堕ちる
独りで-18
男は無駄な言葉を掛けることなく、紗耶香をカジノルームに案内するため先に立つ。
別室で新田と二人、紗耶香の痴態を見ていた事は露も感じさせず、秘密を一言も漏らしませんと背中で語り掛ける。
VIPルームに戻った紗耶香はバーカウンターに座り、濃い水割りを飲みながらバカラ台やルーレット台に目をやって夏樹への思いが消えていくのを待つ。
性的な邪念が消え、身体の疼きも収まった事を感じた紗耶香はバカラ台に向かう。
バカラ台に座った紗耶香はディーラーや他の客に気付かれないように目を閉じて大きく息を吸い、ゆっくり吐き出す。
フゥッ~・・・それだけの事で落ち着きを取り戻す。
陸上競技のトラック種目をやっていた紗耶香はスタート前の緊張感の中、号砲を前にして目を閉じて大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出すと邪念と共に不安も霧散して実力を発揮できた。無意識の内に、そんな習慣を思い出していた。
ノーモアベット・・・ディーラーの声にも反応せず、一度目は決めた通りにケンする。
プレイヤーに60万ベットして勝ち、バンカーに60万ベットして負けた。
勝ったり負けたりを何度か繰り返して、次は勝つ番だと思い定めてバンカーに100万ベットする。
ノーモアベット・・・プレイヤーは2と3で5、バンカーは絵札と8でバンカーの勝ち。
紗耶香のチップは140万に増えた。
その時、紗耶香の隣席にいた客が500万の借り入れを申し込むのを聞いた。
次はバンカーに100万ベットして負けた。
ミニマム50万のハイレートルームで、およそ40万円に減った紗耶香に男が声をかける。
「いくらご用意いたしますか??・・・500万でよろしいですか、それとも1000万にしますか??」
当たり前のように、500万、1000万の金額を口にする男に、つい1000万円お願いしますと答えてしまう。
今日は50万をチップに替えて、この勝負の前には140万になっていた。新田と来た時も、一人で来た前回も勝ったことだし、たまたま100万のベッドの今回が負けただけ。すぐに取り戻せるはずだし、ここで逃げ帰るのはいかにも悔しい。
新田の描いたストーリー通りに事が運んでいるのを紗耶香は気付いていない。
50万チップを20枚受け取った紗耶香は、100万ベットして負け、次も100万ベットして勝ったため損を取り返した。
これじゃダメだ、負けを取り返すだけで勝つことはできない。そうだ、100万賭けてダメなら次は200万にしょう。それで勝てば100万の勝ちになる。うん、名案に違いない。
紗耶香は誰に教わったわけでもなく、ギャンブルの賭け方として有名なマーチンゲール法を思いついた。
テラ銭を除けば、100万賭けて勝てば100万の儲け。負ければ次に200万賭ける、勝てば払戻は400万で二度の賭け金300万を引いて100万の勝ち。二度目も負ければ三度目に倍の400万を掛ける、勝てば800万を得て、三回の掛け金合計は700万なので100万の儲けになると言う方法である。
計算上は必勝法と言えそうであるが、四度目には800万をベットする必要がある。しかし、その時点で紗耶香の手元には300万しか残っていない。
それ以上に、勝つか負けるか確率は常に1/2。三度連続で負けても四度目に勝つ確率は1/2である。四度続けて負ける確率は1/16であるが、勝つ保障とはならない。
なにより、カジノ側は紗耶香に借金を背負わせようとしているのだから勝てるはずがない。
それを紗耶香は気付いていない。
その前に、マーチンゲール法が必勝法というのは間違いである。ギャンブルをする人間の欲と資金を考慮していない。
100万円をベットして負け、200万でも負け。
50万のチップを8枚手にして、バンカーに賭けようと思ったものの、二度続けて外しただけに迷いが生じてしまう。
逡巡したままディーラーの声に誘われるように、バンカーではなくプレイヤーに賭けてしまう。
ドキドキしながらカードを見つめ、バンカーの勝ちを確認すると全身の力が抜けてしまい目の前が真っ暗になる。
残った340万円分のチップを手にした紗耶香は、カジノの男に声を掛ける。
「もう500万円お願いできますか??」
「承知いたしました、すぐに用意いたします」
840万を掛けて勝てば1680万円。借りた1500万円は返済できるし、100万円ほどの勝ちになるはずだ。
迷うのは良くない。先日は女性ディーラーに、迷いがなく自信を持って賭けるのが素晴らしいと褒めてもらった事を思い出す。
チップを持つ手が汗ばみ、動悸が激しくなる。
ディーラーの声が遠くに聞こえ始める。
大きく息を吐き、息を吸い込む。もう一度繰り返す。
ディーラーの声がはっきり聞こえる。
プレイヤーに840万のチップ全てをベットする。
男は無駄な言葉を掛けることなく、紗耶香をカジノルームに案内するため先に立つ。
別室で新田と二人、紗耶香の痴態を見ていた事は露も感じさせず、秘密を一言も漏らしませんと背中で語り掛ける。
VIPルームに戻った紗耶香はバーカウンターに座り、濃い水割りを飲みながらバカラ台やルーレット台に目をやって夏樹への思いが消えていくのを待つ。
性的な邪念が消え、身体の疼きも収まった事を感じた紗耶香はバカラ台に向かう。
バカラ台に座った紗耶香はディーラーや他の客に気付かれないように目を閉じて大きく息を吸い、ゆっくり吐き出す。
フゥッ~・・・それだけの事で落ち着きを取り戻す。
陸上競技のトラック種目をやっていた紗耶香はスタート前の緊張感の中、号砲を前にして目を閉じて大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出すと邪念と共に不安も霧散して実力を発揮できた。無意識の内に、そんな習慣を思い出していた。
ノーモアベット・・・ディーラーの声にも反応せず、一度目は決めた通りにケンする。
プレイヤーに60万ベットして勝ち、バンカーに60万ベットして負けた。
勝ったり負けたりを何度か繰り返して、次は勝つ番だと思い定めてバンカーに100万ベットする。
ノーモアベット・・・プレイヤーは2と3で5、バンカーは絵札と8でバンカーの勝ち。
紗耶香のチップは140万に増えた。
その時、紗耶香の隣席にいた客が500万の借り入れを申し込むのを聞いた。
次はバンカーに100万ベットして負けた。
ミニマム50万のハイレートルームで、およそ40万円に減った紗耶香に男が声をかける。
「いくらご用意いたしますか??・・・500万でよろしいですか、それとも1000万にしますか??」
当たり前のように、500万、1000万の金額を口にする男に、つい1000万円お願いしますと答えてしまう。
今日は50万をチップに替えて、この勝負の前には140万になっていた。新田と来た時も、一人で来た前回も勝ったことだし、たまたま100万のベッドの今回が負けただけ。すぐに取り戻せるはずだし、ここで逃げ帰るのはいかにも悔しい。
新田の描いたストーリー通りに事が運んでいるのを紗耶香は気付いていない。
50万チップを20枚受け取った紗耶香は、100万ベットして負け、次も100万ベットして勝ったため損を取り返した。
これじゃダメだ、負けを取り返すだけで勝つことはできない。そうだ、100万賭けてダメなら次は200万にしょう。それで勝てば100万の勝ちになる。うん、名案に違いない。
紗耶香は誰に教わったわけでもなく、ギャンブルの賭け方として有名なマーチンゲール法を思いついた。
テラ銭を除けば、100万賭けて勝てば100万の儲け。負ければ次に200万賭ける、勝てば払戻は400万で二度の賭け金300万を引いて100万の勝ち。二度目も負ければ三度目に倍の400万を掛ける、勝てば800万を得て、三回の掛け金合計は700万なので100万の儲けになると言う方法である。
計算上は必勝法と言えそうであるが、四度目には800万をベットする必要がある。しかし、その時点で紗耶香の手元には300万しか残っていない。
それ以上に、勝つか負けるか確率は常に1/2。三度連続で負けても四度目に勝つ確率は1/2である。四度続けて負ける確率は1/16であるが、勝つ保障とはならない。
なにより、カジノ側は紗耶香に借金を背負わせようとしているのだから勝てるはずがない。
それを紗耶香は気付いていない。
その前に、マーチンゲール法が必勝法というのは間違いである。ギャンブルをする人間の欲と資金を考慮していない。
100万円をベットして負け、200万でも負け。
50万のチップを8枚手にして、バンカーに賭けようと思ったものの、二度続けて外しただけに迷いが生じてしまう。
逡巡したままディーラーの声に誘われるように、バンカーではなくプレイヤーに賭けてしまう。
ドキドキしながらカードを見つめ、バンカーの勝ちを確認すると全身の力が抜けてしまい目の前が真っ暗になる。
残った340万円分のチップを手にした紗耶香は、カジノの男に声を掛ける。
「もう500万円お願いできますか??」
「承知いたしました、すぐに用意いたします」
840万を掛けて勝てば1680万円。借りた1500万円は返済できるし、100万円ほどの勝ちになるはずだ。
迷うのは良くない。先日は女性ディーラーに、迷いがなく自信を持って賭けるのが素晴らしいと褒めてもらった事を思い出す。
チップを持つ手が汗ばみ、動悸が激しくなる。
ディーラーの声が遠くに聞こえ始める。
大きく息を吐き、息を吸い込む。もう一度繰り返す。
ディーラーの声がはっきり聞こえる。
プレイヤーに840万のチップ全てをベットする。