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彩―隠し事 2

性癖  

人見知りする質で自分から能動的に動くことは少ないけれど何かの拍子でスイッチが入ると自分でも驚くほどの行動力を見せることがあり、仕事ぶりを課長に褒められた今日はそのスイッチが入った。

「いらっしゃいませ、彩さん。今日はお一人ですか??」
「はい。次回は私一人でも会員として迎えて頂けると聞いたので来ました」
「ありがとうございます。どうぞ、お入りください・・・この者がご案内いたします」
彩と仮名で登録した優子がドアの前に立つと待たされることなく、カマーバンドと蝶ネクタイを着けた黒タキシード姿の男が招き入れてくれた。
脇から裾までメッシュになったレザーのミニドレス姿で背中の中ほどまでの黒髪と切れ長の目が印象的な女性に案内された席に着く。

友人に連れられて初めて来た時よりも落ち着いているものの店内の様子や内装が気になり、彼方此方見回すのを邪魔することなく優子を値踏みするようなホステスさんの視線が熱い。
フルートグラスに注がれたキールロワイヤルが届くと、
「乾杯しようか・・・お姉さんは私のタイプ。あっ、私はカヲル。好物は可愛い女性」
えっ・・・予期せぬ成り行きで一瞬、頭の中は真っ白になり手に持ったフルートグラスをテーブルに戻す。
「脅かしちゃった??ごめんね。お客様に合わせてMにもSにもなるけど、お姉さんはMでしょう??そんな匂いがする」
「そんな事を・・・突然、言われても・・・ハァハァッ・・・」
不快と思わないものの秘めた思いを見透かされたようで息をするのが苦しくなり、自然と息が荒くなって口が開いてしまう。
「隣に座ってもいい??」
優子の返事も聞かずに身体を寄せて左手で太腿をサワサワと撫で、ミニワンピがずり上がって黒い下着がチラチラ見えても気にする様子もない。
乾杯しようよ・・・フルートグラスを持つ手は震え、カヲルの言葉に抗うことも出来ずに催眠術にかかったかのように意のまま操られる。

可愛い・・・微笑と共に一言囁き、優子の持つフルートグラスを引き寄せてキールロワイヤルを口に含み、何も言わずに唇を重ねて流し込む。
ゴクッ・・・それほどアルコール度数が高いはずもないのに喉を通過すると火傷しそうなほど熱く身体が燃える。
いやっ・・・重ねられたままの唇が優子の嚥下したことを確かめると妖しく蠢き始め、同性の柔らかい唇と舌の動きに翻弄されて全身がカァッ~と熱くなる。
ウグッ、アンッアウッ・・・舌を吸われてなすすべなくカヲルの技巧に喘ぎ声を漏らすと乳房を揉まれて全身の力が抜けていく。
「ウフフッ、感度がいいね・・・ねぇ、名前を聞いてもいい??」
「えっ、そうね・・・彩。彩と呼んで」
「彩。名前も可愛いね・・・彩りのアヤでしょう??・・・華やかに変化するって意味もあるよね。清楚で上品な彩が奔放で淫らな女に変化する。名は体を表す・・・彩、いい名前だよ」
「いや、初めて会ったカヲルさんにそんな事を言われるのは恥ずかしい」
「恥ずかしい・・・そうね。でも、気持ちに正直にならないと彩の求める世界に入ることはできないよ」

「ヒィッ~、いやぁ~ン、そんな事をされたら狂ってしまう・・・逝く、逝っちゃう、いいの、ダメェ~」
カヲルの行為に驚くばかりでSMショーを見る余裕もなかった彩は女性の悦びの声でステージに視線を向ける。
ショーツ1枚だけ残して乳房を剥き出しの女性が後ろ手に縛られて縄尻を天井から下がる鎖に繋がれ、男性と女性の二人にバイブ責めされている。
豊満な乳房は上下を這う縄が大きさを強調し、左右の乳首はクリップが挟んで錘が垂れ下がっている。
女は手に持つバイブで執拗に股間を責め、男は縛られた女を所かまわずバイブを這わせて思うさま嬲る。
二人に責められる快感で身悶えると乳房の先端からぶら下がる錘が揺れて苦痛に変わり、顔を歪めるのがなんとも艶っぽい。

「本当に逝っちゃいそうだね。足指や手の指の動きを見てごらん。快感を隠しきれないよね、唇を噛んで切ない表情で堪えているでしょう??あんなエロっぽい表情を見ると苛めたくなっちゃう・・・彩を啼かせてみたい」
カヲルの指が首筋から耳の裏を撫で、顔を近付けて息を吹きかけながら囁く。
ヒィッ~・・・どうしたの??・・・私を啼かせたいなんて急に言うんだもん。
暗くて分かりにくいものの彩の顔は朱に染まり、動悸が激しくなって息をするのが辛い。

ヒィッ~、逝く、ダメダメッ、クゥッ~、逝っちゃウゥッ~・・・ひと際長く尾を引く喘ぎ声と共にがっくりと頭を垂れた女は鎖に繋がる縄に体重を預けてぐったりとなる。
縛られたままの女を労わるように抱きかかえた男は鎖から降ろして髪を撫でて何か話しかけている。
「あの二人はご夫婦なの。来るといつもご主人と女王様の二人で奥様を責めてあげるんだよ。私も参加したことがあるけど、見ず知らずの他人の前でご主人に責めてもらう時間に幸せを感じるんだって・・・」

ハァハァッ・・・ゴクッ・・・後ろ手に縛られたまま、男の腕の中でぐったりする女から視線を外すことも出来ずに唾を飲む彩にカヲルは声をかける。
「彩、どうしたの、大丈夫??苦しそうね・・・上着を脱ごうか、楽になるよ」
仕事帰りでパンツスーツ姿の彩に声をかけ、上着を脱がせてパンツまで脱がそうとする。
ステージを見つめたまま、意思を無くしたかのようにカヲルの行為に異を唱えることもできず、スーツの上下を脱がされて唇を奪われる。
それで終わるはずもなくキスをしたまま乳房を揉まれてブラウスのボタンを外され、気が付くと下着姿にされてしまった。
「えっ、いや。こんなところで、恥ずかしい」
「大丈夫よ、まわりを見てごらん。この席は衝立や壁で見えないようになっているでしょう??・・・私に任せなさい。本当の彩の姿を見せてあげる。独りで来た理由があるんでしょう??正直になりなさい」
淫靡な欲求を湛えた瞳でカヲルを見つめる彩は操られたようにコクンと頷いてしまう。

「行くわよ。みんなに見られながら縛ってあげる」
「ハァハァッ~、顔を隠してくれる??全てを見られるのは恥ずかしいの」
「大丈夫、私を信じなさい。誰にもばれないようにしてあげる・・・」

堕ちる

幸子の悲劇-15

昼食後は妖子と二人でビデオディスクを見ながらセックスについて教授されたり、屋上で陽光を浴びながら身体を休めたりと穏やかな時間を過ごす。
夜は妖子のコーディネートでシックなワンピースを着け、新田にエスコートされて館内のレストランの個室で夕食を摂ることになった。
新田は幸子が目指すのは高級娼婦であり、卓越した魅力と官能の技で男性を虜にする女性で幸子にはその素質があると断言する。
全ての女性を対象とするわけではなく、素質があると見込んだ女性だけに洗練された立ち居振る舞いと男性を魅了するセックスの技を伝授すると言われる。
一流の男性を満足させるにはセックスだけではなく、事前、事後のさりげない魅力が欠かせない。
性的調教だけではなく政治や経済、スポーツや社会的に話題になっていること、それらに対する理解も一通り勉強してもらうとも言う。

若い頃から性的好奇心が強いという自覚はあったしセックスも嫌いではなかったこともあり、夫がカジノで作った借財の返済に身体を提供することにそれほどの嫌悪感はなかったが、一流の男性を相手に恥ずかしくない教養も与えられると聞いて期待も湧いてくる。
グランド・キュイジーヌと呼ばれる高級フランス料理を料理人の説明を受けながら、ゆっくりと時間をかけて作法と共に学びながら食す。
新田は二人きりの食事だから緊張したり堅苦しく感じたりしなくてもいい、一流の男性と食事する際に気後れしなくて済む経験を積むのが目的だからと言ってくれたので余裕をもって味わうことが出来る。
日本料理や中華料理を食べる機会もいずれ設けるが今日のところは食べる姿勢が良いとさりげなく褒められたことが嬉しい。

新田は淡々とした態度で接し二人の距離を近付けることなく、突き放すこともなく適度な距離感を保ってくれて心地良さと安心感を与えてくれる。
これからの事を考えると胸が痛くなるほど不安が大きく育ち、新田の胸に顔を埋めて髪を撫でられながら優しい言葉をかけて欲しい気もするけれど、置かれた立場を考えて望みを口にすることなく食事を続ける。
新田に縋りたいと思い、妖子を信じたいと思うと気持ちが混乱を招く。

カジノもレストランも一流のお客様を対象にすると言うだけあって、高級料理に慣れない幸子でさえも味だけではなく盛り付けに至るまで素晴らしいと思う。
食事を楽しむ余裕が出来たものの芽生えた性的好奇心が育つのを止める術もなく、昨日、今日と曝した痴態を間近で値踏みするように見た新田の正視に堪えることが出来ずに俯いてしまう。
「さちこさん・・・食べる姿勢が良いって褒めましたよね。お客様が幸子さんとのセックスだけじゃなく食事を一緒にする景色を想像してください。共に食事をする幸子さんが凛として堂々と食事をすれば周りのお客様は幸子さんに見惚れます・・・それは同伴したお客様にとっても喜ばしい事です。分かりますね??」
「所詮、私はお客様にとって売り物、買い物でアクセサリーのようなモノという事ですか??」
「あえて否定しませんが、それだけじゃありません。安いアクサリーを高級そうに見せる人もいれば、高価なモノを安く感じさせてしまう人もいます。それは人間でも同じだと思いますよ。幸子さんが凛としていれば男性はより立派な紳士に見えると思います、そんな女性になってほしいのです。幸子さんにはその素質があると信じています」

楽しい食事を終えて新田と別れた幸子は地下室に戻され、背後でバタンッと扉を閉められると自分の置かれた立場を思い出す。
別れ際に新田の口にした言葉、
「明日はあの三人のチンポを休憩させるからアナル調教の続きと縛りをすると思うから覚悟しとくんだよ」
事も無げに口にした縛りという言葉が脳裏をよぎり平静ではいられない。

ゆったりと風呂に身体を沈めて今日の出来事を思い出すと自然と涙が滲む。
昨日も今日も妖子と男三人のオモチャとなり浣腸や放尿など嬲りものにされた後、アナルを蹂躙されて満足の証を喉の奥深くで受け止めた。
吐き出すことは許されず、名前も知らない男たちの精液を一滴残らず嚥下して何も考える余裕がない状態で放置された。
元々、Mっ気が強いと言う自覚があったが嬲りものにされるうち、身体の芯が疼き被虐感に覆われていく幸福感のようなものを感じ始めていた。
新田から明日もアナル調教の続きに加えて縛りも始めると聞いて、ひそかに期待する自分がいることに恐れを感じてそっと涙する。

両手両足を縛られて猿轡で言葉を封じられ、天井から下がる鎖に吊るされる姿を想像する。
宙に浮かんで身悶えるだけではなく、そのまま浣腸されて迸りを撒き散らし、バギナに怒張を埋められアナルをオモチャに犯されて猿轡を外された口にペニスをねじ込まれる。
残る一人に乳房が歪になるほど揉みしだかれても宙に浮いたままでは逃げることも叶わず、顔を顰めるだけで嵐のような時間が過ぎていくのを堪えるのみ。
アゥアァッ~・・・そんな自分の姿を想像して思わず漏らした吐息に愕然とする。
アンッ、どうして??・・・自然と伸びた手が股間に伸びて、お湯の中でも感じる泥濘に思わず声が漏れる。

堕ちる

幸子の悲劇-14

被虐感を募らせて白い肌を乳白色に染める幸子は、両足を足枷付きの棒に拘束されているため閉じることが出来ない。
尻の割れ目も開きあからさまになった窄まりに黒いアナルパールが垂れ下がる。
「似合うわよ、幸子。白いワンチャンに黒い尻尾が生えてるようで可愛い・・・ワンチャンを散歩させてあげたらどう??」
妖子の意地の悪い言葉に新田は微笑み、三人の男は顔を見合わせて笑みを浮かべ散歩の準備を始める。
パールとパールのつなぎ目を閉じた窄まりが食い締めるために尻尾が外れることなく、男たちの様子を見ようと身体をひねってもユラユラ揺れるだけで妖子は満足そうに見つめる。

革製の首輪を装着されると心臓が飛び出しそうなほどドキドキして、D管にリードを嵌めるカチャカチャという音を聞くとアソコがジュンとなるのを意識する。
自分のMっ気の強さを感じて顔を赤らめると同時に身体の芯から沸き上がる疼きに動悸が激しくなる。
早くも引き立てようとする男に妖子は、
「待って。幸子の身体は借金を返済するまで髪の毛や股間の剛毛一本に至るまでクラブの所有物。そして、お客様に完璧な商品を提供するのが私たちの仕事。心にも身体にも傷を付けちゃいけないの、分かるわね??身体を売ることに不安を感じて心を病んではダメだし、犬歩きで膝に傷をつけることも厳禁だよ」
「分かりました。気を付けます」
幸子の膝に二―パッドを装着して部屋の中を犬歩きさせる。
尻を振りなさい、お手をしなさい、ワンと鳴きなさい・・・幸子は惨めに思うどころか次はどんな命令を下されるのかと心待ちして、リードを引く男の一挙手一投足に注意を払う。

「新田さんは幸子をどう思う??」
「信じられないな。調教がある程度すすむと防衛本能が働いて、逆らうよりも目の前の命令を着実に消化する方が楽だって気付くものだけど、幸子はそんな本能とは関係なく調教されることを楽しんでいる」
「そうですね、私もこんな子は初めて・・・ここに至っても、持って生まれた上品さを失っていないし・・・責めがいがある。仕事を忘れて楽しめそう」
「クククッ、壊さないでくれよ」
「アラッ、惚れちゃったの??瑞樹さんは一度も私に触れさせることなく自分のモノにしたけど幸子はどうするの??」
「バカな事を言っちゃいけないよ。二度も同じ事をすればクビになっちゃうよ」

「今日二度目のオシッコをしたくなったろう??」
洗面器を目の前に置くとリードを持つ男を上目遣いに見る幸子の瞳は霞がかかったように濡れて性的好奇心を露わにする。
「屋上でしたばかりなのに、オシッコさえ自由にできないの??ここでオシッコをするの??・・・したくなっちゃった。ここでいいのね??」
「立ったままでしなさい。その方が良く見えるだろう」
首につながるリードを引いて洗面器を跨いでしゃがもうとする幸子の動きを封じる。
「ハァハァッ、身体が熱いの・・・見える??この方が良く見えるかなぁ??」
拘束具に固定されて足を開くこともままならず、腰を突き出すようにして剛毛を両手で掻き分け、蜜を滴らせて赤く染まる股間を突き出す。
「真っ赤な洞窟がよく見えるけど、オシッコの穴は見えないな」
「恥ずかしい。私一人が素っ裸でオシッコの穴まで見えるようにするなんて・・・これでどう、見える??」
「よく見えるよ、女の人のオシッコはそんなところから出るのか。男はチンポの先で隠しようのない穴なのにな・・・さぁ、いつでもいいぞ」
「俺もよく見えるように真ん前に移動だ。ジャングルから噴き出す湧き水を見せてもらおうか」
「じゃぁ、俺も小便がかかるほど近付いて、かぶりつきで見学するか」

「あぁッ~、我慢できない。出ちゃう・・・出るよ、恥ずかしいけどオシッコするから見て・・・」
シャッシャッシャァッ~・・・バシャバシャッ・・・迸りは止めることが出来ずに洗面器の底を打ち、
「いやぁ~、恥ずかしいから見ないで。眼を閉じて、お願い」
出し尽くした幸子は羞恥の悲鳴と共に顔を覆い、その場に崩れ落ちてしまう。
「幸子。泣くのは後にしてオレのモノをしゃぶってくれないか。こんな好い女の放尿シーンを二度も見せられちゃ我慢できないよ・・・咥えろ」
目の前に陣取りかぶりつきで見学だと言った男が俯く幸子の眼前に股間を突きだす。
下着もろともズボンを下ろし、そそり立つペニスの根元を摘まんで頬張り、ジュバジュバ、ジュルジュルッと音を立てて顔を前後する。
放出を自由に操る事の出来る男は幸子の髪を掴んで目を閉じ、早くも喉の奥めがけて男汁を吐き出す。
「飲め。一滴も零すんじゃないぞ」
ウグッググッ、ゴクッ・・・ペニスを含んだまま苦しそうに口の中のモノを嚥下すると、次の男が、
「今度は俺を満足させてもらおうか・・・」
ウグッ、ウググッグゥッ~・・・休むことも許されず二人目の男に口腔を犯されて思うさま蹂躙される。
ウグッフグッフグッ・・・頭を掴まれて激しく喉を突かれ、息も絶え絶えに何も考える余裕もないまま果ててくれることだけを願う。

二人目の男の放出を喉の奥で受け、命じられるまま嚥下すると三人目の男のモノが侵入してくる。
三人の男の精液を飲み込み、ぼろ雑巾のように横たわる幸子の髪を撫でる妖子は、
「支配されるセックスはこんなものじゃないのよ。セックスが好きだけじゃ務まらない。まだまだ辛いことが待ってる、がんばりなさい」

彩―隠し事 1

会員制クラブ  

「鍬田君のアイデアで設計変更したから受注できたよ。ご苦労さんだったね・・・それにしても見積価格を上げて機能追加、よく考えたなぁ」
「会話の中で見積りへの反応よりも性能への関心が高いと思ったので進言しただけで偶然です」
「謙遜するところが鍬田君らしいな。出世欲をギラギラさせる男も若い頃の私を見るようで嫌いじゃないが、鍬田君の奥ゆかしさも好きだな。欲のないのが女性だからと言う理由なら残念だけど」

ご主人に申し訳ないから、あえて祝杯のために誘うのは止めとくけど本当にありがとうと言ってくれた課長の言葉を思い出すと苦笑いが浮かぶ。
ご主人かぁ・・・私たちほど幸せな夫婦が他にいるだろうかと最後に思ったのはいつだっただろう。
あの日を最後に夫と呼ぶ人を信じられなくなった。


先に帰宅した私が夕食の準備も終わる頃に帰ってきた夫がテーブルに並ぶ料理を見て、
「ワインが欲しいな、日曜日に飲み干しちゃったろ。買ってくるよ」
放り投げたバッグからこぼれそうになった書類を戻そうとしたとき、それを見つけてしまった。
<<土曜日、いつものところで待っています。奥さんよりも10倍、愛しています>>
目の前が真っ白になるという表現が実際にあると、その時はじめて知った。
内心の動揺を隠してワインを味わう余裕もなく時間の経過の遅いのを呪いながら食事を終えた私は、今日は体調が悪いから別室で寝ると告げた。
顔色が悪く如何にも体調が悪く見えるようで私の言葉に疑念を抱くことのない夫は後片付けをしてくれて、いつもの優しさを見せてくれたものの、それまでのことも全て嘘に思えて許すことが出来なかった。

翌日は真っすぐ帰宅する気にもならず、同僚を誘っていかがわしさの漂う盛り場へ向かった。
「ねぇ、優子は浮気したことある??」
「急にどうしたの、あるわけないよ」
友人の問いかけに夫の不倫を知って憤然と答えたのが懐かしい。
「私は一度だけ・・・一度って相手が一人っていう意味だけどね」
「長い間だったの??」
「半年くらいかなぁ。遊び慣れている人で、夫とは行くことのないような所に連れて行ってくれたし、セックスも考えたこともない場所や方法でしたけど、そんなことに慣れていく自分が怖くて別れたの・・・その彼が連れて行ってくれた店の一つが近くにあるの、行ってみようか」

会員制と書かれたドアが中から開き、友人の背後に隠れるようにして恐る恐る二重扉の中に入ると照明が暗いうえに衝立や植木が邪魔になって店内の様子がはっきりと見えない。
ピシッ・・・ヒィッ~、痛いっ・・・俯いちゃだめだ、お客様に可愛い顔をよく見てもらいなさい・・・ウグッ、グゥッ~・・・
悲鳴の聞こえた方向に向かって目を細めるとスッポトライトに照らされた下着姿の女性が壁に鎖で繋がれて鞭で打たれている。
予期せぬことに驚いて身体は動かず、呆けたように立ち尽くしていると友人が、
「何してるの??こっちだよ」
雲の上を歩いているようなフワフワした感じで案内された席に着き、ようやく照明に慣れた目を彼方此方巡らすと、中央には得体のしれない椅子が鎮座して壁には鞭や縄が下がり十字架まで設えられ、客は男性が圧倒的に多く女性客は男性に連れられたカップルがほとんどだが優子たちのように女性連れがもう一組いる。

再び鞭打たれていた女性に視線を向けると真っ赤なローソクを見せつけられて、ハァハァッと息を荒げている。
優子・・・優子・・・えっ、なに??・・・どうしたの、ボーッとしてと言う友人の声で我に返る。

下着を外すことなく万歳の格好で拘束されて鞭打たれ、蝋を垂らされて身体を赤い模様で覆ったところで拍手と共にショーは終わった。
しばらくすると男性一人と思っていた隣の席に女性が一人案内されてきた。
「どうだった、昂奮しただろう??声が裏返って目が逝っちゃってるように見えたぞ。濡れてるか??」
「イヤンッ、恥ずかしいから触んないで・・・すごいよ、昂奮する。知らない人に見られながら鞭打たれるんだよ。もっと打って、どうにでもしてって言いたくなるのを我慢するのが大変だった」
「そうか、よかったな」
「今夜は寝かせないよ。生殺し状態なんだからね。鞭打つ人の股間が膨れてくるのを見るとドキドキして、入れて、ぶっといオチンポで啼かせてって叫びそうになったんだから」

友人の話ではAV女優さんや飛び入りのお客さん、前もって予約したお客さんを相手に縛りなどSMショーが連日あるらしい。
初めて現実に見るSMショー、ボンテージ衣装や妖艶なランジェリー姿のホステスさんの話も興味深く、足早に通り過ぎる時間を恨めしく思いながら帰路に就いた。

普段の私を知る人は清楚で貞淑な奥様と言ってくれる。
仕事をする私を知る人は今日の課長のように過分すぎるくらいに評価してくれる。
夫さえ気付いていない本当の私は胸の内にドロドロした性的な欲求を抱えている女で、遠い記憶の中に初めてそれを意識した瞬間がある。
そんな事を考えながら今日の仕事のご褒美を自分に与えようと、友人に連れられて過去に一度だけ行ったことのある会員制の店に足を向ける。
あの日、帰る私に行ってくれた言葉が蘇る。
「次回はお客様が会員となってビジターのお客様と同伴でも、あるいはお一人でもお迎えいたします。秘密保持のためにあえて会員カードは発行しておりません。会員様のお顔は決して忘れることがございませんが、仮名で結構ですからお名前をお聞かせください」
仮名でも良いという事なので、鍬田優子と本名は名乗らず“彩”と覚えてくださいと伝えた。

優子は会員制クラブの重い扉の前に立って監視カメラを真っすぐ見つめる。


                                                <<< 続く >>>
プロフィール

ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
雨ふりはもっと嫌・・・ワガママワンコです

夜は同じベッドで一緒に眠る娘です

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