけど・・・」
指を添えて溢れ出る蜜で濡れそぼつ膣口を開き、舌を挿入する。
「ウッ、ウッ・・・どうして??舌が出入りすると鼻がクリをクチュクチュする・・・アンッ、中もクリも良いの・・・」
「美緒の感度が良いからだよ・・・気持ち良くなってくれて嬉しいよ」
舌を二度三度と出入りさせ、膣壁を擦るように舐め上げてそのままクリトリスまでベロっと舌を這わせる。
クリトリスは包皮を押しのけて固く尖り、オレの口の中でますます勃起する。
クリトリスの周囲を舌がなぞり、舌先がツンツンと先端を叩く。
甘噛みすると美緒は白い喉を見せて仰け反り、温かい息を吹きかけるとオレの髪を精一杯の力で掴む。
アウッ、アンッ、いいの・・・ンッ、クゥッ~、いやぁ~ン、気持ちいぃ・・・喘ぎ声が間断なく漏れ、美緒の上半身は薄っすらと滲む汗で滑りを帯びる。
「もうダメ、入れて・・・我慢できない・・・」

「入れるよ・・・力を抜いて」
仰向けで横たわる美緒の両脚を開いて立てさせ、オレはペニスを掴んでバギナに押し当てて擦り、十分に馴染ませてゆっくりと腰を突き出していく。
「ウッ、ウゥゥッ~・・・アワワッ、くるくる、入って来る・・・ウッ、きつい・・・」
美緒の首に手を回して抱きかかえ、唇を重ねる。
二人の唇の間を唾液がつなぐほど濃厚なキスをして離れると上気した表情で、
「優しくして・・・久しぶりだから」
好きという事も出来ずに優柔不断に時を過ごし、ようやく思いを遂げたオレは激しく動きたくなる衝動を抑えて股間を押し付け、円を描くようにゆっくり腰を動かす。
「美緒のここは温かくて気持ち良い・・・んっ??美緒、動かしてる??」
「何もしてないよ・・・気持ち良いの。私のアソコがあなたを包み込むようにしているのを感じる」
「そうだよ、包み込むだけでなく、壁がヤワヤワと蠢いてオレのを刺激するんだよ・・・たまんないよ」
「ウソ・・・何もしてないよ・・・アワワッ、また・・・いぃの」

正常位で美緒に挿入したオレは右手で左腿を抱きかかえ、恥骨をぶつけるようにして結合を深くしながらゴリゴリと擦りたてる。
「クゥッ~、すごい・・・激しくされてないのにすごいの・・・こんなの初めて・・・キスして、キスしたい」
腿を抱いていた右手で乱れ髪を整え、じっと見つめて唇を近付ける。
今にも泣きそうな顔でオレを見つめ返した美緒は、唇が近付くと目を閉じ両手をオレの背中に回して抱き寄せ、足はオレの胴に絡みつく。

美緒の両脚を伸ばしてオレの両脚で包むようにし、股間を押し付ける。クリトリスを刺激される美緒は表情を歪め、
「アウッ、アワワッ・・・逝っちゃう、逝ってもいぃ??・・・クゥッ~、我慢できない・・・」
「オレも逝くよ・・・出ちゃうよ・・・逝くよ」
「いいよ・・・一緒だよ、イックゥ~・・・」

満足してぐったりと弛緩した美緒は力なく横たわり、恥ずかしそうに顔を背ける。
美緒の顔にかかる乱れ髪に手櫛を入れて軽くキスをしたオレは、意識して飛びっきりの笑みを浮かべる。
「いやだ、余裕綽々に見えて感じ悪い・・・お前を逝かせてやったぞ、気持ち良かったかって・・・」
「えっ、誤解だよ。そんなこと思ってもないよ・・・本当に気持ち良くて、満足したんだから」
「ウフフッ、冗談。ごめんね・・・あなたに抱かれるのが夢だったけど、間違いじゃなかった・・・ねぇ、いつでもいいから、また・・・ねっ、いいでしょう??」
「いつでもって、そんなで良いの??オレなんか毎日ベッドを共にしたいと思ってるのに」
「えっ・・・うん、私も・・・幸せ。もう少しこのままで居て。キスして・・・キスが大好きなの」
「あぁ、何度でも・・・美緒が勘弁してって言うまでキスをするよ」

クククッ・・・突然、顔をくしゃくしゃにして美緒は笑い出す。
「どうした、感じ悪いよ。思い出し笑いなんかして・・・」
「ごめん、満足したら突然、アキちゃんの言葉を思い出しちゃったの・・・おかしくて我慢できない・・・ねぇ、聞いて」
「あぁ、いいよ・・・何だって??」
「アキちゃんが付き合ってる人なんだけど、セックスの途中、愛撫でも挿入した後でも気持ち良くなって、もう少しって思うと突然激しくなったり体位を替えたり落ち着かないんだって・・・傷付けちゃ悪いから、激しいのが好きだって言うと、最近ますます酷くなったんだって」
「何か分かるような気がするな・・・精一杯の優しさの積りなんだろうな??」
「そうらしいの、それが困るって・・・セックスの行き違い以外は理想の男なんだけどって悩んでるみたい・・・どうしたらいいと思う??」
「分かんないよ、そんな事・・・激しくなるとか体位を変えるなって思った時に、これが好い、ゆっくり続けてって言えばどうなんだろう??」
「そうだね、今度、愚痴ったら、そう言ってみる」
「責任持たねぇぞ・・・」
「うん、分かってる・・・私が久しぶりだって言ったから静かに抱いてくれたんでしょう??次は、バスルームで私の手を掴んで壁に押さえつけたでしょう。あんな激しいのをして・・・ダメッ??」
「好いよ、激しくって腰が抜けても知らねぇぞ」
「いやぁ~ん、そんな事を言うから濡れてきちゃった・・・終わったばかりなのに・・・ねぇ、舐めても良い??」


                                                            <<おしまい>>

おとぎ話

SEPTEMBER MORN セプテンバー・モーン

「いらっしゃい・・・まだ降っている??」
「うん、もうすぐ上がりそうだけどね」
「ありがとう、来てくれて」
「お礼を言うのはオレの方だよ、ありがとう。間にあったかな??」
「う~ん、ちょっと待って・・・大丈夫みたい、あなたの誕生日は終わってない」
カウンター席が数席あるだけの小さなバーのママは時計に視線を移して時刻を確かめ、偽りなく嬉しそうに微笑む。

酔っ払いが歩く通りの喧騒を知らぬげにひっそりと佇む店内はゆっくりと時を刻む。
ママの選んだBGMが静かに流れる中で 客はそれぞれの時間を誰にも邪魔される事なく好きな酒を飲んで過ごす。
勿論、ママ目当ての客もいるがさり気なくあしらわれて高嶺の花と諦め、どんな男と秘密の時間を過ごすのかと想像する事になる。

「ちょっと待って、灯りを落とすから」
カウンターを出て店の看板を取り込み、シャッターを下ろす。
頭や肩の雨に濡れた部分もそのままにしてオレの傍に立つ。
微かに漂う香りに早くもオレの心は早鐘を打ち、それを隠そうとしてバックバーに目をやる。
「濡れちゃった・・・」
バックバーの奥にある鏡の中で視線を合わせ、悪戯っぽく微笑みながら口にする。
「気が付かなくて、ごめん」
オレはハンカチを手にして雨に濡れた部分を軽く拭き取る。
「何処かで飲んで来たの??・・・顔が赤いよ」
「何を言わせたい??」
「ウフフッ、何か言いたい事があるの??聞いてあげるよ・・・なんなりとおっしゃいな」
「ウ~ン・・・今は止めとく。切っ掛けがあれば後でね」
「ふ~ン・・・分かった。良いよ、後でも・・・正直な人が好きよ」

カウンターに入ったママはシェーカーを手に取り、ホワイトラム・ライムジュース・グレナディンシロップ・卵白を入れてシェイクする。出来上がったカクテルをシャンパングラス2個に注ぎ分けてオレの前に置く。

「フルーツが好きなあなたの誕生日ケーキはこれで良い??」
「フルーツたっぷりのタルトか、好きだよ。うん??・・・これは??」
「そうだよ、手作り・・・誕生日をお祝いする精一杯の気持ち、口に合えばいいけど・・・」
キャンドルを立てたママはカウンターの外に出てオレのそばに立つ。
「私は右、それとも左??どっちに座ればいいの??」
「触れたくなるような好い女とオレの悪戯を待つ女は左側」
「あなたが右利きだから??」
「ふふふっ・・・」
照明を暗くしてオレの左側に座り、キャンドルに火を点ける。

「お誕生日、おめでとう・・・」
「ありがとう・・・」
「吹き消して・・・」
「なんか照れるな」
フゥ~・・・静寂と共に室内が暗くなる。
「きれい・・・」
きれいだ、と言いかけたオレの唇に人さし指を合わせて言葉を遮り、言葉は必要ないと言わんばかりに静かに目を閉じて顔を傾ける。
閉じた瞼の裏側に映っているであろうオレ自身の姿を意識しながら、優しく背中を抱いて首に手を回し、唇を合わせる。
静かなキスは次第に濃厚なものとなり、息をするのも苦しくなるほど互いを求めあって離れていく。
二人の唇は離れるのを拒否して唾液がツゥ~っと糸を引く。

目の周りを朱に染めて、
「改めて、お誕生日おめでとう」
「2人だけの誕生日をありがとう」
シャンパングラスを軽く掲げ乾杯をする。
カクテルは秋の早朝、昇り始めた朝日のような色だ。グレナディンシロップの深みのある赤が卵白を加える事で朝焼けのような色になり味にもコクがでる。
「ラム酒の原料を知ってる??」
「サトウキビだろ」
「じゃ、グレナディンシロップは??」
「本当はザクロ、でもカシスなどを使ったものもある」
「このカクテルはどう、美味しい??」
「うん、誕生日を祝ってくれるに相応しいよ」
「フフフッ・・・プレゼントが欲しい??」
「なんか怖いね・・・」
「このカクテルはね、セプテンバー・モーンって言うんだけど・・・<九月の朝>って言う意味なんだよ・・・どう、気にいった??」
「モーニングではなくモーン??」
「らしいよ・・・どうする??・・・九月の朝」
「・・・今晩、泊めてくれる???」
「いいよ、誕生日プレゼント代わりに泊めてあげる。朝になったら私の身体をグラス代わりにセプテンバー・モーンをもう一杯飲ませてあげる」

愛し合った後は降っている雨も止み、きれいな朝日を見ることが出来るだろう。


                                              <<おしまい>>

おとぎ話

帰り道

「バイバイ・・・浮気しちゃダメだよ」
いつに変わらぬ言葉を背中で聞いたオレはいつもと同じコンビニに入り冷凍ケースの前に立つ。
美味い酒を飲んでの帰り道、アイスバーをかじりながら空に浮かぶ月を見て歩くのが気に入っている。
最近のお気に入りアイスを探していると、そばまで来た女子店員が、
「品切れですよ。夕方、見た時になかったんです」
いつだったか、22時頃に立ち寄る店内は多くの客で賑わっている時間帯なのに、その日は、たまたまレジ付近には女子店員しかいなかった。
「飲み屋さんからの帰りでしょう??この甘いアイスが良いんですか??」
「酒を飲んでいる最中は楽しいんだけど、一人歩いて帰る時間は、むなしく感じることもあるんですよ・・・そんな時、この甘いアイスが寂しさを癒してくれる」
そんな会話をしたこともあって、最近は差し障りのない範囲で挨拶以外の言葉も交わすようになっている。
今では他のレジが空いていても彼女がいるレジに並ぶこともある。
なにか目的があるわけでもないが、こんにちはの一言を聞くだけで心が穏やかになる。

ガリガリ君を手にしてレジの前に立つと、
「今日から700円以上で、クジを1回引けるんですよ」
「う~ん、それじゃ、このビッグフランクを5本ください」
「えっ、アッ、ごめんなさい・・・余計なことを言っちゃいました・・・いいですか??・・・それでは、クジを1回引いてください」
「じゃぁ・・・これでいいや」
「開けますね・・・当たり、キャラメルが当たりました。取ってきます」

新手の押し売りに掛かっちゃったなと思いながらも不快な感じはなく、棚に向かう女子店員の後姿を追う。
「これです。キャラメル・サレ・・・美味しいですよ。私は好きです、これが・・・」
じゃぁ、プレゼントするよ、と言っても受け取らないし、次の客が近付いてきたので店を出る。

ガリガリ君を舐めながら、空を見上げると真ん丸な月が優しく微笑みかけてくれる。
月に住むと言うウサギを探しながら、ゆっくり歩いていると靴音が近付いてくる。
コツッコツッコツ・・・ハイヒールらしい靴音が大きくなるにつれて、グリーンノートの香りが鼻孔をくすぐる。
コツッコツッ・・・近付いてくる女性が不快に感じないように、そっと横を見ると、茶目っ気を感じさせるクルクル動く瞳がオレを見つめている。
好い香りですね・・・なんとも間抜けた言葉が口をつく。
「良かった・・・お気に入りのエルメスの香水なの。私には、そのガリガリ君が魅力的なんだけど・・・」
「かじる??・・・良いよ、どうぞ」
「ガリッ・・・うぅ~ン、冷たくて美味しい・・・その袋は何が入ってるの??」
「これっ??・・・フランクフルトソーセージだよ」
「それを、待っている人がいるの??」
「いないよ。700円以上買えばクジを引けるって言うから買っただけだから」
「食べたいな・・・お腹が空いちゃった」
「この先の公園のベンチに行こうか・・・あっ、大丈夫。何もしないよ。ソーセージを食べるだけだから」

酒屋の前の自動販売機でコーラと紅茶を買って言葉を交わすこともなく無言で公園を目指す。
吐く息に混じるアルコールの匂いと、お気に入りだと言う香水の香りに、仕事で頑張った昼間の疲れを感じて微笑ましく感じながらも真意を測りかねる。
チラッと女の表情を盗み見ても、初対面のオレを警戒することなく、なにやら楽しげに歩いている。
昼間は母親に連れられた幼児やボール遊びに興じる子供たちでにぎやかな公園も、夜の帳が下りてガーデンライトの明かりに照らされるこの時刻は、人っ子一人見ることもなく不気味にさえ感じる。
公園の入り口が見える奥まで進み、ベンチに並んで座る。
プシュッ・・・プシュッ・・・女はコーラを、オレは紅茶のプルトップ缶を、音を立てて開ける。

「どうぞ・・・」
「ありがとう。変な女だと思ってる??」
正面を向いたまま、ソーセージを一口食べた女が問いかける。
「初対面の男が舐めてるガリガリ君を欲しがる女子はいないだろうな・・・そう考えると、確かに変わってるね」
「仕事で失敗しちゃったの・・・愚痴をこぼしたいんだけど、同僚には聞かせたくないし・・・つまんない意地だけどね。普段、男になんか負けないって突っ張っているから・・・心を許せる男もいないし・・・」
「クククッ・・・そんな時に人畜無害の男がアイスを舐めながら歩いていたから丁度良さそうだと思ったわけだ」
「当たらずとも遠からずとは言え、そんな言い方をされると身も蓋もないけどね」
「否定して欲しかったな・・・そんなじゃなく、カッコ好いからとか・・・」
「うん、私にはよく見えるよ。紳士かどうかは、この後の態度や言葉で決まる・・・違う??」
「どう、もう一本食べる??」
「お腹も気持ちも満足すると欲がなくなる・・・もう少し欲しいなって思っている方が楽しめるんじゃない??・・・あなたが、ただの紳士じゃなく、オス狼ならだけど」
「そうだね、ご馳走は適度にお腹が空いてた方が美味しく食べられるからね」
「ウフフッ、言葉だけじゃないでしょうね・・・どう味わってくれるの??」

「そうだな、駅上にあるホテルに部屋を取る・・・ホテルにバーはないから、スパークリングワインを持ち込む」
「初めての夜だから、シャンパンにしてくれる??」
「好いよ・・・フルートグラスはないだろうから、下着もすべて脱いだ貴女の身体をグラス代わりにして飲もうかな・・・乳房の谷間に垂らして下腹部で飲む。火照った身体に冷えたシャンパンは気持ち良いと思うよ」
「グラスになった私は飲めないの??・・・口移しで飲ませてくれるんでしょう??」
「そうだよ、シャンパンは独りで飲んでも美味しくないからね。飲み終えたらバスルームで洗いっこする」
「エッ、いやだっ・・・汗を流さないの??このままでシャンパンを飲むの??」
「当然だよ・・・せっかくのシャンパン、冷えてるうちに飲みたいからね。部屋の冷蔵庫に入れてじゃムードがね・・・」
「分かった、我慢する。そのあとは・・・いよいよ、メインディッシュに取り掛かるんでしょう??」
「いきなりメインディッシュは出てこないだろう。前菜の太腿の裏から背中を味わい、オッパイにむしゃぶりついてスープを飲む。メインディッシュは食材も吟味してるだろうから、舌だけじゃなく唇や鼻の先、指や爪まで総動員して味わい尽くしちゃう・・・」
「アァ~ン、興奮しちゃう。早く電話して・・・部屋を予約しなきゃ」

「ダブルルームが予約できたよ・・・」
「そう・・・じゃぁ、焦る事はないね。メインディッシュは美味しそう??」
う~ン・・・隣に座る女を上から下へ、下から上へと矯めつ眇めつ見たオレは口元を緩めて見せる。
「嫌な感じ・・・よぉ~く観察したでしょう、結果はどうなの??合格??それとも・・・」
「クククッ、その言い方は自信がなきゃ口に出来ないね・・・勿論、合格だよ」
「そう、良かった・・・当然、デザートもあるんでしょう??」
「メインディッシュを食べて口を拭った後は腕枕でキスをしてピロートークを楽しむ。それがデザートかな」
「うん、そうでなきゃ。私は空腹を満たすための道具じゃないからね・・・事後のフォローもちゃんとしてくれなきゃ・・・」

「ガリガリ君を舐めながら歩いていて良かったよ」
「私も・・・仕事をしくじって良かったかもしれない・・・泊まるんでしょう??・・・夜食はあるの??」
「あぁ、あるよ。きちんとしたコース料理を食べた後は気楽に食べたいね・・・そうだな、素っ裸の貴女を背中越しに抱き締めて窓に押し付ける。夜食は窓際で空に浮かぶ月に見守られ、眼下を歩く人たちを見ながら食べようか・・・」
「エッ、大丈夫??駅へ向かう人が月を見ようとして空を見上げれば見えちゃうんじゃないの??」
「ウ~ン、見えるかもしれないね。夜食とは言え、せっかくのご馳走だから見られても好いじゃない・・・嫌なの??」
「夜食を食べるのは通りを見ながら・・・それも良いかもしれない・・・ウフフッ・・・朝食前に小腹が空いてたら、フランクフルトソーセージをしゃぶって気を紛らす事にしようかな」
「クククッ・・・夕食に夜食、小腹が空くとも思えないけど・・・」
「大丈夫、私は食材としてだけではなく、調理人としてもなかなかの腕だよ。少々、しなびた食材でも蘇らせてあげる。お腹がいっぱいでも食べたくなるような料理でね・・・」
「そうか、じゃぁ頼もうかな」
「行こう、早く・・・濡れてきちゃった。ガッカリさせないでね」
「あぁ、名前も知らない女と男がホテルを目指す・・・また、フルコースを欲しくなれば、同じ時刻に同じ場所で相手を待つ・・・それも良いかもな」
「夜明けのコーヒーは??」
「良かったら・・・良かったらだけど、明日は昭和記念公園をゴールにして箱根駅伝予選会があるから一緒に見ない??」
「クククッ・・・そこまで付き合うには正式な挨拶がなきゃ・・・身体の関係から始めたけど、まじめに付き合ってくださいって・・・どう??言える??」
「う~ん・・・相性を確かめてからだな、お付き合いしてくださいって言うのは・・・」
「好いよ。ヘタだったらお願いされても断るからね・・・クククッ」



                                                   <<おしまい>>
プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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