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彩―隠し事 422 

妄想-18

日曜の午後、帰路に就く車のハンドルは彩が握り、助手席の健志は伸ばした右手でムチムチ太腿の感触を楽しみながら目を閉じる。
山と山の間を縫うように走る中央道はカーブやトンネルなど景色も変わり適度な緊張感が彩には心地好い。
工場の不調を解消するために週末は帰宅できないと言った夫が今朝、今週は工場近くに泊まり込みになると唐突に連絡してきたことを健志に伝えていない彩は自然と笑みが浮かぶのを抑えることができない。

「もうすぐ談合坂だけど、どうする??」
「う~ん、大食いの彩が空腹を我慢できないって言うならしょうがないけど、オレはこのまま家路を急ぎたい」
「彩と二人きりになりたいの??車の中でも邪魔をする人はいないよ」
「ここには美味い酒がないし、バスタブやベッドもない」
「クククッ、チェーンブロックもないし催淫剤入りローションやバイブもないしね」
「聞かせろって言うから話したのに…彩を相手の妄想は隠し事のままにしとけばよかった。家に着くまでオレは寝る」
「ウフフッ、拗ねた振りをする健志は可愛い。着いたら教えてあげるから眠ってもいいよ、運転の邪魔をされたくないしね」
太腿に置かれた健志の右手を邪険に払った彩は股間を刺激するほど魅力的な笑顔と共に話しかける。
「不合理なことを言われても、冷たくあしらわれても彩を嫌いになれないオレは可哀そうな男だな……」
「クククッ、いいことを教えてあげようか??……ねぇ、聞きたくないの??本当に寝ちゃったの??……」
明日は仕事を終えた後、健志の家に帰ろうかなと言えば喜色満面でキスしようとするだろうから、運転中だから危ない。キスは帰ってからにしてねと焦らそうと思ったのに寝ちゃったのかと腹立たしくもある。

左右に迫っていた山の景色と夕焼けを背後にする頃には、スゥッ~スゥッ~と健志の寝息が車内に広がり、横目で見る彩の表情が幸福感で緩む。
二人でいることが特別なことではなく自然なことであり緊張することなく自然に振舞えることが好ましく、だらしなく居眠りする健志を愛おしく思う。

「着いたよ。起きて……」
「うん、もう着いたの??」
「懐かしい駐車場でしょう??ねぇ、キスしてもいいよ」
チュッ、頬に手を添えて額に唇を合わせるだけのキスでも幸せな気分になる。
「買い物袋を持ってくれるでしょう??」
「これは、えっ、どうしたの??」
「スーパーの駐車場に健志を残して彩一人で買い物をしたんだよ。気持ちよさそうに寝ていた健志は可愛かったよ」
「揶揄うなよ……」
彩の心を鷲掴みにするような笑みと共に見つめると、行くよ、と上気した顔を健志に見せまいとして怒ったような声を背中越しに掛ける。

買物袋を受け取った彩は中身をテーブルに広げる。
「オレのために週末までの買い物をしてくれたの??」
「違うよ。彩と健志の二人分だよ」
「明日は自宅に戻るんだろう??」
「明日の夜、ここへ帰ってきちゃダメなの??」
「イヤな女だな。彩と過ごす時間に至上の幸せを感じているオレに変な期待をさせるなよ」
「あぁ~あ、工場出張の彼が帰って来ないって連絡があったのに健志は彩と過ごすのが嫌なんだ…ガッカリだなぁ……ウフフッ、嬉しい??」
言葉に替えて抱きしめられた彩は、全身を擦りながら悦びを爆発させる健志の激しすぎるキスを受け入れて息を弾ませ、至福の時間に酔い痴れる。
「抑えきれない悦びをぶつけてくれるのも好き。言葉に出来ないほど興奮してくれているんでしょう??」
「妄想に耽らなくてもいいのが幸せだよ。目覚めて指先に彩の温もりを感じることができるのに勝る幸せはないよ」

夕食をローストビーフサンド、ボイルしたイカとエビにレタスやプチトマトを加えてオリーブオイルとワインビネガーなどで味を調えた海鮮サラダ、ベーコンやネギ、キャベツやニンジン入りの生姜スープで済ませた二人はドライタイプのシードルを飲みながら眼下に広がる夜景に見入る。

「前にも言ったけど、彩は此処から見るこの街の夜景が好き。健志と付き合っていなければこの景色を見ても何も感じなかったかもしれないけどね……彩の意識を変えたのは健志だよ、嬉しい??」
健志は口元を緩めただけで言葉を返すことなく彩を抱き寄せる。

夜の繁華街の明るさは其処に集う人たちの欲望に比例し、欲望が大きくなればなるほど街の輝きは増して影も深く濃くなる。
夜の街の影には邪な思いが棲みつき、それを目当てに集まる人たちもいる。
「ねぇ、妖子さんたちが主宰するSMショークラブはあの辺りでしょう??」
「そうだよ。そして、妖子の自宅はあの白く見えるビルの近くで、お座敷でエロイことをする店はクラブを挟んで反対側だよ」
学生時代からの親友である栞に連れられて刺激を求めてこの街の影に足を踏み入れ、妖子や健志に出会った。
夫の浮気を知ったものの、不満をぶつけることも出来ずに鬱々としていた彩が自らも健志を相手に情事に耽り、隠し事が出来ると浮気をされても嫌いになれなかった夫に平静を保ったまま接することができるようになったし上司に任された仕事も予想を超える進捗状況にある。
公私とも不満もなく過ごせるのは優しく抱きかかえてくれる健志がいるからだと改めて思い知る。
夫の浮気があればこそ健志と過ごす時間があるのだと思うと夫に感謝したくなるし、夫にとっても彩の本当の姿である優子の不実のお陰で浮気を容認してもらっていると知ればどのような表情になるのだろうと思うと健志に寄り添う幸せを満喫できる。

抱き寄せられた健志の太腿に座り首に手を回していた彩は、腿を跨いで正対する格好に座り直して瞳の奥を覗き込む。
「ねぇ、健志には隠し事がある??」
「彩に対してなら多分ないよ」
「多分…なの??」
「オレが大したことじゃないと思っても、彩にとっては大切なこともあるだろうから分からないよ」
「そうか、そうだよね。じゃあ、質問を変えるね。彩に嘘を吐いたことがある??」
「ないとは言えない。大切な人だからこそ言いにくいこともあるけど、決して彩を悲しませようとしてのことじゃないと信じてほしい」
「フフフッ、信じる。本当の名前を教えてもいいんだけど、彩のままの方が健志の前では自然に振舞える……彩は健志に嘘を吐いている」
「それでいいんだよ。名前も住んでいる処も知らない方が好い関係を続けられると思うよ」
「彩もそう思う……キスして……ウフフッ、健志のキスは彩を元気にしてくれる。明日の準備をしたいから邪魔をしないでね」

ベランダから部屋に戻った彩はテーブルに陣取り、広げた資料を一心不乱に読み始め、余白にメモをしてノートパソコンに何やら入力する。
冗談も言えず、そばにいるだけでも邪魔になりそうな雰囲気に気圧された健志はミルクティーを入れてそっとテーブルに置く。
「ありがとう。ゴメンね……気を遣わずに普段通りの健志でいてね」
「カッコいいよ。昼間の彩はこんな風なのかと妄想のネタが出来たよ」
「バカ……仕事中の彩はエロイことと無縁、残念でした」
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ちっち

Author:ちっち
オサシンのワンコは可愛い娘です

アッチイのは嫌
さむいのも嫌
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