彩―隠し事 189
獣欲 -3
電話を切った彩は夫のいない気安さからハダカンボのままリビングを歩き回り、明日への期待と不安で動悸が収まらず眠気を催すこともない。
親友の栞と違って人見知りする質で大抵の場合、自分の意見を押し通すこともなく集団の中でも静かに過ごすことが多かったしそれはこれからも変わらないだろう。
とはいえ、何かの拍子でスイッチが入ると周りだけではなく自分でも驚くほど思い切ったことをすることがある。
栞に連れて行ってもらったSMクラブに後日一人で行ったとき、とっさに浮かんだ名前はJ-POPの歴史と共に歩み続ける好きな歌手の好きな曲から拝借した彩。
優子ではなくもう一人の自分、彩という名の女に変身して身体の奥に棲みついて密かに育っていた卑猥な思いを現実のものにしつつある。
明日は健志の友人である銀細工師の店に金属製下着を受け取りに行く。
今、着けているプラチナチェーン製下着のように股間だけではなく乳房も飾るもので、彩のオンナノコは上も下も金属製下着に縛られると思うと息をするのも辛くなるほど興奮する。
ハァハァッ、歩き回っていた彩は壁に寄りかかって左手で乳房を揉み、右手は下腹部を撫でてプラチナチェーンに沿って指を這わす。
明日はハダカンボになって新しい金属製下着を付けられ、サイズが合っているかどうかを確かめるために銀細工師に身体中をまさぐられることになるだろう。
栞が課長との不倫で信じられないような経験をして、それも途中からは寝取られ趣味を隠していたご主人の同意と勧めがあったと聞かされたこと、旅先の海岸で健志の目の前でアキラ君のオトコを受け入れたことなどが思い出される。
そして、はっきり言葉にしてではないけど彩も他人棒に犯されてみたいという意思を込めて健志に告げた。
興奮を冷ますにはオナニーするのがいいと分っているが今は躊躇われる。
片付けた仕事の資料を引っ張り出して目を通し、帰宅後二度目の部屋の掃除を済ませてバナナケーキを作り終えると明日の不安や期待と共に性的興奮は収まり、ベッドに入って睡魔と戦うこともなくすぐに夢の国の住人になる。
目覚めてすぐに窓を開けると7月らしい熱気が入り込み、近くの公園で鳴く蝉の声が迷いや不安をかき消してくれる。
昨夜、下着を受け取りに行く不安と興奮を冷ますために作ったバナナケーキとハムエッグ、生野菜をコーヒーで流し込むように朝食を済ませ、夫のいない気安さで化粧もせずに下着姿で家事をする。
食器を片付けて時刻を確かめ、掃除を終えたところで時計を見るし洗濯機を動かして時計を見て終わるとまた時刻を確かめる。
銀細工の店を訪れる約束は午後なのに身体の火照りが止まらず、歩くだけでも身体がフワフワして足元が覚束ない。
好きな歌を聞けばいいと思ったけれど、それは優子の好きな曲。彩の今は聴くのを憚る気持ちがある。
不安と共に逸る気持ちが沸き上がり、雑誌を開いたり仕事の資料を見返したり、ごみ一つ落ちていない部屋の掃除をして聴くことを憚れたCDのクリーニングなどをして時間をつぶし、何度も時刻を確かめる。
悶々とする気持ちを持て余す彩は遅めの昼食を外でとることにしてシャワーを浴びて衣装を整え、姿見に全身を映す。
性的好奇心を覆い隠すためのジーンズとTシャツでは色気がなさすぎるかと思うものの、目的を考えるとこの格好がいいと自分に言い聞かせる。
他人の目を気にせずに済む車の方が精神的に楽なような気がするが夫が乗っていったので止むを得ず駅に向かう。
電車に乗り、目的の駅で降りて記憶にある道を辿ると記憶にある店が次々に現れる。
ウインズに向かう人々に交じって歩き、ゲームセンターを過ぎてパン屋から漂う匂いで気持ちが平静に戻るのを感じ、コンビニの看板を見ると目的の店はすぐそこにあるのを思い出してゴクッと唾を飲む。
すれ違う人の視線を気にすることなく、フゥッ~と息を吐いて店の前に立つ。
土曜、日曜は休みだという店には、 CLOSEDと書かれた金属プレートがかかりカーテンが引かれて中の様子を窺うことも叶わない。
健志に教えられたとおりに路地に入り、勝手口のような作りのドアの前に立ちドアホンを押す。
「彩です。お休みのところを申し訳ございません」
「お待ちしていました。開けますのでお待ちください」
「いらっしゃい。暑かったでしょう、どうぞお入りください」
「失礼いたします」
招き入れられたのは過度な装飾のないシンプルな部屋で勧められたソファに座り、興味深げに視線を巡らす彩の前にグラスを差し出す。
「麦茶ですが、どうぞ。暑い中をお越しいただいたのでビールの方がいいのでしょうが、麦茶でご容赦ください」
「いただきます……ゴクッ……冷たくて美味しいです」
「グズグズするよりもサッサと済ませた方がいいでしょう。用意するのでしばらく待っていてください……殺風景な部屋で退屈しのぎにならないでしょう??」
「いいえ、ものすごく新鮮です。この部屋にどんな家具を置こうか、何を飾ろうかと考えるだけで楽しいです」
「この部屋を人が住むのにふさわしい部屋に模様替えしてくれるのですか……折角ですがもう少しこのままにしておきます」
「えっ、あら、ごめんなさい。余計なことを言いました。ごめんなさい」
「謝らないでください、私こそ失礼な事を言いました……すぐに用意します」
「お願いします……」
男が店舗とは反対側のドアを開けると彩の位置からは大きなベッドが見えて、意味もなく動悸が激しくなり身体が熱くなって頬が紅潮する。
男はマネキンを抱えて姿を現し、彩の位置からはベッドを背にして立っているため動悸が一層激しくなる。
男が抱えるマネキンの顔も身体も彩自身に思え、男が倒れ込むとそのままベッドで抱かれるような気がする。
マネキンの股間と胸の膨らみはゴールドが飾り、華やかな輝きに息をのむ。
股間は今、着けているのと同じようにオンナノコを隠すことなく鼠径部に沿って二本のゴールドチェーンが会陰部から背後に回り、腰を回るチェーンから伸びる前と後ろ四本のチェーンにブラジャー部分がつながっている。
胸の膨らみは麓を一周するチェーンと乳首を囲む小さなチェーンを何本かのゴールドがつないでホルターネックになっている。
上下の秘所を隠すことを拒否した金製のテディのように思える。
「これが先日測らせていただいた寸法に合わせて作った18金製下着です。このままでも着けられますが彩さんが嫌でなければサイズ合わせをしたいと思います」
「……はい、おねがいします」
「緊張するなと言っても無駄でしょうがリラックスしてください。彩さんがガチガチだと私も緊張します……美人と二人っきりの部屋で緊張すると私も男ですから……シャワーをお使いになるなら、あのドアの向こうがシャワーブースになっています。タオルは自由に使ってください」
「ありがとうございます。汗を流してきます」
シャワーブースはアクリル製仕切りでバスルームから独立し、バスタブを見るだけで股間がジュンとなる。
「何を考えているんだろう……健志と会えない時間も彩の心と身体を縛ってもらうアクセサリーの寸法合わせじゃない、彩はあの人に抱かれようとしているの??そうじゃないでしょう」
髪をアップに留めながら、あえて強がりの言葉を自らに吐くことで緊張を解こうとし、産婦人科の検診だと思えば普通のことだと言い聞かせる。
時折、指先に触れるプラチナチェーンが健志のことを思い出させる。
「健志が悪いんだよ。彩があんなアクセサリーを欲しいと言ったわけじゃないからね」
電話を切った彩は夫のいない気安さからハダカンボのままリビングを歩き回り、明日への期待と不安で動悸が収まらず眠気を催すこともない。
親友の栞と違って人見知りする質で大抵の場合、自分の意見を押し通すこともなく集団の中でも静かに過ごすことが多かったしそれはこれからも変わらないだろう。
とはいえ、何かの拍子でスイッチが入ると周りだけではなく自分でも驚くほど思い切ったことをすることがある。
栞に連れて行ってもらったSMクラブに後日一人で行ったとき、とっさに浮かんだ名前はJ-POPの歴史と共に歩み続ける好きな歌手の好きな曲から拝借した彩。
優子ではなくもう一人の自分、彩という名の女に変身して身体の奥に棲みついて密かに育っていた卑猥な思いを現実のものにしつつある。
明日は健志の友人である銀細工師の店に金属製下着を受け取りに行く。
今、着けているプラチナチェーン製下着のように股間だけではなく乳房も飾るもので、彩のオンナノコは上も下も金属製下着に縛られると思うと息をするのも辛くなるほど興奮する。
ハァハァッ、歩き回っていた彩は壁に寄りかかって左手で乳房を揉み、右手は下腹部を撫でてプラチナチェーンに沿って指を這わす。
明日はハダカンボになって新しい金属製下着を付けられ、サイズが合っているかどうかを確かめるために銀細工師に身体中をまさぐられることになるだろう。
栞が課長との不倫で信じられないような経験をして、それも途中からは寝取られ趣味を隠していたご主人の同意と勧めがあったと聞かされたこと、旅先の海岸で健志の目の前でアキラ君のオトコを受け入れたことなどが思い出される。
そして、はっきり言葉にしてではないけど彩も他人棒に犯されてみたいという意思を込めて健志に告げた。
興奮を冷ますにはオナニーするのがいいと分っているが今は躊躇われる。
片付けた仕事の資料を引っ張り出して目を通し、帰宅後二度目の部屋の掃除を済ませてバナナケーキを作り終えると明日の不安や期待と共に性的興奮は収まり、ベッドに入って睡魔と戦うこともなくすぐに夢の国の住人になる。
目覚めてすぐに窓を開けると7月らしい熱気が入り込み、近くの公園で鳴く蝉の声が迷いや不安をかき消してくれる。
昨夜、下着を受け取りに行く不安と興奮を冷ますために作ったバナナケーキとハムエッグ、生野菜をコーヒーで流し込むように朝食を済ませ、夫のいない気安さで化粧もせずに下着姿で家事をする。
食器を片付けて時刻を確かめ、掃除を終えたところで時計を見るし洗濯機を動かして時計を見て終わるとまた時刻を確かめる。
銀細工の店を訪れる約束は午後なのに身体の火照りが止まらず、歩くだけでも身体がフワフワして足元が覚束ない。
好きな歌を聞けばいいと思ったけれど、それは優子の好きな曲。彩の今は聴くのを憚る気持ちがある。
不安と共に逸る気持ちが沸き上がり、雑誌を開いたり仕事の資料を見返したり、ごみ一つ落ちていない部屋の掃除をして聴くことを憚れたCDのクリーニングなどをして時間をつぶし、何度も時刻を確かめる。
悶々とする気持ちを持て余す彩は遅めの昼食を外でとることにしてシャワーを浴びて衣装を整え、姿見に全身を映す。
性的好奇心を覆い隠すためのジーンズとTシャツでは色気がなさすぎるかと思うものの、目的を考えるとこの格好がいいと自分に言い聞かせる。
他人の目を気にせずに済む車の方が精神的に楽なような気がするが夫が乗っていったので止むを得ず駅に向かう。
電車に乗り、目的の駅で降りて記憶にある道を辿ると記憶にある店が次々に現れる。
ウインズに向かう人々に交じって歩き、ゲームセンターを過ぎてパン屋から漂う匂いで気持ちが平静に戻るのを感じ、コンビニの看板を見ると目的の店はすぐそこにあるのを思い出してゴクッと唾を飲む。
すれ違う人の視線を気にすることなく、フゥッ~と息を吐いて店の前に立つ。
土曜、日曜は休みだという店には、 CLOSEDと書かれた金属プレートがかかりカーテンが引かれて中の様子を窺うことも叶わない。
健志に教えられたとおりに路地に入り、勝手口のような作りのドアの前に立ちドアホンを押す。
「彩です。お休みのところを申し訳ございません」
「お待ちしていました。開けますのでお待ちください」
「いらっしゃい。暑かったでしょう、どうぞお入りください」
「失礼いたします」
招き入れられたのは過度な装飾のないシンプルな部屋で勧められたソファに座り、興味深げに視線を巡らす彩の前にグラスを差し出す。
「麦茶ですが、どうぞ。暑い中をお越しいただいたのでビールの方がいいのでしょうが、麦茶でご容赦ください」
「いただきます……ゴクッ……冷たくて美味しいです」
「グズグズするよりもサッサと済ませた方がいいでしょう。用意するのでしばらく待っていてください……殺風景な部屋で退屈しのぎにならないでしょう??」
「いいえ、ものすごく新鮮です。この部屋にどんな家具を置こうか、何を飾ろうかと考えるだけで楽しいです」
「この部屋を人が住むのにふさわしい部屋に模様替えしてくれるのですか……折角ですがもう少しこのままにしておきます」
「えっ、あら、ごめんなさい。余計なことを言いました。ごめんなさい」
「謝らないでください、私こそ失礼な事を言いました……すぐに用意します」
「お願いします……」
男が店舗とは反対側のドアを開けると彩の位置からは大きなベッドが見えて、意味もなく動悸が激しくなり身体が熱くなって頬が紅潮する。
男はマネキンを抱えて姿を現し、彩の位置からはベッドを背にして立っているため動悸が一層激しくなる。
男が抱えるマネキンの顔も身体も彩自身に思え、男が倒れ込むとそのままベッドで抱かれるような気がする。
マネキンの股間と胸の膨らみはゴールドが飾り、華やかな輝きに息をのむ。
股間は今、着けているのと同じようにオンナノコを隠すことなく鼠径部に沿って二本のゴールドチェーンが会陰部から背後に回り、腰を回るチェーンから伸びる前と後ろ四本のチェーンにブラジャー部分がつながっている。
胸の膨らみは麓を一周するチェーンと乳首を囲む小さなチェーンを何本かのゴールドがつないでホルターネックになっている。
上下の秘所を隠すことを拒否した金製のテディのように思える。
「これが先日測らせていただいた寸法に合わせて作った18金製下着です。このままでも着けられますが彩さんが嫌でなければサイズ合わせをしたいと思います」
「……はい、おねがいします」
「緊張するなと言っても無駄でしょうがリラックスしてください。彩さんがガチガチだと私も緊張します……美人と二人っきりの部屋で緊張すると私も男ですから……シャワーをお使いになるなら、あのドアの向こうがシャワーブースになっています。タオルは自由に使ってください」
「ありがとうございます。汗を流してきます」
シャワーブースはアクリル製仕切りでバスルームから独立し、バスタブを見るだけで股間がジュンとなる。
「何を考えているんだろう……健志と会えない時間も彩の心と身体を縛ってもらうアクセサリーの寸法合わせじゃない、彩はあの人に抱かれようとしているの??そうじゃないでしょう」
髪をアップに留めながら、あえて強がりの言葉を自らに吐くことで緊張を解こうとし、産婦人科の検診だと思えば普通のことだと言い聞かせる。
時折、指先に触れるプラチナチェーンが健志のことを思い出させる。
「健志が悪いんだよ。彩があんなアクセサリーを欲しいと言ったわけじゃないからね」