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12月23日

12月23日 ―1

「5分遅刻だよ。遅れるのは珍しいね」
「ごめん、ちょっと手間取っちゃった・・・これはクリスマスプレゼント」
「えっ、なに、なに??風船の中に風船が入ってる・・・ウン??きれいにラッピングされたモノも入ってる。ねぇ、なに、どうしたの??どうやって取り出すの??ねぇ、教えて、早く」
「ウフフッ、可愛いなアユは・・・そんなに色々聞かれても答えられないよ。好いかい。バルーンラッピングは知ってるね??・・・取り出し方は、穴をあけて破裂させるしか方法はないと思うよ・・・何日か置いて、何が入っているか想像する事を楽しんでくれると嬉しいな」
「この間、絵を買ってもらった時にクリスマスと誕生日プレゼントを兼ねてだと言わなかった??」
「そんな事を言ったっけ、忘れちゃったよ。高価なモノじゃないから、期待されると困るけどね」
「そんな事・・・ありがとう。ここに置いて楽しむことにする。可愛いし、きれい・・・ウフフッ」
男に近付いたアユは頬に唇を合わせてチュッと音を立て、上目遣いに見上げてもの言いたげに目を閉じる。
「悪いけど、手を洗わせてくれる・・・その前に、ワインクーラーを用意してくれる??」
「うん、分かった。氷を用意すればいいんだね??・・・手は私に洗わせて、いいでしょう??」
軽く唇を合わせただけの男は焦らそうとする気はなく、只々手を洗いたいと洗面所に視線を向ける。

洗面所でハンドソープを手に取ったアユは十分に泡立たせ、男の手を包み込むようにして洗い終えると、自分だけ泡を洗い落としてその場にしゃがみ込む。
クククッ・・・女の意図を感じ取った男は嬉しそうに笑みを漏らして泡だらけの手をタオルで拭う。
ジップフライを上下になぞり、思わせぶりに唇に舌を這わせて滑りを与えたアユはジッパーを下げて指を侵入させ、冷たい指をペニスに這わせてクククッと笑みを漏らす。
「どうした??大きくなってないから不満か??」
「うぅうん、そうじゃないの。着いて早々にこんな事をするなんて・・・あなたに会うまでは考えもしなかったなって。私だって年相応に経験があるし、男もセックスも嫌いじゃないけど・・・ウフフッ、こんな事をする女とは自分でも思っていなかった」
「理由は分からないけど嬉しいね。男は付き合う女で変わるし、女も男で変わるだろうからね」
「好きな男がいると笑顔が増えるし、好いセックスをすれば肌の艶も良くなるし気持ちもポジティブになる。他の男の目にも好い女に見えるらしいね・・・クククッ」
「うん??店で誘う男が増えたって事か??」
「どうして??店に限らないかもよ。私だってあちこち出かける事があるんだよ」
「困ったな。出掛ける事を禁止するには食事を届けなきゃいけないし、店も毎日オープンラストで見張らなきゃいけないし・・・ウ~ン」
「心配なんかしてないくせに・・・先に惚れたって言った私の負け。ウフフッ、もしも、もしもだよ、ほんの少しでも私の気持ちが他の男に移ると困るって心配してくれるなら、いっぱい可愛がって離れられなくしてくれる・・・好きな男の想い出で身体も心も満たされちゃうと離れなくなっちゃうもんだよ、女って・・・多分ね」

アユの脇に手を入れて立ち上がらせ、腰の辺りを擦りながら唇を合わせて瞳を覗き込む。
「可愛いよ・・・悪いけど、お腹が空いているんだ。好い匂いもしてるし」
「花より団子、色気より食い気か、しょうがないね。チキンをオーブンに入れてるの・・・準備するのを手伝ってくれる??」
広くはないキッチンに立ち、身体をわざとのように擦り付け合いながら食事の用意をする。

タンドリーチキンをメインとしてテーブルに着き、適温に冷えたスパークリングワインを開けて乾杯をする。
「23日で少し早いけどクリスマスに乾杯・・・美味しい、口の中がスッキリ爽やかになる。クリスマスをお祝いして元日は神社で一年の無事を敬虔にお祈りする。ご先祖を敬う時はお寺にお参りするし、日本人って融通無碍で好いね」
「本当だね。楽しい事はグダグダ理屈を言わない方が幸せだよ・・・起きて半畳、寝て一畳、美味いワインとアユが居れば良いってね。もう一度、乾杯」
「去年のクリスマスは店でお客様と乾杯した。今年はあなたと二人っきりで・・・奥さんがいる人と二人だけの乾杯って想像したこともなかった」
「それは忘れてくれる??言葉にされると気になってしょうがないよ」
「そうは言っても、ほんの数か月前までは不倫って忌み嫌う言葉だったんだから。何も人のモノを欲しがらなくっても好い男や女は居るだろうにって思ってたのに・・・あなたの好きって言う時は、いつも本気って言う言葉を聞いて吹っ切れたの、迷惑だった??」
「美味い。スパイスが効いているし柔らかく焼き上がっているよ」
「クククッ、上手く誤魔化された・・・タンドリーチキンは自信があるんだ。気に入ってくれると思ってた」

食事を終えた二人はミルクティを飲みながら画集を開いて穏やかに過ぎゆく時間を過ごす。
付き合い始めて早々の時期はセックスを覚えたばかりの頃のように身体を求める事が多かったものの、最近は手を伸ばせば届く距離にいるというだけで気持ちが落ち着き満たされた思いになる。
絵を描くのが苦手な男も見る事は嫌いではなく頁を繰りながら説明するアユの言葉に耳を傾ける。
懐かしさを憶える農村風景が並ぶ森崎伯霊画集を開いた男は、誰に聞かせる風でもなく静かに呟く。
「こんな草紅葉に埋もれてアユを抱きたいな」
エッ、うそ・・・アユは驚きの声を漏らし、
「そんな趣味があるの??畑の中で私を素っ裸にして抱きたいの??本当なの??」
「冗談だよ、アユを抱くのはベッドが一番。なんだよ、疑うようなその顔は、嘘じゃないって・・・信じてくれよ」
「じゃぁ証明してくれる??・・・その前にお風呂に入ろうよ。ケーキも用意したけど後で良いでしょう??」

男を迎える前に用意してあったバスルームは十分に温まり、アユの心遣いを感じた男は自然と頬が緩む。
「丁度いいと思うんだけど調節してね。タオルとバスローブをここに置いたからね」
「気持ち良いよ。湯加減も好いしバスルームも温まって快適だよ。早くおいでよ」
声を掛けた男は全身をリラックスさせてバスタブに背中を預けて静かに目を閉じる。
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ちっち

Author:ちっち
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さむいのも嫌
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